料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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門前の戦い

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「デーモンバスターはいるか?!」

 ガノダは勢い良く、冒険者ギルドの扉を開けて大声を出す。

 恰幅の良い貴族を見た、カズンの冒険者ギルド長は、腰を低くし、揉み手をしてガノタを迎えた。

「ご依頼ですか? 旦那様」

「そうだ。早急に冒険者が必要なのだ。カズン領に霧の魔物が出た! 悪魔の住まう城ごと現れた!」

「なんですって! そりゃ大変だ! しかし、丁度良いタイミングで。我が国最高の悪魔退治パーティが、この村に滞在しておりますよ、旦那様」

「なんだと! 不動聖山が?」

「はぁい、旦那様。で、依頼料はお幾らで?」

「ムダン家からの依頼だ。金は父上に請求してくれ。そうだな、一人金貨十枚は出す」

「なんと、ムダン家のお坊ちゃまで!」

 驚くギルド長を無視して、ムダンは踵を返し、出口に向かった。

「どちらへ?」

「カズン家の屋敷に向かう。あそこの魔法水晶を借りるのだ。霧の向こう側から来た悪魔は、国滅レベルだ。ムダンの他にブラッドの力も必要となるだろう。シルビィから鉄傀儡も借りねば」

「それほどまでの強敵ですか? では不動聖山でも手こずるのでは?」

「うむ・・・」

「あ! それからバトルコック団も来ておりますぜ、旦那様!」

「バトルコック団か・・・。あの中に確か、修道騎士がいたな。あれは悪魔退治に役立つ」

「残念ながら、彼女は脱退しました」

「そうか。では、バトルコック団は必要ない。とにかく悪魔退治に役立ちそうな者をありったけ集めてくれ。場所は言う必要もあるまい。村からでも魔城が見える。準備が整うまで手出しはするなと伝えておけ」

「へぇ」



 
「うわぁ、あぶねぇ!」

 バトルコック団を轢きそうな勢いで走る馬車とすれ違って、オビオは少し憤慨し、また歩き出した。

「何かあったのかな? 村が騒がしいし」

 その問いにサーカは応じない。沈んだ顔のままただ歩いている。

「いい加減、元気出せよ、サーカ」

「少しは期待していたのだ」

「唐突になんだ?」 

「ムダン侯爵の懐刀や、ウォール家の紋章を見せれば、母上の狂気も治るのでは、と」

 俺がサーカを励まそうと口を開きかけたが、ピーターが先に口をはさんだ。

「そんな事で治るなら、シャーマンやドルイドでも治せるだろ」

「・・・そうだな」

 珍しく何も言い返さないサーカに、面白みを感じなくなったのか、ピーターもそれ以上何も言わなくなった。

 あぁ空気が重てぇ。もしここが地球なら、サーカの母親を簡単に治せたかもしれない。マナが薄くて精霊系は霧散するからな。

「お? あれは不動聖山だな」

 トウスさんが、白い鎧を着た戦士と僧侶のパーティを見て指さした。

「どこに向かっているんだろうか?」

 俺は、彼らの向かう方角を見てすぐに納得する。

「なんだ、あの禍々しい城は。急におっ建ったって事は、霧の魔物だな」

「なぁ、ちょっと冒険者ギルドに寄っていこうぜ。バトルコック団に名指しの依頼がきているかもよ」

 稼ぎ時だと思ったピーターの目が輝いていた。

「いや、だったら、屋敷まで即座に使いの者を送ってきたはずだろ。それがないのは、俺らに出番はないってこった」

「まぁでも、トウスさん。情報だけでも集めておこうぜ」

 俺はそう言って、ギルドの扉を開けてまっすぐ進み、掲示板を見た。

「急募! 悪魔殺しに特化した者! だってよ」

 不満そうなピーターはそう言って、拗ねた子供のような顔をする。

「メリィがいない今となっては、確かに俺らに出番はないな。いれば彼女の【帰還】の魔法や祈りは役に立っただろうが」

「まぁでも暇だし、俺はちょっと霧の城の様子を見に行ってくるよ」

 ピーターはそう言い残すと、冒険者ギルドから立ち去ろうとしたので俺は呼び止めて、ヨモギ餅を渡した。

「おやつ」

「おっ、餅じゃん。俺、結構好きなんだよな、これ。餡子入ってる?」

「うん。カチカチになる前に食えよ」

 と言った矢先にピーターは、餅を頬張っていた。

「うめぇ~! 緑茶欲しい~」

「お前も舌がすっかり日本人みたいになってんな。残念ながらお茶は今切らしている。冷めた生姜湯ならあるぞ」

 俺はピーターに生姜湯の入った竹筒を投げると、ムクがピーターに駆け寄っていく。

「私もピーターについていく」

「ダメダメ! 霧の魔物は危険なんだぞ」

 地走り族は好奇心旺盛なのが、良い面でも悪い面でもある。

「ムクがいても問題ないよ。偵察だけだし、危なくなったら一緒に影に潜って逃げ帰る」

 冒険の末にいつの間にか頼もしくなったピーターがそう言うなら大丈夫なんだろうが、やっぱ心配だ。

 心配する俺をよそに、ピーターはムクの手を取って外に出て行ってしまった。

「気を付けてなー!」

「ほーい!」

 ムクの嬉しそうな返事が俺を余計に心配にさせるが、バトルコック団の中で、敵の討伐数一位のピーターがいれば大丈夫か。



 異世界の魔王は、頬肘をついて部下の蜘蛛の悪魔に目を向けた。

「どうだ? 周囲に怪しい者はおらぬか?」

 蜘蛛そのものにローブを羽織った体を持つ蜘蛛の悪魔は、城の周囲に張り巡らせた糸に振動がない事を確認してから、魔王に返事をした。

「今のところ異常は・・・。おっと! この感覚・・・。鎧を纏ったパーティが近づいています。フェル様」

「クックック。さて、どういった意図でこの城を目指しているのか?」

「それは言うまでもなく、討伐要請を受けた冒険者なのは間違いないでしょう。ハハハ」

「だろうな。しかし、あの出鱈目な強さの悪魔から、城ごと逃れられたのは僥倖。あ奴は一体なんだったのだ。トンカチの悪魔か?」

「そんな悪魔は存在しませぬよ、フェル様。恐らくあれは、別宇宙、別次元の悪魔でしょう。あ奴の主であろう仮面の男が止めていなければ、我々は全滅していたでしょう」

「更に異世界への霧が偶然発生しなければ、そうだったろうな。世界は広い。慢心せずに警戒せねばな。で、城に近づく者の強さはどうだ? 一番強い者を寄越せと伝えた男が、しっかりと役目を果たしてくれるといいがな」

「ざっと見た感じ、ここは田舎のようですし、果たして我らが望む強さの者がいるかどうか」

「なんにせよ、敵の強さを見極めねば。もし弱いようなら、城から出てまずはこの領地を乗っ取るか」



 人が悪魔に勝てる可能性は低い。

 悪魔は尽きることのない魔力を持つからだ。勿論、インプレベルの弱い下位悪魔もいるが、対上位悪魔戦となると怒涛の魔法連打を受け、死者が出るのは間違いない。

 それを考えると千年も悪魔と戦い続けた暗黒大陸のデーモンバスター達は偉大だった。妖精女王の指揮の元、悪魔を外国へ侵攻させないように戦っていたからだ。

 その千年戦争をいとも簡単に終わらせた現人神ヒジリはもっと偉大である。その出来事以降、星のオーガを信仰する者が一気に増えた。勿論、自分もその中の一人だと、僧侶のパンは誇らしく思う。

「神の御加護を」

 パンが禍々しい城の門前でそう祈ると、仲間も口々に「神の御加護を」と言う。

 誰が言い出したか、星のオーガの恩恵は、可能性を信じ、飽くなき探求心を持つ者に宿るという。一本筋の通った信念を持つ限り、苦難が訪れた際、必ず逆転できるという恩恵は、冒険者にうってつけだ。

 とはいえ正直、悪魔の群れに勝てるかどうかの迷いはある。

 悪魔退治を生業にしてから十年も経つ。生死をかき分けている間に実力値は30にもなった。バトルコック団が現れる以前から、世間に名を轟かせる英雄レベルのパーティであった。その自負を萎えさせる程の覇気を、門番の鬼は放っている。

 大扉の端に立つ悪魔の二人は、それぞれ牛と馬の頭を持つ。

「汝らが挑戦者か? 小さき者よ」

 馬の悪魔が尋ねる。

「そうだ。ガノダ・ムダン様の依頼でこの城に来た。私は不動聖山のリーダー、僧侶のパンだ。率直に聞く。君たちの狙いを知りたい」

「我らはただ門を守るが役目。それ以上の事は知らん。ここを通りたければ、我々を倒していけ」

 如何にも武人といった雰囲気の門番二人は、棘の付いた金棒を不動聖山に向けて構えた。

「その潔さや、良し! しかし、我らとて悪魔退治に特化した戦士と僧侶。心して参れ!」

 前衛に立つ戦士の、玉ねぎのような兜の尖がりを囲む光輪が光った。

「あまり先走るなよ、オニオン」

 獅子の兜を被る戦士にそう言われて、オニオンは小さく笑う。

「わかっている、ライオス」

「念のため、俺は後衛を守るぜ、お二人さん」

 前衛で唯一顔を晒している軽戦士の樹族は、魔法結界を張って二対二の戦いを見守ることにした。
 
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