料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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料理の力

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 鼻息荒くして調子に乗り、悪魔にドングリを当てる地走り族の頭に右手を当てて、俺は情報を探ってみた。

「ヨモギ餅の効果を見てなかったから気づかなかったけど、悪魔に対して六倍の攻撃力! しかもノックダウン効果付き! う、うそだろ! ヨモギ餅の効果凄すぎ!」

「ほう」

 いつの間にか俺の横に来ていたステコさんが、馬上でそう声を漏らした。

「悪魔に対してそこまで強いのは、ヒジリ聖下ぐらいだが、それに並ぶ効果をオビオは一時的に付加したという事か・・・。高レベルの料理人にこんな使い方があったとは・・・。侮れん」

 黒騎士は何かを考えた後に、手を開いて何かを要求してきた。

「?」

「察しが悪いな。ヨモギ餅をよこせ。冒険者だけでは、この数を対処するのは無理であろう。遠隔攻撃をしている地走り族も防御力には何も付加されていない。つまり、反撃を受ければ終わりだということだ。ならば魔法耐性の高い私に、力を授けた方が効率が良い」

 そうか! しかし・・・。

「ヨモギ餅は今手元に無いのです、閣下。すみません」

「ならば、体力を回復する効果の物を」

「一応ありますが、一気に回復する食べ物は今はありません。再生パンぐらいしか。なにせ地走り族を追いかけて、何も準備せずに来たものですから」

「役に立つのか立たないのか、よくわからん奴だな、貴様は」

 俺は恥ずかしくなって頭を掻きながら、困りつつ戦況を眺めていると、ピーターが悪魔を次々に倒していくのが見えた。ピーターにヘイトが向くと、ムクが悪魔を操って同士討ちを始めさせる。しかし、そのムクにも勿論ヘイトが向く。

 そして悪魔の爪がムクの背中を切り裂いた。

「あっ!」

 俺は思わず声を上げ、ムクに走り寄り、悪魔を殴り倒す。

「大丈夫か?」

「何が?」

「何がって、背中・・・。あれ?」

 ムクの背中はなんともなっていない。傷どころか、服すら破れていない。

 そうか、これも食事効果! 

「悪魔の攻撃を数回無効化・・・」

 ムクはピーターから貰った生姜湯を既に飲んでいたのだ。

「意図せず悪魔退治の効果を、俺は付与してたってわけか」

「オビオは自分の影響力を少しは理解したほうがいい。お前の力は国家間の力関係すら左右するのだから」

 サーカはそう言って、近くの悪魔をメイスで殴り倒した。

「独立してヒジランドを勃興させたヒジリ聖下と違って、オビオは樹族国所属。そして、樹族国は一枚岩ではない。誰につくかを明確にしたほうが、敵味方がわかりやすくなる。このままシルビィ隊の指揮下にいるも良し、野望があるならば、ワンドリッターにつくも良し。騙しあいをする樹族とはいえ、根底にある志をハッキリさせない者は決して信用しない。その力を誰のために使うのか示さないままいると、全てを敵に回す事になる」

「今はそんな話してる場合じゃないだろ。とにかく、この戦いを何とかしないと」

 俺はボスっぽい奴を探していると、トウスさんが目星をつけた。

 獅子人の視線の先には、玉座に座って頬杖を突く少女がいる。

「だったらボスを叩くのが一番だ」

「待て!」

 跳躍するトウスさんを、ステコさんが止めようとしたが、獣人の素早さには追い付かなかった。

 次の瞬間―――、トウスさんは部屋の真ん中で黒い靄のような柱に縛り付けられていた。

「だから待てと言ったのだ」

 ステコさんがすかさず、トウスさんを縛る縄を光の剣で切った。

「すまねぇな、黒騎士様。まさかあの小さな悪魔が能力者だったとは」

 こちらから攻撃すれば動きを封じられる。だからあんなに余裕を見せているのか。

「フェル様はこれまで御手を下す事なく、敵を打ち破ってきているのだ。貴様ら下等生物に手出しができるものか」

 形容しがたい異形の悪魔がそう言って笑ったので、チョップして気絶させた。生意気だぞ。

「でもさぁ~、霧の向こうから現れたって事は、何かから逃げてきたって事だろ? 霧の魔物の仕組みをオビオやヒジリ様がそう推察してたよなぁ? で、あいつら、何から逃げてきたんだ?」

 邪悪なるピーターが俺の影から現れた。悪魔の返り血を浴びて、体中真っ青だ。悪魔の血は青いんだな。カニやエビの仲間かな?

「案外、キリマルから逃げてきたのかもな。ほら、あいつって世界を移動できるだろ」

 俺がハハッと笑うと、魔王らしき少女の表情が変わった。

「今、何と言ったか! 人間!」

「え、キリマルって言ったけど」

「そいつだ! 貴様らは知り合いなのか?」

「まぁ、知り合いっちゃ知り合いだけど・・・」

 そう言い終わらないうちに、少女は【火球】を十発ほど俺に打ってきた。勿論、レジストして尚且つ高い魔法防御力のお陰で、大した火傷にはならない。すぐに再生して傷は治った。

「なんだよ! いきなり!」

 魔法が効いていない俺に驚いたのか、悪魔たちがざわめく。

「フェル様の魔法をレジストしやがったぞ、あの人間!」

 そりゃそうよ。地球人は魔法耐性が異様に高い奴が多いからな。

「魔界で平和に暮らしていた我らの安寧を破った憎き悪魔! キリマル! その仲間となれば・・・。貴様ら、もしかしてめちゃくちゃ強いのか?」

 側頭部に大きな角を持つ少女の悪魔は、急に怯えだした。

「まぁキリマルほどじゃないけど、それなりに強いとは自負しているぞ」

「ど、どのくらい・・・?」

 魔王が急に可愛い少女になったなぁ、おい。

「フハハ! これまでの戦いを見て気づかぬか! 愚かなる王よ」

 どうした、サーカ。急に偉ぶりやがって。

「なにぃ?!」

「よく考えてみろ。お前らは小人の撃つドングリで気絶しているのだぞ? このドングリ族は、こちらの世界じゃ殆どの者が戦闘面で役に立たん」

 ドングリ族と呼ばれた地走り族からブーイングが出たが、サーカはそれを無視する。

「つまり、我々は最弱な小人以下というのか!」

 怖気づく少女に、蜘蛛の悪魔が耳打ちするが、五感の優れる俺には丸聞こえだった。

「敵の嘘に騙されてはいけません、フェル様。ならばなぜ、不動聖山は苦戦したのですか」

「そ、そうだな。騙されんぞ、女。悪魔退治屋の不動聖山は我らに手も足も出なかったではないか」

「うぐっ!」

 サーカは瞬発力のある嘘を言ったり煽りはするけど、持久戦に弱いんだよなぁ・・・。

「そ、そいつら不動聖山は確かに強いが、おつむが弱い」

 パンが呆れた顔で、苦し紛れの嘘を言うサーカを見ているが、サーカの意図を汲み取っているのか、反論はしなかった。

「そ、そう言えば、不動聖山は仲間が磔にされているのに、手を緩めずにフェル様を攻撃していたな・・・。愚行も愚行」

 蜘蛛の悪魔がそう呟いた。それをサーカはすかさず拾った。

「そう。不動聖山というパーティは猪突猛進の馬鹿なのだ。いくら強い者でもワンパターンだと攻略しやすいだろう?」

「た、確かに・・・」

「もう降参しろ。お前たち、悪魔は数が多いかもしれんが、毎日冒険者が討伐に来ればどうなると思う? 今日は仲間が千人いても、明日には五百人、明後日には二百五十人と数を減らしていくだろう。そして最後に残るのは城主だけとなる。それになんの意味がある?」

 俺の隣でステコさんが、サーカの拙い交渉力と、その策略に見事にはまる悪魔に対して笑いを堪えている。

「ぐ、ぐぬう・・・。我らがこの世界において弱者だというのか・・・」

「そうだ。しかも圧倒的ッ! 弱者! ド底辺!」

「くっ!!」

 あぁ、サーカが凄くイキっている。今、とてもきらめいて見えるよぉ、我が恋人。

 食事効果のバフや、強いステコさんがいたという偶然が重なって、悪魔が弱いかのような印象を抱くが、実際、こいつらは相当強いんじゃなかろうか? さっきチョップした悪魔でも英雄レベルはあったし。サーカの脅しが失敗した場合、本腰を入れて戦うしかないだろうな。

 ・・・・ん? ちょっと待てよ。もしかして俺らってキリマルの尻拭いさせられてねぇか? あらっ? あらら! なんか腹が立ってきた! こいつら悪魔と戦うのも馬鹿らしいほどに!

「なぁ、フェルちゃん」

 俺は親しみを込めてそう呼んだ。

「我が主をちゃん付けとは何事かー!」

 蜘蛛の悪魔が杖を振り回して怒っているが今は無視だ。

「人に仕えてみねぇか?」

 少し冷静さを取り戻したのか、今は怖気づいていないフェルは、小さな胸の前で腕を組んだ。

「なんのメリットがある? 我らはこの地のマナだけで十分生きていける。主どころか贄も必要ない」

 燃費の良い悪魔ってわけか。

「でもさ。昔から悪魔ってのは、代償を得て人に仕えるもんじゃないか」

「それは現世に具現化する必要があったからだ。殆どの世界はこの世界程、マナが溢れてはいなかったからな」

「そこまで物質界に固執する理由は?」

「光の子であるお前らを、堕落させ、たぶらかす為に」

「なんでそんな事をする必要があるんだ?」

 フェルは俺の問いかけに眉根を寄せた。

「それが悪魔の存在理由だからだ」

「馬鹿ー!」

 俺はフェルの頭を軽く叩こうとしたが、気が付くと磔にされていた。

「うっかり屋さんだなぁ、オビオは」

 ピーターがニヤニヤしながら、俺を縛る縄をダガーで切ってくれた。

 腕に食い込んだ縄の痕を擦りながら、俺は再びフェルに歩み寄る。

「お前らが恐怖するキリマルが言ってなかったか? 抗え、と。誰が決めたか分からない―――、自身の存在理由を少しは疑ってみたらどうだ?」

「では悪魔は人に仕え代償を得る、という契約も、疑わなければならないではないか」

 やだ、この子、賢い! 俺の矛盾点をズバッと突いてきた。

「でもね、フェルちゃん。人に仕えて代償を得るのは別に、悪魔だけの話じゃないんだよ。俺たち冒険者も仕事をギルドから貰って報酬を得る。な? 一緒だろ? 等価交換だよ、等価交換」

「ならば、我らは人に仕えて何を得る?」

 待ってました!

「食事だ。魔界の食べ物は味がしないのだろ?」

「あぁ。そうか、食事か! この世界の食事は美味しいのか?」

「そりゃあもう! それに丁度いい仕事がある! その鋭い爪で糞硬いカボチャを割ってくれないだろうか?」

 俺は亜空間ポケットから沼カボチャを取り出すと、フェルに投げた。予想通り、彼女はスパッとカボチャを割ったが、その代償として、俺はまた磔にされた。

「オビオの旦那ァ、いい加減、学習してくださいよぉ~。クキキッ!」

「うるせぇ、ピーター! 早く縄を切ってくれよ!」

 ピーターが寄り目で俺をからかってるのを見かねたトウスさんが、爪で縄を切ってくれた。

 自由になると、真っ二つになったカボチャを拾って、種をえぐり取ると自前の簡易コンロの上に乗せる。

「そんな事をすれば、皮が黒焦げになって、風味が悪くなるだろう?」

 フェルは興味深そうに見てそういった。その口ぶりからすると、人間界で料理を食った事があるんだな。

「このカボチャは皮が鉄のように硬いから、火にかけても平気なんだ。っていうか、皮は食えない」

 水っぽい中身をかき混ぜていると火が通ってきた。そこに少量の塩を入れる。

「出来た! カボチャのスープ!」

 スープをお玉ですくって、椀に入れるとフェルに差し出す。

「召し上がれ!」

 悪魔の城の主は、熱いスープをフーフーしながら啜った。その様は、そこら辺の少女と変わらない。

「!! んまい! 塩気がカボチャの甘みを引き出している! そして濃厚な味! こんな美味いスープは初めてだ!」

 塩だけの単純な味付けでここまで美味しくなる、沼カボチャのポテンシャルよ・・・。

「人と共存すれば、こんなに美味い料理が毎日食えるんだぞ? 凄くないか?」

 悪魔のようにそう囁いて、俺はフェルの様子を窺う。

 彼女は唇についたスープを舌で一舐めして目をつぶる。俺の提示した条件が、割に合うかどうかで悩んでいるのだろう。

「惑わされてはなりませんぞ、フェル様!」

 おい、蜘蛛爺! しゃしゃり出てくんな!

「こんな単純なスープで・・・!」

「そーーーい!!」

 俺は椀に注いだスープを蜘蛛爺の頭にぶっかけた。

「あっつっ!」

 熱くて、床でのたうち回る蜘蛛の悪魔を見て、ステコさんが壁に手を当てて体を震わせている。多分、笑いを堪えているのだろう。

「熱いが・・・。美味い・・・」

 蜘蛛の口まで滴るスープを舐めた悪魔はキョトンして座った。

「な? もう砂の味しかしない魔界の料理とはおさらばだ。良い条件だと思わないか?」

 スープを何口も飲んでは目を閉じて何かを考えるフェルの返答を、俺は暫く待つことにした。
 
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