料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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聖なる地走り族

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 ガノダはカズン家の客間にて、横柄な態度でソファに座り、紅茶を啜りながら魔法水晶の中の相手に憤慨していた。

「ズズズ。あのなぁ、シルビィ。僕が初めて持つ領地に霧の魔物が現れたんだ。独立部隊の精鋭を送ってくれてもいいだろう? 或いはあの頑固爺を説得するとかさぁ」

 忙しそうに書類に目を通すシルビィは、魔法水晶を見ようともしていない。

「不動聖山とバトルコック団がいるなら十分だろ。それに私は、ブラッド卿と強い繋がりはない。君の言う頑固爺は私にとっても頑固爺だ」

 短命種の年齢で言えば、40歳ほどの赤髪の樹族は、旧友に全くと言ってもいいぐらいに関心を寄せない。

「ステコはどうした、ガノダ」

「ステコならもうとっくに悪魔退治に向かったよ。でもまだ不安なんだ。君も来てくれよ」

「ステコがいるなら余裕だろう。我ら三人の中で一番実力値が高いからな。それにオビオやサーカ、白獅子も決して弱くはないぞ。勿論、向かわせたのだろうな?」

「え・・・。いや、彼らは悪魔退治に役に立たないと思って依頼していないが」

「バッカモーン! 今、樹族国で一番強い冒険者に依頼しないでどうする! お前は昔から本当に詰めが甘いな!! いい加減、何か一芸を磨け! 社交界で上手く立ち回る以外のスキルをな!」

「貴族の戦場は、社交場だろ。血生臭いのは勘弁だね」

「はぁ・・・。貴族は領民を守ってこそ・・・。なんなのだ、この男は。ワンドリッター家で性器を切り取られて以来、そのままなんじゃなかろうな? 宦官のガノダ」

「キリマルのお陰でちゃんと生えてるわ! 見るか? え?」

 ガノダがズボンに手をかけたので、シルビィは慌ててそれを止める。

「いらん、見せるな! 貴様の陰部など二度と見たくない!」

「じゃあ、来てくれよ」

「そこで、なんで『じゃあ』に繋がるのだ? とにかく、私は忙しい。サーカは王国近衛兵独立部隊の一員だ。それで十分だろ。通信終わり!」

 突然何も映らなくなった魔法水晶をペチリと叩いて、ガノダはお茶請けのクッキーを貪り食った。

「くっそ~。自分の領地を持った途端、なんで悪魔がやってくるんだ。あぁ、不幸な自分が可哀想」



「ちょっと、待てって!」

 地走り族は足が速い。

 一歩が大きい俺や、機動力の高いトウスさんでも追いつくのが難しい。

「好奇心は猫をも殺すと言うだろ、考え直せよ、お前ら。ハァハァ」

「やだよ。今こうしている間に、あのお城で楽しい事が始まっているかもしれないだろ?」

 名も知らぬ、最後尾をゆく地走り族が興奮しながらそう答えた。

「悪魔相手に楽しい事なんてあるか、馬鹿! それから部品返せ!」

「知らないよ。ツーンだ!」

 何が「ツーンだ!」だ。ワサビを鼻に塗りたくってやろうか! あぁ、腹立つ。昔は可愛く思えてたんだけど。最近は見慣れたせいか、地走り族も可愛くなくなったなぁ。

 そうこうしている間に城が見えてきた。

「わぁ、なんだろ! あれ! 首のない死体が転がっているよ!」

 地走り族が門前に転がる二体の死体に群がり始めた。

「悪魔の死体だな。普通、悪魔はこの世界で顕現できなくなると消えるのに、死体がまだあるとは。余程生命力の高い悪魔らしい」

 サーカが険しい顔をしてそう言うのは意味がある。

 それだけ、この城の悪魔は強いって事だ。でも、その悪魔の首を刎ねた者がいるって事だろ。ちょっと気が楽になるな。

「誰がやったと思う?」

 俺の問いにサーカは腕を組んで考え込む。

「不動聖山なら、こんなストレートな戦い方はしない。説得するか、帰還させるかだ。真正面から問答無用に殺すなど、彼ららしくない」

「じゃあ、ピーターか?」

「ピーターなら背後からの傷じゃないとおかしい。・・・地面を見てみろ。馬の足跡がある。恐らくどこぞの騎士が、悪魔の首を刎ねたのだろう」

「接近戦に強い騎士は数えるほどしかいないぞ。サーカの兄か、王の盾とその娘、ムダン・ムダン、あるいはワンドリッターの黒騎士か。自由騎士様は馬に乗らないから、違うな」

 トウスさんの推測の中に、正解があると思う。

 その強い誰かを考えていると、死体に飽きた地走り族が、どんどんと城の中に入っていく。

「もう、あいつらときたら・・・。取り合えず、城の中に入ってみるか」



 玉座の間に集う異形の中で、王座から立ち上がって腕を組み、仁王だちする少女の前で、不動聖山は磔にされていた。

「説得が通じぬとわかった途端、帰還の祈りか」

「フェル様、冒険者より、あすこで馬に乗ってこちらを見る黒騎士に注意を」

 やもするとイービルアイにも見える目玉の悪魔が、扉付近のステコの覇気を見て身震いする。

 ステコは兜の中でハッと笑い、少女―――、恐らく魔王を指さした。

「貴様、能力者だな?」

「ああ、そうだ。だが、わかったところで、どうにもならんがな」

 鮮やかな青い髪からとび出る二本の角が、如何にも悪魔と言わんばかりに目立つ少女は、椅子に座って頬杖をついた。

「あまりこの私を舐めないほうがいい。能力者とは幾度も戦った事がある」

 ステコは馬ごと跳躍して、広間の真ん中まで来ると、磔にされた不動聖山を縛る縄を次々と切ってまわった。

「助かります」

 パンの消え入るような礼を無視して、ステコは現状を頭の中で吟味する。

「しかし、どういうことか?」

 先ほど魔王に攻撃を仕掛けた不動聖山が、瞬く間に磔にされたのだ。魔王は自分に危害を加えようとする者を磔にする能力を持っていると考えるべきか。そんなふざけた能力があるだろうか?

 しかし、そうとしか思えない。大した能力ではなさそうに思うが、実際のところ体の自由を確実に奪われるのだ。それは即ち死に直結している。

 迷宮に住む多足のトカゲは麻痺のブレスをはき、運が悪ければ全員痺れて、生きたままトカゲの餌となる。運命の神の信者はその手の攻撃を回避しやすくなるが、いきなり磔にされるのはどうしようもない。

「うぉぉぉ!! ふざけんなよ!」

 ライオスが光の獅子となって、再び魔王に襲い掛かった。が、悪魔たちは、王を助けようもせずただ笑っている。

「食らえ! 獅子連撃!」

 初撃が当たりそうになったその刹那、ライオスは磔状態になっていた。闇色の十字架はしっかりと光る獅子を縛り付けた。

「くそ、一体どうなってやがるんだ!」

「ゲハッハッハッハ!」

 悪魔たちが腹を抱えて笑う。

「どうやろうが、フェル様は無敵なんだよ。いい加減学習しろよ、ライオンちゃん!」

 そうからかった鎧の悪魔の首が刎ね飛んだ。

「ふむ、フェルとやらの能力は味方には及ばないようだな」

 ステコは光の剣から立ち上る血の煙を一払いして消す。

「では、殺せる者から殺すか。聞け、不動聖山よ。魔王に固執するな。下腹に力を入れて魔法耐性を高めて戦え」

「しかし、数では負けております、閣下。ゆえに王を狙ったのですが」

 どこからともなく悪魔がぞろぞろと湧いて出てくるのを見て、パンはすっかり怖気づいてしまった。

「やられる前にやれ。特に搦手を使う悪魔から狙うのだ」

「簡単に言ってくれますね」

 一体どれだけ死線をくぐれば、これほどまでに落ち着いていられるのか。パンは黒騎士を憎らし気に見つめて息を吸い込んだ。

「これより乱闘を仕掛ける! 同士討ちに気をつけろ!」



 静かだった門前とエントランスに比べて、玉座の間が騒がしい事に、野次馬地走り族は気づく。

「凄いや! 不動聖山と黒騎士様が悪魔相手に奮闘してる!」

 なに? 黒騎士? ムダン領に? トウスさんが言った中で、一番可能性が低いと思っていた予想が当たった。

 悪魔の魔法の連打を受けても、黒騎士はびくともしていない。不動聖山のほうは、回復が追い付いていないのが不安だ。

 こんな中に地走り族が加わったりしたら、大変な事になるぞ。

「お前ら、悪魔のヘイトを集めたりするなよ!」

 って、おい! 言ってる傍からパチンコで援護射撃してんじゃねぇか!

「やめろってバカ!」

「でもさ、なんかダメージ入ってるよ! 弾はドングリなのに!」

「なにぃ!」

 そんな馬鹿なと、乱闘を見てみると、確かに悪魔たちがドングリ弾に当たって昏倒している。

「ここの悪魔はそんなに弱い奴らなのか?」

 俺の独り言に、トウスさんが笑う。

「だったら、不動聖山やステコ・ワンドリッターが苦戦している意味がわかんねぇなぁ」

 乱闘の向こう側で、余裕綽々だった魔王らしき少女の顎が大きく下がっている。

「なんだ、あの小人どもは! ドングリ如きで部下が倒れていくぞ!」

 俺だって驚いてんだよ。もしや! 悪魔はドングリが弱点なのか? 

 俺は倒れた悪魔に近づいて、情報を読み取る。弱点の項目にドングリはない!

「うは! 俺らすげぇ! 悪魔を次々と倒している! ドングリで!」

 地走り族はどんどん調子に乗って、パチンコを撃ちまくっている。

「こいつら全員、聖属性なのか?」

「そんなわけがあるか」

 俺が驚き続けていると、サーカが口元を押さえながら笑った。

「地走り族の能力を見てみるのだな。おバカなオビオ」
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