料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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母親の思い出と料理の力

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 本当に祭り状態だ。

 なんたってこの領地には、人の総意を受けたと言い張る自称神の科学者と、その神の使徒である聖騎士見習いのフランちゃんと、闇魔女のイグナちゃん(イグナちゃんは使徒ではないけど)の加護を受けるのだからな。

 もう、似非神聖国の脅威に怯えることはない。

「ふう、作っても作っても間に合わないなぁ」

 ナノマシンが額の汗の処理を怠っている。というか、間に合ってないのだろう。服の袖で額を拭って、そう独り言ちる。

「うまい! こんな高級肉、一生に一度、食えるか食えないかだぞ! 流石はバトルコック団のリーダー! 肉の塩加減も最高だ!」

 俺が大忙しで焼いた肉がどんなに貴重な物だろうが、村人たちは感謝こそすれど、エールと共に簡単に流し込んでいった。値段が安いと言われているヒジランドのレストランでも、オティムポ牛のステーキ200gで銀貨一枚だ! それをバクバクと気安く食べやがって! 勿論美味しいと賞賛してくれるのはいいんだけどさ。

 おっと、顔がニヤニヤしてきた。ツンデレだな、俺。

 どんな料理だろうが、俺の作ってくれたもので皆が喜んでくれるのは、料理人として、やっぱ心の底から嬉しいもんだ。だって一人残らず笑顔なのだから。道化師だってさ、これだけの人を笑顔にはできないだろう。(道化師という言葉で、一瞬ビャクヤのおじいちゃん、ナンベルさんを思い出して、寒気が走った。あの人、なんか怖い)

 様々な料理が消えていく中、サーカがピーターとムクを転移魔法で連れて来た。もはや、この国に転移阻害結界はない。

 多分、フランちゃんとイグナちゃんも準備ができ次第、転移魔法でやってくるだろう。二日も領地を守らなくていいんじゃないかな? まぁシルビィ隊長は、大目に準備期間を見積もったのだろうと思う。フランちゃんはともかく、イグナちゃんは、時々、貴重な触媒を必要とする魔法を唱えるからな。それを見つけ出すのが大変なんだろうさ。ビャクヤだって苦手な魔法には触媒を使う時がある。

「あ、ずるいぞ! 俺にも肉を食わせろよ!」

 ピーターは転移してくるなり、オートケバブメーカーに巻き付く、鬼イノシシの肉を自前のナイフでそぎ落として、置いてあった、トマト(この星のトマトは辛い)のスライスと、レタス、チーズをパンに挟んで齧った。

 そして隣の席にいたビャクヤのエールを横取りして、自称子供の地走り族は飲み干す。

「プハー! やっぱオビオの料理は最高だな。なぁ、ビャクヤさん」

「ん、そうですねぇ。キリマルがッ! 彼を欲するのも理解できまんすッ! 過去に連れて帰って、城のコックにすれば、どんなに幸せな事でしょうかッ!」

 ビャクヤは、自分を尊敬してるはずのピーターの横取りに怒る事なく、上品に―――、そして仮面に恍惚の表情を宿したまま、料理を食べている。そして、特に美味しい料理があると、俺に許可を得てから、料理を皿ごと無限鞄に入れていた。多分、あの清楚な感じの奥さんへのお土産だろう。優しい旦那さんだなぁ、変な人だけど。

 ムクはというと、トウスさんの膝の上に座って、細かく切った肉などを食べさせてもらっている。流石、子供のいるお父さんは、面倒見がいい。

 病気から全快した少女は、ムクと話がしたいのか、ソワソワしながらトウスさんの横に座っている。歳が近いからか、共通の話題が多いのかもしれない。

 トウスさんも、それを察したのか、「後は自分で食べな」と言って、席を変えて少女とムクを一緒にした。最初こそ、照れて料理を黙々と食べていた二人だったが、そのうち話が弾むようになったのか、すぐに仲良くなっていた。

「他に料理が行き渡っていない人は・・・」

 俺は辺りを見渡す。サーカはウィングと何か真剣な話をしながら、料理を食べている。恐らく神国への領土の譲渡の件や、シルビィ隊長からの情報を共有しているのだろう。あと、サーカ家の呪いの話とか。まぁ呪いは十中八九、サーカの祖父母の霊の仕業だろうな。ウィングがいれば、浄霊も可能だろう。そしたら呪いも消える。

 更に見回していると、遠くの切り株に、ポツンと座るゼッドが見えた。ここの村人を殺す気でいたのが、後ろめたいのだろうか? 祭りの輪の中に入ろうとしない。

「なぁ、キリマル」

 俺は近くの席で腹がいっぱいになったキリマルに声をかけた。キリマルはテーブルに足を置き、背もたれにもたれかかって、ぼんやりと空を眺めている。緑の長い髪が垂れ下がって、地面に届きそうだ。

「なんだぁ?」

 まだ樹族の姿をしているキリマルは、声こそいつもの彼だが、怖さがない。

「ゼッドに、これを持って行ってくれないか」

 俺は木のお椀に入ったベーコンと、刻んで焼いた玉ねぎの入ったオートミールを差し出した。

「なんで、俺様が・・・・」

「暇そうにしてっからだよ。もう腹いっぱいなんだろ? キリマルは酒も飲まないんだし、いいじゃんか」

 こいつは基本的に酒を飲まない。飲むと油断が生じるからだと言っていた。そんだけ強けりゃ油断していても、余裕で敵に打ち勝つだろうが。どっかの傲慢で隙だらけのスロースターター現人神とは大違いだ。

 キリマルはお椀の中身を見て、「クハッ!」と皺枯れ声で小さく笑った。

「なんともお粗末な料理じゃねぇか。ベリーソースのかかった高級ステーキでもなけりゃ、ケバブのサンドでもねぇ。よくわからん野草の入った美味しいスープもついてねぇし。ただのオートミールとは良い嫌がらせじゃねぇか、オビオさんよぉ。いいぜぇ、持ってってやる」

「あんがと」

 俺はキリマルの顔の特徴の真似をして、しゃくれ顎で感謝をした。が、本人は気づいてないのか、そのままゼッドのいる方へと、お椀を持って歩いていった。キリマルの物真似で笑ったのはピーターだけだった。よし、一人でも笑わせたのなら、関西人として満足だ。

「よぉ、ゼッド」

 キリマルの声に気づき、その後手に持ったお椀を見て、料理を持ってきたのだと察したゼッドは、それを拒否した。

「いらねぇ」

「殺すぞ。この宇宙最強の悪魔様が、わざわざお前の為に料理を持ってきてやったんだ。食え。それにオビオの料理を食わないと、一生後悔する事になるぞ」

 その刹那にキリマルは恐怖のオーラをまき散らしたので、ゼッドは怯えて椀を即座に受け取った。

「いいか、残さず食え」

 キリマルはオーラを消すと、草がたくさん生えている地面に寝そべってリラックスした。そしてゼッドが食事する様を見ている。

「いいか、これまでしたきた悪事も、殺しの罪も、そのオートミールごと、噛みしめて飲み込め」

 俺は調理に忙しく、二人から離れた場所にいるが、喧噪の中でも耳は二人の方へと向けていた。そしてキリマルの悪魔らしからぬ言動に驚いて、またもや包丁を滑らしそうになった。

 そう言われたゼッドは、お椀を口に付け、スプーンかっこむ。そして咀嚼しながら涙を流し始めた。

「これ、母ちゃんの味だ・・・。いつも誕生日に、このオートミールを作ってくれたんだ。普段は何も入ってないオートミールだったけど、誕生日の朝はベーコンと玉ねぎを入れてくれた。自分の食事を抜いてでも、俺に作ってくれたんだ」

 ゼッドの、胸糞悪い記憶を読み取った時に、一瞬出てきた、優しくも筋肉粒々の女性は、やっぱ彼の母親だったか。オートミールは正解だったようだな。

「いい母ちゃんじゃねぇか。その話からすると、お前は貧乏な家に生まれたんだな」

「あぁ。オヤジは飲んだくれで働かなかった。母ちゃんが、いつも石切り場で力仕事をして、家計を支えていたんだ」

「まぁこの世界じゃよくある話だ。で、母ちゃんは今でも元気なのか?」

「落石事故で死んだ。オヤジはそんな母ちゃんの死を悲しむこともなく女を作って、俺を捨てて出て行ったよ。お前は悪魔だから知っているかもしれないが、東の大陸は西の大陸よりも、文化的に遅れている。簡単に言えば、混沌としてんだ。ゴロツキや盗賊がそこいら中にいる。だから俺は無法者が憎かった。それで自警団に入り、戦士の腕を磨き、時々、侍の道場で剣技も学んだ」

「真っ当な人生を歩んでたじゃねぇか。なのに、どうして歪んだんだ?」

 キリマルは人がどう歪んだのかに興味があるだけなんだろうな。親身なふりをしているが、楽しんでいるのが何となくわかる。デビルズアイという、何でも見通す力を持っているくせに、ゼッドの口から言わせようとする辺りが、性格が悪さを現しているぜ。

「俺は独り立ちできるようになった頃、村を出て自前のコミュ力の高さを武器にして、どんどんと上を目指して、とうとうイエロー傭兵団に入ることができた。東の大陸でも正義を売りにしていた傭兵団だったんだ。敵地での略奪行為や住民に暴行を加える事を一切しないという事で有名でな。エリート種猫人のイエロー団長は大柄でオーガの俺とそう変わらなかった。面接の時も、笑い話ばっかして、朗らかで本当に優しい人だった」

「へぇ、懐かしいな。イエローは傭兵団を作ってたのか。あいつに戦いのノウハウを教えたのは俺様だ。いや、今はどうでもいいか、そんな話。で、何で歪んだ?」

 早く本題へいけと言わんばかりに、性格が歪んだエピソードをキリマルは急かしている。

「悪魔のあんたなら、その話も驚きはしねぇぜ。団長も強くなった理由は、悪魔が関係していると言っていたからな」

 顔が広すぎだろ、キリマルは。シルビィ隊長とも知り合いだしよ。

「団長は店も持っていてな。基本的に店を経営していた。だから副団長が、実質傭兵団を仕切っていたんだ。副団長も聖人君主のようなオークと呼ばれ、村の男たちの憧れだった。俺も彼を尊敬して必死に戦ったよ。傭兵は三か月も生き残ればベテランと呼ばれる世界だ。人の入れ替わりが激しい。でも、俺は死ななかった。副団長に認めてほしくてよぉ、必死になって戦って生き残ったんだ。勿論、略奪やレイプなんかはしなかったぜ? 当時はな」

「へぇ。聖人君主のようなオークねぇ。胡散臭ぇ」

 偏見だぞ、キリマル。オークにだって良い奴はいっぱいいるだろ。まぁ、俺の知るオークは、野菜を分けてもらったり、売ってもらったりした農家のオークばかりだけど。あと、暗殺者のバガー兄弟。

「そう。あんたの言う通りさ。俺が目指していた副団長は聖人君主なんかじゃなかった。時々、夜になると、盗賊の格好をして、通り過ぎた敵地の村に戻って略奪やレイプなんかを行っていたんだ。しかも俺以外の全員が。正義の為に必死になって戦っていた裏側で、酷い事が行われていた事にショックでよぉ。気がついたら、俺は強盗に加担した団員を一人ずつ、色んな手を使って殺していったんだ。毒を飲ませたり、野営地で寝ている間に暗殺者に殺されたかのように見せたり、乱戦のどさくさに紛れて首を刎ねたりもした。人の入れ替わりが激しい傭兵団では、全く怪しまれなかったぜ」

「なんだ、おめぇ、良い奴じゃねぇか。死んでいった民間人の復讐の為、正義の為に悪人どもを殺したんだろ? 悪い事はなーんもしてねぇな。それにな、殺しの理由をお膳立てするのが俺の殺しの美学なんだ。それに合致するし、問題なんかこれぽっちもねぇ」

 なーにが、殺しの美学だ。理不尽に襲い掛かって来る事もあるだろうが。

「そう言ってくれると、俺も話しやすくなる。あんた聞き上手だな」

 聞き上手も何も、楽しんでるだけだぞ、キリマルは。

「そうこうしている間に、イエロー傭兵団で悪さをした奴は、悪霊に呪われて戦場で死にやすくなると噂になってな。入れ替わりで入団した新入りたちが、略奪するような事はなくなった」

「チッ!」

 キリマルはつまらなさそうにして、その辺の草の茎を咥えて上下に動かした。それ、毒草だけどな。

「でもよ、副団長は悪事を止めなかった。一人になっても略奪を続けた。とうとう我慢できなくなってよ、俺は二人きりの時に副団長に問い詰めたんだわ。そしたら、有無を言わさず剣を抜いて、斬りかかってきた。勿論、俺も死ぬつもりはねぇから剣を抜いたがよぉ。まぁ長い決闘の末、俺が副団長の剣を弾き飛ばして勝負はついた。その途端、副団長は跪いて命乞いしてきやがったんだ」

「あー? 覚悟のねぇ奴だなぁ、副団長は。ちゃんと殺したんだろうな? ケジメは大事だぞ」

 ゼッドは額に落ちてきた、脂ぎった黒い前髪をかき上げて、ため息をついた。

「殺さなかった」

「お前はあほか。狸の溜め糞の上で死ね」

 おい、キリマル! 言い過ぎだろ! それに、なんでそこで狸の溜め糞なんだよ!

「ああ、あんたの言う通り、俺は阿呆だった。これまでの悪事を団長に全て報告し、その後の処分を決定してもらうという事で殺すのを止めたんだが、それが最悪の結果を招いた。イエロー団長は、副団長の言い訳を信用したんだ。俺に脅されてやったという言い訳を。あのオークの糞豚野郎は気づいてやがったんだ。時々、不審死する団員がいる事を。それを利用して、俺に逆らった奴が殺されたんだと言いやがった。団長は烈火のごとく怒り、その怒りを拳に変えて俺にぶつけてきた」

 そりゃ長年一緒にいた腹心の方を信じるわ。その頃は純情だったんだな、ゼッドも。

「イエローは、そういうところがあるなぁ。ダイヤモンドゴーレムに無策で突っ込んで、叩き潰されたりしてたしよ。物事を深く考えようとしねぇ」

「だが、お互いの証言に確固たる証拠がないという事で、俺は退団させらるに留まった。本当なら私刑で殺されていた可能性もあったんだがよ・・・。そうならねぇようにしてくれたのが、団長の優しさだったんだろうな。ああ、くそ! 俺がギルドから去る時の、副団長のニタニタ顔は、今思い出しても腹が立つぜ!」

 ニタニタ顔はキリマルも同じだった。ようやく知りたい本題が巡ってきたからだ。

「で、歪んでしまったんだな? どんなに自分の信念を貫いて正義の為に動こうが、結局は悪が勝つ。だったら、悪側に立って、好き放題やろうと思ったわけだ。そうだろう?」

「あぁ、基本的に傭兵の略奪は合法だ。雇い主が何も言わない限り、やっていい権利がある。それで俺は色んな傭兵団を渡り歩いては、略奪や殺しをして荒稼ぎをしてきた。んで、大金払ってよ、強い魔物がいる危険な海を船でなんとか乗り越え、西の大陸にやってきたんだ。こっちの方が金払いが良いって聞いたからな」

「とはいえ、こっちでも大変だったろう? 大物に取り入るのは」

「いや、楽だったな。ちょうどその頃、リンクス共和国の分断の仕事があったからよ」

「ほう。じゃあ、リンクスを東西に分け、商業都市国家ポルロンドの礎を築いたのはお前らだったのか」

 リンクス共和国っていや、南のレオンと同じ獣人国なのに、樹族国とは仲がいいんだよなぁ。だから東リンクスは、樹族国と交流があって栄えてる。でもポルロンドに分断された西リンクスは、ボロボロだそうだ。岩地が多く作物を作るのに適していない上に、ポルロンドと国交もない。だから飢えた獣人が多いそうだ。早く行って助けてやりたいなぁ・・・。

 未来を知るキリマル曰く、その問題はフランちゃんと教皇の対決で解決するそうだけど、いつの話だろ?

 物思いに耽りながら料理をするのを止め、再び俺はキリマルとゼッドの会話に聞き耳を立てる。

「あぁ。その時に上手く神聖国モティの司祭や、商人国家グラスの連中に取り入ってな。名目上だけだが、騎士に取り立ててもらった。暴動や小競り合いがあるたびに、無実の者に罪をふっかけ、財産を奪ったり、勝手に悪人認定して殺したり等で稼がせてもらった」

「それも、今日までだ。これからは、人々の病気を治しながら、大義名分を見つけては人を殺すんだ。いいな? 殺しの美学に従え。殺しは良いぞぉ。クハハハ!」

 二人とも、ろくでもねぇ糞野郎だ。だが、ゼッドだけはどこか寂しそうな、それでいて苦しそうな表情をしている。

「ん?」

 料理を作りつつも、ふと殺気を感じ、そっちを見た。ビャクヤの様子がおかしい。仮面が無表情だ。いや、これは凄く怒っている時の表情だ。そうか、ゼッドの心を読んだんだな?

 大魔法使いの拳に、死の魔法が宿っているのを俺は見逃さなかった。ゼッドを殺す気だ。法の下にて善を良しとするビャクヤにとって、ゼッドの悪事は許せないのだろう。殺し好きのキリマルがビャクヤの前では、大人しいのもこのせいだ。恐らく殺しの理由を作るのも、ビャクヤに配慮しての事だろう。

 ―――ビャクヤを止めるべきかどうか迷う。俺だってゼッドは許せねぇ。だが、ゼッドの様子が変だ。ここは一旦ビャクヤを落ち着かせて・・・。

 その時、ゼッドの肉で回復した少女が、大きな声を上げて俺を非難した。

「こんなに御馳走がいっぱいあるのに、オビオのお兄ちゃんは、なんであのオーガのおじちゃんに、お粥だけしかあげないの? あのおじちゃん、泣いているよ!」

 すかさず、ムクが反論する。

「オビオお兄ちゃんは、バトルコック団のコッキー(アニメの主人公)みたいに時々意地悪したりなんかしないよ! 何か意味があって、あの料理をあげたんだよ!」

 それを聞いたビャクヤの拳から、どす黒い闇魔法の力が消えていく。なんだ? 何があった? 確かに意味があってあの料理を、ゼッドに渡した。記憶の中の母親の料理を再現し、少しでも改心してくれたら良いなという願いを込めて。

「その願いは叶ったようだねッ! んんんオビオ君ッ!」

 俺の心も読んだビャクヤは、座ったまま振り返って、そう伝えてきた。

「彼を見たまえッ!」

 ビャクヤが余韻のある動作でゼッドを指さした。彼は悔恨の表情を浮かべ、天に向かって手を合わせている。そして叫んだ。

「俺はもう!! 悪さはしねぇ! 死んだ母ちゃんの名にかけて! 自分の能力で人々を助けて生きていくんだ!」

 おお! 本当に改心しやがった! ど、どこかに朧月蝶が飛んでいるのか? キョロキョロしたが、青白く光る蝶は見当たらない。じゃあ、これは神の奇跡じゃないって事?

 いつの間にか俺の横に、悪魔の姿で立っていたキリマルが、その辺に置いてあったお玉で俺の頭叩いた。

「いた! なんだよ、キリマル!」

 彼の爆発の能力で、俺の髪はアフロヘアーになった。頭が弾け飛ばなかったのは、ナノマシンが瞬時に頭部の破壊を修復してくれたお陰だろう。アフロヘアーも直ぐにいつもの、癖毛に戻る。

「お前の料理は好きだが、お前は気に入らねぇなぁ。俺らの城にある属性変更泉水でも使ったのか? 糞野郎め。あ~あ、ゼッドが殺しの美学に従いつつ、悪人の沼に沈んでいく様が見たかったのによぉ。こんな胸糞悪ぇ未来が、全く見えなかったのが悔しいぜ」

「属性変更泉水? 過去のニムゲイン王国に行った事ないのに、そんな事できるわけないだろ!」

 口答えした俺をもう一度、お玉で殴ろうとしたキリマルの即死級一撃を、ビャクヤがマントで守ってくれた。

「おやめなさいッ! キリマルッ! 吾輩はッ! この世界を壊さなかった事をッ! 嬉しくおもいまんもすッ! もし壊していたならばッ! 三千世界で唯一の存在を消していたかもしれませんぬッ! したらばっ! 後悔してもしきれなかったでしょうなッ! 属性まで変えてしまう料理を作るコックさんなどッ! 吾輩は初めてみましたよッ!」

「だからむかつくんだよ。ペッ!」

 キリマルは、俺に向かって強酸の唾を飛ばしたが、それもビャクヤのマントが防いだ。

「オビオ君ッ! 君はッ! 神にさえ出来ないことをッ! やってのけたのだッ! たかが料理一つでッ!」

 ん? たかが料理一つって言葉が癪に障るなぁ。俺はいつも真剣に命がけで、相手の事を思って、美味しい料理を作ってんだ。

「癪に障ったのなら、ゴメリンコッ! オビオ君の真心がッ! 料理に乗った結果ッ! 奇跡を起こしたのかもしれませんズリッ! 吾輩はッ! 素晴らしい力を持つ、あなたの未来に輝きを感じますカキッ! これからも料理の腕を磨いてくださいなッ!」

 だから、俺の心を読むなって! それに帝国訛りがきつくて、卑猥な事を言っているように聞こえる。

「ほらね?」

 ムクが得意顔で、隣の少女の顔を覗き込んだ。

「うん、凄いね! オビオのお兄ちゃんは! 悪い人を良い人にしちゃったんだ!」

 よしよし、誤解が解けて何よりだ。

 この後、ビャクヤの命令を受けたキリマルが、魔刀天邪鬼でゼッドを斬り殺して、村が大騒ぎに。

 皆、パニック状態になってしまったが、数分後に、左腕が再生して生き返ったオーガを見て、村人たちは落ち着きを取り戻した。

 そして何事もなかったように、祭りは朝まで続いた。ゼッドと共に。
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