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迷惑なヤイバファン
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カワーさんが、凄く興奮して俺の肩を掴んだ。なんつー握力だ。回復したばかりの肩がいてぇ。
「ヤイバを知っているのか? 私はヤイバの同僚なんだ。君、名前は?」
「え? ミチ・オビオですけど」
カワーさんは、三文役者のように大げさに驚いて、額に手を当てよろめいた。
「なんたる幸運か。過去の英雄に会えるとは。この迷宮の召喚士に感謝しなくてはならなくなった」
過去の英雄? その言い方だと将来、俺はいないって事になるんだが。普通に年取って死ぬけど、すぐに若い姿で復活するはずなんだが。あぁ、そうか。寿命で死ぬと地球で復活するんだっけ。って、もしかして、俺は惑星ヒジリに戻れないのか?
いやいや、根拠はないがきっと大丈夫だ。そんな気がする。自分の勘を信じるぞ。
「なんで、俺が英雄なんだ?」
「オビオ殿は、聖下専属のコック長であり、国の守護者でもあるからさ。道理で私の攻撃を受けても、平然としているわけだ」
「俺が聖下のコック長? そ、それは光栄な事だ」
ヒジリの野郎! どうにかして、俺をコック長にしやがったな?
「ねぇねぇ、未来の俺はどうなってる? ねぇ?」
ピーターが陰から出てきて、カワーさんの脚に、馴れ馴れしく纏わりついている。
「君は・・・。邪悪なるピーター殿か。ふふふ。あなたは義賊のネコキャットに・・・。いや、言わないでおこう。竜の牙、皮肉屋、タスネ子爵の一番弟子。それぞれの未来は吟遊詩人の歌の定番になっている。ここで聞いては楽しみがなかろう? だから私は言わないでおく」
そこにウィングの名がないのは、死んだか、普通に司祭として人生を全うしたって事か? 話を聞いて嫌な予感はしないので、多分後者だろう。優しいウィングの事だ。きっと庶民に寄り添って地味に生きたんだ。
「そりゃ、そうだな。明日がわからないから、人生は楽しいんだ。ガハハ!」
明日がわからないから人生は楽しい―――。混沌を好むトウスさんらしい言葉だな。
「で、オビオ殿とヤイバとの接点は? まぁ大体わかるがね。彼は虚無魔法の使い手。時間転移ができるからな。転移先で、オビオ殿と出会ったのだろう。・・・ああ、そうだ。これは聞いておかねば。色々あって恋人関係なんかにはなってないね?」
なんか、キモイな、この人。自由騎士の話になったら、急に目が血走って、鼻息が荒い。
「いや、俺の恋人は未来でも知られているんじゃないかな・・・?」
「あぁ、そうだってね。君はサーカ・カズンと・・・。ゲフンゲフン」
そこまで言えば、わかるよ。結婚してんだろ?
「同僚をえらく気にしているんだな」
トウスさんが、眉根を寄せてカワーさんを見ている。トウスさんも、ヤイバファンの鉄騎士の態度が異常過ぎる事に、違和感を覚えているようだ。
「それはそうだろ、彼は聖下の子。神の子だぞ? 性格も良いし、誰からも好かれる存在なのだ。気になるのは当然」
ほんとかなぁ? なんか怪しいなぁ。その上気した顔に説得力はないぞ。好きなんじゃないの? 隠さなくてもいいじゃん。男が男を好きになってもいいんだよ。
興奮していたカワーさんだが、急に肩を落として、やりきれない顔をした。見た目に反して感情の起伏が激しい。
「はぁ・・・。途中まで、私は彼の相棒だったんだ」
なんだ? 急に。
「なのに、あいつが現れてから! 中途採用のくせに! しかもレッサー・オーガだ! 暗黒騎士め!!」
つまり人間の暗黒騎士にヤイバさんを横取りされたんだな。他国では、攻撃力全振りの打たれ弱い中二病前衛職として冒険者に嫌われている暗黒騎士だが、帝国では重宝されているからな。
「それは仕方ないんじゃないかな。だって、帝国では鉄騎士と暗黒騎士がワンセットなのだし。鉄騎士と鉄騎士で組んでも効率が悪いと思いますよ」
ウィングがそういうと、カワーは目をかっと見開いて、バトルハンマーを床に叩きつけた。床は凹み、振動で皆がよろめく。なんつう怪力だ。トウスさん以上か? まぁオーガは種族特性として力にボーナスがつくから、強くて当然なんだけども。
「未来の事を何も知らないくせに、知った風な口を利くな! 私とヤイバは最高のタッグだったのだ。彼は鉄騎士だったが、メイジでもある。そんな彼を守るのが、私の役目だった!」
もー、なんなんだよ。この人ー。ヤイバさんに心酔し過ぎだろー。
「そ、そうでしたか。それは失礼しました」
ウィングもドン引きしつつ、謝った。それで気が収まったのか、カワーさんは乱れた長髪をかき上げて、冷静になった。
「・・・。ふぅ、すまないね。取り乱して」
そうそう。冷静なカワーさんが、一番キャラと合致するよ。その方がいい。あっ! でも、その横取り暗黒騎士って、もしや!
「なぁ、カワーさん。その暗黒騎士の名前って、ダーク・マターなんじゃないの?」
キリマルやビャクヤの子孫の名前を出した途端、カワーさんは、鉄騎士として大事な大盾を放り投げ、バトルハンマーとサブウェポンの剣の二刀流で、周囲へ八つ当たりしだした。
「キエェェェェェ! その名を言ったなぁ!!」
やばいやばい。なんだ、この人。迷宮の床とか壁を崩しまくってるよ。
「オビオのくそ野郎! お前のせいで厄介な事になっただろ!」
ピーターが俺を罵倒した後、陰に潜った。でも陰の中だからって安心じゃあない。陰に攻撃が当たれば、陰空間にも影響はある。多分、ピーターはムクを守りながら陰から陰へと移動していることだろう。
皆も蜘蛛の子を散らすようにして、逃げ回った。
「わしゃ、動き出したら止まらんのじゃー」
逃げつつ、小さな声で、暴れまわるカワーさんにアテレコをしていると、横にいたサーカが何かを閃いたようだ。
「おい、オビオ。魔法の壁の前に立って、カワー・バンガーを挑発しろ」
「なんでだよっ! 俺が死ぬだろうが!」
「体が縦に真っ二つになっても、生きていたお前が言うことか! いいからやれ」
「嫌だねー。理由を教えてくれなきゃ、行かないねー」
ピーターの物真似をしながら、返事をするとサーカは、それを無視して理由を述べ始めた。
「鉄騎士というのは、帝国から必ず魔法の武具防具を配給される。戦果を挙げれば、挙げるほど良い装備を渡されるのだ。剣はともかく、あのバトルハンマーはかなり良い府魔をされている」
「まぁ、カワーさんは滅茶苦茶強いしな。当たり前だろう。で?」
「【魔法探知】であの壁を調べたところ、魔力18以上ないと壊せない。それ以下だと魔法が跳ね返ってくるのだ。だったら力押しで、と言いたいところだが、それも無理だ。魔法でしか破壊できない。さてはて、このパーティに魔力値が18の者がいるか? いないだろう」
サーカは実力値が上がる度に、滅多に動かないはずの能力値が上がったり下がったりで、今は魔力16で落ち着いている。ウィングは15。無理だな。
「つまり、カワーさんの魔法の武器と腕力で、あの障壁を壊させるってのか? まるで、ゆで理論じゃないか。失敗したらカワーさんに、もの凄いダメージが反射するぞ」
「ゆで理論? なんだそれは。エリート・オーガの生命力を信じろ」
「信じろって言われてもなぁ。カワーさんを利用するみたいでやだなぁ」
「この、お人好しめ。使えるものは何でも使うのが、冒険者なのだろうが!」
この場に、魔法を消滅させるヒジリか、魔力19のイグナちゃんがいたらなぁ。あんな壁、楽勝なんだけどなぁ。
「仕方ない。乗り気じゃないけど、いっちょやってみますか」
肩と腕がまだ痛むので、ナルト走りみたいな恰好で走り、目的地の魔法の障壁の前に立った。背後から、反重力装置のような圧力を感じる。いつでも攻撃や魔法を反射しまっせ~。とでも言っているかのようだ。
カワーさんと障壁の板挟みになるというプレッシャーに耐えながらも、右手中指にはめている戦士の指輪に願いを込めた。
(頼むぜ、指輪。戦士スキルの挑発を使わせてくれ)
パーティ内での俺の総評は、戦闘力が不安定過ぎる、だ。基本、肉壁だが、たまに戦士スキルが使えたり、サブAIモードで強くなったりする。ドラゴンにもなれるが、体力の消耗が激し過ぎる上に、魔法の星で使うにはリスクが高い。
なので普段は、戦士の基本中の基本、挑発スキルを使うにもこのざまだ。
「わぁぁ! 誰か~!」
影の中から声が聞こえる。ピーターが壁の角で追い詰められているのだ。早くしないと、ピーターとムクが死ぬ!
カワー・バンガーに届け! 俺の渾身の悪口!!
「やーい! 寝取られカワーの大間抜け~! 俺はヤイバとキスしたぞ~ぃ!」
キスはしてないけど、盛っといた。
「あぁ?!」
ゆっくりと振り向き、犬歯を見せるカワーさんの目に瞳がない。口角から泡だった涎がでている。
あの症状は、怒りの精霊がカワーさんに乗り移ったんだ。あわわわわ。挑発効果あり過ぎ~。俺のアホォ。
「おのれぇーーー!!!」
怒涛の勢いで迫ってくるカワーさんに、ビビりながら俺はどう躱すか考えた。恐らく上段からの一撃を繰り出して、俺を叩き潰そうとするはずだ。しゃがめば、壁が邪魔をして、カワーさんの足下に死角ができるはず。そうすればノーダメだ。
「ピーター! 作戦が上手くいったら、これをカワーさんの口の中へ放り込んでくれ!」
俺はおとなし草で作った大きな丸薬を、ピーターのいるだろう陰に向かって投げた。これをカワーさんに飲ませれば、怒りの精霊は離れるだろう。
「この状況で、成功後の事まで考えるなんて、流石はバトルコック団のリーダーですね。私ならそこまで思考が回りません」
パンさんが遠くで、俺の事を褒めてくれたので、何だか自信が湧いてきた。よーし、やるぞぉ!
「来い! 未来の鉄騎士!」
予想通り、カワーさんはバトルハンマーと剣を上段に振りかぶった。
「加速!!」
俺は素早くしゃがんで、大股開きで踏ん張るカワーさんの足下に飛び込んだ。
―――パリーン!
障壁の壊れる音がした。やった! 成功だ!
が、腐っても鉄騎士。一度前に上げた脚を振り下ろし、足下の俺の尻を蹴り飛ばした後、ずしゃりと鎧の音をさせて、カワーさんはその場で膝をついた。ダメージが跳ね返ってきたんだろうな。倒れないのは、鉄騎士の意地か?
いや、冷静にカワーさんを振り向きながら見て、観察している場合じゃない。
「ずぎゃあぁぁぁ!!」
走馬灯が流れる間もなく、真っすぐに飛んで俺は壁に叩きつけられる。しかし、カワーさんの八つ当たり攻撃で壁が薄くなっていたせいか、壁は人型の穴を空けて、俺はその先の部屋に転がり込んだ。壁の赤い染みにならなかったのは、不幸中の幸い。
振り返って卍みたいな穴を見て、「アメリカのカートゥンかっ!」と一人突っ込んだ。
部屋の外から、「ウォォォ!!」と叫ぶカワーさんの声と共に、ドスンドスンという足音が聞こえてきたのち、ピーターの「霊山オゴソの山奥で100年かけて作った、ありがたい霊薬鼻くそを喰らえ!」という声が聞こえてきた。嘘つくなよ。それ、買ったらとても高価な丸薬なんですけども。恐らく、パチンコで丸薬を飛ばして、カワーさんの口の中に投げ入れたのだろう。キリマルの時と同じやり方だ。
上手くいったんだろうな。皆の「おぉ~」という感嘆する声が聞こえてきた。それ以降は静かになる。
カートゥン穴から出る前に、部屋の中を見回したが、椅子に縛り付けられたローブ姿のゾンビとその横に、静かに立つ、動かなくなった傀儡人形が立っていた。恐らくダンジョンに挑んだ傀儡師の成れの果てだろう。南無。
「くそう、ピーターめ。美味しいとこ、全部持っていきやがって」
俺が文句を言いながら穴から出ると、ウィングだけが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お疲れ様!!」
皆はピーターを褒めたたえている。カワーさんも正気に戻ったのか、感謝の言葉を述べながらピーターの頭のてっぺんのアホ毛をしごいている。なにその感謝の伝え方・・。ピーターは目を閉じて、鼻の下を指で擦り、自慢気な顔をしていた。腹立つ顔しよって。
そんな中、サーカは魔法の壁の向こう側を一人で探索している。なんだよー、ウィングみたいに駆け寄って来てくれないのかよー。
「ウィングだけだよ。俺を労ってくれるのは」
そういって、彼をギュッとハグした。ん? 体が妙に柔らかい。
「なんで女性化してんだよ! ウィング!」
「オビオは、こっちの方が嬉しいと思ってね」
フェロモンむんむんの潤んだ瞳で上目遣いすな! サーカが見てたら蹴りが飛んでくるところだったぜ。セーフ。
「で、サーカは何してんだ?」
「さぁ? 何かを必死に探しているようだけど」
今や壊れて無くなった魔法の壁の向こう側の暗がりには、豪華な椅子とサイドテーブルがあるだけだ。サーカはサイドテーブルの上にあった日記を見つけ、パラパラとめくり始めた。
そして数ページ読むと、彼女は歯を食いしばって涙をこぼしていた。
「ヤイバを知っているのか? 私はヤイバの同僚なんだ。君、名前は?」
「え? ミチ・オビオですけど」
カワーさんは、三文役者のように大げさに驚いて、額に手を当てよろめいた。
「なんたる幸運か。過去の英雄に会えるとは。この迷宮の召喚士に感謝しなくてはならなくなった」
過去の英雄? その言い方だと将来、俺はいないって事になるんだが。普通に年取って死ぬけど、すぐに若い姿で復活するはずなんだが。あぁ、そうか。寿命で死ぬと地球で復活するんだっけ。って、もしかして、俺は惑星ヒジリに戻れないのか?
いやいや、根拠はないがきっと大丈夫だ。そんな気がする。自分の勘を信じるぞ。
「なんで、俺が英雄なんだ?」
「オビオ殿は、聖下専属のコック長であり、国の守護者でもあるからさ。道理で私の攻撃を受けても、平然としているわけだ」
「俺が聖下のコック長? そ、それは光栄な事だ」
ヒジリの野郎! どうにかして、俺をコック長にしやがったな?
「ねぇねぇ、未来の俺はどうなってる? ねぇ?」
ピーターが陰から出てきて、カワーさんの脚に、馴れ馴れしく纏わりついている。
「君は・・・。邪悪なるピーター殿か。ふふふ。あなたは義賊のネコキャットに・・・。いや、言わないでおこう。竜の牙、皮肉屋、タスネ子爵の一番弟子。それぞれの未来は吟遊詩人の歌の定番になっている。ここで聞いては楽しみがなかろう? だから私は言わないでおく」
そこにウィングの名がないのは、死んだか、普通に司祭として人生を全うしたって事か? 話を聞いて嫌な予感はしないので、多分後者だろう。優しいウィングの事だ。きっと庶民に寄り添って地味に生きたんだ。
「そりゃ、そうだな。明日がわからないから、人生は楽しいんだ。ガハハ!」
明日がわからないから人生は楽しい―――。混沌を好むトウスさんらしい言葉だな。
「で、オビオ殿とヤイバとの接点は? まぁ大体わかるがね。彼は虚無魔法の使い手。時間転移ができるからな。転移先で、オビオ殿と出会ったのだろう。・・・ああ、そうだ。これは聞いておかねば。色々あって恋人関係なんかにはなってないね?」
なんか、キモイな、この人。自由騎士の話になったら、急に目が血走って、鼻息が荒い。
「いや、俺の恋人は未来でも知られているんじゃないかな・・・?」
「あぁ、そうだってね。君はサーカ・カズンと・・・。ゲフンゲフン」
そこまで言えば、わかるよ。結婚してんだろ?
「同僚をえらく気にしているんだな」
トウスさんが、眉根を寄せてカワーさんを見ている。トウスさんも、ヤイバファンの鉄騎士の態度が異常過ぎる事に、違和感を覚えているようだ。
「それはそうだろ、彼は聖下の子。神の子だぞ? 性格も良いし、誰からも好かれる存在なのだ。気になるのは当然」
ほんとかなぁ? なんか怪しいなぁ。その上気した顔に説得力はないぞ。好きなんじゃないの? 隠さなくてもいいじゃん。男が男を好きになってもいいんだよ。
興奮していたカワーさんだが、急に肩を落として、やりきれない顔をした。見た目に反して感情の起伏が激しい。
「はぁ・・・。途中まで、私は彼の相棒だったんだ」
なんだ? 急に。
「なのに、あいつが現れてから! 中途採用のくせに! しかもレッサー・オーガだ! 暗黒騎士め!!」
つまり人間の暗黒騎士にヤイバさんを横取りされたんだな。他国では、攻撃力全振りの打たれ弱い中二病前衛職として冒険者に嫌われている暗黒騎士だが、帝国では重宝されているからな。
「それは仕方ないんじゃないかな。だって、帝国では鉄騎士と暗黒騎士がワンセットなのだし。鉄騎士と鉄騎士で組んでも効率が悪いと思いますよ」
ウィングがそういうと、カワーは目をかっと見開いて、バトルハンマーを床に叩きつけた。床は凹み、振動で皆がよろめく。なんつう怪力だ。トウスさん以上か? まぁオーガは種族特性として力にボーナスがつくから、強くて当然なんだけども。
「未来の事を何も知らないくせに、知った風な口を利くな! 私とヤイバは最高のタッグだったのだ。彼は鉄騎士だったが、メイジでもある。そんな彼を守るのが、私の役目だった!」
もー、なんなんだよ。この人ー。ヤイバさんに心酔し過ぎだろー。
「そ、そうでしたか。それは失礼しました」
ウィングもドン引きしつつ、謝った。それで気が収まったのか、カワーさんは乱れた長髪をかき上げて、冷静になった。
「・・・。ふぅ、すまないね。取り乱して」
そうそう。冷静なカワーさんが、一番キャラと合致するよ。その方がいい。あっ! でも、その横取り暗黒騎士って、もしや!
「なぁ、カワーさん。その暗黒騎士の名前って、ダーク・マターなんじゃないの?」
キリマルやビャクヤの子孫の名前を出した途端、カワーさんは、鉄騎士として大事な大盾を放り投げ、バトルハンマーとサブウェポンの剣の二刀流で、周囲へ八つ当たりしだした。
「キエェェェェェ! その名を言ったなぁ!!」
やばいやばい。なんだ、この人。迷宮の床とか壁を崩しまくってるよ。
「オビオのくそ野郎! お前のせいで厄介な事になっただろ!」
ピーターが俺を罵倒した後、陰に潜った。でも陰の中だからって安心じゃあない。陰に攻撃が当たれば、陰空間にも影響はある。多分、ピーターはムクを守りながら陰から陰へと移動していることだろう。
皆も蜘蛛の子を散らすようにして、逃げ回った。
「わしゃ、動き出したら止まらんのじゃー」
逃げつつ、小さな声で、暴れまわるカワーさんにアテレコをしていると、横にいたサーカが何かを閃いたようだ。
「おい、オビオ。魔法の壁の前に立って、カワー・バンガーを挑発しろ」
「なんでだよっ! 俺が死ぬだろうが!」
「体が縦に真っ二つになっても、生きていたお前が言うことか! いいからやれ」
「嫌だねー。理由を教えてくれなきゃ、行かないねー」
ピーターの物真似をしながら、返事をするとサーカは、それを無視して理由を述べ始めた。
「鉄騎士というのは、帝国から必ず魔法の武具防具を配給される。戦果を挙げれば、挙げるほど良い装備を渡されるのだ。剣はともかく、あのバトルハンマーはかなり良い府魔をされている」
「まぁ、カワーさんは滅茶苦茶強いしな。当たり前だろう。で?」
「【魔法探知】であの壁を調べたところ、魔力18以上ないと壊せない。それ以下だと魔法が跳ね返ってくるのだ。だったら力押しで、と言いたいところだが、それも無理だ。魔法でしか破壊できない。さてはて、このパーティに魔力値が18の者がいるか? いないだろう」
サーカは実力値が上がる度に、滅多に動かないはずの能力値が上がったり下がったりで、今は魔力16で落ち着いている。ウィングは15。無理だな。
「つまり、カワーさんの魔法の武器と腕力で、あの障壁を壊させるってのか? まるで、ゆで理論じゃないか。失敗したらカワーさんに、もの凄いダメージが反射するぞ」
「ゆで理論? なんだそれは。エリート・オーガの生命力を信じろ」
「信じろって言われてもなぁ。カワーさんを利用するみたいでやだなぁ」
「この、お人好しめ。使えるものは何でも使うのが、冒険者なのだろうが!」
この場に、魔法を消滅させるヒジリか、魔力19のイグナちゃんがいたらなぁ。あんな壁、楽勝なんだけどなぁ。
「仕方ない。乗り気じゃないけど、いっちょやってみますか」
肩と腕がまだ痛むので、ナルト走りみたいな恰好で走り、目的地の魔法の障壁の前に立った。背後から、反重力装置のような圧力を感じる。いつでも攻撃や魔法を反射しまっせ~。とでも言っているかのようだ。
カワーさんと障壁の板挟みになるというプレッシャーに耐えながらも、右手中指にはめている戦士の指輪に願いを込めた。
(頼むぜ、指輪。戦士スキルの挑発を使わせてくれ)
パーティ内での俺の総評は、戦闘力が不安定過ぎる、だ。基本、肉壁だが、たまに戦士スキルが使えたり、サブAIモードで強くなったりする。ドラゴンにもなれるが、体力の消耗が激し過ぎる上に、魔法の星で使うにはリスクが高い。
なので普段は、戦士の基本中の基本、挑発スキルを使うにもこのざまだ。
「わぁぁ! 誰か~!」
影の中から声が聞こえる。ピーターが壁の角で追い詰められているのだ。早くしないと、ピーターとムクが死ぬ!
カワー・バンガーに届け! 俺の渾身の悪口!!
「やーい! 寝取られカワーの大間抜け~! 俺はヤイバとキスしたぞ~ぃ!」
キスはしてないけど、盛っといた。
「あぁ?!」
ゆっくりと振り向き、犬歯を見せるカワーさんの目に瞳がない。口角から泡だった涎がでている。
あの症状は、怒りの精霊がカワーさんに乗り移ったんだ。あわわわわ。挑発効果あり過ぎ~。俺のアホォ。
「おのれぇーーー!!!」
怒涛の勢いで迫ってくるカワーさんに、ビビりながら俺はどう躱すか考えた。恐らく上段からの一撃を繰り出して、俺を叩き潰そうとするはずだ。しゃがめば、壁が邪魔をして、カワーさんの足下に死角ができるはず。そうすればノーダメだ。
「ピーター! 作戦が上手くいったら、これをカワーさんの口の中へ放り込んでくれ!」
俺はおとなし草で作った大きな丸薬を、ピーターのいるだろう陰に向かって投げた。これをカワーさんに飲ませれば、怒りの精霊は離れるだろう。
「この状況で、成功後の事まで考えるなんて、流石はバトルコック団のリーダーですね。私ならそこまで思考が回りません」
パンさんが遠くで、俺の事を褒めてくれたので、何だか自信が湧いてきた。よーし、やるぞぉ!
「来い! 未来の鉄騎士!」
予想通り、カワーさんはバトルハンマーと剣を上段に振りかぶった。
「加速!!」
俺は素早くしゃがんで、大股開きで踏ん張るカワーさんの足下に飛び込んだ。
―――パリーン!
障壁の壊れる音がした。やった! 成功だ!
が、腐っても鉄騎士。一度前に上げた脚を振り下ろし、足下の俺の尻を蹴り飛ばした後、ずしゃりと鎧の音をさせて、カワーさんはその場で膝をついた。ダメージが跳ね返ってきたんだろうな。倒れないのは、鉄騎士の意地か?
いや、冷静にカワーさんを振り向きながら見て、観察している場合じゃない。
「ずぎゃあぁぁぁ!!」
走馬灯が流れる間もなく、真っすぐに飛んで俺は壁に叩きつけられる。しかし、カワーさんの八つ当たり攻撃で壁が薄くなっていたせいか、壁は人型の穴を空けて、俺はその先の部屋に転がり込んだ。壁の赤い染みにならなかったのは、不幸中の幸い。
振り返って卍みたいな穴を見て、「アメリカのカートゥンかっ!」と一人突っ込んだ。
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上手くいったんだろうな。皆の「おぉ~」という感嘆する声が聞こえてきた。それ以降は静かになる。
カートゥン穴から出る前に、部屋の中を見回したが、椅子に縛り付けられたローブ姿のゾンビとその横に、静かに立つ、動かなくなった傀儡人形が立っていた。恐らくダンジョンに挑んだ傀儡師の成れの果てだろう。南無。
「くそう、ピーターめ。美味しいとこ、全部持っていきやがって」
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「お疲れ様!!」
皆はピーターを褒めたたえている。カワーさんも正気に戻ったのか、感謝の言葉を述べながらピーターの頭のてっぺんのアホ毛をしごいている。なにその感謝の伝え方・・。ピーターは目を閉じて、鼻の下を指で擦り、自慢気な顔をしていた。腹立つ顔しよって。
そんな中、サーカは魔法の壁の向こう側を一人で探索している。なんだよー、ウィングみたいに駆け寄って来てくれないのかよー。
「ウィングだけだよ。俺を労ってくれるのは」
そういって、彼をギュッとハグした。ん? 体が妙に柔らかい。
「なんで女性化してんだよ! ウィング!」
「オビオは、こっちの方が嬉しいと思ってね」
フェロモンむんむんの潤んだ瞳で上目遣いすな! サーカが見てたら蹴りが飛んでくるところだったぜ。セーフ。
「で、サーカは何してんだ?」
「さぁ? 何かを必死に探しているようだけど」
今や壊れて無くなった魔法の壁の向こう側の暗がりには、豪華な椅子とサイドテーブルがあるだけだ。サーカはサイドテーブルの上にあった日記を見つけ、パラパラとめくり始めた。
そして数ページ読むと、彼女は歯を食いしばって涙をこぼしていた。
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食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
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ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
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底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
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