291 / 331
首都オライオン
しおりを挟む
「こ、これがレオンの現状・・・、だと?」
俺がいた頃より、更に酷い。
「本来は栄えているはずの首都で配給制なんて、樹族国じゃ考えられない話よね。―――ハッ! ニャ」
列に並ぶ皆がお椀を一つだけ持って、列に並んでいる姿を見て、俺は胸が締め付けられるような思いだった。
「あんなにやせ細って・・・。いくら鎖国中でも、商人の往来はあるし、食い物くらいあるだろ。なんでこんな事になっているんだ?」
自分が今、オープンカフェで飲んでいるヒジランド産の高価なコーヒーの味と香りが途端にしなくなる。
「外貨を持つ者はここでも普通に暮らせるわ。でも国民の殆どが稼ぐ手段を持っていないの。いくら獣人国が戦士の国だとしても、殆どが農民だからね。貴方のような有能な戦士ばかりじゃないのニャ」
「ここで外貨を稼げるのは・・・」
俺は視線を、他の席に向けた。
そこには、猫人を侍らせた樹族の商人がだらしない顔で、ワインを飲んでいる。
「ああいった特殊性癖の樹族を相手にする娼婦や、商売ついでに観光する外国人の為のガイドくらいニャ」
好奇心旺盛な地走り族の集団が、犬族の男に誘導されて大通りを歩いていった。
「それと猿野郎に取り入った戦士か」
猿人が護衛のサイ族の男と二人を従え、商会の建物へと入っていった。
「サイ族の名誉も地に落ちたな」
「サイ族も生きるのに必死なのよ。そもそも名誉の話なんて、逃げ出した貴方に言われたくないでしょうね。ニャ」
この女・・・。サーカとはまた違ったベクトルの毒舌女だな。いや、樹族は大概こうだったわ。
「で、俺はこれから、どうすりゃいい?」
冷たくなったコーヒーを一気に呷って飲むと、物乞いに銀貨一枚を投げた。
「へへ、すいやせんね。旦那。でもあっしは金に困ってないんでさぁ」
「じゃあ、なんで物乞いをしている?」
「そうさねぇ、あんたみたいなスパイを見張るためでさぁ」
俺はフードを目深に被った鯖柄の猫人の言葉を聞いて、椅子に立てかけてあった魔剣を素早く手に取る。
「止めなさいよ、ニャンゾウ。悪趣味ね」
本当に悪趣味だな、樹族ってやつはよ。ニャットが止めたという事は、コイツがシルビィ隊のもう一人の隊員か。
「ケヒヒ」
ニャンゾウは俺に一礼すると、銀貨を懐にしまった。結局、頂戴するのかよ! まぁこれも、怪しまれないようにする為の演技というわけだな。
「ところで、ここでこれからの話をするのか? 少々不用心じゃねぇか? 誰が聞いているからからねぇぞ」
忍者の恰好をするニャンゾウは、もう一度「ケヒヒ」と笑って、椅子に腰を掛けた。
「密室の方が余程危険ですぜぇ、パンダ獅子の旦那ァ。猿人ってのは、敢えてそういうところに、人を潜らせていやすからねぇ。案外、こういう場所の方が安心なんでさぁ」
こいつは中身が樹族だというのに、なんだか卑屈だな。
「ダーリンの言う通りだニャ。冒険者か傭兵のフリして堂々とカフェで飲んでいる方が安心ニャ。逆に宿屋ではたわいもない話をするよう心掛けるといいニャ」
やっと猫人の演技が身に付き出したか、ニャットは。まぁ猫人が皆、語尾にニャを付けるとは限らねぇんだが。
「ダーリン? お前らそういう仲か。それとも演技か?」
「そういう仲ニャ」
そう言うと、ニャットはニャンゾウに頬ずりしている。
「まぁ、そういう事にしとくか。お前らは裏側並みに得体が知れねぇからよ」
王国近衛兵騎士団の独立部隊は、隊長からして現人神様に恋する変わり者だからな。部下が個性的であってもおかしくはねぇな。
「―――もう一度聞く。俺は何をすればいい」
「虎族の族長に会って、味方につけてほしいニャ」
「ビャッコにか?」
「そうでやす。虎族の族長は首長の一人。そして獅子族の首長、つまり旦那の父上とは親友でさぁな。あっしらもビャッコ族長に話をしにいったでやすが、門前払いをされたんで」
「だろうな。息子が猿人に暗殺されて以来、心を閉ざしているからよ」
「そこで、あんたが役に立つニャ。族長はあんたの事を、もう一人の息子のように思っているニャ。きっと上手くいくニャ」
俺はそれを聞いて、魔剣に目を落とした。
「はぁ。そうは言うがよ。会ったところで、国を逃げ出した俺に失望しているだろうな」
「そんなの、会ってみないと分からないじゃない」
「おい、語尾のニャはどこにいった?」
「あら、失礼」
任務を遂行するのに必死になり過ぎたか。忘れていたぜ、こいつらは仲間でも何でもない事を。単に俺を利用したいだけだ。割り切って行動しねぇとな。
―――とはいえ。
「いいだろう。故郷に戻ったからには、いずれビャッコのオッサンには挨拶しとかねぇと思ってたところだ。罵声を浴びるだろうが、それもケジメの一つ」
「ケヒヒ。助かりやすぜ、旦那ァ。では、あっしらは別の任務があるんでこれで」
盗賊と忍者のカップルに変装した二人は、腕を組んでカフェを後にして、大通りを歩いて行った。
「さぁてと」
俺は千銅貨一枚をテーブルに置くと、首都オライオンの西門を目指した。
俺がいた頃より、更に酷い。
「本来は栄えているはずの首都で配給制なんて、樹族国じゃ考えられない話よね。―――ハッ! ニャ」
列に並ぶ皆がお椀を一つだけ持って、列に並んでいる姿を見て、俺は胸が締め付けられるような思いだった。
「あんなにやせ細って・・・。いくら鎖国中でも、商人の往来はあるし、食い物くらいあるだろ。なんでこんな事になっているんだ?」
自分が今、オープンカフェで飲んでいるヒジランド産の高価なコーヒーの味と香りが途端にしなくなる。
「外貨を持つ者はここでも普通に暮らせるわ。でも国民の殆どが稼ぐ手段を持っていないの。いくら獣人国が戦士の国だとしても、殆どが農民だからね。貴方のような有能な戦士ばかりじゃないのニャ」
「ここで外貨を稼げるのは・・・」
俺は視線を、他の席に向けた。
そこには、猫人を侍らせた樹族の商人がだらしない顔で、ワインを飲んでいる。
「ああいった特殊性癖の樹族を相手にする娼婦や、商売ついでに観光する外国人の為のガイドくらいニャ」
好奇心旺盛な地走り族の集団が、犬族の男に誘導されて大通りを歩いていった。
「それと猿野郎に取り入った戦士か」
猿人が護衛のサイ族の男と二人を従え、商会の建物へと入っていった。
「サイ族の名誉も地に落ちたな」
「サイ族も生きるのに必死なのよ。そもそも名誉の話なんて、逃げ出した貴方に言われたくないでしょうね。ニャ」
この女・・・。サーカとはまた違ったベクトルの毒舌女だな。いや、樹族は大概こうだったわ。
「で、俺はこれから、どうすりゃいい?」
冷たくなったコーヒーを一気に呷って飲むと、物乞いに銀貨一枚を投げた。
「へへ、すいやせんね。旦那。でもあっしは金に困ってないんでさぁ」
「じゃあ、なんで物乞いをしている?」
「そうさねぇ、あんたみたいなスパイを見張るためでさぁ」
俺はフードを目深に被った鯖柄の猫人の言葉を聞いて、椅子に立てかけてあった魔剣を素早く手に取る。
「止めなさいよ、ニャンゾウ。悪趣味ね」
本当に悪趣味だな、樹族ってやつはよ。ニャットが止めたという事は、コイツがシルビィ隊のもう一人の隊員か。
「ケヒヒ」
ニャンゾウは俺に一礼すると、銀貨を懐にしまった。結局、頂戴するのかよ! まぁこれも、怪しまれないようにする為の演技というわけだな。
「ところで、ここでこれからの話をするのか? 少々不用心じゃねぇか? 誰が聞いているからからねぇぞ」
忍者の恰好をするニャンゾウは、もう一度「ケヒヒ」と笑って、椅子に腰を掛けた。
「密室の方が余程危険ですぜぇ、パンダ獅子の旦那ァ。猿人ってのは、敢えてそういうところに、人を潜らせていやすからねぇ。案外、こういう場所の方が安心なんでさぁ」
こいつは中身が樹族だというのに、なんだか卑屈だな。
「ダーリンの言う通りだニャ。冒険者か傭兵のフリして堂々とカフェで飲んでいる方が安心ニャ。逆に宿屋ではたわいもない話をするよう心掛けるといいニャ」
やっと猫人の演技が身に付き出したか、ニャットは。まぁ猫人が皆、語尾にニャを付けるとは限らねぇんだが。
「ダーリン? お前らそういう仲か。それとも演技か?」
「そういう仲ニャ」
そう言うと、ニャットはニャンゾウに頬ずりしている。
「まぁ、そういう事にしとくか。お前らは裏側並みに得体が知れねぇからよ」
王国近衛兵騎士団の独立部隊は、隊長からして現人神様に恋する変わり者だからな。部下が個性的であってもおかしくはねぇな。
「―――もう一度聞く。俺は何をすればいい」
「虎族の族長に会って、味方につけてほしいニャ」
「ビャッコにか?」
「そうでやす。虎族の族長は首長の一人。そして獅子族の首長、つまり旦那の父上とは親友でさぁな。あっしらもビャッコ族長に話をしにいったでやすが、門前払いをされたんで」
「だろうな。息子が猿人に暗殺されて以来、心を閉ざしているからよ」
「そこで、あんたが役に立つニャ。族長はあんたの事を、もう一人の息子のように思っているニャ。きっと上手くいくニャ」
俺はそれを聞いて、魔剣に目を落とした。
「はぁ。そうは言うがよ。会ったところで、国を逃げ出した俺に失望しているだろうな」
「そんなの、会ってみないと分からないじゃない」
「おい、語尾のニャはどこにいった?」
「あら、失礼」
任務を遂行するのに必死になり過ぎたか。忘れていたぜ、こいつらは仲間でも何でもない事を。単に俺を利用したいだけだ。割り切って行動しねぇとな。
―――とはいえ。
「いいだろう。故郷に戻ったからには、いずれビャッコのオッサンには挨拶しとかねぇと思ってたところだ。罵声を浴びるだろうが、それもケジメの一つ」
「ケヒヒ。助かりやすぜ、旦那ァ。では、あっしらは別の任務があるんでこれで」
盗賊と忍者のカップルに変装した二人は、腕を組んでカフェを後にして、大通りを歩いて行った。
「さぁてと」
俺は千銅貨一枚をテーブルに置くと、首都オライオンの西門を目指した。
0
あなたにおすすめの小説
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?
ウサクマ
ファンタジー
『残念ながらお2人の人生は終わってしまいました』
なんてよくあるフレーズから始まった、ブラコンで狂信者な女の子の物語。
アーチャーのシスコン兄を始めとして出会っていく仲間……タンクのエルフ、マジシャンのハーフエルフと共に、時に王様や王様の夫人…更に女神や眷属まで巻き込みつつ旅先で料理を広めてゆく事に。
※作中は以下の要素を含みます、苦手な方はご注意下さい
【近親愛・同性愛(主に百合)・クトゥルフな詠唱】
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
役立たずとパーティーからもこの世からも追放された無気力回復師、棚ぼたで手に入れたユニークスキル【銀化】で地味にこつこつ無双する!!
佐藤うわ。
ファンタジー
超ほのぼの追放・ユニークスキルものです。基本は異世界ファンタジーギャグラブコメ、たまに緩い戦闘がある感じです。(ほのぼのですが最初に裏切ったPTメンバー三人は和解したりしません。時間はかかりますがちゃんと確実に倒します。遅ざまぁ)
最初から生贄にされる為にPTにスカウトされ、案の定この世から追放されてしまう主人公、しかし彼は知らずにドラゴンから大いなる力を託されます……途中から沢山の国々が出て来て異世界ファンタジー大河みたいになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる