未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(11)

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「オバップですか?データ照会。ナンベル様の仰るとおり、モンスターを紹介した書物にオバップの正式な記載はありません」

 ウメボシは重力に任せてベッドに沈み込み、まだエラーの処理を行っている。

「ではやはりゴーストかね。地球では残留思念と呼ばれれている、自然界に存在する限定的なクラウドに残る人や動物のデータのカスが悪さをしているのだな。しかしナンベル殿曰く、オバケの類は依代のマナが無いと発生はしないと言っていた。この辺は依代となる為のマナスポットは多くないそうだ」

 桜色の球体はゆっくりと自転させながら考え事をしていたが、突然ギュル!と回転して瞳を主に合わせる。

「依代なら心当たりがあります。実は昨日以降マスターの体から行方をくらませたナノマシンが一割程あるのです。最初は直ぐに戻ってくると思っていたのですが結局戻ってこず、マスターの体にあるナノマシンが増殖して欠損分を補充をしてしまいました。なのであまり気にしてはいなかったのですが、ウメボシが考えるにオバップの正体はマスターの強い欲望を引き継いだナノマシンではないかと!ジトーーー!」

 ヒジリは驚きのあまりフラフラと後ずさりをして、もたれ掛かるように椅子に座った。自分のナノマシンが自分の中にあった劣情を反映して悪さをしている事にショックを受けた。

「なんて事だ・・・。であれば、私は幼いイグナまで性の対象として見ているのか!あぁ・・なんて恥ずべきことだ!」

 暫くジト目で主を見つめた後、ピコンと電球がウメボシに浮かぶ。そして甘い声でヒジリに言った。

「マスター、すっきり・・・させましょうね?ね?ウメボシのエラー処理が終わるまで我慢できますか?ハァハァ」

 それを聞き流しヒジリは決意するように立ち上がる。

「我が身から出た恥は自らの手で拭うしかあるまい。待っていろ、オバップよ!」

 手を横になぎ払い、顔の前で拳を握りしめる主に一つ目のドローンは冷たく言い放つ。

「単にバレる前に手を打つって事でしょう?マスター」


 満月は天高く上り、夜の静寂を照らす。

 時折野営地から出た生ごみを漁る森の動物の鳴き声が聞こえてきた。

 砂利で舗装された野営地の地面を照らす月明かりは、フランケンのような大きな影とドラキュラのようなほっそりとした長身の影を映し出す。

「と、言うわけでオバップは私が触れれば消滅する。見つけたら直ぐに私に教えてほしい」

「なんとなんと。オバップがヒジリ君の体と欲望の一部を依代にした幻影ですと?真面目な顔して、下腹部は渦巻く劣情でドロドロだったとはオジサン気が付かなかったヨ。人生の大先輩として君を娼館に連れて行き社会見学させるべきだったネ。メンゴメンゴ。キュキュキュ」

「いや、その社会見学はいい。とにかく、これ以上の恥の上塗りはしたくないのだ。見つけ次第フクロウの鳴きマネをしてくれ。大体の位置は音で解るからすぐに行く」

「わかぁりました。では小生は天幕のある野営地を東側から【姿隠し】で見ていきます。ヒジリ君は西側からお願いしますネ」

「よろしく頼む」

 ヒジリは小さく遮蔽と呟くと体が遮蔽フィールドに包まれて見えなくなった。パワードスーツに新たに追加した機能だ。【姿隠し】のように次元から消えていなくなるというような性能は無く、一定時間、単に姿を隠すだけなので嗅覚や聴覚の鋭い相手には正体がばれてしまう事もある。悪用し難いように五分で遮蔽フィールドが消え一分のクールダウンが必要となっている。

 ヒジリはまずはシオ男爵のいる天幕を覗く。

 内側から入り口の布の端を紐でくくっている所為か、あまり中を詳しく見ることは出来ないがベッドで静かに眠るシオ男爵の姿が見える。時折、綺麗な金髪がサラサラと流れて寝返りを打っている事が解る。

(異常なし!)

 気張るヒジリは暫くシオの天幕の前で誰か来ないか見張っていたが遮蔽フィールドの効果が消えてしまった。

 一分ほど待ち、再び姿を隠すと今度はタスネとイグナの天幕を覗く。シオ男爵同様、入り口の布は紐で結ばれており、中を詳しく覗くことは出来なかった。

 暫く待機していたが異常は無さそうだと思い、ヒジリが立ち去ろうとしたその時、仰向けで寝るタスネの胸がモゾモゾと不自然に動き出した。タスネの息が段々と荒くなり寝言を言い出した。

「ダメだから。今はダメだからホッフ。だって綱渡りロープの上でどうやってそういう事ができるの?危ないって!ムニャムニャ」

 (来た!)

 眠りが深くなるのをじっと待っていたかのようにフワっと現れた白い布がタスネの上に覆いかぶさる。

 ハロウィンに出てくるオバケのような姿をしたオバップは目と鼻の部分に穴が空いておりそこから尖った鼻と鋭い目が見える。いやらしい手つきで主の胸を執拗に揉みしだいている。

(あ、あれが・・・私の欲望の権化?醜いものだ・・・。主殿をそういう目で見たつもりは無かったが無意識に性の対象として見ていたという事か・・・。見境が無さ過ぎるぞ私は。情けない、実に情けない)

 直ぐに入り口の布を強引に引きちぎって中に入る。オバップは入り口から見えない何かの気配を感じると、空間に吸い込まれるように消えていなくなった。しかし気配のようなものを感じヒジリはその後を追った。

 ンアッ!と息を吸ってタスネは目を覚ますと、引きちぎれてた入り口の布を払って、半透明のヒジリが出て行くのが見えた。

(まさか・・・。オバップの正体は・・・)

 気配を追って野営地の西まで来たが林の近くでそれは消えた。と同時に空気が揺れてナンベルが背後に現れる。

「オバップはいましたか?」

 ヒジリが首を横にふる。

「今の際まで気配を追いかけてここまで来たのだが、林の中で気配は消えてしまった・・・」

「オバップも今日は警戒してもう出てこないでしょう。今日は帰りましょう」

「そうだな・・・。そうするか。付き合ってくれてありがとうナンベル殿・・・」

 しょぼくれるヒジリの背中をナンベルは擦(さす)って慰め、ゾンビ戦以降調子が悪くて、門番が立つ開きっぱなしの門の外に消えていった。

 その二人の姿が見えなくなるのを茂みからしっかりと確認したオバップは、次にシルビィの天幕へと足を向けた。

 騒ぎのあった後だからこそ、警戒する者達は油断するのだと言わんばかりにオバップは堂々と姿を現し天幕の入り口の布をめくった。

 天幕の中は甘いお香の香りがいしている。オ

 バップがベッドに近寄ると、タスネ程胸は大きく無いが全体的にスタイルの良い樹族の体がそこに横たわっていた。

 ネグリジェは透けていそうで透けてはおらず、しかし軽く張り付いてくっきりと体のラインを強調していた。赤い髪のシルビィはスゥスゥと小さな寝息をたてて起きそうにもない。

 オバップはネグリジェの上からゆっくりと体を手でなぞる。起きないことを慎重に確認するとネグリジェを脱がしにかかった。が、背後から風が拭いたかと思うと何かが体当りしてきた。オバップは布を残して吹き飛び、軽く失神しかけて動けなくなる。

 体当りしてきた何者かはゆっくりと正体を現すも、勢い余ってシルビィに覆い被さってしまった。

 シルビィは顔の上の気配に気が付きワァァァ!と声をあげ薄暗い中覆いかぶさる何かを凝視する。

 長いポニーテールが垂直にたれており、整った顔が此方を見つめていた。

「ああ、ダーリン!遂にその気になってくれたのだな!オバップなんかを装わなくても、私ならば何時でも受け入れたのに!」

 オーガの頭を抱き寄せ唇に吸い付く。

「ンンーーッ!」

 ヒジリは呻く。近くにオバップがいる、触ったのに消えなかったという焦る気持ちが唇を離す事を忘れさせ視線が辺りを探る。

 シルビィは思った以上に力が強く、首に手をかけ足も胴に絡ませると、激しく情を燃え上がらせて夢中になってヒジリの唇を貪っている。

 テントの入口に月光に照らされて二つの小さな影が差す。

「あーーー!やっぱりオバップの正体はヒジリだった!騎士様とそんな事しちゃって!イグナは見ちゃダメ!」

 イグナはしっかりと二人の様子を見ていた。黒い瞳は闇の渦を巻き、怒りでどす黒くなった魔力のオーラが増幅していく。

 ヒジリはようやく唇を離すとタスネがカチューシャ代わりに頭につけているヒジリのスコープを指差し、それで周りを見ろと指示するとタスネは疑いの目を向けつつもスチャっとスコープを目に当てた。

 辺りを見回すとベッドの横で赤と黄色い光の人の形をした何かが蹲っている。

「わ!ベッドの横!なんかいる!あ!起き上がって入り口に向かってるよ!」

 体にシルビィを纏わりつかせたままヒジリは、オバップを逃すまいと気配のする辺りを手で掴もうとした。

 しかし、指先がオバップの体に触れたがそれはヒジリを嘲笑うかのようにスルリとすり抜け逃げていった。

「おっと!これだけドタバタしていれば小生にも気配を察知することが出来ますヨ。キュキュキュ」

 入り口に突如現れ立ちはだかったナンベルが見えないオバップを掴み、特にエフェクトの無い【麻痺の手】で痺れさせる。

「オゴゴゴゴ!」

 口も痺れて舌が回らないのか奇妙な声を発してそこに現れたのは、数カ月前、貧民街でヒジリに装置を売ったノームモドキのシディマであった。

 自分のナノマシンの暴走ではないと知ったヒジリは安心すると同時に凄まじい怒気を発し、オオオオ!と吠えた。目は光り、髪はユラユラと逆立っている。

 ヒジリにディープキスをした事で一触即発となり睨み合って対峙していたイグナとシルビィは、今まで見たこともないヒジリに驚いてポカンとしている。

 タスネはヒジリの鬼のような顔に口をパクパクしてへたり込んだ。

「貴様の所為で!」

―――ドゴォ!―――

 拳がシディマの腹にめり込む。この一発で彼は失神してしまったが続けて拳は腹にめり込む。
 
「私は要らぬ事で頭を悩まし!」

―――ドゴォ!―――

「無駄な時間を過ごしている!」

―――ドゴォ!―――

 大きな物音で飛び起き、シルビィの天幕の様子を見に来たシオに聖なる杖を使わせ、ボロ雑巾のようになったシディマを回復させるとヒジリはパーン!とビンタして無理やり失神から目覚めさせる。

「ずみまぜん、ゆるぢてぐだざい」

「何をやったのか洗いざらい話せ」

 ヒジリが何に怒っているのか判らないシディマは、オーガの怒りの沸点が尋常じゃないように思えてガクガクと震えながら弱々しい声で話しだした。

「事の始まりはこのペンダントです。あのゾンビ襲撃のドサクサに紛れて金持ちオークの家に忍び込み、この宝を盗んだのです」

 シルビィはわざとヒジリの前に回って、シオ男爵が流行の発端となった―――今一番セクシークールと言われている”貧民達の三角下着“と呼ばれるパンティをネグリジェの隙間からわざと見せつけるようにして腰を折ると、【知識の欲】でシディマの盗んだペンダントを鑑定しだした。

 パンティをわざと見せつけるシルビィにイグナが無言でドンと足を鳴らして抗議するが彼女は無視している。

「ん~なるほどなるほど。ただの透明化ペンダントだな。ただ魔法純金が使われているので魔法効果に制限時間は無い。任意で消えたり現れたり出来る」

 そう言ってシディマがまたペンダントを使って逃げないように取り上げてしまった。

「ゾンビたちがいなくなって、まず最初に浮かんだのが、この国に当たり前のようにやって来た憎い樹族達から金品を盗む事でした。砦の門に石を噛ませて壊し、機能しないようにしてから野営地に忍び込みました。王の天幕は警備が厳重だったので諦め、容易に入れそうな天幕を探しました。で、最初に入った先がそこの女男お嬢ちゃんの部屋でした」

 そう言ってシディマは両性具有のシオを指さした。

 シオはゲラゲラと笑う聖なる杖でシディマを軽く殴る。

「俺は男だ!なんだよ!女男お嬢ちゃんって!どっちだ!」

 シディマは殴られた頭を擦り話を続ける。

「光側の奴らはオバップを信じているから、気配や物音で見つかった時に誤魔化せると思いその辺にあった布を被ったのです。女男お嬢ちゃんの部屋を物色していて、ふとベッドを見ると短い寝間着の裾から美味しそうな生足が出ており、私は無我夢中でうつ伏せの女男お嬢ちゃんの尻を揉みしだいたのです。ええ、それはもう欲望のままに大喜びで!そしたらどうでしょうか!股の間に何かが見えるじゃないですか!怖いな~怖いな~と思ってフゥー!と見たらあったんです。そう、男のアレが。”貧民達の三角下着“から、ソレはみ出ており、何か騙された気分になり腹が立ったので尻をスパーンと蹴ってしまいました・・イタ!」

 シオはワナワナと震え拳骨でノームモドキの頭を殴った。

 シルビィとタスネはシオを見て「やっぱりシオ男爵は男だったんだ、とんだ変態だ」とヒソヒソ話している。

 シオは涙目でもう一度コーンキャップの上からノームモドキの頭を殴った。

「もう俺のことはいいから話を先に進めろ!」

「はい。特に目ぼしい物も無く、次はそこの巨乳姉妹の天幕に忍び込んだのです。鍵の付いていない豪華な宝箱が置いてあり今度こそはお宝が盗めると思ったのですが、中身は下手くそな字の恋文とガラクタばかりで見掛け倒しでした。アタッ!」

 タスネは怒りと恥ずかしさでシディマの頸動脈をモンゴリアンチョップで叩いた。

「字が下手くそで悪かったわね!」

「それでまた腹が立ちまして貴方様の胸を揉みしだいてやろうかと思ったのですが、口からは滝のように涎が垂れ、鼻提灯を出してて色気も糞も無かったので、可愛らしい黒髪の妹の胸を揉みしだいて逃げました。アイタ!アタ!」

 タスネとイグナが続けざまにグーでノームモドキの肩を拳骨で殴った。
 
「最後に寄ったのが、赤い髪の騎士の天幕でここには色んなお宝が置いてありました。そう、別の意味での珍しいお宝が・・・。アダーー!」

「それ以上言えば殺す」

 シルビィは顔を真っ赤にしてシディマの背中に蹴りを入れ【粉砕の焔】の構えをしていたのでノームモドキはその事については黙った。

「騎士はよく眠っていました。今まで見た中で一番綺麗な肌をしており、体を丹念にペロペロペロペロ、ペロペロペロペロ、ペロペロッ!ペロペロ~!ペロペロ~!と舐めて味わいました」

「一番綺麗な肌とな?ハハハ!嬉しいがキモイ!」

 蹴りがシディマの後頭部に飛ぶ。今度は手加減しており蹴りの威力は弱かった。

「それで今に至ると言うわけですカ。で、今夜も色々エロエロな事をしたのですねぇシディマ君。同じ貧民街の仲間として、小生は非常に恥ずかしいですよ。キュッキュ。まぁでも良かったじゃないですかヒジリ君。君の心配は杞憂に終わったわけですし」

 ナンベルの話を聞いてタスネは不思議そうな顔をして聞く。

「何を心配してたの?」

 ヒジリはアッ!と声をあげ、喋るなという視線を送るも時既に遅くナンベルは喋り出していた。

「ヒジリ君はね、今回の件を自分の内にある欲望が具現化して現れたのではないかと勘違いしていたのです。でも実際はこのノームモドキが犯人だったわけでス」

 ヒジリは顔を両手で押さえている。女性陣のジト目を見たくないのだ。

 実際、イグナもタスネもジト目で自分を睨んでいる。

 簡単に口を滑らしたナンベルをヒジリは恨む。

(ぐむむ!これは辱めの極み)

 シルビィが場の空気を変えるように手を叩く。

「ハイハイ!今夜はもうお開きだ。明日も早い。帰って寝るのだ。さあさあ!誰かこのノームモドキを檻の中にでも入れておけ。王都に連れて帰り余罪がないかゲルシに拷問させる」

 さらっと恐ろしい事をシルビィは言ったが誰も気にした様子は無く、巡回の騎士は項垂れるシディマを連行していく。

 皆、明日も早いと思い出しゾロゾロと自分の天幕を戻っていった。

 ヒジリはシルビィに謝意を述べる。

「場の空気を変えてくれて感謝している。助かった。でも暫くは主殿達からジト目をされそうではあるが」

「なぁに、どうでもいい女達のジト目など気にする必要はない。今後、ダーリンの欲望は全て私が受け止めるのだからな!」

 トゥ!とネグリジェを脱いで下着姿になり、肌を大幅に露出したシルビィが水泳の飛び込み選手のようなポーズでヒジリに襲いかかった。

―――ピシャァ!―――

 入り口から雷の鞭が飛んできてシルビィを気絶させる。

 ヒジリは尻を高々と上げて目を回す彼女を心配して抱き起こそうとすると、入り口の丸い影は姉御のような言葉使いで話しかけてきた。

「いいからほっときな!帰るよ!マスター!」

 ナノマシンがどうのと要らぬ心配の種を作った元凶はそれを悟られまい、気づかれまいと有無を言わせぬ強気な言葉で帰るように促した。

 迫力に負けてヒジリは、はいと言って素直に従いウメボシの後について出ていった。

 こうして女性たちを悩ませたオバップ騒動はノームモドキのシディマが犯人だと解り幕を閉じた。
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