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禁断の箱庭と融合する前の世界(41)
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「ゴデの街についたはいいけど、これから明日までどうするんだい?」
ゴルドンはキョロキョロしながらゴデの街南門から富裕層地区まで続く綺麗に舗装された道路や町並みを見て王都よりも綺麗だと思った。
「取り敢えず、宿屋を見つけようか。どれが宿屋だろう?」
主にゴブリンやオーク、他にも雑多な種族が入り交じる活気ある夕闇のメイン通りは魔法灯とは違う明るい街灯に照らされていた。
街灯は昼間のような明るさで屋台やレストランの美味しそうな料理を照らし、それを見た二人は自分たちが空腹な事に気が付いた。
いろんな店や屋台の料理に目移りしていると一人のゴブリンの少女が近づいてくる。
「君たち、もうご飯は食べたキャな?うちの自慢の牛肉料理食べていってよ!うちはヒジリ聖下と縁の深いレストランだよ!」
イシーが二人を誘った。餓死寸前だった所をヒジリから貰った携帯食料を売って(冒険者達に好評で直ぐに売りきれた)、そのお金を元手に生活を立て直し、やっとの思い出建てたレストランだ。両親は雇った従業員と店の切り盛りをし、器量の良いイシーは主に呼び込みをしていたのだ。
「聖下と縁の深いレストランだって?本当だったら食べて行きたいところなんだけど、王都でも聖下縁のお店とか聖下御用達とか言って嘘をつく店が多いんだよなぁ。僕たちは聖下とは知り合いだから、君が嘘をつけば直ぐに解るからな?」
ゴルドンは目の前の少し年上に見えるゴブリンの少女に、本当にヒジリ聖下と縁があるのは自分たちだという顔で言った。
「え?ヒジリさんと知り合いなの?名前は?」
「僕はゴルドン、彼はキウピーさ」
身分は明かさなかった。有力貴族の息子だとバレれば厄介事に巻き込まれかねない。
「私ね、飢え死にしそうだった所をヒジリさんに助けてもらったの。だから貴方達が彼の知り合いなら安くしとくから食べてってよ!」
「ええ?聖下が君みたいなゴブ・・いたっ!なんだよ!キウピー!」
「君は一々言葉の端々に棘があるんだ、ちょっと代われって。優しい聖下なら君のような可愛い女の子を放っておくわけないしね。解った、食べていくよ」
可愛いと言われてイシーは素直に喜んだ。上機嫌で二人をレストランに案内する。
「ヒジリさんのお知り合いが来たから、粗相のないようにね!」
「うぇーい!」
従業員のゴブリン達が威勢の良い変な返事で応じた。
イシーの言葉を聞いた巡礼者の樹族達が一斉にゴルドンとキウピーを見た。中にはどこかで見た顔もある。
「おい、君。あまり僕達を目立たせないでくれたまえ。僕たちはお忍びなんだ」
ゴルドンはイシーの耳元で囁く。
「わかりました。ご注文は何にしますか?オティムポのステーキが当店の自慢の料理ですけど」
えっ?と二人共変な顔をする。
「オ○ンポのステーキ・・・だと?!」
どうも光側の者にはそう聞こえるようで、冷や汗をかきながら(やはり闇側は下品で野蛮な国だな)と思いつつも、ゴルドンがもう一度聞き直す。
「何の・・ステーキだって・・・?」
「オティム・・・!!」
イシーは気がついた。発音が少し違うとオティムポ牛は男性器を意味するからだ。顔を真っ赤にしてこの二人がセクハラをしていると勘違いし、敢えてそれを無視して聞き取りやすいように発音する。
「オティ・ムポという名前の大きな牛のステーキです!」
「なんだ、最初からそう言いたまえよ、君ィ。それを二つ頼む」
「言ってました!スケベ!」
イシーは顔を真赤にしてプンプンと怒りながら厨房に注文を伝えに行った。
「ちょっと萌えたな」
ゴルドンはデヒヒヒと下品な笑いをして友人に同意を求める。
「ああ、あの子ゴブリンにしては可愛いしな。色違いの樹族みたいだ」
「君は気が多いね。イグナの前で今の発言を思い出して悟られるなよ?」
「おっと、そうだね。忠告をありがとう、ゴルドン」
そうこうしている内にステーキがテーブルの上に運ばれてきた。給仕のゴブリンは揉み手をしてにこやかに笑顔でステーキ代を言う。注文の度に代金とチップを支払うシステムなのだ。
「お二人は聖下とお知り合いだそうなので、二人で銀貨二枚の所を一枚で結構です」
「結構いい値段だね。ボッタクリじゃないだろうな?」
ステーキ、山盛りのパン、サラダ、水のセットをみて疑いながら、ゴルドンはお金の入った革袋から銀貨一枚を出して給仕に渡し、チップを幾らか払った。
「滅相もない。ゴデの街自慢の名物ステーキですよ。ご賞味あれ」
横柄な態度の樹族への対応には慣れているのか給仕のゴブリンはお辞儀をして厨房に戻っていった。
既にキウピーがステーキを切って口に運んでいた。それを見てゴルドンは憤慨する。
「おい、奢ってやったんだから僕が食べるまで待ちたまえよ!」
「なんだこれ・・・滅茶苦茶美味しいぞ!君も早く食べたほうが良い!」
キウピーはまた大袈裟な事を言っているな、と疑いながら肉を上品に切り分け、小さな一切れを口に入れた。
「わぁ・・!本当だ!美味しい!噛むと癖の無い濃厚で微かに甘みのあるジューシーな脂が口の中に溢れだす!しかも脂がしつこくない!柔らかくて赤身の部分ですら溶けていく!」
「だろう?これに比べたら僕達がいつも食べているステーキは水でふやかした革靴だ!」
ふと横を見ると、巡礼者の幼女が美味しそうに牛肉を食べる二人を見ている。
「それ、美味しいの?お兄ちゃん」
キウピーは笑顔で応じる。
「ああ、びっくりするぐらいね!ほら一口食べてごん」
フォークに刺した一切れを幼女の口に運ぶ。樹族の幼女は飛び跳ねて美味しさに喜んだ。
「キウピー、やめたまえ。こんな無礼な子供に食べさせる事は無いよ!親は何処だ?」
「おいしーー!私もこれ食べたい。なんて名前のステーキ?」
「オ・・・オティ・ムポという名前の牛のステーキだよ」
トイレから戻ってきた母親は娘が席を離れている事に気がついた。
我が子が他人のテーブルで無礼な事をしている。下級貴族の彼女には、ゴルドンが有力な貴族の親族であることが一目で解った。
ゴルドンは地味な格好をしているが、良い生地を使った緑色のチェニックと茶色いブレーを着ており、さり気なくワンポイントに金の刺繍が入っている。そしてその盾の刺繍は家紋を表していた。ウォール家のものだ。コーワゴールド家は最近都入りした地方の貴族なのであまり知られていない。
「我が子の無礼をお許し下さい」
下級貴族が上級貴族にする丁寧なお辞儀を母親はした。頭を下げて腰も低くしている。
「躾がなって・・・いて!なんだキウピー!」
人当たりの良いキウピ―がゴルドンの尻を抓って黙らせる。
「良いんですよ、お母さん。可愛いお子さんですね。僕にもこんな可愛い妹がいたらいいのに!」
上位貴族が下位貴族に愛想を振りまくことは無いと思っていた母親はキウピ―の気遣いに驚いた。
「娘が無礼を働いたにも関わらず、なんと寛容な方でしょうか!ありがとうございます!これ以上お食事の邪魔をしてはいけませんので失礼します」
母親は娘の肩を押して立ち去ろうとするも、娘は頑として動かなかった。
「お母さん、私もこのステーキ欲しい!」
「それは高いから駄目よ。美味しいシチューを頼んであるから席に戻りましょう」
「やだぁあ!私もオティムポ欲しい!オティムポ欲しいのぉぉぉぉ!!」
店にいた数名のロリコンらしき樹族が、上気した顔でガタ!と席を立って幼女を見る。
母親は何とかして駄々を捏ねる娘の口を塞ごうとするが、娘は寝転んで手足をジタバタさせ始めた。
ゴルドンとキウピーは幼女の叫ぶオティムポという言葉に気まずくなり、顔を真っ赤にして無視しようとしたが、結局母親と娘にオティムポ牛のステーキをご馳走して黙らせる。
美味しそうにステーキを食べる娘の横で母親が顔面蒼白になってステーキを食べる姿がゴルドンには面白かったので、下位貴族の母親を責める事はしなかった。
二人は満腹になって店を出ると、外はすっかりと日が暮れていた。
どこに潜んでいるのか虫の鳴き声が聞こえてくる。昼間よりも涼しくなり湿気が少ないせいか不愉快さは無い。
宿屋を探しては部屋が空いてないかと聞いてまわったが、夏休みの巡礼シーズン真っ只中の今、開いてる部屋は一つもなかった。
「参ったよ。幾ら聖下が奇跡を見せた聖地だといっても巡礼者がこんなにいるとは思わなかった」
「残るはこの下品そうなオーガの酒場兼宿屋か・・・。入るのは躊躇するね。キウピー、ちょっと先に入って様子を見てくれよ」
「フランさんを守って冒険者と戦った時の君の勇気はどこにいったんだい?全く・・・」
尖った前髪をシュッと揃え直し、顔を叩いて気合を入れるとキウピーはオーガ用の大きな扉の横にある小さな扉を開いた。
中を見るとテーブルや椅子は部屋の隅に移動させられ、何かを見物するオーガやオーク達の人集りが出来ていた。
怖気づいたキウピーは直ぐに戻ろうとしたが背後にはゴルドンが震えながら立ってた。
「早く入れや、兄ちゃん達」
眼帯をつけた如何にも荒くれ者といった雰囲気のオーク達が後ろで二人が入るのを待っていたのだ。
「ハ、ハヒィ!」
二人は怯えながら巨人が十何人も入りそうな大きなオーガの酒場に入った。
後ろから入ってきたオーク達は酒場の騒ぎを見て目を輝かせて野次馬を掻き分けていく。
―――ドターン!バキッ!―――
激しく戦う音だ。恐らくあの人集りの中で凄まじい戦いが繰り広げられているのだろう。
二人はカウンターにある背の高い椅子に何とかよじ登って座る。騒ぎなんて日常茶飯事だというような顔で呑気に皿を吹いている年配のオーガに部屋は無いかと聞いてみた。
もうどこへ行っても部屋がなくて困っている、ヘトヘトで死にそうだと大袈裟に自分たちの状況を語ったのだ。
ミカティニスは小さな樹族の子供達に同情し、甘いカフェオレを出して少し考える。
「うーん、相部屋で良かったら空いているど。お前たちみたいなちっこいのを嫌がらないのはあのシトくらいか・・・。うん、あのシトは気にしないと思う。ただ、お前たちの相部屋になるオーガは滅茶苦茶強いから怒らせるんじゃないど?静かに寝てれば直ぐに朝になっからよ」
二人はゴクリと生唾を飲み込んだ。しかし貴族が路上や公園で寝るわけにもいかない。蚊に刺されるよりはマシだろうとゴルドンは強がってキウピーと共に部屋に向かう。
途中、人集りの隙間から戦っているオーガ見た。
片方は黒い髪に眼鏡が似合いそうなキツネ顔、もう片方は銀髪の可愛いタヌキ顔のオーガだった。
丁度勝負が付いたのか、体の大きなキツネ顔のオーガがオーッホッホ!と笑っていた。
「今日は私の勝ちですわね、ヘカ。貴方の格闘術は我流過ぎて正式な格闘術を習った私には通用しませんの!今日の珈琲係は私ですわね!オーッホッホ!」
帝国と違ってここでは気負うことがないので素の自分を曝け出してリツは声高に笑う。
「五回戦ってリツは三回負けてるくせに!偉そうな事言うな」
ヘカティニスは悔しそうに床を叩いて立ち上がると、汗を流そうと風呂場に向かった。リツもその後を追う。
残された野次馬は賭けをしていたのか金のやり取りをしている。
「オーガの女性も良いもんだね、ゴルドン。アンダースーツが体のラインを出していて、お尻なんかは凄くムッチムチしてた・・・」
「君って奴は・・・。イグナはこんな浮気症な男の何処が気に入ったのかな」
「お、おい。この事は内緒にしてくれたまえよ!」
「内緒にしなくても、君が心の中でこの事を思い出せば直ぐにバレるだろうね」
ゴルドンは肩を竦めて階段を登り、部屋の前まで来た。
「はぁ~、緊張するな」
中にはきっとゴリマッチョの不潔なオーガがいるんだろうという嫌な予感しかしない。
コンコンと部屋をノックすると扉が自動的に空いたように見えた。
「やはり、貴方達だったのですね。ウメボシのスキャンの調子が悪かったわけではなかったようです、マスター」
扉の向こう側でウメボシが高い位置で浮きながら此方を見ていた。直ぐにヒジリが現れる。
「どうしたのかね?君たち。何か大変な事が起きたのかね?」
ヒジリは心配する。ここ最近、南方の獣人国リオンの便衣兵が頻繁に樹族国へ侵入するという挑発行為を繰り返しているからだ。明らかに戦争の切っ掛けを欲しがっている。
「その・・・聖下!僕達もキャンプに行きたいんです!」
キウピーは勇気を出して正直に言った。
ウメボシもヒジリも予想外の答えにへ?という顔をした後、ハハハハと笑いしだした。
「なんだ、そんな事かね?ああ、君は何回かイグナと魔法遊園地にデートにいってるそうだな。彼女からキャンプの事を聞いたのだな?その様子じゃ、ご両親に黙って飛び出してきたのだろう?今頃大騒ぎになっているのは間違いない。よし、ウメボシ!送信用魔法水晶を持ってきてくれ」
ウメボシが部屋の隅に無造作に置いてあった埃を被った送信用魔法水晶を浮かせて持ってきた。
貴重な送信用魔法水晶をそんな適当に置いているなんて、流石は聖下!さすせい!等とおかしな賞賛をゴルドンは心の中でする。
「悪いが、それにマナを流し込んでくれたまえ。キウピー君」
「僕がやりますよ聖下!僕のほうが彼より魔法は得意ですから!僕はのオーラの方が若干黄色が濃いので!」
ゴルドンが自分のほうが上だと自慢しながら魔法水晶にマナを流した。
「ウォール家及び、コーワゴールド家の方々へ。両家のご子息を保護した。私がしっかりと面倒を見るのでご心配なさらぬように。数日はミト湖周辺でキャンプをする事となるので帰るのは夏休みの終わり頃となる。通信終わり」
直ぐに近くの受信用魔法水晶が輝きだした。
怒り心頭の―――まさに憤怒のシルビィがそこに映っている。
「バカモーーーン!ダー・・・聖下にご迷惑をお掛けしよって!ゴルドン!帰ってきたら私が直接、接近戦の稽古をつけてやる!覚悟しておくことだな!それから!キウピー君!キャンプに浮かれてイグナちゃんに変な事するんじゃないぞ!返信終わり!」
ブゥンと水晶が消えて、階下からドッ!と笑い声が聞こえてきた。
帝国と違って樹族国の魔法水晶関連はインフラ整備がされていないので、チャンネルが一つしか無く、高価な送信用魔法水晶を持っている物であれば誰でも放送ができる。
樹族国では定期的に政府からのニュースが流れ、日曜日だけ特撮ヒーロー物が放送されている。
時折空いた時間に誰かが緊急連絡用に使う程度だ。なので今の出来事は見ている者全員に伝わるのだ。
ゴデの街は帝国と樹族国の放送を見ることが出来るので情報を生業とする者がよく集る。
今の通信が普通の貴族のやり取りであれば、誘拐しようかと考える者もいたかもしれないが、ヒジリ皇帝が関わっているとなるとそんな気は起きない。
サヴェリフェ家の居間では姉妹が食後のデザートを食べながらお喋りをしていたが、突然テーブルの真ん中の魔法水晶が輝きだして、今のやり取りが流れた。
イグナはタスネ以外の姉妹に茶化されて顔を真っ赤にしている。タスネだけは顔を紫にしてプルプルと震えていた。
(イ、イイイ、イグナですらボーイフレンドがいるというのに!)
タスネは自分のモテなさ加減に嫌気がさし、ケーキをやけ食いしたのだった。
ゴルドンはキョロキョロしながらゴデの街南門から富裕層地区まで続く綺麗に舗装された道路や町並みを見て王都よりも綺麗だと思った。
「取り敢えず、宿屋を見つけようか。どれが宿屋だろう?」
主にゴブリンやオーク、他にも雑多な種族が入り交じる活気ある夕闇のメイン通りは魔法灯とは違う明るい街灯に照らされていた。
街灯は昼間のような明るさで屋台やレストランの美味しそうな料理を照らし、それを見た二人は自分たちが空腹な事に気が付いた。
いろんな店や屋台の料理に目移りしていると一人のゴブリンの少女が近づいてくる。
「君たち、もうご飯は食べたキャな?うちの自慢の牛肉料理食べていってよ!うちはヒジリ聖下と縁の深いレストランだよ!」
イシーが二人を誘った。餓死寸前だった所をヒジリから貰った携帯食料を売って(冒険者達に好評で直ぐに売りきれた)、そのお金を元手に生活を立て直し、やっとの思い出建てたレストランだ。両親は雇った従業員と店の切り盛りをし、器量の良いイシーは主に呼び込みをしていたのだ。
「聖下と縁の深いレストランだって?本当だったら食べて行きたいところなんだけど、王都でも聖下縁のお店とか聖下御用達とか言って嘘をつく店が多いんだよなぁ。僕たちは聖下とは知り合いだから、君が嘘をつけば直ぐに解るからな?」
ゴルドンは目の前の少し年上に見えるゴブリンの少女に、本当にヒジリ聖下と縁があるのは自分たちだという顔で言った。
「え?ヒジリさんと知り合いなの?名前は?」
「僕はゴルドン、彼はキウピーさ」
身分は明かさなかった。有力貴族の息子だとバレれば厄介事に巻き込まれかねない。
「私ね、飢え死にしそうだった所をヒジリさんに助けてもらったの。だから貴方達が彼の知り合いなら安くしとくから食べてってよ!」
「ええ?聖下が君みたいなゴブ・・いたっ!なんだよ!キウピー!」
「君は一々言葉の端々に棘があるんだ、ちょっと代われって。優しい聖下なら君のような可愛い女の子を放っておくわけないしね。解った、食べていくよ」
可愛いと言われてイシーは素直に喜んだ。上機嫌で二人をレストランに案内する。
「ヒジリさんのお知り合いが来たから、粗相のないようにね!」
「うぇーい!」
従業員のゴブリン達が威勢の良い変な返事で応じた。
イシーの言葉を聞いた巡礼者の樹族達が一斉にゴルドンとキウピーを見た。中にはどこかで見た顔もある。
「おい、君。あまり僕達を目立たせないでくれたまえ。僕たちはお忍びなんだ」
ゴルドンはイシーの耳元で囁く。
「わかりました。ご注文は何にしますか?オティムポのステーキが当店の自慢の料理ですけど」
えっ?と二人共変な顔をする。
「オ○ンポのステーキ・・・だと?!」
どうも光側の者にはそう聞こえるようで、冷や汗をかきながら(やはり闇側は下品で野蛮な国だな)と思いつつも、ゴルドンがもう一度聞き直す。
「何の・・ステーキだって・・・?」
「オティム・・・!!」
イシーは気がついた。発音が少し違うとオティムポ牛は男性器を意味するからだ。顔を真っ赤にしてこの二人がセクハラをしていると勘違いし、敢えてそれを無視して聞き取りやすいように発音する。
「オティ・ムポという名前の大きな牛のステーキです!」
「なんだ、最初からそう言いたまえよ、君ィ。それを二つ頼む」
「言ってました!スケベ!」
イシーは顔を真赤にしてプンプンと怒りながら厨房に注文を伝えに行った。
「ちょっと萌えたな」
ゴルドンはデヒヒヒと下品な笑いをして友人に同意を求める。
「ああ、あの子ゴブリンにしては可愛いしな。色違いの樹族みたいだ」
「君は気が多いね。イグナの前で今の発言を思い出して悟られるなよ?」
「おっと、そうだね。忠告をありがとう、ゴルドン」
そうこうしている内にステーキがテーブルの上に運ばれてきた。給仕のゴブリンは揉み手をしてにこやかに笑顔でステーキ代を言う。注文の度に代金とチップを支払うシステムなのだ。
「お二人は聖下とお知り合いだそうなので、二人で銀貨二枚の所を一枚で結構です」
「結構いい値段だね。ボッタクリじゃないだろうな?」
ステーキ、山盛りのパン、サラダ、水のセットをみて疑いながら、ゴルドンはお金の入った革袋から銀貨一枚を出して給仕に渡し、チップを幾らか払った。
「滅相もない。ゴデの街自慢の名物ステーキですよ。ご賞味あれ」
横柄な態度の樹族への対応には慣れているのか給仕のゴブリンはお辞儀をして厨房に戻っていった。
既にキウピーがステーキを切って口に運んでいた。それを見てゴルドンは憤慨する。
「おい、奢ってやったんだから僕が食べるまで待ちたまえよ!」
「なんだこれ・・・滅茶苦茶美味しいぞ!君も早く食べたほうが良い!」
キウピーはまた大袈裟な事を言っているな、と疑いながら肉を上品に切り分け、小さな一切れを口に入れた。
「わぁ・・!本当だ!美味しい!噛むと癖の無い濃厚で微かに甘みのあるジューシーな脂が口の中に溢れだす!しかも脂がしつこくない!柔らかくて赤身の部分ですら溶けていく!」
「だろう?これに比べたら僕達がいつも食べているステーキは水でふやかした革靴だ!」
ふと横を見ると、巡礼者の幼女が美味しそうに牛肉を食べる二人を見ている。
「それ、美味しいの?お兄ちゃん」
キウピーは笑顔で応じる。
「ああ、びっくりするぐらいね!ほら一口食べてごん」
フォークに刺した一切れを幼女の口に運ぶ。樹族の幼女は飛び跳ねて美味しさに喜んだ。
「キウピー、やめたまえ。こんな無礼な子供に食べさせる事は無いよ!親は何処だ?」
「おいしーー!私もこれ食べたい。なんて名前のステーキ?」
「オ・・・オティ・ムポという名前の牛のステーキだよ」
トイレから戻ってきた母親は娘が席を離れている事に気がついた。
我が子が他人のテーブルで無礼な事をしている。下級貴族の彼女には、ゴルドンが有力な貴族の親族であることが一目で解った。
ゴルドンは地味な格好をしているが、良い生地を使った緑色のチェニックと茶色いブレーを着ており、さり気なくワンポイントに金の刺繍が入っている。そしてその盾の刺繍は家紋を表していた。ウォール家のものだ。コーワゴールド家は最近都入りした地方の貴族なのであまり知られていない。
「我が子の無礼をお許し下さい」
下級貴族が上級貴族にする丁寧なお辞儀を母親はした。頭を下げて腰も低くしている。
「躾がなって・・・いて!なんだキウピー!」
人当たりの良いキウピ―がゴルドンの尻を抓って黙らせる。
「良いんですよ、お母さん。可愛いお子さんですね。僕にもこんな可愛い妹がいたらいいのに!」
上位貴族が下位貴族に愛想を振りまくことは無いと思っていた母親はキウピ―の気遣いに驚いた。
「娘が無礼を働いたにも関わらず、なんと寛容な方でしょうか!ありがとうございます!これ以上お食事の邪魔をしてはいけませんので失礼します」
母親は娘の肩を押して立ち去ろうとするも、娘は頑として動かなかった。
「お母さん、私もこのステーキ欲しい!」
「それは高いから駄目よ。美味しいシチューを頼んであるから席に戻りましょう」
「やだぁあ!私もオティムポ欲しい!オティムポ欲しいのぉぉぉぉ!!」
店にいた数名のロリコンらしき樹族が、上気した顔でガタ!と席を立って幼女を見る。
母親は何とかして駄々を捏ねる娘の口を塞ごうとするが、娘は寝転んで手足をジタバタさせ始めた。
ゴルドンとキウピーは幼女の叫ぶオティムポという言葉に気まずくなり、顔を真っ赤にして無視しようとしたが、結局母親と娘にオティムポ牛のステーキをご馳走して黙らせる。
美味しそうにステーキを食べる娘の横で母親が顔面蒼白になってステーキを食べる姿がゴルドンには面白かったので、下位貴族の母親を責める事はしなかった。
二人は満腹になって店を出ると、外はすっかりと日が暮れていた。
どこに潜んでいるのか虫の鳴き声が聞こえてくる。昼間よりも涼しくなり湿気が少ないせいか不愉快さは無い。
宿屋を探しては部屋が空いてないかと聞いてまわったが、夏休みの巡礼シーズン真っ只中の今、開いてる部屋は一つもなかった。
「参ったよ。幾ら聖下が奇跡を見せた聖地だといっても巡礼者がこんなにいるとは思わなかった」
「残るはこの下品そうなオーガの酒場兼宿屋か・・・。入るのは躊躇するね。キウピー、ちょっと先に入って様子を見てくれよ」
「フランさんを守って冒険者と戦った時の君の勇気はどこにいったんだい?全く・・・」
尖った前髪をシュッと揃え直し、顔を叩いて気合を入れるとキウピーはオーガ用の大きな扉の横にある小さな扉を開いた。
中を見るとテーブルや椅子は部屋の隅に移動させられ、何かを見物するオーガやオーク達の人集りが出来ていた。
怖気づいたキウピーは直ぐに戻ろうとしたが背後にはゴルドンが震えながら立ってた。
「早く入れや、兄ちゃん達」
眼帯をつけた如何にも荒くれ者といった雰囲気のオーク達が後ろで二人が入るのを待っていたのだ。
「ハ、ハヒィ!」
二人は怯えながら巨人が十何人も入りそうな大きなオーガの酒場に入った。
後ろから入ってきたオーク達は酒場の騒ぎを見て目を輝かせて野次馬を掻き分けていく。
―――ドターン!バキッ!―――
激しく戦う音だ。恐らくあの人集りの中で凄まじい戦いが繰り広げられているのだろう。
二人はカウンターにある背の高い椅子に何とかよじ登って座る。騒ぎなんて日常茶飯事だというような顔で呑気に皿を吹いている年配のオーガに部屋は無いかと聞いてみた。
もうどこへ行っても部屋がなくて困っている、ヘトヘトで死にそうだと大袈裟に自分たちの状況を語ったのだ。
ミカティニスは小さな樹族の子供達に同情し、甘いカフェオレを出して少し考える。
「うーん、相部屋で良かったら空いているど。お前たちみたいなちっこいのを嫌がらないのはあのシトくらいか・・・。うん、あのシトは気にしないと思う。ただ、お前たちの相部屋になるオーガは滅茶苦茶強いから怒らせるんじゃないど?静かに寝てれば直ぐに朝になっからよ」
二人はゴクリと生唾を飲み込んだ。しかし貴族が路上や公園で寝るわけにもいかない。蚊に刺されるよりはマシだろうとゴルドンは強がってキウピーと共に部屋に向かう。
途中、人集りの隙間から戦っているオーガ見た。
片方は黒い髪に眼鏡が似合いそうなキツネ顔、もう片方は銀髪の可愛いタヌキ顔のオーガだった。
丁度勝負が付いたのか、体の大きなキツネ顔のオーガがオーッホッホ!と笑っていた。
「今日は私の勝ちですわね、ヘカ。貴方の格闘術は我流過ぎて正式な格闘術を習った私には通用しませんの!今日の珈琲係は私ですわね!オーッホッホ!」
帝国と違ってここでは気負うことがないので素の自分を曝け出してリツは声高に笑う。
「五回戦ってリツは三回負けてるくせに!偉そうな事言うな」
ヘカティニスは悔しそうに床を叩いて立ち上がると、汗を流そうと風呂場に向かった。リツもその後を追う。
残された野次馬は賭けをしていたのか金のやり取りをしている。
「オーガの女性も良いもんだね、ゴルドン。アンダースーツが体のラインを出していて、お尻なんかは凄くムッチムチしてた・・・」
「君って奴は・・・。イグナはこんな浮気症な男の何処が気に入ったのかな」
「お、おい。この事は内緒にしてくれたまえよ!」
「内緒にしなくても、君が心の中でこの事を思い出せば直ぐにバレるだろうね」
ゴルドンは肩を竦めて階段を登り、部屋の前まで来た。
「はぁ~、緊張するな」
中にはきっとゴリマッチョの不潔なオーガがいるんだろうという嫌な予感しかしない。
コンコンと部屋をノックすると扉が自動的に空いたように見えた。
「やはり、貴方達だったのですね。ウメボシのスキャンの調子が悪かったわけではなかったようです、マスター」
扉の向こう側でウメボシが高い位置で浮きながら此方を見ていた。直ぐにヒジリが現れる。
「どうしたのかね?君たち。何か大変な事が起きたのかね?」
ヒジリは心配する。ここ最近、南方の獣人国リオンの便衣兵が頻繁に樹族国へ侵入するという挑発行為を繰り返しているからだ。明らかに戦争の切っ掛けを欲しがっている。
「その・・・聖下!僕達もキャンプに行きたいんです!」
キウピーは勇気を出して正直に言った。
ウメボシもヒジリも予想外の答えにへ?という顔をした後、ハハハハと笑いしだした。
「なんだ、そんな事かね?ああ、君は何回かイグナと魔法遊園地にデートにいってるそうだな。彼女からキャンプの事を聞いたのだな?その様子じゃ、ご両親に黙って飛び出してきたのだろう?今頃大騒ぎになっているのは間違いない。よし、ウメボシ!送信用魔法水晶を持ってきてくれ」
ウメボシが部屋の隅に無造作に置いてあった埃を被った送信用魔法水晶を浮かせて持ってきた。
貴重な送信用魔法水晶をそんな適当に置いているなんて、流石は聖下!さすせい!等とおかしな賞賛をゴルドンは心の中でする。
「悪いが、それにマナを流し込んでくれたまえ。キウピー君」
「僕がやりますよ聖下!僕のほうが彼より魔法は得意ですから!僕はのオーラの方が若干黄色が濃いので!」
ゴルドンが自分のほうが上だと自慢しながら魔法水晶にマナを流した。
「ウォール家及び、コーワゴールド家の方々へ。両家のご子息を保護した。私がしっかりと面倒を見るのでご心配なさらぬように。数日はミト湖周辺でキャンプをする事となるので帰るのは夏休みの終わり頃となる。通信終わり」
直ぐに近くの受信用魔法水晶が輝きだした。
怒り心頭の―――まさに憤怒のシルビィがそこに映っている。
「バカモーーーン!ダー・・・聖下にご迷惑をお掛けしよって!ゴルドン!帰ってきたら私が直接、接近戦の稽古をつけてやる!覚悟しておくことだな!それから!キウピー君!キャンプに浮かれてイグナちゃんに変な事するんじゃないぞ!返信終わり!」
ブゥンと水晶が消えて、階下からドッ!と笑い声が聞こえてきた。
帝国と違って樹族国の魔法水晶関連はインフラ整備がされていないので、チャンネルが一つしか無く、高価な送信用魔法水晶を持っている物であれば誰でも放送ができる。
樹族国では定期的に政府からのニュースが流れ、日曜日だけ特撮ヒーロー物が放送されている。
時折空いた時間に誰かが緊急連絡用に使う程度だ。なので今の出来事は見ている者全員に伝わるのだ。
ゴデの街は帝国と樹族国の放送を見ることが出来るので情報を生業とする者がよく集る。
今の通信が普通の貴族のやり取りであれば、誘拐しようかと考える者もいたかもしれないが、ヒジリ皇帝が関わっているとなるとそんな気は起きない。
サヴェリフェ家の居間では姉妹が食後のデザートを食べながらお喋りをしていたが、突然テーブルの真ん中の魔法水晶が輝きだして、今のやり取りが流れた。
イグナはタスネ以外の姉妹に茶化されて顔を真っ赤にしている。タスネだけは顔を紫にしてプルプルと震えていた。
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でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
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戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
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