未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(64)

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 ツィガル城の地下下水道にある地下牢からぶつくさと独り言が聞こえてくる。

「博士の体はいつの間にかマナの影響を受けるようになってしまった。魔法無効化は強味だと思って貴重な憑依ナノマシンを注入したのだが、失敗だったな」

「かといってこの体から出せばナノマシンは崩壊する。注入されると直ぐに体に適応するが、それ以外に適応しなくなるのは問題だな」

「仕方あるまい。アヌンナキを追って始末する為に我らは開発されたのだ。小細工が出来るナノマシンなど最初から詰んでなかったしな。有機生命体を取り込んでナノマシンを進化させ洗脳型を作れただけでも凄い事だ」

「では・・・ヒャハハ!これから・・・ギィイイ!どうする?」

「と、ととと、とりあえっ!とりあえず!ピーーガガガ!樹族との契約を遂行しようか。我らにはこの宇宙に逃げてきたアヌンナキの情報が必要だ。有機生命体をどんどん取り込んで情報を得るには、この星にある全てを吸収しないと!」

「サカモト博士はどうする?あまり役に立ちそうにないないないないないない」

「いや!きっと何かの手駒にはなる!役に立つ日が来るまで暫く放置しておいても構わんだろう」

 老人の独り言を聞く度に、地下の警備を任されているオーガの頭は混乱する。

「あの爺さん、いつも一人でぶつくさ言ってる。爺さんの中に沢山の人がいるみたいだど。きっと狂ってるんだ。おで怖い」

 サカモト神の牢屋の近くまで来たブーマーは足早に前を通り過ぎて階段を上がっていった。



 ヒジリがゴデの街に帰ってきた頃には街路樹の桜の花が舞っていた。

 鉄騎士団や雇った砦の戦士たちやナンベルを早々に帰らせたが、シュラスに頼まれて面倒な戦後処理に付き合わされていたのだ。

 ヒジリも邪神について何かしらの情報が得られるのではと期待して残ったが得られるものは特になかった。

 ウメボシによって洗脳型のナノマシンを取り除かれた獣人国の議員達は正気を取り戻したので、彼らの本来の動機を聞くと、元々領土を広げる野心があり大昔の話を持ち出して樹族に挑むつもりだったという。

 結局議員たちは戦勝国である樹族国の法によって処刑され、獣人国は樹族国に合併吸収される事になった。

 戦後処理も上手くいき情勢も落ち着いてきたのでヒジリはやっと自由の身になってゴデの街の整った敷石を踏むことが出来たのである。

「報酬には驚いたな。グランデモニウム王国を譲ってくれるとは思わなかったぞ」

「元々、占領しても価値の低い国と思われていたようですからね。死者の大行進のせいで人口が少ないですから商売による旨味も少ない上に、モンスターが徘徊していて観光するにも危険が伴いますし・・・」

 ウメボシと会話しながら歩いていると、街の広場では砦の戦士達が催し物のレスリングで客を沸かせていた。

 丁度ワーベアをラリアットで倒したゴールキ将軍がリングの上からヒジリを見つけて手を振っている。

「おー!帰ってきたか!ヒジリ軍曹!ちょっとリングに上がれや!」

 ヒジリは何故リングに上る必要があるのか判らなかったが、とりあえずジャンプして観客を飛び越え一気にリングの上にあがった。

 ゴールキ将軍はいきなりヒジリにタックルしてくるも、パワードスーツがパスッと音をさせて衝撃を吸収する。

 ヒジリは一歩も下がること無くビクともしない。

「いきなり何かね?」

「報酬よこせや」

「おっと!」

 ヒジリは戦争に出向く際、砦の戦士たちを雇っていた事を忘れていたのだ。

「直ぐに金が貰えると思って期待して待ってたら、いつまで経っても誰も金を持ってきやせん!仕方がないからずっとここで催し物したり、洞窟に篭って宝物探しをしていたのだぞ!」

 タックルの姿勢からヒジリを投げ飛ばそうとするもこれまたびくともしない。

「でも蓄えはあっただろう?ドォスンの見つけた宝とか」

「そんな蓄え、直ぐに酒に消えてしもうたわ!」

「まさか?でもそれは私の知ったことではないな」

 ヒジリは軽々と将軍を真上に投げ飛ばすと、自分もジャンプして将軍を掴み、錐揉みパイルドライバーで将軍をマットの海に沈めた。

 マットに突き刺さった将軍を引き抜くとウメボシに治療させ、そして歓声に湧く観客に手を振って応える。

「やぁ!ゴデの街の諸君!知っているとは思うが私はツィガル皇帝のヒジリだ。ゴールキ将軍の華々しい活躍でグランデモニウムは樹族国からの報酬として貰い受け、帝国領となった。今日からは私がこの国の主になる。宜しく!」

 そう宣言するも反応は薄い。観客のオークが言う。

「元々、ヒジリがこの国を治めていたようなもんだろ。結局またヒジリが治めただけの事じゃねぇか!」

 ドッと笑いが起きる。それもそうだなとヒジリも笑った。

「報酬は後で酒場に持っていくから待っててくれ、将軍」

「わかった。それからよぉ、・・・娘を元気づけてくれんか?」

 将軍はぽんとヒジリの肩を叩いて、それ以上は何も言わずリングを下りていった。

 ヒジリがグランデモニウム王国の総督府で色んな指示を出した後、珈琲を飲もうとオーガの酒場に来て中に入ると、ヘカティニスが普段通りメイド姿でウェイトレスをしていた。

 愛しい人が急に帰ってきた事に驚いてトレイを落とし、その落とした銀のトレイを拾ってモジモジしながら言う。

「おがえり、ヒジリ」

 変に気を張るのもおかしいのでヒジリは普段通りを装った。

「ああ、ただいま。コーヒーを頼む」

「ウメボシもコーヒーを飲んでみたいです」

「わがったど。母ちゃん!コーヒー二つ!」

 ヘカティニスがミカティニスに頼むと、カウンター向こうから「ヴァーイ!」と陽気な返事が返ってきて、辺りにコーヒーのいい香りが漂いだした。

 ヒジリとウメボシがカウンターに座ってコーヒーを楽しんでいると二階からズドドドドと音がして、先に酒場に戻って待っていた将軍が報酬を受け取りに出てきた。

 ヒジリがウメボシに合図を送る。

「ウメボシ」

「畏まりました」

 空中から金貨が三百三十枚入った大きな革袋が出てきたのを見た将軍は受け取ると

「お!色を付けてくれたのか!ありがたい!確かに報酬は頂いた。野郎ども!整列!」

 と、号令を掛けた。酒場でコーヒーを啜っていた砦の戦士たちは、嬉しそうにずらりと縦一列に並んで一人三十枚の金貨を受け取っていく。

「あれ?一人参加していないな?誰かね?」

 戦士の中で一番若いギャラモンが、ブスっとした顔でテーブルに座っていた。

「ギャラモンは、出発の日に大風邪を引いて寝込んでたんだ。そっとしといてやれ。よくいるだろ?遠足の時に限って熱を出す奴。あいつはまさにそれなんだ」

 そう言いながら報酬を受け取ったベンキが多めの報酬に礼を言おうとヒジリの横に座ると、スカーが割り込んできて、笑いながら下らない事を言った。

「ギャラモンのギャラは無しだ!ギャラモンはギャラは無しだモン!プスーッ!やべぇ!自分で言っておいてウケるぜ!ナハハハ!」

「・・・」

 ベンキもヒジリもスルーしてコーヒーを飲んだ。

 ウメボシだけはウケたのか、ゴキュっと変な音をさせてコーヒーを飲んだ後、咽るように笑っていた。

 ヒジリはウメボシの背中を摩りつつテーブル席にしょんぼりとして座るギャラモンに声を掛けた。

「そういえば、リツの鉄騎士団には若い女騎士も多かったな。ギャラモン、幾ら風邪を引いていたとは言え、君だけ報酬が無いのは可哀想だ。今度リツに女の子を紹介してもらえるよう頼んでおこう」

「まじか?やった!滅茶苦茶嬉しいぜ!ヒジリ!」

 さっきまで剥れていたギャラモンの顔がウソのように晴れやかになっていた。立ち上がると昇竜拳のようなポーズでジャンプして喜んでいる。

 そう言えばギャラモンは某格闘ゲームの某主人公に似ているな、とヒジリはどうでもいい事をぼんやりと思った。

 その話を聞いた戦士たちが目の色を変えてギャラモンに群がる。

「おでたちにも、紹介してくで!」

「おめーら、報酬貰ったからいいだろうが!金貨三十枚も貰って女も欲しがるなんて欲深いにも程が有るぞ!紹介料金貨一枚な?」

「ケチ臭ぇ事言うな!」

 ドタバタと揉み合う戦士たちを無視して、ヒジリはカウンターで皿を拭いているヘカティニスに話しかけた。
 
「そう言えば、私は自分の家を持っていなかった。ヘカはどんな家がいいんだ?妻の意見を聞いておこうと思ってな」

 ヘカティニスは妻と呼ばれて体を捻って喜ぶ。

「自分の部屋が有ればそれでいいど。たまにヒジリが一緒に寝てくれれば、おでは満足だかだ・・・。それよりもヒジリ、髪切ったんだな!カッコイイど!」

「ああ、ありがとう。短い髪型は楽でいいな。長髪は意外と重たかったんだなと気がついたよ」

「切った髪はどうした?オーガは切った髪を溜めておいて帽子を作ったりするど。禿げた時に重宝する」

「ああ、殆どは捨ててしまった。一束だけ・・・子供の死んだ場所に埋めておいた。我が国では髪は霊的なもので、魂が宿ると昔から言われている。だからあの子が寂しくないように埋めておいたのだ」

「そうか・・・ありがとな」

 ヘカティニスは涙をエプロンでそっと拭う。

「なぁ、ちょっと来てくで」

 ヘカティニスはエプロンを外すと、外に出るようヒジリを誘った。

 ヘカティニスに誘われて裏庭に行くとそこには小さな石の墓があった。

「ここにあの子の亡骸は無いけど、おでは墓を作ったんだ。この墓を作るまではずっと部屋から出ないで泣いてたんだけど、ある日、夢の中にドワイトが出てきたんだ。『あの子は天国に送ったのだから、いつまでも泣くな!みっともない!』って。ドワイトとはあんまり話した事無いから急に夢に現れて、おでびっくりした。で、更にこう言ったんだ。『墓でも作れ。そしたらいつでもお前は子供の魂に触れる事が出来る』ってな」

 その話を聞いて、ヒジリはドワイトに祈った事を思い出した。

「願いを聞き入れてくれたんだな、ドワイト。私はドワイトに祈ったのだ。我が子の魂が安らげる場所に導いてくれと・・・。彼の葬式を挙げねば」

「夢の終わりにこうも言っていた。『それからワシの葬式は挙げるな!恥ずかしいから止めろ!』だって」

「ハハハ!彼らしいな。解った。葬式は止めておこう。その代わりサヴェリフェ家の私の銅像の横に彼の銅像を立てさせてもらうぞ」

「その方がもっと嫌がるもな。ウフフ!」

 ヘカティニスに少し元気が出てきたように思えてヒジリは嬉しくなった。暫く無言が続き、何となくヘカティニスと見つめ合った。タヌキ顔がとても愛おしく見える。

(もう妻だと認めているのだし、キスぐらいしてもいいよな?)

 そう思って顔を近づけたその時。

「マスター、イグナが来てますよ?」

 見計らったようにウメボシが裏口から顔を出してニヤリと笑った。

「解った、すぐに行く」

 変な空気になったのでヘカティニスと向き合ってハハハと笑いヒジリは急いで店の中に戻った。

「おかえり、ヒジリ。皆ヒジリが帰ってきたって言っていたから、きっとここだと思って・・・」

 いつものとんがり帽子とハーフマントは付けておらず、紺色のワンピースにロングソックスだけのイグナは直ぐにヒジリに飛びついてきた。

 飛びついた時にチラリと白いパンツと絶対領域が見えて、酒場にいたロリコンの客達がガタリと立ち上がったが、ヒジリが魔王ヒジリのような顔で睨むと萎れるように座った。

「やぁ、孤児院は楽しかったかい?」

「うん、皆と魔法合戦したりして楽しかった」

 きっとまた魔法の能力が向上しているのだろうな、とヒジリは魔法が目に見えないことを残念に思う。

「そろそろ自分の家を建てようと思うのだが、イグナはどんな家がいい?」

「最近帝国の魔法水晶で放送している愛の魔法戦士ニコラが住むお城みたいなのがいい」

「どんなのだ?」

 イグナはウメボシに頼んで紙とクレヨンを出してもらい、一生懸命絵を描いている。

「こんな感じ」

 そこには粗末な絵があり、お城だと言い張る絵はどう見てもピンクの豚小屋にしか見えず、イグナに絵の才能がない事が解った。

「なるほど、まず素敵な豚小屋を描いたのだな?家畜にも優しさを見せるイグナを私は愛おしく思う」

「違いますよマスター、これはお城です」

 ウメボシは絵を補正しまくって見ているので城に見える。

「ああ、知っていたさ。ふざけただけだ」

 イグナは剥れて腕を組んでそっぽを向いて座っていた。

「わかった、お城みたいな家だな。確かに皇帝が普通の家に住んでいたら威厳がないかもしれないからな。考えておくよ。」

 イグナはニコッと笑ってヒジリに向き直った。

「それから、獣人国の遺跡の場所を知っている」

 イグナは地下図書館で手に入れた地図をヒジリに見せた。

 ヒジリとウメボシは驚き、食い入る様に見つめた。

「これはどこで?」

「地下図書館。地下墓地の先にあって色んな記録があった。でも私が怒りの精霊に飲み込まれてしまった時に全てを焼き払ってしまった・・・ごめんなさい」

「いや、いいんだ。この地図が有るだけでも価値はある。よくやったイグナ!」

 ヒジリがイグナを抱きしめると、更に成長した胸の感触が伝わってきた。小さかったイグナがいつの間にかフランのように大人の体になっているのが解る。

「サヴェリフェ家はほんと早熟だな。そろそろコロネの胸も大きくなってきているのか?」

「ううん、真っ平ら。・・・わー、ヒジリやらしい!じゃあ私孤児院に帰るから。ミミと約束があるの。後で孤児院に寄って」

 イグナは抱きしめられて嬉しかったのか、ヒジリから体を離すと笑いながらアカンベーをして酒場を出ていってしまった。

「可愛くなった。イグナは本当に可愛くなった」

「気が多いですね、マスターは。ツーン」

「ほんとだど。嫁にはびょ、びょ、平等に愛を分け与えるんだど?」

「解っている。家を建てたら妻達には念入りに愛を注ぐさ」

 近くにいたスカーやベンキがニヤニヤしている。

「マスター、今の言い方だと誤解を招きます」

「なんでだ?君達という器に私の愛を注いで欲しくないのか?」

「だから!変な意味に捉えられますよ、マスター」

 ウメボシは顔を真赤にしている。

 そんなウメボシを見てスカーが感慨深そうに話す。

「ウメボシちゃんはほんと綺麗なオーガに転生したな。一つ目のイービルアイから今や皇帝の妻だ。良かったな」

「一つ目の時でもウメボシは殿方を喜ばせる機能は付いておりましたので、あの姿のままでも許可さえ頂ければ、地球に帰ってマスターの子を産む機能を付けれましたよ?ホログラムもアンドロイドも人間も出自が違うだけで交配しようと思えば出来ます。一つ目の時でもマスターと結婚して子を産む可能性はありました」

「うわぁ!またウメボシちゃんが意味不明な事を言い出したぜ!逃げろ!」

 そう言うとスカーは元々外に用事があったのか酒場から出ていってしまった。

 ヒジリはオーガに解るように説明しなかったウメボシに言う。

「オーガに、そんな事言ったってしょうがないじゃないか!」

「急にえ○りかずき様をぶっこんで来ないで下さい、マスター。何故、この星で絶対受けないようなボケをちょくちょく挟んでくるのでしょうか?というか現代の地球でも20世紀のドラマネタでウケる人は中々いませんよ?」

 ハハハとヒジリは笑った。そして実感する。いつもの日常が戻ってきたと。

 邪神は気がかりだが、その時はその時だと思い、考えないことにした。帝国に帰ったら博士を正気に戻して、一緒にこの星の謎を探ろう。そして博士と地球に帰って調査発表をするのだ。地球の人達は博士が帰還したら驚くだろうな、等と考えてコーヒーを啜った。
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