未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(82)

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「それ以上猊下に近づくことはまかりならん!」

 槍を放ったその騎士は駆け寄り法皇フローレスの前に立ちはだかった。

「おお!黒騎士リッター殿!」

 エルは怒りに任せて空間削りのブレスを吐こうとしたが、黒騎士が放った【捕縛】がその口を締め付けて閉じさせた。

「ふん、古龍と言えどまだまだ幼竜。隙が多いわ」

 樹族国ではマジックキャスターの帯刀はご法度だが、黒騎士の国であるロウゼン騎士国ではそのルールはない。鞘から抜いた剣に魔力を込めて、必殺の一撃を古龍の首に振り下ろそうとしたその時。

「止めろ!」

 振り下ろそうとした剣を横から拳で砕いた美形のオーガは古龍の首を抱いて庇う。

「オーガが誰かを庇うなど珍しいな。しかし!」

 ワンドを取り出して詠唱を開始した黒騎士を、シルビィが手を上げて静止する。

「法皇を援護に来た周辺諸国の騎士諸君、私は樹族王国近衛兵団独立部隊の隊長、シルビィ・ウォールだ。おい、黒騎士リッター。そのオーガは我が部下の所有物だ。無闇に攻撃することは許さんぞ」

「なんだ、貴様か。何故樹族国は異端者の味方をする?」

 リッターは何度か主要国の集まる首脳会議でシルビィと顔を合わせ、余興で手合わせをしているので彼女の実力は十分に知っている。なのでここで彼女を怒らせるのは得策ではないと感じ剣をしまった。

 周りの騎士や武将も英雄に名高い黒騎士が鞘を収めた事に驚いてそれに従う。

「どちらに大義があるかを私は知っているからだ。もし聖騎士達に大義がなければ我が樹族国とて味方したりはせん」

「確固たる証拠があると言うわけか」

「勿論だ。各国の最高指揮官の方々にもこれを見ていただきたい。これは我が国の特殊部隊が撮影したものだ」

 集まる武将達にシルビィは魔法水晶を見せた。そこにはヒジリが降臨する姿が映っており集まった武将たちからはどよめきが起こる。

「嘘だ!それは作られた映像だ!」

 フローレスは立ち上がると魔法水晶を叩き落とそうとしたが、シルビィはその手から水晶を守る。

「嘘であるという証拠は有りますか?猊下。直接芝居をする以外、魔法水晶の映像を捏造する事など不可能ですが?どう芝居をすればこのような星の海を作り出す事が出来るのでしょうか?」

「闇魔女の幻惑魔法かなにかだ!」

「猊下・・・それはあまりにも苦しい言い訳かと。幻惑魔法は脳に働きかけて幻覚を見せる魔法。実際、そこに何かがあるわけではないのです。魔法の効かない者の目や魔法水晶には幻は映りません」

 信心深いリッターは木の形をしたペンダントを胸元から取り出して祈った後、シルビィに聞く。

「樹族の神ではないが、確かに魔法水晶に映るはオーガの神!一体誰が降臨させたのだ?シルビィ」

「我が国の英雄子爵の妹、聖騎士見習いフラン・サヴェリフェだ」

「聖騎士見習い・・・だと?!馬鹿な。まだ聖騎士でもない者が・・・?」

「彼女はあの邪神を滅したスター・オーガの傍で多くの時間を過ごしたのだ。奇跡を起こしても不思議ではない」

「それならば、納得だ・・・」

 リッターはフランの前で跪いて手を取りキスをした。

「貴方こそ、真の聖騎士だ。もう聖騎士見習いなどではないでしょう」

 黒騎士は立ち上がり振り向いた。そして集まった武将たちに宣言する。

「私は彼女を信じるぞ!彼女は聖騎士どころか、聖女だ!」

 シルビィは内心「なぬー!」と叫んでイグナを見た。

(本来なら自称聖女の肩書はイグナが貰い、イメージアップする予定だったのに、何だこの展開ーっ!)

 困惑するシルビィをよそにリッターに賛同した武将たちもオーッ!と声を上げて拍手をする。

「では聖女様。法皇に神前審問を・・・」

 エストは跪いてフランに言う。

 が、シルビィが近づいてきてニヤニヤしながらそれを止めた。

「神を呼び出すまでもないぞ、聖騎士エスト殿。おいジュウゾ!」

「ハッ!」

 ジュウゾがシルビィに手渡した魔法水晶には法皇の歪んだ笑みを湛えた顔が映っていた。

 そこには誘拐を指示した話や神を否定し、神の下僕を偽っていた事実が映し出されている。

「これは・・・嵌められたのだ!忠実なる神の僕である私がこんな事を言うわけがないだろうが!」

 フローレスは今一度、魔法水晶を叩き落とそうとしたが今度はシルビィの盾に弾かれて尻餅をつく。

「いい加減になさい!樹族国が貴方を貶めるメリットはどこにもありません」

「しかし、樹族国はヒジリ聖下の関係者が沢山おるだろう。私を蹴落とせば神国を名乗れるじゃないか!」

「聖下の親しい者がいたとしても、宗教国家でない我が国では大規模な話にはなりませんよ。聖下の親しい人は親しい人。ただそれで終わる話です。そもそも我が国の神学庁は貴方の息がかかっておるではありませんか。どちらかというと、我が国もフローレス殿に有利な状態にある」

 シルビィは猊下と呼ばずに名前で呼んだ。これはそろそろフローレスの猊下としての地位が終わりであると示唆しているのだ。

「それに”私を蹴落とせば“という言葉は裏を返せば、聖下と深い関わりのある者を蹴落とせば貴方の地位は盤石なものになると言う事ですよね?聖下と深い関わりのある闇魔女を討伐するように命令したのもそれが理由では?」

 リッターは「闇魔女?」と呟くと眉根を寄せて、それらしき人物を探した。誰よりも濃い闇のオーラを放つ少女が一人だけいるが、その姿は可愛らしいウサギのようであった。

 法王は質問に答えないので、シルビィはリッターが関心を持つ闇魔女の話をする。

「彼女は生まれながらに魔力が高く、光と闇という基本のニ属性のみを持って生まれてきたメイジ。闇魔女自体は二つ名で実際は光魔法も闇魔法も使いこなす。一度見覚えの能力持ち故、聖下と共に行動して闇側へ行った際に否応なしに闇魔法を覚えてしまったのだ。(実際は違うが)故に闇魔法を使用す姿が印象立ち、噂が独り歩きしてしまったのだよ。それに彼女は今や樹族国とは同盟国であるツィガル帝国の民であり、ナンベル皇帝とも親しい。そんな重要な立場にある彼女の討伐命令がシュラス国王陛下の心をどれだけ悩ませたか解かるか?リッター」

 中性的な樹族の平均的な顔にかかる濃い緑色の髪を撫でてオールバックにし、髪と同じ色の瞳で黒騎士はイグナをじっと見た。

「魔力の高い能力持ちの地走り族か・・・。珍しいな。で、猊下は・・・、いやフローレスは・・・」

 敢えて猊下と呼ぶのを止め、呼び捨てにする事で彼はシルビィと同じく既に意思表明をしている。

「自分の権力の足場を固める為に彼女を亡き者にしようとしていたと。もし彼女を殺したならば次は別の関係者を殺るつもりだったのだろう?」

「違う!」

 フーっとため息をついて黒騎士は、脚に縋ってきたフローレスを蹴り離した。

「残念ながらフローレス。君が幾ら違うと言った所でそれを覆す証拠はない。逆に罪の証拠は沢山あるのが現状だ。そこまで違うと言うのであればいっそ神前審問を受けてはどうかね?私は神前で嘘をついた者がどうなるかはこの目で見たことはないので実に興味深いよ。おとぎ話では神の雷に打たれて死ぬるそうだが。そう言えば聖下は雷使いであったな。聖下の拳を受ければ漏れなく雷が体を駆け巡って動けなくなるという話を聞いた事がある。時には灰にもなるそうだぞ?神前審問を受けて体験してみてはどうか?」

 かつて法皇と呼ばれていた男はがっくりと肩を落として何も言わなくなった。それを見たシルビィは頷いて言う。

「決まりだな。法皇を裁けるのは神と神の祝福を受けし者だけ。フラ・・・聖女様、此処へ来て彼に処罰を」

 えっ?私がぁ?という顔でフランはおずおずと元法皇の前に現れた。

「え~っとぉ、じゃあ彼個人の財産を全て没収。彼の悪事に泣いてきた被害者の遺族に分けてあげて。それから彼は沢山の罪のない人を殺しているし、どこかの凍えるような牢獄で終身刑よぉ」

「聞いたか!直ぐにフローレスをレルビシ監獄へ送れ!」

 シルビィの部下が元法皇を【捕縛】で拘束して連れて行こうとすると、終身刑の囚人となったフローレスは恥も外聞もなく泣いて喚いた。

「こんなはずじゃ・・・!言いなりの神が私と地位を守ってくれるはずだったのに!あぉぉぉ!」

 シオは情けない法皇だなーと思いながら彼を見送ると、聖なる杖が喋りだした。

「一体どんな神を作る気だったんだろうなぁ、相棒。また邪神だったら今度こそ世界はお終いだっただろうよ」

「ホントだな。第二子を見る前に世界が終わるなんて寒気がするぜ」

「まぁそれはそれで俺は良いけどな。そうしたらお前らの気持ち悪いチュッチュを見なくて済むからよ?イテ!」

 いつものように杖は放り投げられた。

 広間に繋がる道の向こうから、ジリヒンが手を振ってイグナの元にやって来る。

「やぁ!無事だったようだな!怪我はないかね?」

 イグナは顔を真っ赤にして頷いている。

「私も盗賊と化した傭兵の略奪から近所を守るのに忙しくてね・・・あ、姉上!」

 ジリヒンは聖騎士エストの隣に立って、話しかけたが姉はワナワナと震えて返事はない。姉はフランに何かを頼まれているように見える。

「私が法皇の代わりを?聖女フラン様ではなく?」

 フランは頷く。

「だってこの流れだとぉ、私に法王か聖女をやれって流れになるでしょう?私はそういう柄じゃないのよねぇ。もう少し修行がしたいし(嘘)。それに貴方はちゃんと神としてのヒジリの加護を受けているわぁ。ヒジリの気配がするもの。お願いするわね、エスト」

 震えるエストにジリヒンは囁く。

「是非聖女になってくれたまえ、姉上。そうすれば、姉上が被せた我が家の汚名も払拭される」

 ジリヒンの遠回しにしない合理的な物の言い方にイグナは笑う。

「ヒジリそっくり!」

 諸国の武将たちはフランに法皇の後釜を継いで欲しがったが、エストも神の加護を受けていると知って承知する。

 武将たちが承認して直ぐにどこからともなく声が上がった。

「聖女エスト様万歳!聖騎士フラン様万歳!」

 武将や兵士たちが二人を祝福し拍手をする。こうして後にポルロンドの大裁きと呼ばれる歴史的出来事は、モティ神聖国の混乱を避けるべく聖女エストを擁立し幕を閉じた。




 帰りの馬車の前でイグナは顔を真赤にしてモジモジしながらジリヒンに言う。

「また来ていい?」

「ん?また遊びに来たいのかね?いつでも構わんぞ?」

 姉のエストが弟の頭をバシッと叩いた。

「女に恥をかかすなんて最低だぞ、馬鹿者。イグナ殿は貴様にまた会いに来たいと言っているのだ!」

「それを二人の前で言っちゃう貴方もどうかしらぁ・・・」

 フランは呆れてエストに言うと、エストはコホンと咳払いをした。

 ジリヒンは叩かれた頭を撫でながら笑顔で言う。

「何で私のような冴えないウィザードに好意を寄せてくれるのかはわからんが、凄く嬉しい。是非また来てくれたまえ!何時でも君を歓迎する!」

 そう言ってジリヒンはイグナをハグした。イグナはいよいよ顔から火が飛び出そうになっている。

「恋愛って素敵ねぇ、アナタ」

 馬車の中から赤い瞳が四つ、外の初々しい恋人たちを見つめていた。

「数日前まで、この世のあらん限りの憎しみをカップルに注いでいた君がそれを言うのであるか・・・」

「うるさいわね!今はそうじゃないから良いの!」

「後悔は無いか?」

「うふふ、もう無いわ。だってアタシ、ようやっと素敵な旦那様を手に入れたんですもの!それにこの漲るパワー!吸魔鬼って案外良いものね!」

「飢えた時はきついがな。まぁマナは動物から少しずつ分けて貰えば良かろう。或いは悪人や怪物から存分に吸うか・・・」

「ねぇ、アナタ。触手を繋ぎましょうよ。何だかラブラブな感じがするじゃない?」

 タスネは背中から触手を出すと、何本か出していたダンティラスの触手の一本に触れた。

「おい!その触手はいかんぞ!あふぅ!」

「え?何?」

 タスネはわけも分からずその触手をニギニギする。

「ふぁっ!そ、その一本は・・・ごにょにょ・・・」

「えーー!何でそんなの出してるのよ、変態!馬鹿!」

 タスネは触手でダンティラスを叩くとそっぽを向いた。

「でも夫婦なんだし、そういう事も受け入れないとね・・・」

 タスネは顔を真っ赤にしてぼそっと言う。

 コロネがドアをぶっきらぼうに開けて入ってきて、真っ赤な顔の姉を見て聞く。

「どったの?お姉ちゃん。風邪でも引いたか?吸魔鬼って風邪引くのか?」

 そう言って奥へ乗り込む。フランもエストとハグをしてから乗り込んできてコロネの横に座った。

「お姉ちゃん、顔赤いわよ?」

「煩い」

「じゃあね、ジリヒン!とお姉様・・・」

 イグナは恥ずかしそうにジリヒンとエストに握手をすると、馬車に顔を突っ込んで即座にタスネを見て不愉快な顔をする。

 イグナは姉の頭に浮かんでいたダンティラスとの淫らな想像を【読心】で見てしまったのだ。

「お姉ちゃん、いやらしい」

「ちょ、ちがっ!」

 タスネが言い訳をしようとしたその時、脳に割り込むように古龍の声が聞こえてくる。

 ―――お祖父様の魂を開放して下さり、ありがとうございました皆様。フローレスに止めを刺せなかったのは心残りですが、あっさりと死ぬよりも辛い運命が彼を待ち受けていると知って溜飲を下げました。私はもう何年か過ごした後、この世界を去るかどうか決めたいと思います。本当にありがとうございました。ベンキさん、黒騎士から私を庇ってくれてありがとう。それではさようなら。

 ベンキは「おう」と言って空を見上げると、小さな古龍は雲の隙間に消えていった。

 イグナも古龍を見送った後、今や美形キャラと化したベンキとフランの手を取り転移石を使って転移してしまった。

「何でイグナお姉ちゃんにいやらしいって言われたんだ?タスネお姉ちゃん」

「もう!何でもないの!」

 ダンティラスとタスネはバツの悪そうな顔でそわそわしている。

「それにしてもベンキって眼鏡してないとあんなにイケメンだったなんて知らなかったなぁ・・・」

 頬を押さえてコロネはボンヤリしている。

「気が多いなぁ、コロネは。私はドォスンの方がカッコイイと思うけど」

 タスネはコロネといつも一緒にいる素朴で角の有るオーガを思い浮かべた。

 結局一週間以上、ポルロンドに滞在したタスネとコロネは、長かったような短かったような数日間を思い返しながら窓の外を見た。終わってみれば苦しい出来事よりも、遊んだ事や買い物の事ばかりを思い出すのは地走り族の性質か。

 外ではこれまでに関わりのあった人達が笑顔で手を振っている。

 そして魔法で軽量化された馬車はあっという間に見送る人達を小さくしていった。




 イグナはナンベル孤児院に転送して一旦姉と別れると、ベンキとゴデの街の商店街に来ていた。

「そう言えば、手伝いって何?」

 ベンキは涼し気な目を細めて頬を赤くしている。

 その表情に幾ら気のないイグナでも一瞬ドキッとする。ここまで美形のオーガをイグナは見た事がないからだ。

 ゆっくりとイグナの顔にベンキの美形顔が近づいてくる。

(え?え?)

 イグナはキスされるのかと思い、これが仕事の報酬なら仕方がないと体を固くして構えたがキスは無かった。

 その代わり耳にベンキが消え入りそうな声で手伝いの内容を伝えてきた。

「ゴニョゴニョ」

「それでいいの?解った。じゃあピンクのお城まで来て。私の部屋でやるから。準備して来て」

 一時間後、ピンクのお城のノッカーが鳴る。

 たまたま仕事が休みだったリツとヘカティニスがドアを開けようとしたがイグナが足に【高速移動】をかけてまで二階から降りてきたので二人はキョトンとする。

「いらっしゃい、ベンキ」

「あ、ああ。宜しく」

 二人はそのまま二階のイグナの部屋に消えていった。

「今、ベンキつったか?あのオーガの事」

「ええ、言いましたわね・・・。ベンキって砦の戦士の知恵袋、ベンキの事でしょ?ヘカの方が詳しいと思いますけど」

「ああ・・・。でもあんなに美形じゃなかったはずだど。まぁいっつも瓶底眼鏡してぴっちり七三分けだったから素顔まで知らんけど」



 イグナの部屋では小さなファッションショーが開かれていた。モデルはイグナではなくベンキだが・・。

「どうだ?このピンクのドレス!似合ってるか?」

「う~ん、ベンキはやっぱり白が似合うと思う」

「そうか!じゃあ次!」

 ベンキはガサゴソとカーテンの向こうで着替える。

「これはどうだ?ちょっと露出が多いけど!」

「わわー!不思議と似合ってる、そのキャミソールとホットパンツ!」

「だろ?これは少し自信があったんだ!」

 イグナは少し頬に指を当てて考えてからウンと頷いた。

「いっそ、皆に見てもらったらどう?私はとても似合ってると思うし」

「えっ!でも・・・」

「取り敢えず、ヘカとリツに見せて反応を見てみよう。きっと気にいると思うから」

「そ、そうか?ふふふ。じゃあそうするか」

 実は女装癖のあったベンキはその気になり、キャミソールにホットパンツの姿で一階に降りていくと、扉の近くの椅子でまだベンキの話をしていた二人の前に飛び出した。

 眼鏡のない視力の落ちたベンキには二人の表情は判らない。

「ななななな!何だこの変態は!」

「紛うことなきド変態ですわ!」

「表に出ろ!」

 ヘカのタックルがベンキを吹き飛ばす。玄関がバーンと開いてベンキは、一般人の尺度で変態に見える格好で外へ弾き出された。

 直ぐに人集りが出来て、その中心でベンキはリツとヘカティニスにガスガスと蹴られてみるみる血塗れになっていく。

「【捕縛】!」

 イグナの魔法がヘカティニスとリツを拘束して止める。

「これはベンキの趣味なのに!変態だなんて酷い!ヘカとリツの馬鹿!」

 イグナは怒ってワンドで二人の頬をグリグリと突っつく中、怪我人がいると聞いて近くを歩いていたモシューがヒールポーションを鞄から取り出してベンキに近づいて呻く。

「君はベンキ・・・なのか?占いで見た姿とは少し違うが・・・。確かに血塗れだ・・・。結局、運命は避けられなかったか・・・」

 モシュ―は呆れながらも笑いながらベンキにヒールポーションを渡した。
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