未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(81)

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 神聖国の法皇フローレスはジェイムの使いから報告を聞いて爪を噛んだ。

(傀儡国家の癖に勝手な事を・・・。神を見ただと?馬鹿馬鹿しい。神などいるものか!どうせ、闇魔女の幻術だろう)

「それから星のオーガの聖騎士見習いフランとエストが、グラス王国の商人ギルド長と猊下に神前審問権を発動すると・・・」

 噛んでいた爪から口を離し、その手を拳に変え机を叩いた。

「聖騎士見習い風情が!法皇に対して神前審問をするだと?そんな前例はない。応じる必要もない!」

「しかし・・・それでは、猊下の立場が・・・」

 神殿騎士トリスは三白眼を泳がせながら、ハンカチで額の汗を拭く。その横でジェイムの使いは消え入りそうな声で報告を続ける。

「応じない場合は、最高神ヒジリの名の元に天誅を下すと・・・」

「ふざけるな!情報戦を展開せよ。彼女達を悪魔に乗っ取られた聖騎士として世に広めるのだ!」



 
 ウォール家の寝室で杖は嘔吐したい気分を堪えていた。といっても口はないが・・・。

「おい!オッサン、オバハン!いつまで気持ち悪いチッスしてんだよ!くそったれ!お前ら樹族にしては情熱的過ぎるぞ!ん?おーい、魔法水晶に何か映ってるぞ!」

 テーブルの上の魔法水晶にはモティの僧侶がポルロンドが二人の聖騎士に乗っ取られたと発表をしていた。

 裏で闇魔女が関与している疑いがあると聞いて、シオとシルビィは慌てて魔法水晶の前に走る。

「ななななな、なんだってー!どうしてこうなった!」

 二人はシンクロするように同じセリフを言う。

 と同時に寝室の扉がバーンと開いて、リューロックの見舞いに来ていたシュラスが部屋に入ってきた。

 シルビィもシオも、刺激的な下着姿なのでキャーと喚いてローブを着る。

「恥ずかしがっている場合か!(デュフフフ、眼福眼福!)イグナどころかフランまで悪者にされてしまったぞ!裏側の報告ではポルロンドにヒジリが現れてポルロンド議長を改心させたそうな。傀儡国の議長がまさか宗教大国モティと経済大国グラスに歯向かうとはのう。ヒヒヒ」

「何がそんなに嬉しいんですか?陛下」

 茶色い栗毛を捏ねながら片目を瞑ってドヤ顔をする王をシルビィは訝しがる。

「いや、何ね?裏側が良い仕事してね?ハハッ。我が国はこれより、フランとイグナを支持して支援する!有事に備えて、裏側とシルビィの独立部隊をポルロンドに派遣!さぁさっさと準備するのじゃ!」

「ハッ!」




 グラス王国と神聖国モティの行動は早かった。昨日の今日で北と南の門の前の街道には、国防以外の兵力を全てここに集結させたかのような大軍隊が道を埋め尽くしていた。

「敵は恐らくグレーターゴーレムを差し向けてくるだろう。気を抜くな!」

 指揮を執る神殿騎士のトリスがそう言った傍から、足元の地面が盛り上がりグレーターゴーレムが現れる。

「うあぁぁ!ゴーレムだぁ!」

「うろたえるな!散開して迎え撃て!」

 十メートルの岩の巨体はドッタンバッタンと暴れて軍隊を蹴散らしている。

 何とか暴れるゴーレムから逃げて、振り返るとトリスは毒づく。

「こうなることを予想していなかったのか!無能法皇め!法皇の威光がどこまでも通用すると慢心した結果がこれだ!」

 軍隊に所属する精霊使い達はレッサーゴーレムや他の属性の精霊を呼び出して応戦している。

 その中でも水の精霊ウンディーネの全てを貫く細い水がグレーターゴーレムには効果的だった。少しずつ水が岩を削っているのだ。

「よし!精霊使いはウンディーネを召喚してゴーレムを攻撃せよ!」

 伝令が精霊使いに伝えると、精霊使い達は一斉にウンディーネを召喚師てグレーターゴーレムを攻撃しだした。

 岩の関節部分を水が穿ち、ゴーレムは地響きを立てながら地面に倒れた。

「いいぞ!その調子でウスノロの岩を始末しろ!」

 興奮して調子に乗るトリスだったが、自分の背中に大きな影を感じる。

「ば、馬鹿な・・・。もう一体召喚しただと?南門に配置してグラス王国の軍隊を相手にしているのじゃなかったのか?」

 丸い拳骨は驚いて竦み上がるトリスを叩き潰して地面の染みにしてしまった。

 ダンティラスは南門で待ち構えて、門から入ってくる地走り族をエナジードレインしては放り投げて敵陣地に送り返していた。

「げぷぅ。もうお腹いっぱいである」

「もうちょっと頑張ってよ!ほら、敵の怪物使いが操る鬼イノシシが突進してくるよ!」

 タレ目の中に虚ろな赤い目を見せるダンティラスは、お腹がいっぱいで不味そうな鬼イノシシに苦い顔をする。

「タスネ殿があのイノシシを魅了して敵陣地に突っ込ませたらどうかね?」

「その手があった!」

 タスネは突進してくる鬼イノシシに向かって、手でハートを作って向けるとハートマークがイノシシの額に命中する。敵の怪物使いの魅了効果に打ち勝ち上書きをしたのだ。

 こちらへ直進していた鬼イノシシは大きく回って方向転換をし、敵陣地に突っ込んで暴れまわった。その度に空中に地走り族がワァ!と悲鳴を上げて舞い上がる。

「どうよ?アタシの魅力が敵の怪物使いの魅力を上回ってたのよ?」

「だから前から言っておろう?タスネ殿は魅力的だと」

「も~、ダンティラスったらぁ。あんまり褒めるとその気になっちゃうよ?ふふふ」

 そう言ってダンティラスのお尻を叩くと、ジュッとマナを吸われる。

「こらー!」

「タスネ殿のマナは別腹なのだ。フハハハ!」

 不意にタスネの背後でドスという音がする。

「ヒヒヒ!やったぞ!タスネェ!やってやった!遂に僕は復讐を果たした!牢獄から逃げてきた甲斐があったよ!この日の為にずっと君を観察していたんだよ?ハハハ!」

 ポルロンドの兵士のショートソードがタスネの革鎧ごと貫いていた。

「そんな、その声は・・・ホッフ・・・カハッ!」

 どこで手に入れたのかホッフは転移石を使って直ぐに消えてしまった。

「タスネ!!タスネ!!おのれ、どうやって我が【読心】を掻い潜ったのか!」

 常に警戒していたはずなのに、あっという間にタスネは致命傷を負わされてしまった。
 
 ダンティラスは怒りを堪えながら、触手で壁を作りタスネを守る。

 急に吸魔鬼が動かなくなった事でグラス王国の騎士は城門を突破して侵入してきた。

 ポルロンドの兵士たちはそれを迎え撃つ。

 あちこちで剣戟の音が聞こえる中、ダンティラスはタスネを抱きしめて胸に刺さった剣を引き抜くべきかどうか迷っていた。

「まだ息はある・・・。しかし、剣を抜けば出血多量で死ぬ。このままでもいずれは・・・。どうすればいいのか・・・。ええい!吾輩が回復魔法の一つでも覚えていれば・・・。フランや僧侶のもとに運ぶまでに彼女は息絶える・・・」

 血を吐きながらタスネは朦朧とする意識の中、涙を浮かべて最期の言葉をダンティラスに伝えようとしていた。

「ハァハァ・・・。結局恋人の一人も出来なかったよ・・・。ふふっ」

「それが最期の言葉でいいのか?気をしっかり持て!馬鹿者!」

「アタシが死んだらフランに・・・フランにサヴェリフェ家を継がせて・・・ゴフッ!」

 そう言うと血を吐いてタスネは徐々に命の炎を小さくしていった。見る見る顔に生気が無くなっていく。

 最初はシルビィの命令でタスネと行動を共にする事の多かったダンティラスだったが、任務を遂行する毎に彼女に情が移っていき、今では好意すら抱いていた。その彼女が今死にかけている。

「駄目だ!このままタスネを死なせてしまっては、永久の生から開放された時にヒジリ陛下に顔向けができん。もうこの方法しかないのである!」

 そう言ってダンティラスはタスネの口にキスをした。

 黒い何かがダンティラスの口からタスネの体に入っていくのを確認して、彼は剣をゆっくり引き抜いた。

 剣を引き抜いた傷口から黒くうねる小さな触手が現れて、それは見る間に傷を塞いでいく。

「あれ?アタシ、死んだんじゃ・・・?」

 何事もなかったようにスッと目を開けたタスネの白目の部分は黒い何かが蠢いていた。

「すまぬ、タスネ。これしか君を生き延びさせる方法が無かったのだ・・・。君は吾輩の眷属となってしまった・・・」

 タスネは少しショックを受けた後、覚悟を決めたのか、泣きながらも微笑んでダンティラスに言った。

「ねぇ、ダンティラス。アタシ、吸魔鬼になっちゃったんだったら、もう普通の人生は送れないよ・・・。だからアタシをお嫁さんに貰ってくれる?」

「うむ、責任は取ろう。お主が滅ぶその時までずっと傍にいようぞ」

 そう言ってダンティラスは少し悲しい顔でタスネをギュッと抱きしめた。




 法皇は肉人形と呼ぶ星のオーガの紛い物と見慣れぬ老人を率いて、ジェイムやイグナ達のいる街の広間に転移してきた。

「いやぁ、諸君」

 ジェイムはバツが悪そうに法皇を見る。

「気にしなくてもいいよ、ジェイム君。この騒動のツケは直ぐにでも払ってもらうからね」

 ジェイムは法皇をよく知っている。自分同様、臆病で勝ち目がない勝負はしない。こうやってここに現れたのも絶対的な勝利を確信しているからだ。冷や汗が頬を伝う。

「猊下、そちらの御人は?」

 ジェイムがそう聞いた横で、エルが叫ぶ。

「お祖父様!あぁ!酷い!お祖父様を不死の化け物に変えるなんて!」

 白髪に白い髭の紳士といった感じの精悍な老人は孫の声は聞こえていないようだ。

「折角、寿命で死んだ古龍の亡骸で私が望む神を作ろうとしたんだがねぇ。その時間を君達は与えてくれなかった。この騒動を沈め、ポルロンドを取り返す為に彼を不死にしたのさ。実に勿体無い!全ては君達のせいだよ」

 イグナはいきなり、【闇の炎】を法皇の体に発生させようとしたが肉人形がフローレスを庇って魔法を打ち消す。

「見よう見真似の紛い物の星のオーガとは言え、聖下のように魔法を打ち消す能力はあるのだよ。まぁ完璧ではないがね。この紛い物を作るのにどれだけ新鮮な死体が必要だったか」

 それを聞いたベンキが落ち着いた声で言う。

「ミト湖近くの移民村で村人を攫っていたのも、お前の仕業だったってわけか」

「自分の国でやれば、足がつく可能性があるからな。外国でやるのが一番だ」

 エストは黒いミドルヘアーをフワッと逆立てて怒る。

「クズが!それでも聖職者か!慈愛の心や信仰心はどこにやった?神はお前を見ているぞ!」

「ハッ!神ねぇ。神なんているのか?」

「貴様!ヒジリ様の奇跡を見ていなかったのか!」

「あれが奇跡?きっと大掛かりな魔法か何かだ。大体、神がいるなら邪神なんて現れる前に消し去っていただろう?それにどうして世界は富む者と貧しい者がいて争いが絶えないんだ?神は何故助けてくれない?」

「そ、それは・・・」

「結局、この世界は我々の手で築いていくしかないのだ。そして神を信じる者がいるならその夢を見させてやればいい。私は信者に素敵な夢を見させてやっているのだ。お前たちはその夢見を邪魔する異端者に過ぎない」

「それは押し付けがましいエゴだ!」

「そのエゴを!君もそこのの聖騎士見習いに押し付けていたんじゃないかね?報告書にはそのようなやり取りがあったと書いてあったぞ?」

「クッ・・・!」

「所詮はエゴの押し付け合いなのだよ、この世は。さぁお喋りは此処までだ。処刑を開始しよう!」

 エルの祖父の体がメキメキと膨れ上がる。スター・オーガの紛い物と同じく意思のないアンデッドは「ああああ」と叫び声を上げて、エルダードラゴン・ゾンビに姿を変えた。

「お祖父様!おのれぇ!」

 エルも古龍に姿を変える。口を開けてカッ!という音がしたかと思うと、空間を丸く削る古龍のブレスは法皇を削り取ったように見えた。

「ハハハ!いつまでも無防備なままでいるものか。」

 体を削ったはずの法皇の体が揺らいで消えた。幻影である。

「さぁ私は安全な場所で高みの見物をさせてもらうよ。行け、下僕達よ!」

 肉人形はベンキ目掛けて真っ直ぐに殴りかかってきた。その後ろでドラゴンゾンビは毒の息を吐こうと喉奥を膨らませている。

「【魔法障壁】!」

「【状態異常障壁】!」

 イグナはベンキに魔法を阻害する呪文を付与し、フランは状態異常を防ぐ魔法を付与した。

「エルさん!お爺ちゃんの口をそのブレスで削ってくれ!」

 コロネが指示を出すも、エルは首を振る。

「同族にはこのブレスは効きません・・・。私は法皇を探します!」

 エルは空中を飛んで法皇を探している。アンデッドとはいえ扱いにくいドラゴンを使役するには必ず近くにいなければならないからだ。

 ベンキは猛毒のブレスの直撃を受けたが何とか毒の効果から免れた。

「危なかった」

 ホッとするその顔に、肉人形の重い拳の一撃が飛んでくるも拳ではじき返す。

「俺は砦の戦士の中じゃあまり強いほうじゃない。だからヒジリ、俺に力を貸してくれ!」

 だが、祈りを込めたヒジリのグローブで肉人形に殴り掛かるも全て回避されてしまった。頼りにしていた光の玉も現れない。

(くぅ!どうやったら出るんだ?あの玉は・・・ぐわっ!)

 肉人形の体当たりでベンキは吹き飛ぶと同時に眼鏡が地面に落ち、割れる音がした。

 ベンキの視界は水の中のように歪み、頭にピッタリと押し付けていた髪がほぐれて顔にかかった。

 なんとかして視界を確保しようと考えるベンキに向かって、どこからか法皇の茶化すような声が聞こえてくる。

「ほほぅ?オーガにしてはかなりの美形じゃないか。眼鏡が無い方が良かったんじゃないかね?」

 瓶底眼鏡の無くなった顔からは暑苦しいオーガとは思えないほどの涼し気な目が現れ、何とか肉人形を見ようと眉間に皺を寄せて視点を合わせようとしている。

 ベンキを援護するように、後方からイグナの【光玉】が飛ぶ。

「肉人形に魔法はほぼ無駄だと言っただろう?」

 確かに【光玉】はかき消されたが、魔法の中に重なるように飛んでいたコロネの麻痺毒の吹き矢は命中した。

 ベンキは立ち上がり、ぼやける視界の中で麻痺毒にふらつく肉人形に今一度拳を叩きつけた。

 今度はグローブが上手く作動して、無数の光の玉が現れて光線を放ち肉人形を貫いた。
 
 肉人形は悲鳴を上げること無く、光の粒子となって消える。

「ほぉ?中々やるじゃないかね?貴重な肉人形を倒すとは請求額は大きいぞ?」

 何処からともなく聞こえる法皇の声にエストは苛立つ。

「いい加減姿を見せろ、卑怯者め!私と一騎打ちをしたらどうだ!」

「断るよ。なんのメリットもないのでね。そんな事より、ほらドラゴンゾンビが尻尾で君達を薙ぎ払おうとしているぞ?」

 エストとフラン目掛けて巨大な尻尾の一撃が地面を這うように襲い掛かってきた。

「守りの盾!」

 フランはそう言うと大盾を尻尾に向けて防御の構えを取った。

 幾らスキルを発動したとはいえ、物理法則に従えばここまで重量のある巨大な尻尾を塞ぎきれるわけはない。しかし、フランは見事耐えきり尻尾を止める。

「どう?エリートオーガから盗み取った私の防御術!」

「この戦いが終わったら、私も真似させてもらおう!」

 エストはメイスに聖なる力を帯びさせる。尻尾に殴り掛かると殴った場所が弾け飛び、腐肉が飛び散った。

 イグナはエストの攻撃がヒットする度に古龍の闇のオーラが弱まっているのに気がついた。

「お姉ちゃん、【聖なる付与】でエストさんみたいに殴ってみて!」

「了解!」

 フランはメイスに聖なる力を帯びさせると、エストと同じように尻尾に殴りかかった。

 死に損ないの古龍もそうはさせまいと巨大な手で二人を叩き潰そうと振り下ろす。フランもエストも防御が間に合わない。

「魔力妖斬糸!」

 振り下ろそうとした竜の手が微塵切りとなってボタボタと地面に落ちた。

 空中から煙と共に紺色の装束を着た軽戦士達が現れる。

 イグナは見覚えのあるその姿に声を上げた。

「ジュウゾ!」

「裏側の長、ジュウゾ!ここに見参!」

 何処からともなく飛んできた大きな火球が古龍の顔に命中して焼く。

「何とか間に合ったか。グラス王国を説得するのに手間取って来るのが遅れた」

 シルビィがシオと共に部隊を率いて現れた。

「グォォォ!」

 古龍は手を失って激怒し、辺り一面にランダムに全属性の魔法を乱れ撃った。

 うちの一つ、【衝撃の塊】がコロネを襲う。

「危ないコロネ!」

 建物の陰からタスネの声が聞こえたと思うと、触手がコロネに向かう魔法を遮った。触手は魔法を防ぐと同時に千切れ飛ぶ。

「大丈夫?」

 ダンティラスと共に現れた姉を見て、コロネもイグナも驚く。

「お姉ちゃん・・・・その目・・・」

「話は後よ!行くよ!ダンティラス!」

「承知」

 二人が背中から伸ばした触手は古龍を縛り付けて動きを封じた。

 フラン達の攻撃で、古龍の魔法を遮るオーラは徐々に消えていく。

「タスネお姉ちゃん、私が魔法を撃ったら触手を離して!」

「解った」

 イグナの魔力がどんどんと高まる。マナの渦がイグナを取り巻く。

(ヒジリ!この可哀想な古龍を光の向こうに導いて!)

「【光の柱】」

 イグナが魔法を放ったと同時にタスネは古龍を離した。

 拘束から逃れた古龍は息をためて毒のブレスを吐こうとしたが、光の柱が何本も古龍を貫く。

「お祖父様・・・・」

 エルは光の柱で串刺しにされていく祖父の上を旋回しながら涙をこぼして見守った。

 ―――人の子よ、感謝する

 光に消え行く古龍は、皆の頭に直接言葉を響かせ感謝を述べた。

 エルは視界の端で、【姿隠し】の効果が途切れた法皇を見つけて急降下する。

「お前の所為でぇぇぇぇぇ!」

 ひぃぃ!と声を上げて逃げようとする法皇へ牙を向けてエルは襲いかかった。

 あと少しで牙が法皇を貫くというところで、何者かが放った槍がそれを遮る。

 フローレスは白いローブに黄色い染みを作りながらへたり込む。

「ハハハ!来た!近隣諸国に根回ししておいて正解だったな!お前らはもう終わりだ!」

 槍は法皇が周辺諸国に呼びかけて集まってきた援軍の放ったものであった。
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