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禁断の箱庭と融合する前の世界(90)
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「陛下はバートラに向けて鉄騎士団と暗黒騎士団を派兵したぜ」
樹族国の晩餐会に神の子として参加する準備を控え室でしていたヤイバとワロティニスにドリャップが報告をしに来た。
樹族国との国境付近の街道で襲い掛かってきた鉄傀儡の報告を魔法水晶で聞いたナンベル皇帝が迅速に行動を起こしたのだ。
「ナンベル陛下はいつも初動が早いから、驚きはしないが・・・本当にヴャーンズさんは反乱を起こしたのだろうか?」
化粧台の前に座り、樹族の召使に髪を櫛で梳いてもらっているヤイバは強く引っ張られて痛みに顔を歪ませる。
神が鉄傀儡を調べて得た情報を未だに信じようとしない友人にドリャップは問う。
「なんだ?お前はマサムネ様の言葉を疑うのか?」
「そうじゃないけど・・・。あの優しかったヴャーンズさんが反乱を起こす理由が僕には判らないんだ」
「優しいだと?ヴャーンズ様・・・いや、敢えて呼び捨てにさせてもらう。ヴャーンズは敵対者に対して割りと冷酷無比なほうだったぞ。バートラに対しても長年酷い施政をしていたしな。お前は神の子だから特別扱いしてもらえたんだと思うぜ?」
「でもバートラ以外の内政は優れていたとナンベル陛下から聞いた事がある。それは民のことを思う優しさがあったからじゃないかな?」
「まぁ人の心は時間と共に変わっていくものさ・・・。それに奴はもうすぐ寿命が尽きるらしいしな。死に際に大きな花火を打ち上げてやろうと考えているのかもしれねぇぞ?あまり敵に感情移入するなよ。後々辛くなる。もしかしたら、次の派兵でお前がヴャーンズの首を取る事になるかもしれんし。覚悟はしておけよ?」
「あぁ・・・」
そこで会話は途切れた。樹族の召使いのいる前で国の内情を長々と話すわけにはいかないからだ。
黙って腕組みをし、壁に寄りかかっていたドリャップは同じ部屋にいる白いドレスを着たワロティニスに見とれている。彼女もヤイバと同じく黒い髪を何度も梳かれて痛そうな顔をしていた。
「お前さ・・・あんな可愛い妹がいるのに何で今まで紹介してくれなかったんだよ・・・」
「彼女の母親は、死の竜巻ヘカティニスだぞ?リザード戦役で、うちの団長と組んで活躍したのを知っているだろう?それに祖父は雪原砦の将軍ゴールキだ。あの二人をねじ伏せないと恐らくワロは嫁には来てはくれないのじゃないかな?(勿論僕をも凌駕する男じゃないと駄目だけどね)」
「ナっ!?いきなり俺の心を折るなよな。リザード戦役か・・・。あの戦いは凄かったな。帝国軍が不慣れな沼地での戦いで手こずっていたら、いきなり敵陣地に団長と死の竜巻と闇魔女が現れてあっというまにトカゲの武将達を討ち取ったんだもんなぁ。当時ガキだった俺は魔法水晶で戦いを見て感動して震えたもんさ」
「ああ、先輩から聞いたんだが、ナンベル陛下は”考えに考えた最高の作戦や、練度を高めた兵があまり使われずに無駄になった!キュッキュー!“と怒り笑いしてたらしいよ。僕は素直に喜ぶべきだとは思ったけど、陛下にとっちゃ自分の見知らぬところで勝手に動かれたのだから腹立たしく思ったのだろうね。まぁでも、母上もヘカ母さんもイグナ母さんもお咎めは無く報奨金を頂いたそうだ」
ドリャップは苦手なナンベル皇帝の道化師メイクを思い出してブルッと震えた。あの道化師はたまに目だけで人を殺しそうな雰囲気を出すのだ。
「なんか皇帝陛下の顔を思い出したら気分が萎えた。警護任務に戻るわ・・・」
「君ってやつは・・・。ナンベル陛下のお陰で鉄騎士団に入れたのに、酷い言いようだな。持ち場に早く戻った方が良いな。ゴリ・・・マー隊長にどやされるぞ」
ドリャップは隊長にチクるなよとヤイバを指差しながら部屋から出ていった。しかし前を見ていなかったので三メートルもない扉枠の上部で頭を打ち、悪態をつく声が廊下に響き渡る。
悪態の内容も「扉をもっとガバガバ○ンコみたいにしておけ!」というあまりにも下品なものだったので部屋中の召使達が怪訝な顔をした。
「(あいつ・・・)すみません、皆さん。帝国では随分と前に貴族制度が廃止になったので、どこの職場にも色んな層の者がいるのです。粗野な者も元貴族も・・・」
召使といえ王宮で働く彼らも上位の貴族である。品のない者には良い顔をしない。
貴族に気を使って言い訳をするヤイバに、召使たちはお気の毒にという顔をして肩を竦めた。
着付けの終わったワロティニスは今までの成り行きを見ていなかったのか、気まずい空気を無視して嬉しそうにその場で一回転して満面の笑みをヤイバに向けた。
「何だかお姫様みたい!お兄ちゃん、そろそろ時間だし行こう?」
先程悪態をついて出ていったオーガと違い、嬉しそうに喜ぶ無邪気なワロティニスを見て召使いたちもニッコリと笑う。
「(あぁぁぁぁぁぁ!可愛いー!ワロちゃんが世界で一番可愛い!)そうだな、行こうか」
ヤイバは帝国の正装であるコートのような黒い制服を着ている。
「お兄ちゃん、凄く悪役っぽい・・・。絵草紙とかに出てくるラスボス一歩手前に出てくる副官みたいだよ」
「それは褒めてるのかどうか判らないな・・・。ラスボスじゃなくて副官ってのも微妙だし(それにその役はカワー・バンガーに相応しいと思うんだが)」
悪の副官と聞いて、いつも自分をライバル視してくる冷たい悪人面のカワ―を思い浮かべた。
「えっ?悪の総帥の横に立つ副官はかっこいいよ!褒め言葉だから!」
「そうなのか・・・。ありがとうと言っておくかな。さぁ行こう」
ヤイバは妹の手を取ると召使に先導してもらい晩餐会の間まで向かった。
「ふわぁ~眠たくなってきたよ」
長かったシュラス王の挨拶の言葉も終わり、身を犠牲にして世界を救ったヒジリへの黙祷が終わった瞬間、コロネはダンティラスの横で欠伸を噛み殺しながらそう言った。
「不敬である」
ダンティラスは片眉を上げたタレ目で義理の妹を睨む。
「だって挨拶とか長過ぎなんだもん。温かい内にこの豪華な料理を食べたいっつーの」
そう言ってコロネは摘み食いをしようとした。
「こら!コロネ!」
ダンティラスを挟んだ向こう側からタスネが、行儀の悪いコロネの手を黒い触手で叩いたので近くに居た召使がギョッとする。
「痛っ!あ!さり気なくマナを吸った!」
「あんたねぇ、いい歳していつまで子供みたいな事してんの!少しは大人しくしてなさい!」
「はぁい」
はぁいとは言ったが姉に向かって憎たらしい変顔をして少しばかりの抵抗をコロネはしている。
壇上の魔法拡声器からシルビィのハスキーで明るい声が聞こえてきた。
「我らが神と世界に乾杯!」
「乾杯!」
コロネはやっとだよと言わんばかりに、目の前のローストチキンレッグを手に取り貪り始めた。
その横を人々は通り過ぎ、こぞってマサムネとハルコに挨拶に行く。
「神へお目通りが叶うチャンスはもう無いらしいぞ。あと数週間で星の国に返ってしまうそうだ」
「神にご挨拶が出来るなんて・・・。私は感動で前が見えない!」
「そりゃ前は見えまいて。カツラがずれて目を塞いでいるからな」
樹族たちは列に並んでいると、神学庁の僧侶たちが勝手に仕切りだした。
「神に失礼のないようにお願いしますよ皆さん」
「ふん、星のオーガの盾である聖騎士フラン様が神の横に立って仕切るならまだしもな・・・」
神学庁の僧侶たちは人気がない。横柄で傲慢で貴族よりも鼻持ちがならないからだ。貴族たちは聞こえるように僧侶に愚痴るが、僧侶たちは無視している。
フランはマサムネの横に立って仕切っているのかと思いきや、神への挨拶が終わった貴族の男達に囲まれてニコニコと笑顔で対応している。
「フランさんはどこでも大人気だな」
暇を持て余していたヤイバは防御術の師匠であるフランを見て微笑む。
ヤイバとワロティニスのもとへも挨拶に来る貴族は多かったが、やはり相手は子供なので軽い挨拶だけで終わる。
その二人の前に赤い髪をした兄妹が現れた。その後ろを小さなイービルアイがフヨフヨと飛んで来てこちらを警戒し、一つ目で睨みつけてくる。
「いやぁ!久しぶりですヌリさん。ルビーもシオさんそっくりになってきたね」
「何年ぶりかな?」
そう言ってシオにそっくりなルビーはヤイバにジャンプして抱きついた。
ヤイバがそれを抱いて受け止めると、横にいたワロティニスの顔が見る見る曇り、兄に肘鉄を食らわす。
「やっぱりオーガはおっきい~」
そう言ってヤイバの肩の上から辺りを見渡す活発な妹とは対称的に兄のヌリはニッコリと微笑んで無口だ。
「ヌリさん相変わらず無口で大人しいですね」
久しぶりの再開にヤイバはシルビィの息子にハグをしようとしたが、ヌリの手前でフォースシールドに弾かれた。
「コラッ!コウメ!彼は貴方の言うところの大マスターの息子でしょうが!透明の壁を解除なさい!」
ルビーがそう言うも素っ気ない機械の声が返ってくる。
「マスターの命令以外は聞きません」
ヌリがボソボソとコウメに命令するとフォースシールドは解かれ、ヌリは自分の倍ぐらいはありそうな身長のヤイバの脚に軽くハグをした。
「久しぶりだな、ヤイバ君。随分と立派になった。ワロティニスちゃんもとても美人になった」
ヌリが小さな声で挨拶をしていると彼の頭上へ何者かの杖が振り下ろされる。
「もっと腹から声を出せよ、ヌリ」
シオの振り下ろした杖は勿論コウメのフォースシールドで防がれるが、見えない壁に弾かれたインテリジェンススタッフは文句を言う。
「防がれるの解ってて殴るなよ。痛てぇのは俺だけだろうが」
「うるせぇ。お前みたいな馬鹿杖は殴打武器として使う以外、使い道が無いんだよ。ありがたく思え」
シオは女のような顔の鼻に皺を寄せ歯を剥いて杖に威嚇する。そしてまた綺麗な顔に戻してヤイバたちに笑顔を向けた。
「すまねぇな。息子は昔から声も小さいし、人見知りも激しい。うちの死んだ爺ちゃんそっくりなんだわ。久しぶりだな!ヤイバ」
シオはヤイバの顔を見てヒジリを思い出し、娘が既に抱きついているにも関わらず嬉しそうに飛びついて抱きついた。
「ちょっとお父さん、ヤイバが迷惑がってるよ!私みたいな美人ならまだしも、オバサンみたいなオジサンに飛びつかれたら絶対迷惑だって!」
「言ったな!ルビー!」
シオはヤイバに抱かれたままルビーをくすぐり始めた。
「ちょっとお父さん!キャハハハ!」
ルビーは堪らなくなってヤイバの体から飛び降りて逃げていく。それをシオが追いかけて二人共どこかへと行ってしまった。
ヌリも「それでは」と言い残し、二人を追いかけて行く。
「ハハハ!・・・父親って良いな、ワロ・・・」
「うん、お父さんが生きていたら、私達もああやってふざけ合ったりしたのかな・・・」
少ししんみりしてしまい、ヤイバは手をパンと叩くと空気を変えた。
「さてと、警備任務をしているドリャップにここの料理を持っていく約束をしていたんだった。ちょっと抜け出して渡してくる」
「じゃあ私も行く!」
ヤイバはその辺にいた召使にドギーバッグを用意させ、適当に料理を詰め込んで、中庭を警備しているマー隊の皆のもとへと向かった。
「ぐあぁぁ!」
中庭に野太いオーガの悲鳴が走る。
「ドリャップだ!あれはドリャップの悲鳴だ!」
ヤイバとワロティニスは顔を見合わすと急いで悲鳴のあった場所まで走る。
うつ伏せで倒れるドリャップを抱き起こし、けがの程度を観察する。どうも背後から頭を殴られたのか後頭部から血を流していた。
「何があった!ドリャップ!」
「ノ、ノームの魔法傀儡だ。恐らくヴャーンズの刺客だろう。今、裏側の連中が後を追いかけて行った!つい先程のことだからまだ近くにいると思う。急いで追え!」
「しかし・・・」
「俺の事は心配いらん、上空から襲撃されてちょっとばかし脳震盪を起こしただけだ。少し休めば治る。先にいけ!」
「解った」
鉄騎士団が警備を担当する場所から侵入を許したとなれば、帝国の恥となる。ヤイバは何としても魔法傀儡を食い止めねばと、ありとあらゆる補助魔法を自分にかけた。
「その辺に潜んでいるかも知れない。気をつけるんだぞ、ワロティニス」
ヤイバはワロティニスにも同様に、丁寧に丹念に複数の補助魔法をかけている。
「うん・・・」
魔法をかけ終え、二人して少し進むと庭の花壇に何者かが潜む気配を感じた。
ヤイバはすぐに【魔法探知】で【透明化】をした魔法傀儡のマナを確認する。
「そこだ!【捕縛】!」
見えない糸が魔法傀儡を縛ろうとしたが、魔法傀儡には有効では無かったのかレジストされてしまう。
「くそ!」
しかし、どこにいたのか裏側はその様子を見て花壇に魔法傀儡が潜むと知り、手裏剣を投げた。
手裏剣は魔法傀儡の木のような金属のような硬い体にダメージは与えなかったが魔法傀儡の【透明化】の効果を消した。
樹族ほどの背丈の球体人形の顔には大きな穴が空いており、その穴を通して夜の闇を向こう側に映し出していた。
魔法傀儡は四つん這いになってシャカシャカと滑らかに動き回り、顔の穴の中央へエネルギーを溜めて光線を放ってきた。
ヤイバ達は何とか躱すと、反撃を試みる。
裏側達は手裏剣を投げ、ヤイバは得意の【氷の槍】を撃つ。
が、全ての攻撃は何も無い空中でお互いぶつかり合って地面に落ちた。
「なんて跳躍力だ」
魔法傀儡は高くジャンプしてそれらの攻撃を躱していたのだ。
大きな満月に浮かぶ傀儡の黒い影は顔に空いた穴にビームエネルギーを充填させ光らせる。
しかし、その攻撃はこちらを狙ってではない。
「魔法傀儡はどこを狙って・・・!!晩餐会の広間か!」
「させないよーー!」
ヤイバよりも一瞬早く動いたワロティニスは勢い良く走ると高くジャンプして、エネルギーを充填させながら落下してくる魔法傀儡の腹にドロップキックを蹴り込んだ。
戦闘経験が浅いとはいえ格闘家に特化したワロティニスの蹴りは重く、魔法傀儡は体をくの字に折る。
マサムネやハルコのいる広間を狙っていたはずの魔法傀儡の顔はワロティニスを向いており強力な光線がワロティニスを包みこもうとしていた。
「ウワァァ!ワロが・・・!間に合ってくれ!守りの盾!」
光線の光に包まれるワロティニスの真下まで走って近づき、守りの盾を発動させたヤイバは涙目で父親に祈る。
(父上!どうか妹を・・・ワロを守ってください!守りの盾の効果が彼女に届きますように!)
眩い光が消えると・・・そこには無残なドレスの切れ端が舞っており、燃えながらヒラヒラと目の前に落ちてくる。
「そんな・・・・。ワロが消し飛んだ・・・。焼けたドレスの切れ端だけを残して・・・」
膝をついて崩れ落ちるヤイバの頭の中でブチンと何かが音を立てて切れる。
神の子の制服の下で筋肉が膨れ上がった。顔をどす黒くして怒り狂うヤイバは立ち上がると、目に見えない程の素早い蹴りで魔法傀儡の頭部を蹴り壊す。
「貴様ぁぁぁぁ!!よくも!よくもワロティニスを!」
感情を捨てたはずの裏側達は怒り狂うヤイバの異様な姿を見てブルっと身震いした。恐怖という感情は判断力と動きを鈍らせるので、真っ先に訓練で捨てさせられるにもかかわらず。その捨てたはずの感情を呼び戻す神の子に裏側の隊員達は畏怖の念を抱いた。
ガシャンと音を立てて胴体だけとなった球体人形は地面を何度も転がり塀にぶつかって動かなくなった。
「許さない!ゆるさないゆるさないゆるさない!」
壊れて動かなくなった魔法傀儡に追い打ちをかけようとしたヤイバに向けてどこからか声がする。
「お兄ちゃ~~ん」
ヤイバは涙を拭いた。
「くそ!悲しみのあまり幻聴が聞こえる・・」
「お兄ちゃんってば~~!」
近くの茂みからヒョコっと顔だけを出したワロティニスがこちらを見ているのだ。
裏側の何人かはヤイバの体から怒りの精霊が弾かれたのを見た。妹の生存に喜んだ神の子は瞬時に体から怒りの精霊を追いだしたのだ。
(短時間で狂戦士化を解いた・・・だと?)
怒りの精霊に精神を支配されて狂戦士化すると自力で元に戻るには結構な時間が掛かるはずだが、と裏側達は首を捻っている。
ヤイバが茂みに近づこうとすると、ワロティニスは激しくそれを拒否した。
「だめ!来ちゃだめぇ~~!さっきの攻撃でドレスが・・・」
しかしヤイバは止まらない。茂みに飛び込むと妹を抱きしめてから怪我の具合を確かめた。
(ん?いつもよりすべすべしてて柔らかい・・・)
抱きしめた妹は素っ裸だったのだ。うわぁ!と驚きつつもマジマジと妹の裸を見つめる。
白くて綺麗な肌。大きすぎず小さすぎず丁度いい大きさの美乳。引き締まった大きなお尻。そして不毛の下腹部。
(あばばばばばばっあばばばばばばっあばばばば!!)
心の中でオーガダンスを踊って暴れるもう一人の自分を何とか制して、ヤイバは制服を脱いで妹に被せた。
「私の体・・・見たの?お兄ちゃん・・・」
自分の裸を見たのかとジト目で睨んでくる妹にヤイバは爽やかな笑顔で答える。
「見るわけないだろ。というかお兄ちゃんは夜目が効かない事を知ってるだろ?能力上昇系の常駐魔法をかけると魔法の眼鏡は何故か効果を失うんだ(嘘)」
「ほっ!良かった。でも・・・お兄ちゃんになら見られてもよかったんだけど・・・」
―――お兄ちゃんになら見られても良かったけど、お兄ちゃんになら見られたい、お兄ちゃんとHしたい・・―――
どんどんと膨らむ妄想をなんとか歯を食いしばって押さえ込み、努めて冷静な顔をして妹の肩を抱いた。
「ほら、急いで着替えに行こう。それにしても何とか敵を水際で食い止められて良かった・・・。鉄騎士団の警護があったのに敵の侵入を防げませんでしたって事になったら、帝国の大失態になるからね」
「うん、ホント良かった!」
「それにしてもドリャップのやつ・・・油断しすぎだ!全く・・・。怒りで体が熱いよ」
と、警戒を怠った友人を怒るふりをして自分の顔が赤いのを誤魔化し、ヤイバは制服越しに伝わってくるワロティニスの体温を堪能しながら部屋まで送った。
樹族国の晩餐会に神の子として参加する準備を控え室でしていたヤイバとワロティニスにドリャップが報告をしに来た。
樹族国との国境付近の街道で襲い掛かってきた鉄傀儡の報告を魔法水晶で聞いたナンベル皇帝が迅速に行動を起こしたのだ。
「ナンベル陛下はいつも初動が早いから、驚きはしないが・・・本当にヴャーンズさんは反乱を起こしたのだろうか?」
化粧台の前に座り、樹族の召使に髪を櫛で梳いてもらっているヤイバは強く引っ張られて痛みに顔を歪ませる。
神が鉄傀儡を調べて得た情報を未だに信じようとしない友人にドリャップは問う。
「なんだ?お前はマサムネ様の言葉を疑うのか?」
「そうじゃないけど・・・。あの優しかったヴャーンズさんが反乱を起こす理由が僕には判らないんだ」
「優しいだと?ヴャーンズ様・・・いや、敢えて呼び捨てにさせてもらう。ヴャーンズは敵対者に対して割りと冷酷無比なほうだったぞ。バートラに対しても長年酷い施政をしていたしな。お前は神の子だから特別扱いしてもらえたんだと思うぜ?」
「でもバートラ以外の内政は優れていたとナンベル陛下から聞いた事がある。それは民のことを思う優しさがあったからじゃないかな?」
「まぁ人の心は時間と共に変わっていくものさ・・・。それに奴はもうすぐ寿命が尽きるらしいしな。死に際に大きな花火を打ち上げてやろうと考えているのかもしれねぇぞ?あまり敵に感情移入するなよ。後々辛くなる。もしかしたら、次の派兵でお前がヴャーンズの首を取る事になるかもしれんし。覚悟はしておけよ?」
「あぁ・・・」
そこで会話は途切れた。樹族の召使いのいる前で国の内情を長々と話すわけにはいかないからだ。
黙って腕組みをし、壁に寄りかかっていたドリャップは同じ部屋にいる白いドレスを着たワロティニスに見とれている。彼女もヤイバと同じく黒い髪を何度も梳かれて痛そうな顔をしていた。
「お前さ・・・あんな可愛い妹がいるのに何で今まで紹介してくれなかったんだよ・・・」
「彼女の母親は、死の竜巻ヘカティニスだぞ?リザード戦役で、うちの団長と組んで活躍したのを知っているだろう?それに祖父は雪原砦の将軍ゴールキだ。あの二人をねじ伏せないと恐らくワロは嫁には来てはくれないのじゃないかな?(勿論僕をも凌駕する男じゃないと駄目だけどね)」
「ナっ!?いきなり俺の心を折るなよな。リザード戦役か・・・。あの戦いは凄かったな。帝国軍が不慣れな沼地での戦いで手こずっていたら、いきなり敵陣地に団長と死の竜巻と闇魔女が現れてあっというまにトカゲの武将達を討ち取ったんだもんなぁ。当時ガキだった俺は魔法水晶で戦いを見て感動して震えたもんさ」
「ああ、先輩から聞いたんだが、ナンベル陛下は”考えに考えた最高の作戦や、練度を高めた兵があまり使われずに無駄になった!キュッキュー!“と怒り笑いしてたらしいよ。僕は素直に喜ぶべきだとは思ったけど、陛下にとっちゃ自分の見知らぬところで勝手に動かれたのだから腹立たしく思ったのだろうね。まぁでも、母上もヘカ母さんもイグナ母さんもお咎めは無く報奨金を頂いたそうだ」
ドリャップは苦手なナンベル皇帝の道化師メイクを思い出してブルッと震えた。あの道化師はたまに目だけで人を殺しそうな雰囲気を出すのだ。
「なんか皇帝陛下の顔を思い出したら気分が萎えた。警護任務に戻るわ・・・」
「君ってやつは・・・。ナンベル陛下のお陰で鉄騎士団に入れたのに、酷い言いようだな。持ち場に早く戻った方が良いな。ゴリ・・・マー隊長にどやされるぞ」
ドリャップは隊長にチクるなよとヤイバを指差しながら部屋から出ていった。しかし前を見ていなかったので三メートルもない扉枠の上部で頭を打ち、悪態をつく声が廊下に響き渡る。
悪態の内容も「扉をもっとガバガバ○ンコみたいにしておけ!」というあまりにも下品なものだったので部屋中の召使達が怪訝な顔をした。
「(あいつ・・・)すみません、皆さん。帝国では随分と前に貴族制度が廃止になったので、どこの職場にも色んな層の者がいるのです。粗野な者も元貴族も・・・」
召使といえ王宮で働く彼らも上位の貴族である。品のない者には良い顔をしない。
貴族に気を使って言い訳をするヤイバに、召使たちはお気の毒にという顔をして肩を竦めた。
着付けの終わったワロティニスは今までの成り行きを見ていなかったのか、気まずい空気を無視して嬉しそうにその場で一回転して満面の笑みをヤイバに向けた。
「何だかお姫様みたい!お兄ちゃん、そろそろ時間だし行こう?」
先程悪態をついて出ていったオーガと違い、嬉しそうに喜ぶ無邪気なワロティニスを見て召使いたちもニッコリと笑う。
「(あぁぁぁぁぁぁ!可愛いー!ワロちゃんが世界で一番可愛い!)そうだな、行こうか」
ヤイバは帝国の正装であるコートのような黒い制服を着ている。
「お兄ちゃん、凄く悪役っぽい・・・。絵草紙とかに出てくるラスボス一歩手前に出てくる副官みたいだよ」
「それは褒めてるのかどうか判らないな・・・。ラスボスじゃなくて副官ってのも微妙だし(それにその役はカワー・バンガーに相応しいと思うんだが)」
悪の副官と聞いて、いつも自分をライバル視してくる冷たい悪人面のカワ―を思い浮かべた。
「えっ?悪の総帥の横に立つ副官はかっこいいよ!褒め言葉だから!」
「そうなのか・・・。ありがとうと言っておくかな。さぁ行こう」
ヤイバは妹の手を取ると召使に先導してもらい晩餐会の間まで向かった。
「ふわぁ~眠たくなってきたよ」
長かったシュラス王の挨拶の言葉も終わり、身を犠牲にして世界を救ったヒジリへの黙祷が終わった瞬間、コロネはダンティラスの横で欠伸を噛み殺しながらそう言った。
「不敬である」
ダンティラスは片眉を上げたタレ目で義理の妹を睨む。
「だって挨拶とか長過ぎなんだもん。温かい内にこの豪華な料理を食べたいっつーの」
そう言ってコロネは摘み食いをしようとした。
「こら!コロネ!」
ダンティラスを挟んだ向こう側からタスネが、行儀の悪いコロネの手を黒い触手で叩いたので近くに居た召使がギョッとする。
「痛っ!あ!さり気なくマナを吸った!」
「あんたねぇ、いい歳していつまで子供みたいな事してんの!少しは大人しくしてなさい!」
「はぁい」
はぁいとは言ったが姉に向かって憎たらしい変顔をして少しばかりの抵抗をコロネはしている。
壇上の魔法拡声器からシルビィのハスキーで明るい声が聞こえてきた。
「我らが神と世界に乾杯!」
「乾杯!」
コロネはやっとだよと言わんばかりに、目の前のローストチキンレッグを手に取り貪り始めた。
その横を人々は通り過ぎ、こぞってマサムネとハルコに挨拶に行く。
「神へお目通りが叶うチャンスはもう無いらしいぞ。あと数週間で星の国に返ってしまうそうだ」
「神にご挨拶が出来るなんて・・・。私は感動で前が見えない!」
「そりゃ前は見えまいて。カツラがずれて目を塞いでいるからな」
樹族たちは列に並んでいると、神学庁の僧侶たちが勝手に仕切りだした。
「神に失礼のないようにお願いしますよ皆さん」
「ふん、星のオーガの盾である聖騎士フラン様が神の横に立って仕切るならまだしもな・・・」
神学庁の僧侶たちは人気がない。横柄で傲慢で貴族よりも鼻持ちがならないからだ。貴族たちは聞こえるように僧侶に愚痴るが、僧侶たちは無視している。
フランはマサムネの横に立って仕切っているのかと思いきや、神への挨拶が終わった貴族の男達に囲まれてニコニコと笑顔で対応している。
「フランさんはどこでも大人気だな」
暇を持て余していたヤイバは防御術の師匠であるフランを見て微笑む。
ヤイバとワロティニスのもとへも挨拶に来る貴族は多かったが、やはり相手は子供なので軽い挨拶だけで終わる。
その二人の前に赤い髪をした兄妹が現れた。その後ろを小さなイービルアイがフヨフヨと飛んで来てこちらを警戒し、一つ目で睨みつけてくる。
「いやぁ!久しぶりですヌリさん。ルビーもシオさんそっくりになってきたね」
「何年ぶりかな?」
そう言ってシオにそっくりなルビーはヤイバにジャンプして抱きついた。
ヤイバがそれを抱いて受け止めると、横にいたワロティニスの顔が見る見る曇り、兄に肘鉄を食らわす。
「やっぱりオーガはおっきい~」
そう言ってヤイバの肩の上から辺りを見渡す活発な妹とは対称的に兄のヌリはニッコリと微笑んで無口だ。
「ヌリさん相変わらず無口で大人しいですね」
久しぶりの再開にヤイバはシルビィの息子にハグをしようとしたが、ヌリの手前でフォースシールドに弾かれた。
「コラッ!コウメ!彼は貴方の言うところの大マスターの息子でしょうが!透明の壁を解除なさい!」
ルビーがそう言うも素っ気ない機械の声が返ってくる。
「マスターの命令以外は聞きません」
ヌリがボソボソとコウメに命令するとフォースシールドは解かれ、ヌリは自分の倍ぐらいはありそうな身長のヤイバの脚に軽くハグをした。
「久しぶりだな、ヤイバ君。随分と立派になった。ワロティニスちゃんもとても美人になった」
ヌリが小さな声で挨拶をしていると彼の頭上へ何者かの杖が振り下ろされる。
「もっと腹から声を出せよ、ヌリ」
シオの振り下ろした杖は勿論コウメのフォースシールドで防がれるが、見えない壁に弾かれたインテリジェンススタッフは文句を言う。
「防がれるの解ってて殴るなよ。痛てぇのは俺だけだろうが」
「うるせぇ。お前みたいな馬鹿杖は殴打武器として使う以外、使い道が無いんだよ。ありがたく思え」
シオは女のような顔の鼻に皺を寄せ歯を剥いて杖に威嚇する。そしてまた綺麗な顔に戻してヤイバたちに笑顔を向けた。
「すまねぇな。息子は昔から声も小さいし、人見知りも激しい。うちの死んだ爺ちゃんそっくりなんだわ。久しぶりだな!ヤイバ」
シオはヤイバの顔を見てヒジリを思い出し、娘が既に抱きついているにも関わらず嬉しそうに飛びついて抱きついた。
「ちょっとお父さん、ヤイバが迷惑がってるよ!私みたいな美人ならまだしも、オバサンみたいなオジサンに飛びつかれたら絶対迷惑だって!」
「言ったな!ルビー!」
シオはヤイバに抱かれたままルビーをくすぐり始めた。
「ちょっとお父さん!キャハハハ!」
ルビーは堪らなくなってヤイバの体から飛び降りて逃げていく。それをシオが追いかけて二人共どこかへと行ってしまった。
ヌリも「それでは」と言い残し、二人を追いかけて行く。
「ハハハ!・・・父親って良いな、ワロ・・・」
「うん、お父さんが生きていたら、私達もああやってふざけ合ったりしたのかな・・・」
少ししんみりしてしまい、ヤイバは手をパンと叩くと空気を変えた。
「さてと、警備任務をしているドリャップにここの料理を持っていく約束をしていたんだった。ちょっと抜け出して渡してくる」
「じゃあ私も行く!」
ヤイバはその辺にいた召使にドギーバッグを用意させ、適当に料理を詰め込んで、中庭を警備しているマー隊の皆のもとへと向かった。
「ぐあぁぁ!」
中庭に野太いオーガの悲鳴が走る。
「ドリャップだ!あれはドリャップの悲鳴だ!」
ヤイバとワロティニスは顔を見合わすと急いで悲鳴のあった場所まで走る。
うつ伏せで倒れるドリャップを抱き起こし、けがの程度を観察する。どうも背後から頭を殴られたのか後頭部から血を流していた。
「何があった!ドリャップ!」
「ノ、ノームの魔法傀儡だ。恐らくヴャーンズの刺客だろう。今、裏側の連中が後を追いかけて行った!つい先程のことだからまだ近くにいると思う。急いで追え!」
「しかし・・・」
「俺の事は心配いらん、上空から襲撃されてちょっとばかし脳震盪を起こしただけだ。少し休めば治る。先にいけ!」
「解った」
鉄騎士団が警備を担当する場所から侵入を許したとなれば、帝国の恥となる。ヤイバは何としても魔法傀儡を食い止めねばと、ありとあらゆる補助魔法を自分にかけた。
「その辺に潜んでいるかも知れない。気をつけるんだぞ、ワロティニス」
ヤイバはワロティニスにも同様に、丁寧に丹念に複数の補助魔法をかけている。
「うん・・・」
魔法をかけ終え、二人して少し進むと庭の花壇に何者かが潜む気配を感じた。
ヤイバはすぐに【魔法探知】で【透明化】をした魔法傀儡のマナを確認する。
「そこだ!【捕縛】!」
見えない糸が魔法傀儡を縛ろうとしたが、魔法傀儡には有効では無かったのかレジストされてしまう。
「くそ!」
しかし、どこにいたのか裏側はその様子を見て花壇に魔法傀儡が潜むと知り、手裏剣を投げた。
手裏剣は魔法傀儡の木のような金属のような硬い体にダメージは与えなかったが魔法傀儡の【透明化】の効果を消した。
樹族ほどの背丈の球体人形の顔には大きな穴が空いており、その穴を通して夜の闇を向こう側に映し出していた。
魔法傀儡は四つん這いになってシャカシャカと滑らかに動き回り、顔の穴の中央へエネルギーを溜めて光線を放ってきた。
ヤイバ達は何とか躱すと、反撃を試みる。
裏側達は手裏剣を投げ、ヤイバは得意の【氷の槍】を撃つ。
が、全ての攻撃は何も無い空中でお互いぶつかり合って地面に落ちた。
「なんて跳躍力だ」
魔法傀儡は高くジャンプしてそれらの攻撃を躱していたのだ。
大きな満月に浮かぶ傀儡の黒い影は顔に空いた穴にビームエネルギーを充填させ光らせる。
しかし、その攻撃はこちらを狙ってではない。
「魔法傀儡はどこを狙って・・・!!晩餐会の広間か!」
「させないよーー!」
ヤイバよりも一瞬早く動いたワロティニスは勢い良く走ると高くジャンプして、エネルギーを充填させながら落下してくる魔法傀儡の腹にドロップキックを蹴り込んだ。
戦闘経験が浅いとはいえ格闘家に特化したワロティニスの蹴りは重く、魔法傀儡は体をくの字に折る。
マサムネやハルコのいる広間を狙っていたはずの魔法傀儡の顔はワロティニスを向いており強力な光線がワロティニスを包みこもうとしていた。
「ウワァァ!ワロが・・・!間に合ってくれ!守りの盾!」
光線の光に包まれるワロティニスの真下まで走って近づき、守りの盾を発動させたヤイバは涙目で父親に祈る。
(父上!どうか妹を・・・ワロを守ってください!守りの盾の効果が彼女に届きますように!)
眩い光が消えると・・・そこには無残なドレスの切れ端が舞っており、燃えながらヒラヒラと目の前に落ちてくる。
「そんな・・・・。ワロが消し飛んだ・・・。焼けたドレスの切れ端だけを残して・・・」
膝をついて崩れ落ちるヤイバの頭の中でブチンと何かが音を立てて切れる。
神の子の制服の下で筋肉が膨れ上がった。顔をどす黒くして怒り狂うヤイバは立ち上がると、目に見えない程の素早い蹴りで魔法傀儡の頭部を蹴り壊す。
「貴様ぁぁぁぁ!!よくも!よくもワロティニスを!」
感情を捨てたはずの裏側達は怒り狂うヤイバの異様な姿を見てブルっと身震いした。恐怖という感情は判断力と動きを鈍らせるので、真っ先に訓練で捨てさせられるにもかかわらず。その捨てたはずの感情を呼び戻す神の子に裏側の隊員達は畏怖の念を抱いた。
ガシャンと音を立てて胴体だけとなった球体人形は地面を何度も転がり塀にぶつかって動かなくなった。
「許さない!ゆるさないゆるさないゆるさない!」
壊れて動かなくなった魔法傀儡に追い打ちをかけようとしたヤイバに向けてどこからか声がする。
「お兄ちゃ~~ん」
ヤイバは涙を拭いた。
「くそ!悲しみのあまり幻聴が聞こえる・・」
「お兄ちゃんってば~~!」
近くの茂みからヒョコっと顔だけを出したワロティニスがこちらを見ているのだ。
裏側の何人かはヤイバの体から怒りの精霊が弾かれたのを見た。妹の生存に喜んだ神の子は瞬時に体から怒りの精霊を追いだしたのだ。
(短時間で狂戦士化を解いた・・・だと?)
怒りの精霊に精神を支配されて狂戦士化すると自力で元に戻るには結構な時間が掛かるはずだが、と裏側達は首を捻っている。
ヤイバが茂みに近づこうとすると、ワロティニスは激しくそれを拒否した。
「だめ!来ちゃだめぇ~~!さっきの攻撃でドレスが・・・」
しかしヤイバは止まらない。茂みに飛び込むと妹を抱きしめてから怪我の具合を確かめた。
(ん?いつもよりすべすべしてて柔らかい・・・)
抱きしめた妹は素っ裸だったのだ。うわぁ!と驚きつつもマジマジと妹の裸を見つめる。
白くて綺麗な肌。大きすぎず小さすぎず丁度いい大きさの美乳。引き締まった大きなお尻。そして不毛の下腹部。
(あばばばばばばっあばばばばばばっあばばばば!!)
心の中でオーガダンスを踊って暴れるもう一人の自分を何とか制して、ヤイバは制服を脱いで妹に被せた。
「私の体・・・見たの?お兄ちゃん・・・」
自分の裸を見たのかとジト目で睨んでくる妹にヤイバは爽やかな笑顔で答える。
「見るわけないだろ。というかお兄ちゃんは夜目が効かない事を知ってるだろ?能力上昇系の常駐魔法をかけると魔法の眼鏡は何故か効果を失うんだ(嘘)」
「ほっ!良かった。でも・・・お兄ちゃんになら見られてもよかったんだけど・・・」
―――お兄ちゃんになら見られても良かったけど、お兄ちゃんになら見られたい、お兄ちゃんとHしたい・・―――
どんどんと膨らむ妄想をなんとか歯を食いしばって押さえ込み、努めて冷静な顔をして妹の肩を抱いた。
「ほら、急いで着替えに行こう。それにしても何とか敵を水際で食い止められて良かった・・・。鉄騎士団の警護があったのに敵の侵入を防げませんでしたって事になったら、帝国の大失態になるからね」
「うん、ホント良かった!」
「それにしてもドリャップのやつ・・・油断しすぎだ!全く・・・。怒りで体が熱いよ」
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