未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(104)

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 異世界から帰還してから数日後の休日。

 ヤイバがいつものようにツィガル城の食堂で朝食をとっていると、ドリャップや他の同期のオーガ達が同じテーブルにやって来る。

「おい、城の図書館でお前の異世界での記録が閲覧出来るようになっていたぞ。鏡の近くにあった魔法水晶が記録していたみたいだ」

 ドリャップは黄色い髪を後ろに流してから、ポットからコーヒーをカップに入れて啜った。ヤイバの父がゴブリンに作らせて広めたコーヒー豆は帝国でも珍重されており飛ぶように売れている。飲むと活力が漲ると言われたり媚薬効果があると評判なのだ。

「おまへ、すげへな。怒りの精霊に憑依されかけていたとはいえ、ブラックドラゴンを一撃だひょ!一撃!」

 出っ歯のナクールが空気の抜けるような喋り方をして興奮してヤイバに話しかけてきた。周りの仲間もいつも何歩も先を行くマー隊のエースに悔しさを滲ませながらも、神の子だからと自分を納得させて諦めて頷く。

 ドリャップは何かを思い出しながらパンを齧る。

「サンダードラゴンを一人で倒した事で有名な砦の戦士のドォスンさんもすげぇがよ、それよりも数段すげぇ偉業だぞ。二つ名が楽しみだな?ヤイバ」

 オーガの中でも一際大きいウドッホがモゴモゴと喋る。

「い、いくらお前の親父が神様だからってブラックドラゴンを一撃なんて普通じゃないな。ヒジリ様もブラックドラゴンには手こずったと話できいたぞ。因みにその時、ナンベル皇帝陛下はブラックドラゴン相手に魔法を使い果たして気絶していたという」

 パンケーキと分厚いベーコンをなるべく等しく切り分けたヤイバは満足な顔をして、その一切れをフォークに突き刺して食べる。

「まぁ殆ど怒りの精霊の力みたいなものだし、僕の手柄と言っていいものかどうか・・・。それにしても誰が鏡から怪物玉を投げ入れたのだろうか?ブラックドラゴンを罠に嵌めて玉に封じ込めるなんて相当の力量と慎重さがないと出来ない。よくよく考えたらあのブラックドラゴンだってそこまで悪い奴じゃなかったな。怒って暴れていただけで・・・。殺すべきではなかった・・・」

 基本的に彼らの守る宝に手出しさえしなければ、ドラゴンは話の通じる相手なのだ。説得できたかもしれないブラックドラゴンを怒りに任せて殺してしまった事を後悔するヤイバにドリャップが声を潜めて答える。

「先輩のガードナイトの話じゃ、コウモリが鏡の近くを飛んでいたらしい。小さなコウモリみたいなもんはたまに迷い込んでくるから誰も気にしなかったって言ってたけど、多分それだな」

「コウモリか・・・。となると悪魔の類いか吸魔鬼か・・・」

「吸魔鬼は除外しとけ。何故なら、あの強力な化け物がそんな小間使いみたいな事はしないだろうからな。あいつら誰かの指示で動くような化け物じゃないからよ」

(タスネさんやダンティラスさんを見ていると、吸魔鬼ってそこまで怖い存在には思えないけど・・・)

 そうぼんやりと考える横でヤイバの友人は遠くに座るカワー・バンガーが視界に入ったのか睨んだ。

 バンガーはいつもの如く不遜な態度で一人で黙々と朝食を取っており、ドリャップの視線には気がついていない。

「証拠はないんだ、仲間をそんな目で見るのはやめろドリャップ」

「なんでだ?俺はあいつがブラックドラゴンを異世界に送った黒幕だと考えるのが妥当だと思うけどな。どんな手を使ってでもフーリー家を倒すって言っていただろ」

 露骨に疑いの目を向ける友人をたしなめてからヤイバもカワーを見る。皆にキノコ頭をバカにされた所為か今は髪をオールバックにしている。冷たい悪人顔と相まって、やはり魔法の副官のような貫禄がある。

「さっさと尻尾出さねぇかな、アイツ・・・」

 ドリャップはいつも貧民出身である事をカワーに馬鹿にされているので彼を嫌っている。

「カワーはそんな奴じゃないと思うが。森の巨人の時も勇敢に盾役をこなしていたじゃないか。幾ら僕達がエリート種だとは言え、あの大きな巨人相手に臆さずに冷静に戦える者はそうそういない。いつムロさんとビコノカミみたいにぺしゃんこにされるか判らないのに・・・。それにわざわざ僕に宣戦布告する必要なんてあったか?黙って僕を陥れれば済む話だろ?もしここ最近の不可解な出来事がカワーの仕業なら、逆にあからさま過ぎて笑ってしまうレベルだよ」

「だからやるのさ。裏の裏ってやつで、お前にそう思わせるのが奴の作戦なんだろ。お前を除けばアイツの知能は同期の中じゃずば抜けているからな」

「とにかく、僕はこの目で決定的な証拠を見ない限り誰も疑うつもりはない。もうこの話は止めよう」

「カァー!お人好しのバカチンが!」

 ドリャップは額に手をやって呆れる。しかし、親友はもうこれ以上この話をしたくなさそうだったのでそれ以上は話さなかった。

 二人の話が一区切り付いて黙って食事をしていると、勢いよく食堂の扉が開いて黒髪のエプロンドレスを着たオーガの女の子が入ってきた。

「ヤイバーーッ!」

 泣きながらヤイバに駆け寄ってくるマサヨシを見てエリートオーガ達がどよめく。

「誰だ?あの可愛い子は?」

「危険な男の園に動じずに入って来るんだからヤイバの妹だろ?」

「最も女好きのガス先輩がいなくて良かったな」

 オーガは肉食男子が多く、恋愛に対しても積極的だ。その肉食男子達の好奇の目がマサヨシ改めマサヨに降り注ぐ中、彼女はヤイバの腕に抱きついた。

「お金貸してーー!」

 プーンと酒の匂いが漂ってくる。

「うわぁ!臭い!抱きつかないで下さい、マサヨシさん!お風呂には入りましたか?」

「入ってないけど?そんな事よりお金貸してくれよぉ!金貨一枚でいいから!」

「何ですか、急に」

「夜中に酒場で見知らぬ奴らとカードゲームしてたらさぁ、あれよあれよという間にお金が無くなったんだ!不思議!」

「そうでしょうね・・・。酒場にいる連中は貴方のようなカモを待ち構えているでしょうから」

「え!イカサマだったってことか?!そんなぁ~。なんとかしてよ、ド○えも~ん!」

「僕の名前はヤイバですよ?誰です?ド○えもんって」

「門の前に借金取りが待ち構えているんだよぉ~。俺は顔パスだから城に入れたけど、あいつらは城の外でずっと待ってるんだよぉ!我輩を助けるナリよぉ~!キテ○ツ~!」

「金貨一枚でいいんですね?マサヨシさんは結構お金持ってたはずですよね?・・・ハァ。全部持っていかれるとは・・・。あの世界の人達は詐欺やイカサマに疎いのですかね?」

「うん、日本人は犯罪に対して無防備だから外国人のカモにされ易い。金貨一枚でいいよ!それで借金は無くなる!」

「僕への借金はありますけどね・・・はい!」

 そう言ってヤイバは小袋から金貨一枚を出してヤイバに渡すとマサヨは走って食堂から出ていった。

「力こそ全ての掟通り、いっそ借金取りをねじ伏せてしまえばいいのにな?あの可愛子ちゃんは弱いのか?」

 ドリャップは少し軽蔑するようにそう言う。昔ほどでは無くなったが、やはり力弱き者を蔑む習慣が残っているのだ。

「マサヨシさんはああ見えても星のオーガだぞ?それに彼・・・彼女は召喚師だ。戦闘が苦手なんだよ。でも召喚師としては潜在能力がかなりあるんじゃないかって噂だ。異世界にいた僕達を一気に呼び寄せたのだからね。何よりも魔法をほぼほぼレジストしてしまうのは強みじゃないか」

「お前の妹もそうだったな。あの厄介な魔法が効かないなんて羨ましい限りだぜ」

 ズバーン!とまた扉が開いて、マサヨが泣きながら走ってきた。

「ヤイバー!借金払ったらお金がスッカラカンだよぉ!宿屋にも止まれないし、ご飯も食べれない!」

「その心配事は真っ先に思いつく話でしょう・・・」

 だったらよ、とドリャップが言う。

「兵舎に泊まればいい。飯も食堂で余ったのを貰えばいい」

「ほんと?いいんでつか?」

 マサヨはドリャップの腕に抱きついた。デヘヘヘとドリャップは鼻の下を伸ばしている。

「まぁその提案で良いのなら僕は止めませんよ。毎晩皆の慰み者になっても知りませんけどね」

「えっ?」

 いやらしい目で値踏みするように体を見てくるドリャップにヒッ!と後ずさりしてマサヨは言う。

「け、ケダモノ!ヤイバ~~!何とかしてよぉ~、ヤイバ~~!」

 ハァーと溜息をついてヤイバは立ち上がり、食器を洗い場まで持っていくと当然のように洗いだした。本来ならそれは給仕ゴブリンの仕事だが、ゴブリンは特に気にした様子もない。

 ヤイバは念入りに洗い残しが無いかを調べた後、食器をピカピカに拭いて棚にしまう。よく見ると食器やスプーン等にはヤイバと名前が書かれている。

 その間、マサヨはヤイバの後ろをウロウロしており「ヤイバヤイバ」と煩い。

「もう!わかりましたよ!じゃあ今から樹族国のコロネさんに会いに行きましょう。あの人、珍妙だけど高値で売れる物を見つけるのが上手らしいですし」

「やった!ありがとうヤイバ!」

 そう言ってマサヨはヤイバに耳を貸せというポーズを取った。

 ヤイバは何だろうかと体を屈めると、酒臭い息と同時にマサヨの唇がヤイバの頬に当たった。キスをしたのだ。

「嬉しかろう?可愛い子のチッスは嬉しかろう?」

「オゲゲーーーッ!」

 ヤイバは調理場で間髪入れず容赦なく吐いた。

「ちょ!おま!俺のチッスで吐くってなんだよ!失礼にも程があるだろうが!え!」

「だって・・・マサヨシさんは歯も磨いてないでしょう?おぷっ!」

「い、一応今は女なんだぞ!恥をかかすなよ!あほ!」

 食堂から鉄騎士達の笑い声が聞こえてくる。

 マサヨシは笑い声の中下唇を噛んで鼻に皺を寄せた。

(お、覚えてろ!絶対女らしさを身に着けて見返してやっからな。あいつらが土下座してやらせて下さいつっても絶対やらせてやんねぇ)






「あら?貴方、こないだのヒジリのご両親のさよならパーティで騒いでた子よね?」

 赤い瞳が初対面に近いマサヨに話題の取っ掛かりを求めてこちらを見つめてくる。

「は、はひ。あの時は煩くしてすみません」

「いいのよ、そんなに緊張しないで。私は吸魔鬼だけど人は襲わないから」

(別の件で緊張してんだよぉ~!アホがッ!)

 タスネの横に座ってニヤニヤとしてこちらを見ているコロネにマサヨはイラッとする。

(何ニヤニヤしてんだ?まさかばらすつもりかぁ?)

 タスネはマサヨの横で青い顔をして座るヤイバを見て心配した。

「どうしたの?ヤイバ。気分でも悪いの?」

「いえ、なんでも・・・」

 マサヨがヤイバをキッと睨みつけて腕を組んだ。

「ヤイバは俺にチッスされてゲーゲー吐いたんだよ!失礼過ぎるだろ!」

 ヤイバ達が出掛けしなに、偶然バッタリと出会ってついて来たワロティニスが瞬時に憤怒して兄の首を絞める。

「ど~いうこと~?お兄ちゃん!マサヨシ・・・マサヨにキスされたの?」

「不意打ちでキスされたんだよっ!そしたらお酒の臭いと胃液の臭いが漂ってきて・・・ウプッ!」

 それを聞いたワロティニスはマサヨシを睨み付ける。

「お兄ちゃんは潔癖症なんだよ?汚い口でキスなんかしたらそりゃ吐くよ!」

「そんな事知らねぇYO!」

 コロネは「情けないなぁ、ヤイバは」と言ってため息を付き、腰の小袋から吐き気を取り除く薬草をヤイバに渡した。

「その薬草を噛んでごらんよ。吐き気が一気に無くなるから」

「有難うございますコロネさん」

 ヤイバは薬草の表面を丹念に拭いてから口に含むとモシャモシャと咀嚼して飲み込んだ。

「あ!馬鹿!飲み込んだらダメだぞ!噛むだけなのに!それ食べると地走り族なら淫靡薬になるんだけど!」

 それを聞いたワロティニスは黙って兄を見つめた。私だけに発情しろ!私にだけに!と念じるも兄は平気な顔をしている。

「それは地走り族の話でしょ?僕はオーガだから効かないと思いますよ。でも吐き気が治まりました!有難うございます、コロネさん!」

「どういたしまして」

 あちこちの秘境や遺跡を冒険するレンジャーだけあって、コロネは錬金術師程でも無いにしろ薬学に詳しい。なので薬草を常に揃えている。

 冒険者ではないヤイバは憧れと尊敬の眼差しでコロネを見ていると、その視線に気付いたのか碧眼がヤイバを捉える。

「惚れたか?ん?ん?結婚してやってもいいぞ?」

「し、しません」

 ヤイバに抱き着こうと立ち上がったコロネの頭を触手で叩いてタスネは神の子二人に訪ねた。

「ところで今日は遊びに来ただけじゃないんでしょ?」

「はい。実は彼・・彼女が酒場でイカサマに遭ってお金を騙し取られてしまいましてね。そこでサヴェリフェ家で一番の稼ぎ頭のコロネさんに、お金稼ぎ出来るダンジョンか遺跡の場所でも聞こうと思ってやって来たのです。マサヨさんには異世界から救いだしてくれた恩があるので、どうしてもその恩を返したいのです」

「え?ヤイバは異世界に行っていたの?」

 タスネとコロネは驚き、興味深そうに体を前に傾けて座り直した。

「フランさんから聞いて無いのですか?」

「フランは最近サヴェリフェ家に顔を見せてないから。イグナと二人でピンクのお城に篭りっきりよ。ヒジリを復活させるとか夢みたいな事言って何かしてる。何千年と生きているダンティラスに聞いたけど、神を実体化させる方法なんて聞いた事が無いってさー」

「そんな事より異世界はどんな所だったんだ?」

 探検がなによりも好きなコロネは目をビー玉の如く輝かせる。

「(父上の復活をそんな事って・・・。嗚呼、気になる・・・。フランさんもイグナ母さんもどうやって父上を復活させるのだろうか・・・)異世界の田舎はこっちの世界とあまり変わりがなかったですが、都会は凄かったですね。隠者の大魔法使いが住処にする塔よりも高い建物が沢山並んでいて、人もアルケディアの倍以上はいました。何よりも食べ物が凄く美味しかったです。味が複雑で深みが有ると言うか・・・」

 コロネが不貞腐れたような顔をした。

「いいなー。私も行きたかったなぁ~。美味しい食べ物、いいな~」

「他にも馬のいない鉄の馬車や遠くの人と簡単に会話が出来るアイテムとか・・・。僕も本当はもう少し居たかったです」

「そう言えば、キャンディーなら向こうで話しかけてきた人から何個か貰ったよ」

 ワロティニスは腰の小袋からバラバラとキャンディーを出してテーブルに置いた。

「うお!貰っていい?」

「どうぞ~」

 そう言ってコロネはキャンディーを頬張った。

「ギャー!口の中が弾ける!」

 マサヨは口を押さえてのドタバタするコロネを見てゲラゲラと笑った。

「ただのパチパチキャンディーだろ?間抜けな顔してらぁ」

「どれどれ~?」

 タスネもキャンディーをポイっと口に放り込んだ。

 最初は驚いた顔をしていたが、急に笑ったかと思うと今度は泣き始めたのでワロティニスとヤイバは慌てて駆け寄った。

「どうしたんですか?タスネさん!不味かったのですか?」

「ううん、この飴のパチパチした感じでヒジリとウメボシが初めてアタシに炭酸ジュースを飲ませてくれた時の事を思い出して・・・。凄くいたずらっぽい顔でアタシやシルビィにジュースを勧めてたわ。シルビィなんて炭酸ジュースを酸と間違えて口の中が溶けてるって大騒ぎしてさ・・・。その時の顔が凄く間抜けだったの。だから笑ったのよ。泣いたのはヒジリ達の事を懐かしんだから。歳を取った証拠ね。ごめんなさいね、心配させちゃって」

 ヤイバもワロティニスも自分たちの知らない父親の話で頬が緩む。

 と、同時にヤイバは心がズキリと痛んだ。自分たちは彼の子供のなのに父親の事をあまり知らないからだ。

 母親に聞いてもあまり話してくれない。知ることが出来るのは図書館の本や魔法水晶の映像で神としての父親の姿だ。たまにこうやって知り合いから父親の人となりを知る事が出来るが情報としては少ない。

 (父上に会いたい)

 日に日に募るその思いは、心に穴を作って少しずつ広げていくと同時に寂しさも増す感覚だった。
 
「それよりも!」

 父の事を考えるヤイバをマサヨの声が遮った。

「お宝の在り処を教えてくれよ、コロネちゃん~。俺の最後に取っておいたパッピーターンをあげるから」

 そう言ってマサヨはバックパックから個包装の煎餅を取り出し始めた。

「香ばしい煎餅に中毒性の高い甘辛い粉のついた至極の一品!美味しいよ~?向こうの世界のお菓子だよぉ~?」

 バックパックから煎餅をチラ見せしては引っ込めるマサヨの手からコロネは素早く煎餅を掠め取る。

「こんなものが美味しいのか~?ただのクッキーか何かだろ~?」

 そう言って素早く袋を開けると、細長い煎餅に齧りついた。

「・・・・」

「ふふふ、どうだ?魔法の粉の付いた煎餅は!」

 不敵に笑うマサヨに疑いの眼差しを向け、コロネは最後まで黙って食べた。

 ギョクリと飲み込んで暫く目を瞑り、舌を少しだけだして口の周りの白い粉を舐めて余韻に浸る。

「もう一枚・・・もう一枚食べたい・・・」

「いいですともよー」

 勢い良くハッピーターンを食べて、手についた粉をコロネはペロペロ舐める。もうこれで食べるのは止めようと決心するも自制心が効かない。ついには獲物に飛びつく猫のようにテーブルの上のハッピーターンに飛びついた。

「もう一枚くれ!」

「あ!ずるい!お姉ちゃんも!」

 妹があまりに美味しそうに貪り食うのでタスネも我慢出来なくなり、口の中に残っていた飴を一気にガリガリと食べて飲み込むと一緒になって食べ始めた。

「わぁ!なにこれ!強烈な味だけど・・・!止まらない!危ない粉なんじゃないのこれ?癖になるぅ!」

 ヤイバとワロティニスが二人を見て目を丸くして驚いている間に、テーブルの上のハッピーターンはあっという間に無くなった。

「あ~あ、食ったね?最後の貴重なパッピーターンを全部食べたね?あ~あ・・・」

 マサヨは白々しさ全開の悲しい顔でコロネににじり寄る。

「わかったよ!遺跡を紹介すればいいんだろ!あそこは危険だから後回しにしていたけど教えてやるよ。獣人国レオンの中央の山の中にある古代遺跡な。前に覗いた時、遺跡守りが警告してきたから引き返したんだ。遺跡守りのいる場所は珍しい武器防具やずば抜けたマジックアイテムがある事が多いから行ってみるといいよ」

 そう言って本棚から地図の描かれた羊皮紙を取り出すと、場所に印を付けてマサヨに渡した。

「トラップとかは無いのですか?」

 慎重なヤイバは遺跡やダンジョンに付きもののトラップについて聞いた。

「トラップは無いけど、敵が強い。遺跡守りがいる場所は大概樹族の上位メイジがいるし、いなくても強い魔物がいる。今回はメイジが相手だから、魔法レジスト率の高いヤイバや無効化する能力持ちのワロちゃんやマサヨがいれば余裕だろ」

 そう言って名残惜しそうに手についた粉を舐めるコロネの手を、タスネははしたないと叩いて止めさせた。

「なぁお風呂借りていいか?」

 マサヨはようやく今頃になって自分の体が臭うことに気がついた。

 コロネも臭いには前々から気が付いていたのか、マサヨを風呂場へ案内しようと立ち上がる。

「それがいいな。大きい風呂と小さい風呂があるから好きな方を使え。こっちだ」

「じゃあ小さい方でいいや。体洗ってさっさと出るだけだし」

「あ!僕もお風呂に入りたいです。ここに来るまでの馬車の中が思いの外暑かったので汗をかいてしまいました」

「お兄ちゃん!マサヨと一緒に入るの?」

「入るわけないだろ!大きい方のお風呂を借りるんだよ。(というか、いつの間にかマサヨシさんの事を呼び捨てにしてるし、ワロは・・・)」

「だよねー」
 
 一同はコロネに連れられてお風呂へと向かった。

「因みにうちは召使いが少ないから、王族みたいに体は拭いてくれるメイドはいないぞ。自分のことは自分でやれよ?」

「名ばかり貴族は辛いな?ヒッヒ」

 マサヨは意地悪に笑うがコロネは別段気にした様子もなく、風呂場から去っていった。

「じゃ、風呂から上がったら玄関前に集合な?」

「わかりました」

 手を軽く振ってマサヨは小さいお風呂の有る入り口をくぐっていった。

 ヤイバがお風呂の更衣室に入ると当然のようにワロティニスもついてくる。
 
「ワロ。何で入ってくるんだ?」

「私も入りたいからに決まってるでしょ」

「ダメだ。お兄ちゃんが先だ。お兄ちゃんは凄く汗をかいている。臭いんだよ、ほら」

 ヤイバはワロティニスを引き寄せて、胸のあたりを嗅がせる。

 ワロティニスは兄の背中に手を回して、ここぞとばかり胸いっぱい匂いを嗅いだ。

 妹が「クサッ!お兄ちゃんの馬鹿!」と言うのを待っていたが、ワロティニスは抱きついたまま動かない。

「お、おい?ワロ?もういいだろ?」

 胸に顔を埋めていたワロティニスの顔がゆっくりと兄の方を見る。

「お兄ちゃん・・・。何か・・・私変だよぉ・・・。体が切ないよぉ・・・。お兄ちゃんの体からいつもと違う匂いがする・・・」

 上気して頬を桜色に染めたワロティニスの顔がそこにあった。目がトロンとしている。

(あ!もしかして!コロネさんの薬草のせいか?地走り族とオーガじゃ効果の出方が違うのか!不味いな・・・。僕自身もワロのこんな蕩けた顔を見ていたら、いつまで自制心を保っていられない・・・)

「ダメだって!ワロ!僕たちは兄妹だろ?」

「そんな事言ったって、体が変なんだもん!何とかしてよお兄ちゃん・・・」

「ダメだ!」

「じゃあ他の人にしてもらう!」

「それだけは止めてくれ!じゃあ・・・服を脱いでお風呂場に行こう・・・ワロが落ち着くよう協力するから・・・」

「うん・・・」

(遂にこの日が来てしまったか・・・。いつかこうなるような気がしていたけど、僕は妹と初体験してしまうのか?・・・。グフフフ!ホアァァァァ!キタァァァ!!)

 ヤイバは妹に背を向けて脱ぎながら、徐々に大きくなる自分の暴れん坊を見て恥ずかしくなる。

 背後からは妹が服を脱ぐ音が聞こえていたが、それも止んだ。

「私、先に入っているから。早くしてね、お兄ちゃん・・・我慢出来ないから・・・」

 ヤイバは大きくなった暴れん坊を何とか手で隠そうとした。が、隠しきれない程大きくなってヘソの辺りに反り返ったそれが食い込んでいる。

「イタタタ・・・。ええい!変に隠すほうが女々しい!」

 恥ずかしいという感情を噛み殺して、風呂場に入ると直ぐに妹の白い吸い付くような体が抱きついてきた。

「お兄ちゃん・・・私で興奮してくれたの?こんなになってる!嬉しい!」

「ワロに興奮しない男がいるものか・・・馬鹿」

 お互い貪るようにキスをして激しく動いたその時・・・。

―――ツルン!―――

 何故か足元に転がっていた石鹸で二人は滑ってしまいバランスを崩して、しこたま頭をぶつけた。

 ゴォン!という音が風呂場の反響音で増幅され、マサヨのいる隣の風呂場にまで響き渡った。

「おい!凄い音がしたけど?大丈夫か?」

 マサヨがタオル姿で駆けつけると、そこには兄妹で仰向けに倒れ、気絶している姿があった。近くにあった石鹸を拾い上げ呆れる。

「何やってんだ?この兄妹は。今時石鹸で転けるなんてさぁ・・・。コントでもやらないっつーの!ハハハ!アホが!」

 この後、暫くして二人はマサヨシに頬を叩かれて意識を取り戻したが、風呂場での記憶は一切無かったという。
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