未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(115)

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 陣地に戻って来た帝国騎士達の代わりにアンデッドが今もヒュドラーやリザードマンと戦っている。

 戦場である平野の端から、マー隊が走ってくるのを魔人族の斥候は確認した。周囲に透明化したリザードマンがいないかを魔法で確認した後、斥候は近寄って隊を誘導する。

「セン団長!ご無事でしたか!一度マー隊共々野営地に向かって下さい。先程ナンベル皇帝陛下がご到着されました」

「うむ。気が重いな・・・・」

 混戦中の戦場を駆け抜けてヤイバ達はナンベル皇帝のいる野営地に到着した。

 一同が皇帝のいる天幕に入ると、道化師皇帝と鉄騎士団団長が厳しい顔をしてテーブルに着いており、センは兜を脱ぐとテーブルを挟んで二人の前に立った。

 センが口を開く前に皇帝がいつものおどけた声で質問する。

「セン君。よく戻ってこれましたねぇ?どうやったんです?」

 赤い蝶々のような化粧の下で切れ長の目が薄っすらと開いて三白眼がセンを睨んでいる。元暗殺者の冷たい視線はそれだけで人を殺せそうだ。

「はい・・・。マー隊に助けられました・・・。主にヤイバにですが・・・」

「へぇ。新米騎士に助けてもらったのですか?ベテランの貴方が?暗黒騎士団長が?キュキュ」

 静かにナイフを真上に投げて指先で落下してくる刃先を挟む、を繰り返す皇帝を見てヤイバも背筋が凍る。

 明らかに皇帝は怒っているのだ。怒ってはいるが冷たく静かなのがヤイバには不気味に感じた。

「で、ゴリ・・・マー隊長。杖はどこに?」

「ハッ!任務は部下の裏切りで失敗しました。全ての責任は裏切り者を見抜けなかった私めにあります。」

「裏切りですか・・・?裏切り者はどこに?」

 皇帝にそう聞かれ、マーは一度天幕の外に出て縛られたモビーとイランコと魔人族の女を連れてきた。
 
「ほう・・・。彼らが・・・?う~ん、彼らは裏切り者ではありませんねぇ・・・。そちらの魔人族の女性はグランデモニウムの執政官ゲルシさんの元で働ている方です。何度か顔を見たことがありますので解りますヨ」

 虚ろな目の三人をマジマジと見る皇帝の言葉にマーは驚く。

「どういう・・・ことですか?」

「彼らは催眠状態ですねぇ。幻術系の得意な小生には解りますよぉ。まぁ貴方達のような魔法に疎い者やヤイバ君のように万遍なく魔法を覚えていて特段幻術のエキスパートでもないメイジには見抜けないでしょうが」

「では尚更私のミスです。おかしな様子を見抜けなかったのですから」

「いや、見抜けなくて当然と小生はつい今しがた言いましたが?特定条件下で発動するこの魔法・・・魔法と言って良いのですかねぇ・・・。まぁ切っ掛けは魔法ですネ・・・。で、この魔法ですが、このように催眠状態になるまで素人には見抜けません。なのでマー隊長、貴方の失敗とは言い難いですヨ。間違いなく帝国騎士団に敵の間者が紛れ込んでおり、情報をリザードマンに流している者が原因です。・・・ですがぁ~!」

 「ですがぁ~!」の時に横目でセンを見て口を大きく開く皇帝の顔は妙に憎たらしい。

「センくぅん!君は失敗ですよぉ!アウト!功をあせって作戦に無い事をしちゃいましたからねぇ。お陰で貴方の部下の数人は今もゾンビとなって戦っておりますぅ。しかも貴方はマー隊の・・・ヤイバ君の任務遂行を邪魔したのですヨ。貴方を助ける手間が増えた事で彼は任務を失敗したのです。よって二回も我軍の足を引っ張った事になりまぁ~す・・・ネ!」

「はい・・・」

 センは白い魔法斑の浮かぶ青い顔に玉汗をかいて言葉無く俯いた。

 根は真面目で真っ向勝負を好む、暗黒騎士としては変わり者の彼は時々武功に焦る事がある。これまではリツがそれを引き止めていたが、今回は気の弱いメロしかいなかったのだ。

 センは自分の悪い癖を恨みながら、今何を言うべきかを思案するも何も思い浮かばない。

 そんな様子を見てとったヤイバはセンに少し頭を整理する時間を、と気を使って前に出て報告をした。

「陛下、始祖の杖を持ち去った者の事なのですが・・・。」

「どうぞ、ヤイバ君」

「杖を持ち去ったのは地走り族です。リザードマンは地走り族とは親交が無いはずなのに何故か神殿にいましたし、リザードマン達も彼がいる事を気にした様子はありませんでした。そしてその地走り族は透明化をしている僕の存在を最初から気がついていたかのように罠を張って待ち伏せていたのです」

「その地走り族の特徴は何かありましたか?」

「それが・・・台座の影に潜んでいたのでそこまでは。たまに見えた顔は何処にでもいる普通の地走り族の男といった感じでした」

「そうですかぁ・・・」

 そういってナンベルは少し離れた場所で椅子に座って魔導書を読んでいるイグナを見た。

 ナンベルの視線を感じたのかイグナは本を読みながら答える。

「それだけじゃ判らないから、もう一度その地走り族の顔を思い浮かべて、ヤイバ」

「はい」

 ヤイバはその時のことを頭に思い浮かべた。ごく標準的な地走り族の顔とは言ったが、それはオーガ目線の話で地走り族同士では特徴を捉えられるかもしれない。

 心に浮かぶ言葉や映像や考えはイグナの【読心】によって分析される。

 ヤイバの心に深く自身を潜り込ませないようにして慎重に心を読み、遂に見えた地走り族の顔にイグナは驚いて魔導書を落としてしまった。

「どうしたんですか?イグナ母さん」

 闇魔女は魔導書を拾い直して綺麗な装飾の付いた表紙についた土を手ではらい言う。

「その地走り族には見覚えがある。でも何故彼がリザードマンに加担しているのかは判らない」

「誰なんですか?イグナちゃん」

「エポ村の元自警団団長で脱獄囚のレンジャー、ホッフ」

「脱獄囚ですって?」

 リツは驚く。樹族国は魔法大国である。監獄の魔法の結界や罠を掻い潜って脱獄するのはいくらレンジャーとはいえ容易ではない。

「脱獄囚が恨みを向けるのは大抵は自分を投獄した者や国のはずですわ。何故帝国に敵対しているのかしら?」

「判らない。でもホッフはうちの長女を瀕死にして逃げ去るほど恨みを抱いている。だから恨みの矛先は帝国ではなくサヴェリフェ家に向いているのは間違いない。もしかしたら姉に関わりの深い者から先に消していこうとしているのかもしれない」

「となるとイグナちゃんやフランちゃん、ヒー君の家族も狙われているでしょうねぇ。で、今回ホッフがヤイバ君の邪魔をしたのはそういう事なんでしょうね。きっと今も野営地の何処かにいる間者も無視できませんねぇ・・・」

 取り敢えず、と言ってナンベルは席を立つとくるりとターンをしてセンに向き直る。

「セン君、君にはどうも団長としての素質が無いと小生は判断しました。悪いですけど、貴方にはただの暗黒騎士になってもらいますよ」

「・・・」

 役職を解かれても当然、とセンは潔く皇帝の処分を受け入れようとしたが、ナンベルはまだ話を続ける。

「ですがぁ~」

 と、また憎たらしい顔で道化師皇帝はセンを横目で見た。

「最後のチャンスをあげましょう。貴方が杖を奪ってくるのです。そうすれば今回の失態、小生は全て忘れてあげラレラレまーす」

「!!」

 驚いて顔を上げたセンの顔に生気が戻る。見開いた目には光が灯った。

「ありがたき幸せ!」

「では後程作戦を伝えますので今日はゆっくり休んで下さい」

「ハッ!」




 一通りの報告が終わり、ナンベルに催眠を解いてもらった三人をイグナが魔法で心を読んだが、ホッフは彼らに何かしらの記憶操作をしており、どうでもいい情報しか読み取れなかった。

 一応、イグナからホッフの情報を聞いたナンベルは顎を擦りながら難しい顔をして言う。

「器が小さいですねぇ。慢心したタスネちゃんに土下座させられた程度で恨みを抱くなんて。小生なら喜んで土下座して踏みつけられますよォ?キュッキュー」

「確かに動機としては弱いですよね。親を殺されたとかなら解りますが・・・。投獄されたのも何者かが煽った暴動に乗じた結果なんですし、そのことでタスネさんを恨むのは筋違いな気がします」

 ヤイバは眼鏡を上げてそう言った。その時、たまたま母親と動きがシンクロして少し恥ずかしい気持ちになる。

「(煽動者はマサヨシだけど黙っておこう)何が人を狂わせるかは判らない。些細な切っ掛けが憎しみを増幅するなんてことはよくある。ホッフは元々賢くて温厚で少し気の弱い地走り族だった。ここまで狡猾で行動的になるなんて私も思わなかった」

 イグナの言葉に人生経験の少ないヤイバはあまり賛同する気が無い。

 そんなに人は簡単に変わるものなのかと。タスネさんがどうのと言うよりは、何か他の原因で性格が変わってしまったのではないか。例えば投獄中に徐々に性格がねじ曲がったとか。

「それは私にも判らない」

 【読心】の魔法効果がまだ残っていたイグナが自然にそう答えたのでヤイバも自然に頷いてしまった。暫くしてから読心していた、されていた事にお互い気がついて気まずくなり、ヤイバは皇帝に一礼すると天幕から出て妹の様子を見に行った。
 




 配給所でソーセージの入った大きなパンを三つ受け取ると、ヤイバは怪我人を回復をしているフランとそれを手伝うワロティニスの元へ向かった。

 リザードマンも一旦本陣に引き上げたのか戦場は静かになり、風に乗って微かなアンデッドのうめき声が聞こえてくる以外は野営地で休憩する騎士や傭兵たちの出す音や声が聞こえてくるのみだった。

「少しは休憩をしたら?」

 ヤイバはパンを見せて、笑顔で妹を食事に誘う。

「そうね。フランさん、お兄ちゃんが食事を持ってきてくれたよ。休憩しましょ」

「了解~」

 フランは怪我人の手当がめんどくさくなったのか、広範囲の回復をしてからパンを受け取った。

「そんな雑に神の力を使っていいんですか?光魔法の回復系と違って何回でも使用できる回復の祈りは使い過ぎると気力を削がれると聞きましたが」

 直接神からマナを介して力を引き出す聖職者の祈りは魔法とは違う。一度我が身にマナを蓄えてから魔法を放出する魔法使いと違って祈りに回数の制限がない。

 その代わり自身の信念や精神力が必要となり祈る度に気力が減る。なのである程度、時間を置かないと心がくたびれてしまうのだ。強力な回復の祈りほど気力の消費は激しく、使いすぎると一時間はボケーッと呆ける羽目になり戦場では致命的である。

「いいのよぉ。リザードマンも休憩してるみたいだし。もぐもぐ」

 フランの食べ方は妙に色気があり、戦場での興奮がまだ冷めないのかヤイバは劣情を帯びた目でそれを見てしまった。

 それは砦の戦士達も同じで、彼らは露骨にフランを見ている。

 そして砦の戦士の誰かがボソリと呟く。俺も地走り族だったらよがっだのに、と。

―――ゴン!―――

 ワロティニスの肘鉄が、リザードマンの槍や石斧を弾いたミスリル鎧の脇腹を凹ませた。

 やきもち焼きの妹のとんでもない攻撃力の肘鉄と、凹んだ鎧を見てヤイバはブッ!と唾を飛ばして驚く。

「ねぇ、お兄ちゃん。私の食べる所も見てよ」

 ニコニコと笑ってはいるが嫉妬のオーラを出す妹は、フランの真似をして色気たっぷりにパンを齧るが、それはどこか白々しくてぎこちなく、真面目に観察すると滑稽にすら見えてくる。

「(勿論、ワロちゃんは無条件で可愛いが)う~ん。ちょっと白々しいかな。でもワロはそんな事しなくても可愛いから大丈夫だぞ」

「ほんと!?エヘヘヘ!」

 嬉しそうにパンを齧る妹は急に喉を詰まらせた。

「慌てて食べるから・・・」

 ヤイバは革の水袋を取り出して水を飲ませようとしたが袋は空だった。

 フランも水の入った革袋を差し出そうとしたが、同じく空だったようで直ぐに水を用意できない。

 目の前で目を白黒させる妹に慌てたヤイバは詠唱を開始した。

「【食料創造】」

 水の創造は【食料創造】の創造範囲である。小手を脱いだ指先の数ミリ離れた空間から水が方向を定める事なくチョロチョロと出ている。指先をその水で念入りに洗うとヤイバは胸をドンドンと叩いている妹の差し出した。

「ほら、指を咥えて水を飲むんだ、ワロ」

 直ぐにワロティニスは兄の人差し指を咥えて水をごくごくと飲み始めた。

(はわぁぁぁぁ!!ハァハァ!エロい!なんてエロい光景なんだ!ワロが僕の指先を咥えている!オホォォォ!)

 ポーカーフェイスで身悶えするヤイバは、イグナが天幕にいることを思い出して自重した。

「ぷはーーっ!死ぬかと思った!お兄ちゃんありがとう」

「どういたしまして」

「ほんと、仲がいいわねぇ貴方達。うちの姉妹も仲は良いほうだけど二人には負けるわ」

「だって僕の唯一の妹ですからね。それでは僕は次の作戦の準備をしてきます。では」

「次の戦いも頑張ってね!」

「はい」

 怪我人を縫って進むと途中で、長椅子の上でぐうぐうと眠るヘカティニスがいた。

「戦場でも平気で眠れてしまう神経の図太さ・・・・。見習いたいものです」

「フゴッ!お!旦那様、帰ってきたか!おで嬉しいど!」

 寝ぼけているヘカティニスがヤイバに抱きついた。それを見た砦の戦士たちがゲハゲハと笑っているのでヤイバは恥ずかしくて堪らない。

(うわっ!ヘカ母さんはワロと同じ顔をしてるから僕のワロレーダーが反応してしまう!小じわも無いし加齢臭もない。本当に三十路半ばなのか?)

 寝ぼけの酷いワロティニスがいよいよヤイバにキスをしようとすると、遠くからドドドドと何者かが走ってくる音がする。

 ヘカティニスに手で顔を押さえられているヤイバは音の方を見ることが出来ず嫌な予感がした。

「守りの盾!」

 咄嗟にスキルを発動さたのは正解だった。

 嫉妬したワロティニスが高くジャンプをして錐揉みキックを二人に繰り出したのだ。

 いよいよ危険だと感じたヤイバはヘカティニスの手を振りほどいて、空気を切り裂く音の方を見た。

「コラー!お母ーーーさんーーー!何してるの!」

「待て!ワロ!止めろ!ヘカ母さんは寝ぼけているだけだ!」

 ヤイバはヘカティニスに向かうその蹴りを小手をはめた腕で弾き返す。が、バキャ!と音がして小手は壊れてしまった。

 ヘカティニスは何事もなかったようにまた長椅子に寝転んで眠ってしまった。

(またしても・・・なんという攻撃力・・・!この魔法のミスリル鎧はそう簡単に壊れたり凹んだりしないはずなんだが・・・)

 むき出しになった腕を見て呆然とするヤイバを、砦の戦士のドォスンが興奮しながら褒め称えた。

「おでの愛弟子の必殺の蹴りを片腕だけで弾くなんて凄いど!ヤイバ!ゴハハハハ!」

 拍手の音がバシンバシンと聞こえてくる。

「ワロ・・・。君は母さんが大切じゃないのか?」

「だって、お兄ちゃんにキスしようとしたんだもん」

「だからって、お兄ちゃんがヘカ母さんを守らなければ致命傷になるような蹴りだったじゃないか!」

「ちゃんと手加減したもんね!」

「(ゲェーーーッ!これで手加減しているのか!)ともかく!次こんな事したらお兄ちゃんは本気で怒るからな!」

「はい・・・」

 自分のテントに戻って行く兄を見送ると、ワロティニスはしょげながら砦の戦士たちが休む場所に戻って来た。

「どうしたどうした!ワロちゃんよ~。元気だしな!お兄ちゃんは上品だから俺達みたいな荒くれ者の流儀やじゃれ合いが理解できないんだよ。気にすんな!」

 自分の妹のように可愛がっていたヘカティニスの子を元気づけようと、同じ砦の戦士のスカーが慰めた。

「でも私も悪いんだ。ついカッとなっちゃって・・・」

「確かにあの蹴りはヤイバじゃなかったら防げなかたっただろうな。俺達だったらヘカ諸共吹き飛んでたわ!ハッハッハ!」

 ドォスンも笑いながら会話に参加してきた。

「でも防御のスキルと片腕だけで防ぐのは凄いど!あの蹴りはおでの技のなかでもピカイチなんだけんど」

 皆が兄を褒めるのでワロティニスは何だか嬉しくなる。

「でしょう?お兄ちゃんは凄いんだから!」

「しかし、おでは少しプライドが傷ついた。可愛い弟子の攻撃を簡単に弾き返すなんて。なので次は戦場で格闘家同士チームを組んで、帝国軍に我らの強さを見せつけてやろう!」

「お、いいねぇ~。俺達三人で暴れるか」

「うん!」

 砦の戦士ギルドには他にも格闘家がいたが、戦死したり身一つで戦う難しさを知って戦士に転職した者が多く、今や三人しかいない。ワロティニスにとってドォスンとスカーだけが格闘家の先輩であり師匠なのだ。

 楽しそうに談笑する三人に、昼食のソーセージパンを食べ終えたフランが話しかける。

「あれ?そういえばベンキがいないわね?」

「ああ、あいつなら彼女の相談に乗るから今回はパスだってよ」

「セブレで出会ったあのエルダードラゴンの?」

「そう。羨ましいよなチキショウ。知ってっか?エルダードラゴンは他種族と子供が作れるんだぜ?生まれてくる子供はドラコーンだが」

「ドラコーンって童話だけのお話かと思っていたけどぉ、本当にいるのね」

「おうよ。本人に直接聞いたから間違いない。照れながらその話をしてて可愛かったぞエルは。ちきしょう」

「二人は何の相談してたのかしら?結婚の相談なら素敵ねぇ」

「何でもマナが大きく関わる遺跡の事らしいが、俺にはちんぷんかんぷんだったから話の途中で逃げ出したんだ」

「そうなのぉ?それは私も逃げ出しちゃうかも。うふふ。邪神レベルの話じゃなきゃいいけど」

「エルダードラゴンの遺跡だし、邪神が現れて云々は無いと思うぜ?」

「そうよねぇ?そうだといいわぁ」

 フランは邪神の放った”黒いハエ“の事を思い出して身震いをした。当時、帝国のサビカ孤児院にいたフランは空が黒いハエに覆われていく光景を目にしている。

 ヒジリが起こした奇跡のお陰で帝国の一部とグランデモニウムと樹族国のハエは直ぐに死んだが、ハエが死ぬまでの間に建物や人々が消えていくのを見るのは恐怖だった。

 微かに不吉な予感を感じつつもフランは「それじゃあ」と言って手を振ってその場を離れて、次の戦いに備え怪我人の治療を始める。

 休息もつかの間、アンデッド達がリザードマンに反応し戦場は少しずつ騒がしくなっていった。
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