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禁断の箱庭と融合する前の世界(116)
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午後から再び始まった戦は開幕、魔法騎士団の広範囲の氷魔法がリザードマン達を凍らせて砕いた。それでも後方から大軍が押し寄せてくる。
魔法騎士団の魔人族達が氷魔法を放つ中、イグナだけは苦手とする雷魔法を撃っていた。
苦手と言っても練度は並の魔法使い以上で、雷撃がリザードマン達を直撃した後も沼を伝って周囲のリザードマンを痺れさせている。そこに氷魔法が飛んで来るので予想以上にこの連携は効果的であった。
「流石は闇魔女様。闇魔女様が来る前の範囲攻撃魔法は命中してもレジストされる事が多く与えるダメージは本来のは五割程でしたが、今は九割以上です。我々はリザードマンが氷魔法に弱いという事ばかり考えていて地形を利用することは考えていませんでした。今まで遠距離範囲魔法は幾らか回避されて当然だと思って攻撃していたのです」
メロの言葉にナンベルはでもねぇ・・と苦々しく言う。
「広範囲に雷を落とす【雷雲】なんて珍しい魔法は魔人族でもそうそう覚えていませんし、攻撃力と痺れ効果の期待ができる練度を持つメイジはかなり少ないですからねぇ。そもそも雷魔法は扱いづらいし風魔法の亜種でマイナーですから人気がないんですよねぇ」
雷魔法を得意とするメイジを育成するべきかどうかでナンベルが頭を悩ませている間に、鉄騎士団と傭兵達が前線に走って行く。
ナンベルはその中に白地に金模様の入ったフルプレートを着る見覚えのある小さな騎士を目にして驚いた。
「あれ!後方で回復支援するはずのフランちゃんが、前衛に出てる!真っ先に狙われますよぉ!」
フランは回避能力が高く、鎧を着込んでいるので防御にも優れているが、所詮は地走り族なので生命力はオーガ達に比べて数段劣る。なので長期間の盾役には向いていない。
案の定、敵達の視線は聖騎士に向いている。彼女が持つカリスマは必ずしも良いことばかりではなく、挑発をしなくとも敵を引きつけてしまうのだ。
リザードマン達はしぶといオーガと戦うよりは地走り族の方がマシだと考え、一斉に彼女に襲いかかった。
「シールドバッシュトレイン!&【吹雪】!」
ヤイバがスキルと魔法を同時発動させて、フランに襲いかかるリザードマン達を大盾で弾き飛ばし、尚且つ進路の近くいた敵を凍らせていった。
ヤイバの攻撃から漏れた者は、砦の戦士達や暗黒騎士によって各個撃破されていく。
無口なはずのリザードマンが思わず叫び、周りに警戒を促した。
「シュー!敵に強力な・・・メイジの鉄騎士がいるぞ!スキルと同時に魔法を使いやがった!」
たじろいで動きを止めるリザードマンを睨み付けてヤイバはフランの前に立ち、敵を警戒しながら話しかけた。
「作戦通りですね。フランさんがいるとバラけた敵が集まって来るので攻撃しやすい。ありがたいです。危なくなったら遠慮なく陣地まで下がってくださいね」
「そぉするわ~」
フランは盾を構えたまま後ろにバックステップで下がり、そのまま踵を帰すと走って本陣へと向かった。
その背中をリザードマンがショートボウで狙ったが近くにいた鉄騎士が大盾で弾く。
フランが本陣近くまで走ったのを確認をしてからヤイバは遠くを見て急に魔法を詠唱しだした。
「シャシャ!馬鹿め!敵前で魔法を詠唱する馬鹿がいるか!中断させてやる!」
リザードマン達の目が詠唱中のヤイバに集まり、槍が突き出される。
―――ガキン!―――
原始的な槍や石斧がヤイバの鎧を叩くがリザードマン達が期待した効果は現れなかった。
普通であれば貫通しなくとも、攻撃さえ当たれば魔法使いの集中を途切れさせることが出来るが、強靭度が異常に高いヤイバは攻撃に揺らいでも動じる事もなく詠唱は止まら無かった。
「馬鹿な!」
咄嗟に魔法攻撃に身構えたリザードマン達を飛び越えて飛んでいく【火球】が遠くのヒュドラーに直撃して大火傷を負わせた。
マー隊の仲間たちがヒュドラーに苦戦していたのだ。
「これで再生能力を鈍らせたはず・・・」
ヤイバの言葉通り、カワーが火傷を負い柔らかくなったヒュドラーの胸を自慢の剣で突き刺した。心臓を貫かれて絶命したヒュドラーを見てヤイバは安心する。
安心するヤイバに再びリザードマンが攻撃をしてくる。
それをヤイバはバトルハンマーで薙ぎ払って倒すと、隊と合流して正面から神殿を目指した。
先程神殿に侵入したルートをちらりと見ると、重点的にリザードマンとヒュドラーが配置されている。
(二度目ともなると神殿への隠密侵入は難しい。ならば派手に暴れて堂々と乗り込んでやりなさいキュッキュー!)
と、お道化ながら言うナンベル皇帝の命令が頭に浮かぶ。
一戦目と違って敵の数はイグナや魔法騎士団の範囲魔法で減っており、更にリザードマン達はゾンビとの戦いで疲弊している。
後ひと押しといった中でヤイバは走りながら色々と考える余裕も出てきた。
(リザードマンに詳しいメイジの話では、始祖の杖は神殿の台座に置いて初めて効果を発揮する。なので持ち去ったとしてもまた元の場所に戻すだろうとは言っていた。となるとそこでホッフと戦闘になるのだろうか?出来れば捕まえて樹族国の裁きを受けさせたいな・・・)
ふと視線を現実に戻すと砦の戦士の格闘家三人組がヒュドラー相手に戦っている。ヤイバはその横を走りつつ支援が必要かを窺った。しかし、その必要がないと知る。
ワロティニスの師匠であるドォスンが腰を下ろして、襲い掛かってくるヒュドラーの沢山の頭を正確に間を置かずに正拳突きで砕き、それらが再生して攻撃してくる前に心臓に向かって掌底を叩きつけていた。
ヒュドラーは一瞬動きを止めた後、どぅと音を立てて地面に倒れ込み動かなくなった。
「やり方はわがったか?ワロ!」
「えーっと、なんとかやってみる!」
ヤイバの妹は師匠の真似をしてヒュドラーの攻撃を掻い潜って心臓に掌底をトンと当てると・・・。
―――ブシャァァァ!―――
ヒュドラーの体から骨が背中側に飛び出して内臓が飛んでいく。
「やった!」
「ばが!何がやっただ!出来てねぇど!毎回そんなエネルギーを使っていたらすぐにバテる!少ない力で心臓だけをトマトみたいに潰すんだ!」
取り囲むリザードマン相手に分身でもしているのかと思うほどの足運びでパンチを繰り出すスカーの近くで、テヘペローと恥ずかしがる妹に「頑張れ、ワロ!」と手を振って先を急いだ。
(戦場で技を教えているのか、ドォスンさんは。ワロも死と隣り合わせで技を覚えているから、あんなに強力な攻撃になるんだな。ドォスンさんとスカーさんがいれば大丈夫だろうけど、死ぬなよ僕の可愛いワロ!)
妹を心配しつつも従軍鍛冶屋に急いで直してもらった小手を見てヤイバはブルッと身震いをした。
鉄騎士団と暗黒騎士団が制圧しつつある神殿手前の長い階段まで来るとドリャップが急に苦しみだした。
「どうした?ドリャップ!」
「ウググ!何で俺ばかり・・・。さっきは仲間に殴られ、今度は・・・。気をつけろ!サキュバスが何処かにいるぞ!多分・・隊長と俺は暫く役立たずだ・・・すまねぇ・・・」
催淫に抗うドリャップの後ろでマーがあぁぁぁと悶えだした。救いを求めるように潤んだ目でヤイバを見つめている。
ヤイバは催淫スキルの影響をカワ―も受けているかを確認すると、彼は鼻に皺を寄せて冷たい目で隊長を見ていた。
「フン!気持ちの悪い!身悶えする隊長は見たくないな!サキュバスはどこだ!ヤイバ!」
「恐らく姿を消しているのだと思う。【魔法探知】!」
悪魔の形にマナを帯びた光が、木の後ろからチラチラとこちらを窺っている。
「あそこの木の後ろだ!魔法の射程距離外だ。近寄らないと・・・」
「ドリャップ、大弓を借りるぞ!」
カワーはドリャップの背中に浮く魔法の大弓を強引に引き剥がすと弦を引き抜きサキュバスが隠れている木に向けた。
ビン!という音の後に無限に出てくる魔法の大矢はゴォォォ!と轟音を立てて凄まじいスピードで木へと飛び粉々に砕いた。
爆発の魔法でも落ちたのかと思う程、木の破片が一面に飛び散り、致命傷を負って血だらけのサキュバスが姿を表してドサリと倒れる。
そのサキュバスは何度かヒジリを邪魔した金髪のサキュバスであった。息も絶え絶えのその姿が薄っすらと消えていく。恐らく現世で肉体を維持できなくなって自分のいた魔界に戻るのだろう。
「やったぜ、カワー!くそ野郎のくせして!」
「本来、貴様の仕事だろう。貧民はまともに仕事も出来ないのか!」
「貧民は関係ないと思いまーす。それは低所得者差別だと思いまーす!」
「いいから行くぞ!!」
仲の悪い二人の喧嘩を止めて、ヤイバは隊長を心配した。
「大丈夫ですか?隊長・・・?」
「ああ、問題ない。恥ずかしい姿を晒してしまったな・・・」
「気にしないでください。サキュバスの魅了や催淫に抗う術は乏しいですから・・・」
堀の深い顔を赤らめて、ツンとした顔をする隊長をヤイバは少し可愛いと思ってしまい、心の中でワロティニスに浮気したことを謝罪した。
「あと少しだ!気を抜くなよ!さっきの私のようにな!」
自嘲して笑う隊長の言葉を聞いてドリャップが豪快に笑った。つられてヤイバも少し笑う。笑った方が彼女の恥を拭えるような気がしたからだ。
マーを先頭にヤイバとカワーとドリャップは神殿の入口にさしかかったその時。
「やぁやぁ我が名は沼地の英雄シュースの息子が一人レオパルドン!尋常に勝負せよ!」
大柄のリザードマンがマー隊の前に立ちはだかった。しかし、マーはそれに応じずバトルハンマーを薙ぎ払うとスリリンは吹き飛び、神殿の壁に頭をぶつけて絶命してしまった。
「何だったんだ、アイツ・・・」
「さてね。君のような愚か者なのだろう?ドリャップ」
「カワ―!てめぇ!」
「いい加減にしろ。二人とも!行くぞ!」
直ぐに喧嘩になる二人をまたヤイバが止めて先を進むよう促した。
「へへ!一番乗り!」
ドリャップがそう言って神殿の裏口近くにある始祖の杖がある部屋に入った。
「待て!僕は野営地で言ったはずだぞ!魔法の罠があるかもしれないって!【解除】!」
しかし、ヤイバの心配は空回りに終わる。魔法の罠は無かったのだ。
「お前はいつも慎重過ぎるんだよ。いつか禿げるぞ!」
そう言ったドリャップの言葉が面白かったのか、台座に座って杖を持つホッフはフフフと笑っている。
「よく来たね。ヒジリ・・・じゃなかったヤイバ。こうして間近で見ると君は本当にお父さんとそっくりだね。エポ村で自警団をやっていた頃が懐かしいよ」
「これで合うのは二回目ですか?ホッフさん。悪いのですが、その杖を渡して頂けないでしょうか?」
「僕は二回目どころじゃないんだけどね。何度も君を見ている。最初はね、君の任務中に備品を盗んで小さく名誉を傷つけてみたりしてみた。それからサキュバスを使って君を催淫し堕落させてやろうと思ったんだ。情けないヒジリの息子を見たら、タスネはさぞがっかりするだろうと思ってね。まぁ結果、君は全てを退けてここにいるけど・・・」
つまらないね、と言ってホッフは杖の先端につくリザードマンの始祖の骨に話しかけた。
「恥ずかしくないんですか?いつまでもタスネさんにされた事を根に持ってぐじぐじしているなんて。いい加減、前を向いて歩いてみたらどうですか?」
「まぁ最後まで話を聞けよ、糞オーガ」
急にホッフの額にビキビキと血管が浮いて形相と言葉遣いが変わった。が、直ぐに表情は元に戻って話を続ける。
「その次に、ヴャーンズのゴタゴタを利用して君たちとあの老魔法使いを仲違いさせてやろうと思ったんだ。でもね、僕が随分前に見つけた巻物から召喚した可愛いサキュバスはヴャーンズの使い魔に見つかって、コテンパンにされちゃったんだよ。本当なら僕のサキュバスが遺跡に入るつもりだったんだけどね・・・」
「・・・」
「で、最後は君の隊の仲間を操って、君を殺そうとしたんだけどしくじっちゃってさ。君が隊を離れて単独行動するとは思わなかったんだ。本当はヒジリの代用品である君を殺したくはなかったんだよ?堕落させてタスネに少しでも嫌な気分を味あわせようと思ったからね。でも計画が変わった。先程、神は些細な捧げ物で僕に力を与えてくれると言った。特定の台座に神の指定する植物や鉱物、それにこの始祖の杖を乗せるだけで僕は不死になれるのだよ。たったこれだけの事で!あ、忘れていた!君の命もだった!ハハハ!」
神殿も制圧されたのか、後からやってきた鉄騎士団のガス達や暗黒騎士達は、神の力を得ると言って笑うホッフを見て狂っていると思った。
「何言ってんだ?お前のようなちびっこが神の恩恵を授かったというのか?我らが星のオーガの恩恵を?ふざけんな!」
そう言ってガスが濃い顔を怒りに歪ませてバトルハンマーで殴りかかる。
するとホッフの前に透明の壁が現れて、ガスの攻撃を弾いた。
「馬鹿な!あれはヒジリ様と同じ・・・。そんなはずがあるか!」
驚くガスを押しのけ一人の暗黒騎士が【闇の炎】で不気味に笑う地走り族を焼く。
しかし、焼いたように見えた炎はホッフの前で掻き消えてしまった。
「どうだ!これがついさっき得た神の力だ!だが僕はまだ不死ではないのだよ?それでも神の力はこうも強力なのだ!ハハハ!やろうと思えばね、ヤイバ!僕はいつでも君を殺せるのだよ?ただ神に近しい存在となった今の僕が自分の手を君の汚い血で汚すのはよろしく無い」
パチンとホッフは指を弾いた。
するとキキキと鎧を擦る音がヤイバの近くでする。
その音はヤイバの背中から聞こえてきたのだ。鎧通しが鎧の隙間から入り込み貫いている。
鈍いが大きい痛みが背中を襲い、ヤイバは口から血を流して震えながら背中の親友を見ようとした。
「ガハッ!なぜ・・・だ・・・ドリャップ・・・」
全く注意を払っていなかった背後からの致命の一撃。
親友のドリャップが裏切り者だったとは予想もしなかった。裏切るとしたら自分を敵対視しているカワーだろうとヤイバは心の中でどことなく思っていたからだ。
遠のく意識の中で地面に倒れ伏すまでの間に目に映ったものは、怒り狂ったマー隊長と顔を強張らせたカワーがドリャップを攻撃する姿だった。
裏切り者は「あぶねぇ!」と叫んでマーとカワーの攻撃を躱し、大きく飛び退いてヘルムを脱ぐとニヤニヤと笑いながらホッフの横に立った。
「わりいな、ヤイバ。あ、それから俺は操られていないぜ?自分の考えで動いて、ずっと前からホッフに協力していたんだ。力あるフーリー家のお前や、栄光ある帝国よりも俺の利益になる方を選んだってわけだ。神の力を得た地走り族の方がどうも魅力的に見えてな。まぁその・・・力こそ全てなんだから俺を恨むなよな?」
しかしヒジリは既に鎧の隙間から大量の血を滴らせて、意識を失っていたのでがっかりしてドリャップは黙った。
「神は他愛もない物を欲し、僕は神の力を手に入れる。そして簡単に手が出せなかった吸魔鬼のタスネにも復讐が出来て、ゆくゆくは世界も手に入れられる。そしてドリャップは僕に従って地位と名誉を得る。ウィンウィンじゃないか!」
芝居じみた動きをして煽るホッフを見てマーは怒りながらも冷静な声でカワーに命令した。
「ヤイバを連れて本陣に戻れ。僧侶たちに直ぐに治療をさせるのだ。いくらヤイバが傷の治りが早いとはいえ、致命傷を受ければ簡単に治せないかもしれないからな」
(この傷ではもしかしたら野営地に辿り着くまでに私の愛しいヤイバは・・・。ああ、神様!彼を死なせないで!)
マーがそう神に祈りたくなるほどドリャップは的確に急所を突いていたのだ。腎臓への一撃は大量出血と激痛でショック死を起こさせる可能性もある。
ホッフ達もそう思っているのか、ヤイバに対して何も仕掛けてこない。
「くそ!目覚めが悪くなる。死ぬなよヤイバ!」
カワーはヤイバを背負うと、本陣に向かって走り出した。
(神の子がこんな所で終わってくれるなよ、僕は君を実力で這いつくばらせると決めたんだからな!)
お互いライバル視するバンガー家とフーリー家。しかし神の子ヤイバが生まれてからはバンガー家は落ちぶれるばかりだ。
何故なら全ての人脈をフーリー家に奪われてしまったからだ。いや、奪われたというよりは親しかった者がバンガー家から離れていったというべきか。力こそ全ての闇側では、力ある者になびくのは当然の事なのだ。
それでも・・・落ちぶれたとしても・・・名家出身というプライドが無理矢理ヤイバを憎ませたようとしたが、そんな自分に対して彼は友人だと言ってくれた。
ライバル家の跡取りが死ねばバンガー家は再び再興するかもしれない。何なら今がチャンスでもある。ヤイバは背後の警戒を怠り油断して倒れたのだ。オーガは例え仲間であっても実力がないと判断すると見捨てることが多々ある。助けずに死なせてしまっても誰にも文句は言われない。
しかし、やはり友人には死んで欲しくない。カワーはヤイバに出会うまで友達らしい友達がいなかった。
常に憎まれ口を叩いて周りとの距離をとっていたからだ。そうすることで落ちぶれたバンガー家に属する自分のプライドが保たれるような気がした。
ところがヤイバは自分の憎まれ口も意に介さず、純粋に自分をライバルとして、友人として、切磋琢磨の相手として接してくれた。
その友人が今、背中で浅い息をして死にかけている。
「死んだら許さないからな・・・」
ボソリとそうつぶやいてカワーは悔しそうな顔で奥歯をギリリと噛み締め、走る速度を早めて本陣を目指して戦場を駆けていった。
神殿の中ではホッフはまだ舞台上の俳優のような動きで大げさな手振り身振りで喋っている。途中で暗黒騎士が大鎌でホッフを切り裂こうとしたがやはり透明な壁によって阻害されている。
「いいかい?攻撃が効かない僕の間合いに入ってくるというのは攻撃されるって事だよ?」
ホッフは地走り族のレンジャーがよく使う、腕に装着するタイプのクロスボウを暗黒騎士に向けて撃った。
【弓矢そらし】の魔法を掛けているとはいえ、近距離からの狙撃で暗黒騎士の太ももに短矢が深々と突き刺さる。暗黒騎士は痛みに抗いながらも【猛毒の霧】を唱えた。紫色の霧がホッフとドリャップを包んだ。
しかしドリャップはエリートオーガなので猛毒耐性が高く効きそうにもない。地走り族は毒に対する耐性はない。みるみる霧と同じ紫色の肌になっていったが、暫くすると何故か元の肌色に戻った。
ホッフはスチャっとクロスボウを構えて毒霧を放った暗黒騎士に向けたがガスが盾で庇う。
「確かにお前は神のような回復力はあるが、攻撃力は普通の地走り族だな。え?」
ガス・ターンの憎まれ口にホッフは舌打ちした。
「チッ!腹立たしい暗黒騎士と鉄騎士のコンビめ。さて、神が呼んでいる!僕たちは帰るとするか。次は相手を簡単に打ちのめす力でも神に強請ってみるかな」
ホッフが調子に乗って両手を広げ、この場から去る宣言をしようとしたその時、どこからともなく紳士的な声がアラームと共に聞こえてきた。
―――警告!地球からのアクセスを確認!―――
―――惑星法違反を確認!違反者は直ちに宇宙管理局に出頭せよ―――
―――違反者がアクセスを遮断。しかし違反者の遠隔操作するホログラムは健在。直ちに追跡します―――
辺り一面が暫く赤く光った後、神殿はいつもの明るさに戻った。
「何だ?」
「さぁ?」
ホッフとドリャップが困惑しているとマーが彼らの前にいつの間にか立っていた。
「ドリャップ・・・お前もそこの地走り族同様、こちらの攻撃は弾かれてしまうのかもしれない。だが私は裏切り者のお前を一発殴らないと気が済まない!よくも・・・・よくも私のヤイバをぉぉぉぉ!!!」
マーの右手が小手の下で膨れ上がっている。腕が筋立ち血管が異様に浮いているが全身鎧を着ているので誰にもそれは見えない。
それでも小手の上に漂うオーラのようなものが誰にも見え、マーの怒りがそうさせているのが解る。
ほぉ?と半眼で余裕を見せるドリャップの憎たらしい顔にマーの渾身のスクリューパンチが叩き込まれた。
「なに?」
これまで散々攻撃しても効果がなかった周囲の暗黒騎士と鉄騎士がどよめく。
裏切り者の顔から余裕は消え去り、顎が割れて歯が数本飛んでいく。
顎と鼻から血をぼたぼたと零しながらドリャップは驚いて尻餅をついた。
「オゴポゴォ!ひゃんでだ・・・!神は俺達を守ってくれるじゃながったのか?」
「ヒィ!!」
ホッフは悲鳴を上げる。誰かが透明な壁が有効かどうかを確認する為に投げた小石が自分に当たったのだ。
「どうやら、偽の神のご加護は消えたようだな?きっと我らが星のオーガ様が天罰をお与えになったのだ」
ボキリボキリと拳を鳴らしてガスがホッフに近寄る。
「ふん!例え加護が消えた所でお前らウスノロのオーガに捕まるもんか!馬鹿!」
ホッフは宣言通りちょこまかと動いて、オーガや魔人族の間を縫って逃げていく。
「はは!杖は土産として貰っておくよ。さて転移石で逃げますか・・・」
神殿の裏にある幅の広い階段に差し掛かったところで、首にかけている転移石を懐から出そうとしたその時―――ザン!と音がしてホッフの視界が逆さまになった。
「え?・・・あれ?」
天地が逆になって暗転する前に、目の前で透明化から姿を現す暗黒騎士が見える。
ホッフが人生の終わりに見たものは、闇の中に消えていく意識と同じ色をした黒光りする大鎌の刃先だった。
「本当ならば裏口からではなく正面から正々堂々と杖を手に入れたかったのだが、潜んで戦えという皇帝陛下の命令ゆえ許せ。杖は貰っておく」
自分の性格上、潜んで戦うのは罰に近いのだと誰に言うでもなくセンは呟くと、地走り族の首のない胴体が抱え持つ始祖の杖を取り、ゆっくりと本陣まで歩いて帰っていった。
正宗が地球で春子と夕飯をとっていると、部屋の隅にある大きなホログラムモニターに三角形の狐の頭のような形をした宇宙船が映った。
「どうしたのかね?カプリコン」
「一応お伝えしておきます。何者かが惑星ヒジリにホログラムを飛ばし、原住民に干渉したようです。その痕跡を発見いたしました。フォースシールドの無許可使用、ナノマシンの移植、採取した資源の転移等。一応関係各所に通報し、ホログラムの追跡もしております。それから・・・それに関わったヤイバ様が致命傷を負い、生命活動に支障をきたしましたので、急いで回復しておきました。基本的に惑星ヒジリには干渉出来ないのですが、今回は原因が原因だけに政府からの許可もすぐに降りましたので」
「そうか・・・。ありがとうカプリコン。私は孫まで失うのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
ヤイバの祖父母である二人は、少し息が詰まる様な仕草をした後にヤイバの無事を知りホッと胸をなでおろした。
「樹族があの惑星を遮蔽装置で閉鎖していたのは正解だったのかもしれんな・・・。聖が精神生命体となって遮蔽装置をオフにしてから、いつかこのような事が起きるとは思っていたが」
正宗はどことも繋がっていない携帯端末を取り出し、親族だけに閲覧可能な息子のデータを見てため息をつく。
そこに書かれている日記や研究結果は何度も読み返したせいで既に頭の中に刻み込まれているので見る必要は無いのだが、息子の生きた証のように思えて愛おしいのだ。
時折、精神生命体となったヒジリが『惑星ヒジリの苦労話コーナー』を更新するのでヒジリがまだ生きているように思えてしまう。
「何よ、貴方は遮蔽装置をオフにした聖が悪いって言いたいわけ?法を犯す無法者が悪いんじゃないの!ヴィラン遺伝子を持つ者をマザーコンピューターが放置しているのはどういう事かしら?」
ぼやく妻の春子を正宗は宥める。
「ああ。勿論、無法者が悪いとも。聖はあの惑星を本来の姿に戻しただけなのだから・・・」
そう言ってやはり何処か心配そうな顔をする夫を春子は元気づける。二人して心配していても仕方がないからだ。
「今後はカプリコンの警戒も一層厳しくなるでしょうから、ヤイバもワロちゃんも大丈夫よ」
「そうだな。ただカプリコンは一世代前の宇宙船。そろそろ機能的に限界があるんじゃないかな。今回の侵入に対しても反応が遅かったように思える。カプリコンのグレードアップを申請しておこう」
正宗はモニターに映るカプリコンと青緑の惑星ヒジリを眺めてこれからの対策を思案するのであった。
「カワー・・・。申し訳ないが下ろしてくれないか。君の背中に抱きついているのは物凄く恥ずかしいから」
「!!」
カワーは瀕死のはずのヤイバが背中で意識を取り戻したとは思わず、死んで死霊か何かの類いになってしまったと勘違いして、ヤイバを放り投げる。
「くそ!悪霊め!」
「イタッ!おい!幾ら僕の事が嫌いだからって投げることはないだろ!」
悪霊だと思っていたヤイバは生気のある顔をして腰を撫でている。不思議な事に彼の血に塗れていた鎧も綺麗になっていた。
アンデッドの類ではないと解るとカワ―は手を水平に払って怒って見せる。
「嫌い?ああ嫌いだとも!ドリャップの裏切りに気づかなかった鈍い君なんてね!」
暫くお互い睨み合った後、フンと言ってカワーがヤイバに手を差し出した。
ヤイバは不思議そうな顔をしてその手を取り立ち上がる。
「どうやって瀕死から立ち直ったのは知らんが、ライバルに死なれちゃ張り合いがないからな」
「何故完治したのかは判らない・・・。それから僕はカワーに謝らなければならない。ドリャップに刺された時、真っ先に君に刺されたと疑ってしまったんだ・・・。すまない・・・」
「フン、確かに僕は君をあらゆる手段を使って蹴落とすと宣言はしたが、それはあくまでバンガー家とフーリー家のライバル同士としての関係上での話だ。僕は姑息なドリャップとは違う。ゆう・・・友人として君を裏切るつもりは・・ない・・・。ないんだからな!」
横を向いて顔を真っ赤にするカワーを見てヤイバは嬉しくなり抱きついた。
「お、おい!やめたまえ」
カワーがヤイバを引き離そうとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ~~~~~~~!」
粗方リザードマンを倒し終えたワロティニスが男同士で抱き合う兄とカワーを見て大声を上げた。
「お兄ちゃんの姿が見えたから走ってきたら・・・男同士で抱き合ってるなんて!お兄ちゃんってそっち系だったの?変態!」
「ち、違う・・待て!ワロ!」
ワロティニスを追いかけようとしたが、カワーがヤイバを引き止める。
「まだ任務中だぞ!僕は君を本陣まで送り届ける命令を隊長から受けたんだ。大人しく野営地まで来い!」
「そう言えば隊長達は今も神殿で神の力を得たホッフと戦っているんだった!戻ろう!」
そう言って遠くの神殿を見ると帝国軍の旗が立っており、神殿が制圧された事が解った。
「え?」
ヤイバが驚いていると、マー隊長が縄で拘束したドリャップを連れて、神殿の階段を降りてくるのが見える。
「ドリャップ・・・。なんで・・・」
ドリャップを見て少し悔し涙を浮かべるヤイバをカワーは急かした。
「ほら!ドリャップの事は忘れろ!野営地に急ぐぞ。僕達がここに留まっていれば隊長の命令を無視しと思われるだろう」
「あ、ああ。でもホッフは確かに父上のような神の力を得ていたはずなのに・・・どうやって倒したんだ?」
「知るものか。それは隊長の報告で解るだろう。さぁ陛下の天幕まで行くぞ!ヤイバ」
ヤイバは自分が気を失っていた間に何が起きていたのかさっぱり判らず、頭を捻りながら野営地へと向かった。
魔法騎士団の魔人族達が氷魔法を放つ中、イグナだけは苦手とする雷魔法を撃っていた。
苦手と言っても練度は並の魔法使い以上で、雷撃がリザードマン達を直撃した後も沼を伝って周囲のリザードマンを痺れさせている。そこに氷魔法が飛んで来るので予想以上にこの連携は効果的であった。
「流石は闇魔女様。闇魔女様が来る前の範囲攻撃魔法は命中してもレジストされる事が多く与えるダメージは本来のは五割程でしたが、今は九割以上です。我々はリザードマンが氷魔法に弱いという事ばかり考えていて地形を利用することは考えていませんでした。今まで遠距離範囲魔法は幾らか回避されて当然だと思って攻撃していたのです」
メロの言葉にナンベルはでもねぇ・・と苦々しく言う。
「広範囲に雷を落とす【雷雲】なんて珍しい魔法は魔人族でもそうそう覚えていませんし、攻撃力と痺れ効果の期待ができる練度を持つメイジはかなり少ないですからねぇ。そもそも雷魔法は扱いづらいし風魔法の亜種でマイナーですから人気がないんですよねぇ」
雷魔法を得意とするメイジを育成するべきかどうかでナンベルが頭を悩ませている間に、鉄騎士団と傭兵達が前線に走って行く。
ナンベルはその中に白地に金模様の入ったフルプレートを着る見覚えのある小さな騎士を目にして驚いた。
「あれ!後方で回復支援するはずのフランちゃんが、前衛に出てる!真っ先に狙われますよぉ!」
フランは回避能力が高く、鎧を着込んでいるので防御にも優れているが、所詮は地走り族なので生命力はオーガ達に比べて数段劣る。なので長期間の盾役には向いていない。
案の定、敵達の視線は聖騎士に向いている。彼女が持つカリスマは必ずしも良いことばかりではなく、挑発をしなくとも敵を引きつけてしまうのだ。
リザードマン達はしぶといオーガと戦うよりは地走り族の方がマシだと考え、一斉に彼女に襲いかかった。
「シールドバッシュトレイン!&【吹雪】!」
ヤイバがスキルと魔法を同時発動させて、フランに襲いかかるリザードマン達を大盾で弾き飛ばし、尚且つ進路の近くいた敵を凍らせていった。
ヤイバの攻撃から漏れた者は、砦の戦士達や暗黒騎士によって各個撃破されていく。
無口なはずのリザードマンが思わず叫び、周りに警戒を促した。
「シュー!敵に強力な・・・メイジの鉄騎士がいるぞ!スキルと同時に魔法を使いやがった!」
たじろいで動きを止めるリザードマンを睨み付けてヤイバはフランの前に立ち、敵を警戒しながら話しかけた。
「作戦通りですね。フランさんがいるとバラけた敵が集まって来るので攻撃しやすい。ありがたいです。危なくなったら遠慮なく陣地まで下がってくださいね」
「そぉするわ~」
フランは盾を構えたまま後ろにバックステップで下がり、そのまま踵を帰すと走って本陣へと向かった。
その背中をリザードマンがショートボウで狙ったが近くにいた鉄騎士が大盾で弾く。
フランが本陣近くまで走ったのを確認をしてからヤイバは遠くを見て急に魔法を詠唱しだした。
「シャシャ!馬鹿め!敵前で魔法を詠唱する馬鹿がいるか!中断させてやる!」
リザードマン達の目が詠唱中のヤイバに集まり、槍が突き出される。
―――ガキン!―――
原始的な槍や石斧がヤイバの鎧を叩くがリザードマン達が期待した効果は現れなかった。
普通であれば貫通しなくとも、攻撃さえ当たれば魔法使いの集中を途切れさせることが出来るが、強靭度が異常に高いヤイバは攻撃に揺らいでも動じる事もなく詠唱は止まら無かった。
「馬鹿な!」
咄嗟に魔法攻撃に身構えたリザードマン達を飛び越えて飛んでいく【火球】が遠くのヒュドラーに直撃して大火傷を負わせた。
マー隊の仲間たちがヒュドラーに苦戦していたのだ。
「これで再生能力を鈍らせたはず・・・」
ヤイバの言葉通り、カワーが火傷を負い柔らかくなったヒュドラーの胸を自慢の剣で突き刺した。心臓を貫かれて絶命したヒュドラーを見てヤイバは安心する。
安心するヤイバに再びリザードマンが攻撃をしてくる。
それをヤイバはバトルハンマーで薙ぎ払って倒すと、隊と合流して正面から神殿を目指した。
先程神殿に侵入したルートをちらりと見ると、重点的にリザードマンとヒュドラーが配置されている。
(二度目ともなると神殿への隠密侵入は難しい。ならば派手に暴れて堂々と乗り込んでやりなさいキュッキュー!)
と、お道化ながら言うナンベル皇帝の命令が頭に浮かぶ。
一戦目と違って敵の数はイグナや魔法騎士団の範囲魔法で減っており、更にリザードマン達はゾンビとの戦いで疲弊している。
後ひと押しといった中でヤイバは走りながら色々と考える余裕も出てきた。
(リザードマンに詳しいメイジの話では、始祖の杖は神殿の台座に置いて初めて効果を発揮する。なので持ち去ったとしてもまた元の場所に戻すだろうとは言っていた。となるとそこでホッフと戦闘になるのだろうか?出来れば捕まえて樹族国の裁きを受けさせたいな・・・)
ふと視線を現実に戻すと砦の戦士の格闘家三人組がヒュドラー相手に戦っている。ヤイバはその横を走りつつ支援が必要かを窺った。しかし、その必要がないと知る。
ワロティニスの師匠であるドォスンが腰を下ろして、襲い掛かってくるヒュドラーの沢山の頭を正確に間を置かずに正拳突きで砕き、それらが再生して攻撃してくる前に心臓に向かって掌底を叩きつけていた。
ヒュドラーは一瞬動きを止めた後、どぅと音を立てて地面に倒れ込み動かなくなった。
「やり方はわがったか?ワロ!」
「えーっと、なんとかやってみる!」
ヤイバの妹は師匠の真似をしてヒュドラーの攻撃を掻い潜って心臓に掌底をトンと当てると・・・。
―――ブシャァァァ!―――
ヒュドラーの体から骨が背中側に飛び出して内臓が飛んでいく。
「やった!」
「ばが!何がやっただ!出来てねぇど!毎回そんなエネルギーを使っていたらすぐにバテる!少ない力で心臓だけをトマトみたいに潰すんだ!」
取り囲むリザードマン相手に分身でもしているのかと思うほどの足運びでパンチを繰り出すスカーの近くで、テヘペローと恥ずかしがる妹に「頑張れ、ワロ!」と手を振って先を急いだ。
(戦場で技を教えているのか、ドォスンさんは。ワロも死と隣り合わせで技を覚えているから、あんなに強力な攻撃になるんだな。ドォスンさんとスカーさんがいれば大丈夫だろうけど、死ぬなよ僕の可愛いワロ!)
妹を心配しつつも従軍鍛冶屋に急いで直してもらった小手を見てヤイバはブルッと身震いをした。
鉄騎士団と暗黒騎士団が制圧しつつある神殿手前の長い階段まで来るとドリャップが急に苦しみだした。
「どうした?ドリャップ!」
「ウググ!何で俺ばかり・・・。さっきは仲間に殴られ、今度は・・・。気をつけろ!サキュバスが何処かにいるぞ!多分・・隊長と俺は暫く役立たずだ・・・すまねぇ・・・」
催淫に抗うドリャップの後ろでマーがあぁぁぁと悶えだした。救いを求めるように潤んだ目でヤイバを見つめている。
ヤイバは催淫スキルの影響をカワ―も受けているかを確認すると、彼は鼻に皺を寄せて冷たい目で隊長を見ていた。
「フン!気持ちの悪い!身悶えする隊長は見たくないな!サキュバスはどこだ!ヤイバ!」
「恐らく姿を消しているのだと思う。【魔法探知】!」
悪魔の形にマナを帯びた光が、木の後ろからチラチラとこちらを窺っている。
「あそこの木の後ろだ!魔法の射程距離外だ。近寄らないと・・・」
「ドリャップ、大弓を借りるぞ!」
カワーはドリャップの背中に浮く魔法の大弓を強引に引き剥がすと弦を引き抜きサキュバスが隠れている木に向けた。
ビン!という音の後に無限に出てくる魔法の大矢はゴォォォ!と轟音を立てて凄まじいスピードで木へと飛び粉々に砕いた。
爆発の魔法でも落ちたのかと思う程、木の破片が一面に飛び散り、致命傷を負って血だらけのサキュバスが姿を表してドサリと倒れる。
そのサキュバスは何度かヒジリを邪魔した金髪のサキュバスであった。息も絶え絶えのその姿が薄っすらと消えていく。恐らく現世で肉体を維持できなくなって自分のいた魔界に戻るのだろう。
「やったぜ、カワー!くそ野郎のくせして!」
「本来、貴様の仕事だろう。貧民はまともに仕事も出来ないのか!」
「貧民は関係ないと思いまーす。それは低所得者差別だと思いまーす!」
「いいから行くぞ!!」
仲の悪い二人の喧嘩を止めて、ヤイバは隊長を心配した。
「大丈夫ですか?隊長・・・?」
「ああ、問題ない。恥ずかしい姿を晒してしまったな・・・」
「気にしないでください。サキュバスの魅了や催淫に抗う術は乏しいですから・・・」
堀の深い顔を赤らめて、ツンとした顔をする隊長をヤイバは少し可愛いと思ってしまい、心の中でワロティニスに浮気したことを謝罪した。
「あと少しだ!気を抜くなよ!さっきの私のようにな!」
自嘲して笑う隊長の言葉を聞いてドリャップが豪快に笑った。つられてヤイバも少し笑う。笑った方が彼女の恥を拭えるような気がしたからだ。
マーを先頭にヤイバとカワーとドリャップは神殿の入口にさしかかったその時。
「やぁやぁ我が名は沼地の英雄シュースの息子が一人レオパルドン!尋常に勝負せよ!」
大柄のリザードマンがマー隊の前に立ちはだかった。しかし、マーはそれに応じずバトルハンマーを薙ぎ払うとスリリンは吹き飛び、神殿の壁に頭をぶつけて絶命してしまった。
「何だったんだ、アイツ・・・」
「さてね。君のような愚か者なのだろう?ドリャップ」
「カワ―!てめぇ!」
「いい加減にしろ。二人とも!行くぞ!」
直ぐに喧嘩になる二人をまたヤイバが止めて先を進むよう促した。
「へへ!一番乗り!」
ドリャップがそう言って神殿の裏口近くにある始祖の杖がある部屋に入った。
「待て!僕は野営地で言ったはずだぞ!魔法の罠があるかもしれないって!【解除】!」
しかし、ヤイバの心配は空回りに終わる。魔法の罠は無かったのだ。
「お前はいつも慎重過ぎるんだよ。いつか禿げるぞ!」
そう言ったドリャップの言葉が面白かったのか、台座に座って杖を持つホッフはフフフと笑っている。
「よく来たね。ヒジリ・・・じゃなかったヤイバ。こうして間近で見ると君は本当にお父さんとそっくりだね。エポ村で自警団をやっていた頃が懐かしいよ」
「これで合うのは二回目ですか?ホッフさん。悪いのですが、その杖を渡して頂けないでしょうか?」
「僕は二回目どころじゃないんだけどね。何度も君を見ている。最初はね、君の任務中に備品を盗んで小さく名誉を傷つけてみたりしてみた。それからサキュバスを使って君を催淫し堕落させてやろうと思ったんだ。情けないヒジリの息子を見たら、タスネはさぞがっかりするだろうと思ってね。まぁ結果、君は全てを退けてここにいるけど・・・」
つまらないね、と言ってホッフは杖の先端につくリザードマンの始祖の骨に話しかけた。
「恥ずかしくないんですか?いつまでもタスネさんにされた事を根に持ってぐじぐじしているなんて。いい加減、前を向いて歩いてみたらどうですか?」
「まぁ最後まで話を聞けよ、糞オーガ」
急にホッフの額にビキビキと血管が浮いて形相と言葉遣いが変わった。が、直ぐに表情は元に戻って話を続ける。
「その次に、ヴャーンズのゴタゴタを利用して君たちとあの老魔法使いを仲違いさせてやろうと思ったんだ。でもね、僕が随分前に見つけた巻物から召喚した可愛いサキュバスはヴャーンズの使い魔に見つかって、コテンパンにされちゃったんだよ。本当なら僕のサキュバスが遺跡に入るつもりだったんだけどね・・・」
「・・・」
「で、最後は君の隊の仲間を操って、君を殺そうとしたんだけどしくじっちゃってさ。君が隊を離れて単独行動するとは思わなかったんだ。本当はヒジリの代用品である君を殺したくはなかったんだよ?堕落させてタスネに少しでも嫌な気分を味あわせようと思ったからね。でも計画が変わった。先程、神は些細な捧げ物で僕に力を与えてくれると言った。特定の台座に神の指定する植物や鉱物、それにこの始祖の杖を乗せるだけで僕は不死になれるのだよ。たったこれだけの事で!あ、忘れていた!君の命もだった!ハハハ!」
神殿も制圧されたのか、後からやってきた鉄騎士団のガス達や暗黒騎士達は、神の力を得ると言って笑うホッフを見て狂っていると思った。
「何言ってんだ?お前のようなちびっこが神の恩恵を授かったというのか?我らが星のオーガの恩恵を?ふざけんな!」
そう言ってガスが濃い顔を怒りに歪ませてバトルハンマーで殴りかかる。
するとホッフの前に透明の壁が現れて、ガスの攻撃を弾いた。
「馬鹿な!あれはヒジリ様と同じ・・・。そんなはずがあるか!」
驚くガスを押しのけ一人の暗黒騎士が【闇の炎】で不気味に笑う地走り族を焼く。
しかし、焼いたように見えた炎はホッフの前で掻き消えてしまった。
「どうだ!これがついさっき得た神の力だ!だが僕はまだ不死ではないのだよ?それでも神の力はこうも強力なのだ!ハハハ!やろうと思えばね、ヤイバ!僕はいつでも君を殺せるのだよ?ただ神に近しい存在となった今の僕が自分の手を君の汚い血で汚すのはよろしく無い」
パチンとホッフは指を弾いた。
するとキキキと鎧を擦る音がヤイバの近くでする。
その音はヤイバの背中から聞こえてきたのだ。鎧通しが鎧の隙間から入り込み貫いている。
鈍いが大きい痛みが背中を襲い、ヤイバは口から血を流して震えながら背中の親友を見ようとした。
「ガハッ!なぜ・・・だ・・・ドリャップ・・・」
全く注意を払っていなかった背後からの致命の一撃。
親友のドリャップが裏切り者だったとは予想もしなかった。裏切るとしたら自分を敵対視しているカワーだろうとヤイバは心の中でどことなく思っていたからだ。
遠のく意識の中で地面に倒れ伏すまでの間に目に映ったものは、怒り狂ったマー隊長と顔を強張らせたカワーがドリャップを攻撃する姿だった。
裏切り者は「あぶねぇ!」と叫んでマーとカワーの攻撃を躱し、大きく飛び退いてヘルムを脱ぐとニヤニヤと笑いながらホッフの横に立った。
「わりいな、ヤイバ。あ、それから俺は操られていないぜ?自分の考えで動いて、ずっと前からホッフに協力していたんだ。力あるフーリー家のお前や、栄光ある帝国よりも俺の利益になる方を選んだってわけだ。神の力を得た地走り族の方がどうも魅力的に見えてな。まぁその・・・力こそ全てなんだから俺を恨むなよな?」
しかしヒジリは既に鎧の隙間から大量の血を滴らせて、意識を失っていたのでがっかりしてドリャップは黙った。
「神は他愛もない物を欲し、僕は神の力を手に入れる。そして簡単に手が出せなかった吸魔鬼のタスネにも復讐が出来て、ゆくゆくは世界も手に入れられる。そしてドリャップは僕に従って地位と名誉を得る。ウィンウィンじゃないか!」
芝居じみた動きをして煽るホッフを見てマーは怒りながらも冷静な声でカワーに命令した。
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(この傷ではもしかしたら野営地に辿り着くまでに私の愛しいヤイバは・・・。ああ、神様!彼を死なせないで!)
マーがそう神に祈りたくなるほどドリャップは的確に急所を突いていたのだ。腎臓への一撃は大量出血と激痛でショック死を起こさせる可能性もある。
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ライバル家の跡取りが死ねばバンガー家は再び再興するかもしれない。何なら今がチャンスでもある。ヤイバは背後の警戒を怠り油断して倒れたのだ。オーガは例え仲間であっても実力がないと判断すると見捨てることが多々ある。助けずに死なせてしまっても誰にも文句は言われない。
しかし、やはり友人には死んで欲しくない。カワーはヤイバに出会うまで友達らしい友達がいなかった。
常に憎まれ口を叩いて周りとの距離をとっていたからだ。そうすることで落ちぶれたバンガー家に属する自分のプライドが保たれるような気がした。
ところがヤイバは自分の憎まれ口も意に介さず、純粋に自分をライバルとして、友人として、切磋琢磨の相手として接してくれた。
その友人が今、背中で浅い息をして死にかけている。
「死んだら許さないからな・・・」
ボソリとそうつぶやいてカワーは悔しそうな顔で奥歯をギリリと噛み締め、走る速度を早めて本陣を目指して戦場を駆けていった。
神殿の中ではホッフはまだ舞台上の俳優のような動きで大げさな手振り身振りで喋っている。途中で暗黒騎士が大鎌でホッフを切り裂こうとしたがやはり透明な壁によって阻害されている。
「いいかい?攻撃が効かない僕の間合いに入ってくるというのは攻撃されるって事だよ?」
ホッフは地走り族のレンジャーがよく使う、腕に装着するタイプのクロスボウを暗黒騎士に向けて撃った。
【弓矢そらし】の魔法を掛けているとはいえ、近距離からの狙撃で暗黒騎士の太ももに短矢が深々と突き刺さる。暗黒騎士は痛みに抗いながらも【猛毒の霧】を唱えた。紫色の霧がホッフとドリャップを包んだ。
しかしドリャップはエリートオーガなので猛毒耐性が高く効きそうにもない。地走り族は毒に対する耐性はない。みるみる霧と同じ紫色の肌になっていったが、暫くすると何故か元の肌色に戻った。
ホッフはスチャっとクロスボウを構えて毒霧を放った暗黒騎士に向けたがガスが盾で庇う。
「確かにお前は神のような回復力はあるが、攻撃力は普通の地走り族だな。え?」
ガス・ターンの憎まれ口にホッフは舌打ちした。
「チッ!腹立たしい暗黒騎士と鉄騎士のコンビめ。さて、神が呼んでいる!僕たちは帰るとするか。次は相手を簡単に打ちのめす力でも神に強請ってみるかな」
ホッフが調子に乗って両手を広げ、この場から去る宣言をしようとしたその時、どこからともなく紳士的な声がアラームと共に聞こえてきた。
―――警告!地球からのアクセスを確認!―――
―――惑星法違反を確認!違反者は直ちに宇宙管理局に出頭せよ―――
―――違反者がアクセスを遮断。しかし違反者の遠隔操作するホログラムは健在。直ちに追跡します―――
辺り一面が暫く赤く光った後、神殿はいつもの明るさに戻った。
「何だ?」
「さぁ?」
ホッフとドリャップが困惑しているとマーが彼らの前にいつの間にか立っていた。
「ドリャップ・・・お前もそこの地走り族同様、こちらの攻撃は弾かれてしまうのかもしれない。だが私は裏切り者のお前を一発殴らないと気が済まない!よくも・・・・よくも私のヤイバをぉぉぉぉ!!!」
マーの右手が小手の下で膨れ上がっている。腕が筋立ち血管が異様に浮いているが全身鎧を着ているので誰にもそれは見えない。
それでも小手の上に漂うオーラのようなものが誰にも見え、マーの怒りがそうさせているのが解る。
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ホッフは悲鳴を上げる。誰かが透明な壁が有効かどうかを確認する為に投げた小石が自分に当たったのだ。
「どうやら、偽の神のご加護は消えたようだな?きっと我らが星のオーガ様が天罰をお与えになったのだ」
ボキリボキリと拳を鳴らしてガスがホッフに近寄る。
「ふん!例え加護が消えた所でお前らウスノロのオーガに捕まるもんか!馬鹿!」
ホッフは宣言通りちょこまかと動いて、オーガや魔人族の間を縫って逃げていく。
「はは!杖は土産として貰っておくよ。さて転移石で逃げますか・・・」
神殿の裏にある幅の広い階段に差し掛かったところで、首にかけている転移石を懐から出そうとしたその時―――ザン!と音がしてホッフの視界が逆さまになった。
「え?・・・あれ?」
天地が逆になって暗転する前に、目の前で透明化から姿を現す暗黒騎士が見える。
ホッフが人生の終わりに見たものは、闇の中に消えていく意識と同じ色をした黒光りする大鎌の刃先だった。
「本当ならば裏口からではなく正面から正々堂々と杖を手に入れたかったのだが、潜んで戦えという皇帝陛下の命令ゆえ許せ。杖は貰っておく」
自分の性格上、潜んで戦うのは罰に近いのだと誰に言うでもなくセンは呟くと、地走り族の首のない胴体が抱え持つ始祖の杖を取り、ゆっくりと本陣まで歩いて帰っていった。
正宗が地球で春子と夕飯をとっていると、部屋の隅にある大きなホログラムモニターに三角形の狐の頭のような形をした宇宙船が映った。
「どうしたのかね?カプリコン」
「一応お伝えしておきます。何者かが惑星ヒジリにホログラムを飛ばし、原住民に干渉したようです。その痕跡を発見いたしました。フォースシールドの無許可使用、ナノマシンの移植、採取した資源の転移等。一応関係各所に通報し、ホログラムの追跡もしております。それから・・・それに関わったヤイバ様が致命傷を負い、生命活動に支障をきたしましたので、急いで回復しておきました。基本的に惑星ヒジリには干渉出来ないのですが、今回は原因が原因だけに政府からの許可もすぐに降りましたので」
「そうか・・・。ありがとうカプリコン。私は孫まで失うのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
ヤイバの祖父母である二人は、少し息が詰まる様な仕草をした後にヤイバの無事を知りホッと胸をなでおろした。
「樹族があの惑星を遮蔽装置で閉鎖していたのは正解だったのかもしれんな・・・。聖が精神生命体となって遮蔽装置をオフにしてから、いつかこのような事が起きるとは思っていたが」
正宗はどことも繋がっていない携帯端末を取り出し、親族だけに閲覧可能な息子のデータを見てため息をつく。
そこに書かれている日記や研究結果は何度も読み返したせいで既に頭の中に刻み込まれているので見る必要は無いのだが、息子の生きた証のように思えて愛おしいのだ。
時折、精神生命体となったヒジリが『惑星ヒジリの苦労話コーナー』を更新するのでヒジリがまだ生きているように思えてしまう。
「何よ、貴方は遮蔽装置をオフにした聖が悪いって言いたいわけ?法を犯す無法者が悪いんじゃないの!ヴィラン遺伝子を持つ者をマザーコンピューターが放置しているのはどういう事かしら?」
ぼやく妻の春子を正宗は宥める。
「ああ。勿論、無法者が悪いとも。聖はあの惑星を本来の姿に戻しただけなのだから・・・」
そう言ってやはり何処か心配そうな顔をする夫を春子は元気づける。二人して心配していても仕方がないからだ。
「今後はカプリコンの警戒も一層厳しくなるでしょうから、ヤイバもワロちゃんも大丈夫よ」
「そうだな。ただカプリコンは一世代前の宇宙船。そろそろ機能的に限界があるんじゃないかな。今回の侵入に対しても反応が遅かったように思える。カプリコンのグレードアップを申請しておこう」
正宗はモニターに映るカプリコンと青緑の惑星ヒジリを眺めてこれからの対策を思案するのであった。
「カワー・・・。申し訳ないが下ろしてくれないか。君の背中に抱きついているのは物凄く恥ずかしいから」
「!!」
カワーは瀕死のはずのヤイバが背中で意識を取り戻したとは思わず、死んで死霊か何かの類いになってしまったと勘違いして、ヤイバを放り投げる。
「くそ!悪霊め!」
「イタッ!おい!幾ら僕の事が嫌いだからって投げることはないだろ!」
悪霊だと思っていたヤイバは生気のある顔をして腰を撫でている。不思議な事に彼の血に塗れていた鎧も綺麗になっていた。
アンデッドの類ではないと解るとカワ―は手を水平に払って怒って見せる。
「嫌い?ああ嫌いだとも!ドリャップの裏切りに気づかなかった鈍い君なんてね!」
暫くお互い睨み合った後、フンと言ってカワーがヤイバに手を差し出した。
ヤイバは不思議そうな顔をしてその手を取り立ち上がる。
「どうやって瀕死から立ち直ったのは知らんが、ライバルに死なれちゃ張り合いがないからな」
「何故完治したのかは判らない・・・。それから僕はカワーに謝らなければならない。ドリャップに刺された時、真っ先に君に刺されたと疑ってしまったんだ・・・。すまない・・・」
「フン、確かに僕は君をあらゆる手段を使って蹴落とすと宣言はしたが、それはあくまでバンガー家とフーリー家のライバル同士としての関係上での話だ。僕は姑息なドリャップとは違う。ゆう・・・友人として君を裏切るつもりは・・ない・・・。ないんだからな!」
横を向いて顔を真っ赤にするカワーを見てヤイバは嬉しくなり抱きついた。
「お、おい!やめたまえ」
カワーがヤイバを引き離そうとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ~~~~~~~!」
粗方リザードマンを倒し終えたワロティニスが男同士で抱き合う兄とカワーを見て大声を上げた。
「お兄ちゃんの姿が見えたから走ってきたら・・・男同士で抱き合ってるなんて!お兄ちゃんってそっち系だったの?変態!」
「ち、違う・・待て!ワロ!」
ワロティニスを追いかけようとしたが、カワーがヤイバを引き止める。
「まだ任務中だぞ!僕は君を本陣まで送り届ける命令を隊長から受けたんだ。大人しく野営地まで来い!」
「そう言えば隊長達は今も神殿で神の力を得たホッフと戦っているんだった!戻ろう!」
そう言って遠くの神殿を見ると帝国軍の旗が立っており、神殿が制圧された事が解った。
「え?」
ヤイバが驚いていると、マー隊長が縄で拘束したドリャップを連れて、神殿の階段を降りてくるのが見える。
「ドリャップ・・・。なんで・・・」
ドリャップを見て少し悔し涙を浮かべるヤイバをカワーは急かした。
「ほら!ドリャップの事は忘れろ!野営地に急ぐぞ。僕達がここに留まっていれば隊長の命令を無視しと思われるだろう」
「あ、ああ。でもホッフは確かに父上のような神の力を得ていたはずなのに・・・どうやって倒したんだ?」
「知るものか。それは隊長の報告で解るだろう。さぁ陛下の天幕まで行くぞ!ヤイバ」
ヤイバは自分が気を失っていた間に何が起きていたのかさっぱり判らず、頭を捻りながら野営地へと向かった。
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