未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(121)

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「なぁ、君はどう思うのだい?あの噂。本当だと思うかい?」

 赤い鎧に赤い髪のポニーテールの騎士は、隣りにいる水色の鎧を着た黒髪の騎士に言う。

「まぁ聖下の子だし、嘘ではないと思うよ。聞く所によれば、星のオーガも一緒だったらしい。」

「ああ、マサヨとか言うロリ可愛いオーガだね」

「知っているのかい?」

「いや、目撃者の話を聞いただけだよ。どうも彼女がいなければエルダーリッチは倒せなかったらしい。身を挺して弱体化してくれたそうだ」

「まぁ、劣化版の星のオーガとはいえ腐ってもオティムポ肉(意味:腐っても鯛と同じ)だからね。それぐらいはするだろうさ。でも未だかつて誰もエルダーリッチに勝った者なんていなかったのに凄いな、ヤイバは。いや、ヤイバ達はと言うべきか。ヤイバとその妹のワロティニス。黒いイービルアイとマサヨ」

「君もそろそろ何か武功を上げた方が良いよ、ゴルドン。実力的にもヌリに抜かれるのは時間の問題なんじゃないのか?君の鉄壁なる甥は敵の前で腕組んで不敵に笑っているんだぞ?本気を出したらどうなることやら」

「君がそれを言うのかい?キウピー。君こそ何もしていないだろう」

「戦争がないと騎士ってのはどうしようもないもんさ。社交場でお偉いさんにおべっかばかり使うのも飽々してきたよ」

「平和になると増長して威張りだすのが貴族だからね。王族も暇なのかずっとカードゲームばかりしてるし。僕達が武功を上げて名を売る機会は暫くは皆無だな。誰かさんのようにエルダーリッチを倒せるだけの力があれば話は別だけども」

「神の子を一々引き合いに出すなよ、ゴルドン」

「このまま、お家の力で昇格するのが気に入らないだけさ。いつかヤイバのように武功を上げてのし上ってやるさ」

「それは僕も同じだね」

 二人は遠くから人の気配がしたので会話をやめる。

 暫くすると廊下の角からヤイバ達が現れた。

 シュラス王の私室に入っていくヤイバ達の為にドアを開けて二人は胸を叩いて敬礼をする。

「お久しぶりです、ゴルドンさん」

「ああ、一年ぶりかね?出会う機会は有ったのに、どうもすれ違いが多かったみたいだね。君に会えて嬉しいよ、ヤイバ。さぁ王を待たせてはいけない。入り給え」

 ヤイバはウォール家の壁に飾ってある少年時代のオカッパ頭のゴルドンを思い出してぐっと笑いがこみ上げてくるのを堪える。つい最近まで友人のカワーが同じ髪型をしていたからだ。

「どうしたんだ?ヤイバ。ぼんやりして。早く入れよ」

 後ろからマサヨが急かす。前を見ると豪華なソファに座る小さな樹族の王がヤイバ達が入ってくるのを今か今かと待っていた。

「やぁ!よく来たの、ヒジ・・・ヤイバ君。他の皆もよく来てくれた!さぁ席について。まずは、エルダーリッチの脅威から我が国を守ってくれた君達に乾杯をさせてくれ!美味しい料理をたっぷりあるぞ?エルダーリッチを倒した英雄たちの口に合うかどうかわからんが。ところでエルダーリッチはどうじゃった?是非君達の活躍を聞かせてくれないか?」

 部屋の隅には記録官と宮廷絵師、テーブルには魔法水晶が置かれている。

 国を救ってくれた英雄達を対戦カードにする気満々のシュラス王の鼻息は荒かった。





 若いエルダードラゴン種であるエルは恋人のベンキととある遺跡を探索していた。

 人間の姿に変身しているエルはベンキに寄り添い、薄暗い遺跡から何か得られる情報はないかとキョロキョロしている。

「ねぇ、他に仲間を連れてこなくて良かったの?ベンキ」

「遺跡の調査だけなら、少人数の方がいい。増えればその分、行動が一々遅れる」

 二人共暗視が出来るので松明などは持っていない。壁を触って古い壁画を見上げる。

 そこには天からドラゴンが降臨し、竜族が地上で繁栄していく物語が描かれていた。

「これは願望だったのかしら?それとも本当に竜族が繁栄していたのかしら?今の下位の竜族達を見ていると、とてもそんな面影は無いのだけども」

「盛者必衰が世の理。まだ亜人がいなかった頃は栄えていたのだろう。エルの祖父は昔の話はしてくれなかったのか?」

「全然してくれなかったわ。仲間達が異世界に旅立ち始めた事も祖父が死に際になって教えてくれたの」

「エルの祖父は最後まで残っていたという事はこの世界が好きだったのか?」

「ええ、この世界の人類が好きだったみたい。ドラゴンの中では変わり者ね。私もそうだけど。うふふ」

 悪戯っぽく笑うとエルは、逞しさと美しさを兼ね備えたベンキの白い頬を撫でた。

 ベンキもそれが嫌ではないのか、されるがまま撫でられている。

「それにしてもここはスライム一匹すら住んでいない。少し退屈だな・・・」

「あら、平和が一番よ。私は成るべくならいつも心穏やかでいたいわ」

「へぇ、それはありがたいね」

 遺跡の奥の大広間からしわがれた声が聞こえてきた。

 遺跡の奥からひたひたとやって来る人影に対して、ベンキ達は特に怯えもしないし、身構えもしなかった。

「おや?警戒はしないのかい?」

「太古の竜の遺跡に樹族の遺跡守りはいないはず。それに遺跡守りの呪いは星のオーガのマサヨの命令によって解かれているからな」

 ベンキ達の前に現れたのは竜と人類の間の子ドラコーンであった。

 この世界に十人いるかいないかの希少な種は一見するとリザードマンに見えなくもない。しかしリザードマンには彼のような立派な角は生えていない。

「おや?そちらの女性はエルダードラゴンだね。俺を捨てていった父親と同じ匂いがする。そっちの男性は普通のオーガだ。この遺跡に何の用だい?」

「エルがこの遺跡から、濁流のようなマナの流れを感じ取った。だから調査に来たのだ」

「そう。で、今はどうだい?」

 ドラコーンは丸い黒い瞳でエルを見る。

「何も感じないわ。至って普通」

「そうだろうね。ここはなんというか・・・マナをコントロールするダムみたいな役割の遺跡だからね」

「そんな重要な事、俺達に喋ってもいいのか?」

「ああ、構わないさ。だって知ったところで君達が何かできるってわけでも無いし。勿論俺にもね」

「貴方はここで何をしているの?」

「別に。住み着いているだけだよ。なにせ俺は見た目がドラゴン寄りだからね。人類寄りなら君達も受け入れてくれたかもしれなかったけど」

「変身は出来ないの?」

「残念ながらね。だからひっそりとここで暮らしている。どうせ番を探して世界を巡ってもドラコーンに出会う確率なんて殆ど0に近いし、会えても女性とは限らない」

「ただ単に住み着いている割には、この遺跡のことに詳しそうだな。何でだ?」

「そりゃあ二千年も生きていりゃ、この遺跡の事は隅から隅まで解るさ」

「で、マナの急激な流れは何だったのか、貴方は解るのかしら?」

「俺は貴方ではないよ。俺の名前はチャガだ。よろしく」

 顔の側面に付くヤモリのような可愛らしい黒目がこちらを見て、手を出してきた。

 二人は順番にチャガと握手をする。

「失礼。私は古竜のエル。彼は砦の戦士のベンキよ」

「よろしく。で、マナの話だが・・・。その・・・信じないかもしれないが、夢の中で神の啓示を受けたんだ。この星のマナを開放せよって。で、俺はこう答えた。マナの根源的な取扱は神の領域なので我々には何も出来ないってね。そしたらそこで夢が覚めて、遺跡に有るマナホールから激しい勢いでマナが空に吸い込まれていったんだ。エルが言った濁流のようなマナの流れとはこれの事だと思うよ」

「神が強制的にマナを吸い上げたのかしら?」

「わからない。その後、遺跡が赤く点滅してよく判らない言語で警告するような声が聞こえた。流石にその時は恐怖で縮み上がったね。何か俺がしたのかと思ってさ」

 砦の戦士の中でもヒジリやワロティニスを除けば一番賢いベンキですら一体何が起きたのか推し量ることは出来なかった。

「手に負えない案件だな。神が関わっているのだから・・・。神の事は神に任せよう。神の子の兄妹・・・或いはマサヨに頼めば、何か解るかもしれない。これに関してはどうも嫌な予感がする」

「そうね・・・。我々の知らないところで何かを計画されているといった感じね」

 不安そうに互いを見つめる二人に申し訳なさそうにチャガが話しかける。

「君達を見ていたら人が懐かしくなってきた。ついて行ってもいいかな?」

「それは構わないが、お前はリザードマンに似ているから石を投げられるかもしれんぞ?」

「ああ、覚悟の上さ。いいかい?」

「なら良いぞ。暫くはオーガの酒場の二階に住めばいい。金はあるのか?」

「ああ、今まで溜め込んだ貴重な魔法の品々がある」

「あら?宝が好きなんてチャガは下位のドラゴンみたいね、うふふ」

 恐らく親はエルダードラゴンだと思われる彼のくすんだ金色の鱗が少し浮いた。ドラゴン同士の認識ではそれは怒っているという意思表示なのだ。

 エルは彼を傷つけたと思って謝る。

「ごめんなさい。怒らせちゃったかしら?鱗が・・・」

「え?ああ、これは人の世界に行ける喜びで少し興奮しているんだよ。気にしないで」

 エルはドラコーンと竜では少し認識に違いがある事に驚きながらも、先を行く二人について行った。





 マサヨはオーガの酒場の自室でピンクのナイトローブのままゴロゴロしていた。

 めくれ上がったローブから下着が見えているのでクロスケが注意する。

「パンツ見えてまっせ、マサヨちゃん」

「お前しかいないんだし、いいだろ」

「パンツは水色と白のポルカドット柄。あんまりやらしくないでんなぁ。でも録画しといたろ」

 マサヨはバッ!と飛び起きてベッドに座り股間を隠す。クロスケに録画されると皆に公開されてしまうかもしれないという思いが顔を赤くしていく。

「へ、変態!」

「ん~萌えっ!」

 コンコンとドアをノックして制服姿のヤイバが入ってきた。

「あれ?今日は仕事なんじゃないの?」

「陛下からエルダーリッチ討伐の件で休暇と報奨金を頂いたので、マサヨさんの分も届けに来たんです」

「へ?何であの道化師が俺にお金くれるの?樹族国から報奨金を貰ったのは当然として」

「帝国の評判を上げてくれたからだそうです。陛下曰く、マサヨや僕は外交官よりも成果を上げているとのことです」

「あ~、そうかもな。あのままあのエルダーリッチが超絶破壊魔法を唱えていたら間違いなく樹族国は滅んでいただろうから、そりゃ感謝もするだろうし、情報が周辺国へ知れ渡れば帝国の印象も最高に良くなるだろうな」

「ええ・・・それにしても恐ろしい敵でした・・・」

 マサヨはベッド脇に置いてあるバックパックから寝転んだままの姿勢で筒を取り出し、中の証書をヤイバに見せた。

「俺も帝国召喚師協会から名誉会員の証書を貰ったぜ。なんでもメイジ最弱の召喚師が大手柄を上げたって事で。会長の禿爺に抱きつかれてキモかった~」

「凄いじゃないですか!」

「そうだろ?もっと褒めてもいいんだぜ?ふふーん」

 寝転んだまま仰向けになって威張り、股を開いた所為でヤイバの目には水玉模様の下着が飛び込んできた。

「またパンツ見えてまっせ!」

 そうクロスケが言うか言わないかの内にヤイバがマサヨに覆いかぶさる。

「え!まさか、マサヨちゃんに発情してしまったんかいな!ヤイバ君!」

「あわわわわ!う、嬉しいけど、まだ心の準備が!クロスケもいるし!」

 真剣なヤイバの顔がマサヨを見つめながら何かを言った。

「守りの盾!」

 ブワッとスキルが発動してヤイバの体から僅かに風が吹く。

 思わず目を閉じたマサヨが恐る恐る目を開けると、あの憎きヒジリがヤイバの背中に拳を叩き込んでいた。

 苦痛と肺から流れ出ていく空気にガハッと声が漏れ、ヤイバの顔が歪む。

「グッハッハッハ!いいぜぇ!この体!動きは軽いし、力も技も思いのままだ!これまでみたいにすぐに元に戻らないでくれよ、人形ちゃん」

「なんでや!コピー人形が勝手に動いとる!」

 ヒジリの姿をしたコピー人形は両手を組んでもう一撃をヤイバの頭に振り下ろそうとしたが、クロスケが人工クモ糸を出して人形の動きを止めた。

「どういう事や・・・?コピー人形は動けるようには出来てへんで」

 ヤイバがなんとか息を整え、マサヨを抱きかかえると人形から距離を取った。マサヨはぎゅうっと抱きしめられて思わず興奮する。

 嬉しそうにするマサヨを床に立たせるとヤイバは険しい目でクロスケに拘束された人形を見下ろす。

「恐らくは・・・悪霊の類では・・・。街の結界が緩んでいるのかもしれない。悪霊が人形に乗り移ったのだと思う」

「放せ!放せ!ゲヒヒィー!」

「どうやってその男になれたんや?」

「知るかよ!この人形に乗り移ったら勝手に体がこうなったんだ。これまでにも何度かこういう事があってよぉ。悪霊としては力の弱い俺としては有難かったぜ!さぁ俺を開放しろ!この街を恐怖のどん底に陥れてやるから!あ、女は生かしといてやる。気持ちい事したいからな!ゲッヒッヒ!」

「人形が誤作動を起こしたんか・・・。まぁ適当に作られた玩具やしな・・・」

「オバップの正体ってもしかしてお前だったのかよ・・・」

 父の姿で下品な事を言う悪霊にヤイバはワナワナと震えている。

 うわぁ、ヤイバがブチキレそうだとマサヨは横目で冷や冷やしながら、床に転がっているヴャーンズから貰った無骨な長杖を手に取った。

「僧侶やフランちゃんを呼びに行く間に逃げられるかもしれないし・・・天使召喚!」

 出来るかどうかもわからないのにマサヨは杖を構えて天使の召喚を試みる。

 すると神々しい光と共にクリスタルで出来たような天使が現れ、黒いモヤモヤとした悪霊を人形から引きずり出すと天に連れて行こうとした。

 天使の大きな手に首根っこを掴まれて狼狽し藻掻く悪霊は連れ去られ際に叫ぶ。

「ただで逝くかよ!この場にいる全員に呪いあれ!」

「うるせー!馬鹿!負け犬の遠吠えするような小物はさっさと逝ってよし!」

 何処に連れ去られるのか、悪霊は天使と共に天井近くでスーッと消えてしまった。

 制服の胸の部分を皺が出来るほど握りしめて息を乱すヤイバはマサヨに感謝する。

「ハァハァ・・ありがとうございます、マサヨさん。父上を汚されたような気がして危うく怒りが爆発するところでした」

「いいってことよー。こんなところで例のドーーン!なんかやられたら部屋が滅茶苦茶になるしな・・・。意外とキレやすいんだな、ヤイバは・・・」
 
 悪霊が去りのっぺらぼうの人形が床に崩れ落ちたのを見てホッとしていると、外が何やら騒がしい事に気がついた。

 窓から通りを見ると野次馬が騒いでいる様子が見えた。野次馬が見ている方向は丁度隣の建物の屋根で見えなかった。

―――おい!リザードマンだぞ!きっとベンキが捕まえてきたんだ!―――

―――よし!石を投げろ!って石がねぇ!なら・・・―――

―――おいコラ!俺を投げるな!糞オーガ!―――

 ゴデの街は舗装されており石など落ちてはいない。石がなくて困ったオーガが近くにいたゴブリンを持ち上げて投げようとしたのだ。

「なんだろう?行ってみようぜぇ、ヤイバ」

「はい」

 階段を降りて喫茶店兼酒場を通り抜け通りに出ると、人集りの向こうからベンキとエルと共に角の生えたリザードマンがこちらへやって来る。

「ん?ありゃリザードマンじゃねぇぞ。角があるからドラコーンだ」

「知っているのですか?マサヨさん」

「うむ。ロールプレイングゲームとかにたまに出てくる。竜と人の間に出来た種族がああいった容姿になるんよ」

「ロールプレイングゲーム?(また僕に理解できない事を言っている・・・流石は星のオーガだ)」
 
 野次馬を掻き分けて、目立つ所に立つとヤイバは皆に忠告する。

「皆さん!その者はドラコーンであり、リザードマンではないとマサヨさんが言っています!無礼な態度は控えて下さい!」

 野次馬たちがざわめく。神の子ヤイバとスター・オーガのマサヨが言うならそうなのだろうと納得して攻撃的な態度を改めた。しかし好奇心は拭えず、皆ドラコーンをジロジロと見ている。

 煌めくゴールドドラゴンの金の鱗とは違って、くすんで鈍く光る鱗。どこか愛嬌を感じる丸くて黒い目。力強そうではあるがほっそりとした体。長くて太い尻尾。閉じた口から時折見える、生え揃った鋭い牙。そして斜め後ろ上に向かって真っ直ぐと伸びた角。

「助かったぞ、ヤイバ。流石は絶対的なカリスマを持つ男」

 ベンキの美形が破顔し、少し微笑んで珍しく冗談を言う。

「ところで、その方はどこでお知り合いに?」

「ああ・・・。それは酒場で話そう。いいタイミングでヤイバがゴデの街にいてくれて良かった」

 皆は酒場に入るとミカティニスにコーヒーを注文して席についた。野次馬も沢山押し寄せてきて席に座り、物珍しそうにドラコーンを見ている。

 ベンキが一通り説明を終えると、ヤイバはマサヨの顔を見て反応を待つ。

「俺の顔を見た所でそんな話知るわけ・・・・」

 と言いかけた所でお喋り好きのクロスケが割り込んできた。

「ああ、それは地球・・・星の国からこの星に幻体を送って悪さをする者がおるって事ですわ。神がマナを吸い出した時に見た赤い光の点滅は監視者のカプリコンさんが違法行為を確認した時に警告として発する光でんな。星の国ではマナは珍しい粒子ですから星のオーガにとっては何よりも価値が高い。なにせサカモト粒子が他次元から送り出したエネルギーをマナ粒子が人の強い信念や想像だけで形にしてくれるんやで?そうなったらデュプリケイタ―なんて用済みや」

 ヤイバは何かショックを受けたようで強張った顔をして口を開いた。

「話の殆どは理解不能ですが・・・星の国・・・神の国にも悪人がいるだなんて・・・。悪い神もいるってことですよね?」

「そやな。殆どの人間は遺伝子コントロールで犯罪を誘発する因子を排除してある。でも極稀に親がそれを拒否して自然交配で子供を作る場合があるんや。サカモト神なんかもそうやな。まぁでも博士の親はデザインドやったから、博士は生粋のナチュラルやない。で、自然交配して出来た子供は犯罪を起こさないように教育して矯正していくんやけど、矯正されたフリをして社会に出ていく者も何人か出てきて犯罪を犯す。これは政府にとっても恥やから公には公表されてない。まぁ情報開示すれば誰にでもすぐに知ることが出来るけど、誰もそんな事には興味がないから知ろうともせぇへん」

「完璧な存在なんていないって事ですか・・・」

「うん、そやな。完璧な存在なんておらん。魔法水晶を見て知ったんやけど現人神だったヒジリさんですら、何かしらの影響(多分、遮蔽装置のせいやと思うけど)でヒト・・・オーガという動物としての側面が現れとった。星のオーガにしては感情の起伏が激しかったし、暴力的になっとったからな。でも根っこが善人やったのは違いない。最後は自分を犠牲にして星を救ったやろ?良かったな、星の国からやってきたのがヒジリさんで。もし悪人が来てたらどうなってたやろうか。邪神がこの星の住民を一掃し終わるまでニヤニヤと笑って静観してたと思うで」

 クロスケに父を褒められたような気がしてヤイバは少し嬉しくなった。眼鏡を上げる振りをして口角が上がるのを隠した。「父上を褒められて僕ウレシィィ!」なんて言うのは恥ずかしい気がしたからだ。

「で、俺達はどう対処すればいいのか」

 ベンキが鼻の根本を擦りながら言う。眼鏡を掛けていた頃の癖が直らないのだ。

「流石に君らが関われることはないし、どうしようもないな。後はカプリコンさんに任せるだけや」

「そうか・・・」

「おい、大丈夫なんか?カプリコンとやらは。ちゃんと地球からの悪人に対処出来るんだろうな?」

 マサヨは疑り深い目でクロスケを見ている。

「どうやろな。ワイは一世紀前のドローン型アンドロイドやからその頃の地球しか知らへん。ワイが地球におった頃はカプリコンさんは最新式やったんやけどなぁ・・・。宇宙船は下手に遠隔操作されないように船の中だけでシステムが完結してるから、地球に帰らんとバージョンアップも出来へん。近いうちに他の船と交代して地球に帰るかもな。ヴィランの侵入を何度か許してるみたいやしね」

「まぁ俺達があれこれ考えても仕方ないってこってす。腹減ったし、皆で飯食おうぜ。今日はこのマサヨ様が奢ってやるからじゃんじゃん食いなー」

 マサヨの言葉に、クロスケはテーブルの上にヤンバルクイナのホログラムを映し出した。

 ヤイバ達は見たこともない奇妙な鳥を興味深そうに見つめる。

「で?」

 マサヨがクロスケに問うと彼はこう言った。

「じゃんじゃん食いな、ヤンバルクイナー!」

 普段駄洒落を言わない母親が、何かの切っ掛けでテンションが上がってしまい思わず言ってしまった駄洒落のようだと感じたマサヨは、オモシロ駄洒落を言ってやったと満足するクロスケを見て寒くなり身震いをした。
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