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禁断の箱庭と融合する前の世界(128)
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「ティンボル隊、前へ!」
暗黒騎士団団長のセン・クロウが指示をだすと、ティンボル隊の暗黒騎士達は不満を口にしながらガードナイトの前に飛び出した。
彼らは鎌に負の感情を帯びさせてサイクロプスの群れに斬りかかっていく。
この状態の鎌で斬られると傷の治りが遅くなると言われていおり、斬った後に闇の爆発が起こるのも負の感情のお陰である。
「また俺らかよ。何でいつも切り込み隊みたいな扱いなんだろうな」
「俺達はマー隊みたいに特別優れているわけでもないってのによ。攻防一体のマー隊を前線に出せよ」
「だな。あいつらだけでサイクロプスの群れと鉄傀儡くらい何とかなるだろ。特に神の子ヤイバ様の力でな!」
今にも不平不満が爆発し反旗を翻しそうな勢いだが、センはそんな彼らの言葉を聞き流している。暗黒騎士は負の感情を糧にして戦うのでぶつくさ言いながら戦うのは毎度の事なのだ。
そんな暗黒騎士達の不満を聞いてか聞かずか、マー隊が鎧の音を大きく鳴らしながら前線に出てきた。
重厚な戦車のような彼らは自分たちの倍ほども有る異界のサイクロプスの攻撃を大盾で受けて涼しい顔をしている。
マー隊が活躍したらしたで、また暗黒騎士達は不平を言う。
「幾らエリートオーガでもあのメガトンパンチにびくともしないのはおかしいだろ。相当、練度の高い【物理障壁】がかけられているな。今回は魔法騎士団は来ていないはずだろ?」
「非公式で闇魔女がきているらしい」
「まじか!」
ティンボル隊員達は、サイクロプスの踏みつけ攻撃を回避しながら斬りつけ、鉄騎士の後ろに隠れると闇魔女を探しだした。
「ちっこいのにボインなんだよなぁ・・・闇魔女様は」
「今時、ボインとか言う奴いるんだな」
「うっせい!いたぞ!あれで三十路過ぎか~。全然そうは見えないな」
まだ仕事が終わっていないのに一仕事終えた様な雰囲気で鉄騎士の後方でティンボル隊の数人は一息つく。
闇魔女を見て眼福眼福と手を擦り合わせる若い同僚に、それまでサイクロプスと必死に戦っていた女性隊員は踵を返してツカツカと彼らに歩み寄る。
「お~~ど~~~れ~~~ら~~~!」
彼女は怒り肩でブンブンと鎌を振って男どもを前線に戻す。
「おわっ!あぶなっ!やめ~~い!やめっ!やめ~~い!」
少し離れた場所でその光景を冷めた目で見る召喚士とイービルアイがいた。
「なんか、あいつら八十年代のアニメみたいな事してんなぁ・・・。脳内補正されて何もかもが八十年代に見えてきた・・・」
「お~ど~れ~ら~って・・・、ねぇ・・・」
「それにしても星のオーガ関連になると、俺らは当然のように呼び出されるようになったな・・・」
「まぁマサヨさんも一応、この星では劣化版星のオーガですし。仕方ないでんがなまんがな。それに報酬がっぽがっぽでしょ?もう一生不自由なく生きていけますやん」
「まぁな・・・」
と言った後に少しフヒヒヒと笑ってマサヨは思う。
(もう地球に未練はねぇ!)
こっちの世界で金持ちとしてどう生きていくかを妄想しかけて、今はそんな時では無かったと我に返り、混沌とした市街を眺めた。
時折、戦いを繰り広げる鉄騎士と魔物に巻き込まれるがクロスケの半円形のフォースフィールドがそれらを遮る。
「・・・・霧の魔物と鉄傀儡と帝国軍と三つ巴でカオス状態だな。住民は大丈夫かな?」
「皆地下室に逃げ込んで・・・おっと!あそこに死にかけのゴブリンがおりまっせ!」
「よし!インプ達、あの死にかけのオッサンをここまで連れてこい!」
建物の角にボロ雑巾の様に転がるゴブリンを、召喚したインプに連れてこさせる。しかし手や二の腕を支え持って飛んでくるのでゴブリンの様が磔刑にされた囚人のようであった。
「なんだぁ?あのゴブリンは磔にされたキリストか?妙に神々しいズタボロのゴブリンだなおい!」
ゴブリンのコインで出来た鎧が太陽の光を反射して後光のような演出をしている。
「クロスケ、回復を頼む」
「え~・・・。でも大丈夫かな~。確かに地球人が原因とはいえ、地球政府の許可もなく回復してもええんかな~?マサヨさんみたいに異世界の地球人は結局お咎めは無かったけど」
「馬鹿!そんな事言ってる場合か!それに監視役のカプリコンがいない今、クロスケ!お前は真の自由を手にしているんだぞ!真の自由!」
「真の自由・・・!!じゃあここは自由の国ですか?U・S・A!U・S・A!」
クロスケはフリーダム!と叫ぶとゴブリンを回復し、更に調子に乗って戦況が見渡せるだけの高度まで飛び上がり、ギュルギュルと回転しだした。
「ビィィ!!フリィィィーーーーー!」
激しく回転するクロスケからレーザービームが乱れ飛び、サイクロプス達の弱点である目を次々と潰して戦闘不能にさせていく。
更に回転した時に散布したナノマシンが鉄傀儡のプログラムを書き換えて停止させてしまった。
クロスケがマサヨの近くに降りてくる頃には帝国軍から大歓声が上がる。
「うぉぉぉ!流石は星のオーガ様だ!マサヨ様バンザイ!マサヨ様バンザイ!」
「え?俺?」
「まぁ、ワイはマサヨさんの使い魔みたいな扱いですし当然の反応ですわな」
「まじで?今の内に調子乗っとくわ!」
マサヨは大仰なお辞儀をした後、両手を組み合わせて頭の上で振る。最後に爪をエプロンドレスで拭いてフッ!と吹いてドヤ顔をした。
「わぁぁぁ!調子こいてますなぁぁ!腹立つぅ!腹立つぅ!」
クロスケは笑いながらも調子に乗るマサヨの顔にイライラとしている。
「で、リジヒは・・・悪のスター・オーガは何処行った?」
マサヨはクロスケの回復によって意識を取り戻したゴブリンを抱きかかえると尋ねた。
「丘陵地帯の格納庫の方に行きま・・・・アダーーッ!」
ゴブリンが丘陵地帯の格納庫と言った時点でマサヨは抱きかかえるのを止めたので、ゴブリンはしこたま頭を打ち頭を抱えのたうち回る。
「よし!行くぞクロスケ!念のため、俺の考えた”さいつよ“メンバー連れて行くぞ!」
「最強・・・じゃなくて?っていうか、帝国軍もリジヒの居場所が解ったみたいでっせ。メンバーを道化師さんが選んでますわ」
「ドッ!」
クロスケは少し上まで飛んでナンベルが人選をしている所を見ている。
「ふむふむ、あれは正しく”さいつよ“メンバーですわ。ヤイバ君、カワー君、リツさんにライジンさん。お!砦の戦士も来てたんや?ワロちゃんもおるで。例のドラコーンもいるって事は古竜遺跡が関係あるんかもしれませんねぇ」
「全力でリジヒを殺しにかかってるな。次でトドメを刺すつもりかな?」
「イグナさんはヤイバ君に勝手について行くみたいやな。ワイらも選抜メンバーに入ってるみたいやで。ヤイバ君がこっち見て手を振ってはる」
「じゃ、行きますか」
「これで最後にして欲しいもんですわ」
「どうかな~。無防備なこの星で悪い地球人がリジヒだけとは限らないんだよな~」
「嫌なフラグ立てんといてくださいよー!」
「ハハハ!めんごめんご」
マサヨとクロスケは軽い言葉でやり取りをしているものの、内心は不安でいっぱいだった。しかし手を振るヤイバを見て、彼ならひょっとしてこれまでのように何とかしてくれるんじゃないかと勝手に期待しヤイバの元へと走って行く。
まだ調子に乗っているマサヨはヤイバに抱きついたので、鬼の形相をするワロティニスに怒られた。
先を逃げるカインの落としていった丸いボールから、閃光が走りビコノカミが痺れたように動けなくなった。
「大丈夫か?ビコノカミ!」
「一時的なものです。直ぐに回復します」
機械的な音声がそう答えると、ゴブリンの大魔法使いは舌打ちをした。
リジヒは射程範囲内にいるが魔法の副次的なダメージ以外は与えられないもどかしさが彼をイライラさせている。今も【食料創造】で油をリジヒの近くに作り出して、そこに【火球】を放ったが、悪の神は自分の周囲に風を発生させて立ち上る炎を消して進んだ。
「奴め、とうとう古竜の遺跡に入りおったぞ」
ムロのよく知る格納庫の地下の壁に見たこともない四角い穴が空いており、下に続く階段をカインは追いつけなかった自分たちを馬鹿にするように高笑いをしながら素早く降りていった。
「あんなところに階段が・・・」
「まさか遺跡の起動の仕方を知っているのか?そんなはずはないと思うが・・・嫌な予感がするな」
ようやく一時的な痺れから解放されたビコノカミはゆっくりと動き出した。
そのビコノカミの両手の上で、指先と指先を合わせる動作を繰り返して気分を落ち着かせようとするヴャーンズの表情に余裕はない。
「これで奴は五分ほどは稼げたか?・・・急ぐぞ、ムロ」
「はい・・・すみません」
上の格納庫がにわかに騒がしくなる。聞き覚えのあるヤイバの声が響き渡ったが、ヴャーンズは返事をせず、床に杖を向けて光るメッセージを書いて階段を降りていった。
ビコノカミの何処にあるか判らないスピーカーから微かに残響音の残る声でムロは言う。
「星のオーガにも個体差が有るようですね。彼は接近戦を挑んできません」
「ヒジリ陛下は前線の一番先頭で戦うのを好まれていたからな。とは言え油断はならんぞ、ほれ」
ヴャーンズは通路の先で道を塞ぐ光の壁を指した。そして懐からナイフを出すと光の壁に向かって投げるとナイフは音もなく灰となって消えた。
「迂回路を探すしか無いな。この一本道に迂回路があればだが」
しかしビコノカミは迂回路を探そうとはしなかった。訝しむヴャーンズを無視して地面に下ろすと、光の壁を生成するポールに触れズズズと動かして道を開いた。
拍子抜けしたヴャーンズは難しく物事を考えすぎた自分を恥かしく思い言い訳をする。
「・・・・。普通ならばこういったトラップ装置は固定されているものなんじゃがな・・・。固定しなくとも時間稼ぎの効果はあると思ったのか。実に舐められたもんじゃ・・・」
「ハハハ・・・。僕も迂回路を探そうと思っていました。よくやったぞビコノカミ!」
「どういたしまして」
更に先を進むと段々とカビ臭い原始的な洞窟に様変わりしてくる。奥から濃密なマナが漂ってくるのが大魔法使いには感じ取れた。
「以前は何の準備もなしにここまで来た為、用心して引き返した。ここから先はどうなているかは知らんが、マナの濃度からしてそろそろ遺跡の重要な場所に近い事が解る・・・」
「メイジじゃない僕でも感じますよ、流れてくるこのマナの濃さを」
無限にマナが供給される洞窟内に設置された複数の魔法の灯籠が強い光を放って大きな空間を照らしていた。
真ん中にはポツリと台座が置いてあり、当然の如くそこで台座を弄る邪なる星のオーガの姿があった。
リジヒは気がついていないが、ムロはこの大きな洞窟の広間に入ってすぐに凸凹とした岩の影に起動していないパネルがある事に気が付いていた。
更にパネルの近くには王座のような椅子が置いてあり、そこには干からびたミイラのような人影もあった。
「ヴャーンズさん、彼はまだこちらに気がついていません。あの岩陰に有る装置まで行きましょう」
「ああ、そうじゃな。どの道、奴のもとへは近づけん。さっきの光の壁を四方に張り巡らせておる。流石に今回はあのポールを動かせるとは思えんな」
ムロは岩陰でビコノカミから降りると、背中を見せて夢中になって台座を調べる星のオーガに気が付かれないようヴャーンズと共にパネルまで走った。
そして真っ先に調べたのが王座に座る遺体がアンデッドではないかどうかだった。
「ただの死体ですね。見たところ樹族っぽいですが・・・」
死んでから何千年経っているだろうか?今の樹族と違って肌が深い緑色をしており、簡素な服装から古代の樹族である事以外は知ることが出来なかった。
ヴャーンズは直ぐ様、パネルを弄りだす。浮かんだ文字を見て目を瞑り記憶の中を探った。
そして過去に自分の読んだ書物にこの文字に関する記述があり、今でもその知識が頭の中から抜け出ていなかった事を神に感謝する。
「古代樹族文字。彼らがドラゴンを神と崇めていた時代の文字だ・・・」
「能力持ちの人は努力を怠る傾向があるのに、ヴャーンズさんは色んな知識があるのですね。尊敬します」
「闇属性の者を操るという能力だけでは皇帝にまではなれんよ。デイが対抗手段を広めるまでは意識せずに光属性の装備を付けている者もいたからな。そういう輩を欺き騙すには知識は武器になるのだ。ムロも勉学を怠るではないぞ」
「はい」
ヴャーンズは老眼鏡を取り出すと装着して、パネルに浮かぶ文字を指でなぞるように読んでいる。
「ふむ、どうやらここは世界中のマナ穴の操作をする重要な場所だったみたいじゃな。そこの樹族の死体は恐ろしいことに、その操作をするための変換器みたいなものだったようじゃ。竜族がその樹族を不老不死にして永遠に装置の一部として稼働させるはずだったんじゃが、何故か死んでおるな」
「何かトラブルがあったんですかね?」
「そうだろうな。内容までは知らんが」
「じゃあ、操作は無理って事ですか?」
「うむ。あそこで必死になって台座を調べている邪神殿は無駄足だったというわけじゃ」
「ははは、そう思うと彼がとても間抜けに見えてきますね」
「更にこの装置を起動出来るのは、星属性のもの。星属性は星のオーガや古竜だけにしか確認出来ていない。この樹族は古竜の血が混じったドラコーンだったのかもな。ドラコーンは人と変わらない姿の者と竜族に似た姿の者がおる」
「なるほど・・・。それは良い事を聞きました」
「誰だ!」
岩の陰からのっぺらぼうの人形がこちらを覗いていた。深い海のように暗く青く透き通ったその顔は驚く二人の顔を歪ませて映している。
「こんにちは。私の名はマーサ。貴方がたが知るウメボシと似たような者です」
「チィ・・・。あのオーガの使い魔か」
「使い魔?まぁそうかもしれませんね。ただし昼間限定ですが。ウフフフ」
もしこの使い魔に顔があれば含み笑いをしていたであろう。笑って肩を揺らす彼女をムロは不気味に思った。
「で、ここに座るとどうなるのかしら?」
「そこまでは知らん。そこの死体のようになるやもしれんし、ならんやもしれん」
「そう。じゃあ試しに貴方が座ってみてくださいな」
「それはオススメ出来んな。意味があって星属性の者が座るようになっているのだ。私が座ればお前達の大事なマナが消え去るかもしれんぞ?」
「そう。じゃあ貴方達にこの施設の情報をもう少し引き出してもらおうかしら。それにここに何人か近づいてきているし、その中に役に立つ人がいると良いけど」
ヴャーンズは気味の悪い彼女を見て少しばかり恐怖を感じていたが、駆けつけてくる者が誰なのかを思い出して心が落ち着いてくる。
「いいだろう。専門外じゃが私もこの遺跡の情報が気になるのでな。ここは大人しくこの端末から情報を引き出すことに専念しようか」
「あら、素直ね。それは賢明な判断よ。誰しも自分の命は大事ですものね。じゃあ私は主に挨拶してきますね」
そう言うとマーサは音も無く立ち去った。
ムロは尊敬する年老いた友人が本気で我が身可愛さにマーサに従ったとは思っていない。彼が誰かを欺こうとする時や考え事をする時は、両手の指先を合わしながら喋るという癖を知っているからだ。
マーサは主を囲む設置型のフォースフィールドをすり抜けると、夢中になって台座を調べる主の肩に手を置いた。
「どうですか?その台座を調べて何か解りましたか?」
「おや、君かね。どうやって地球政府の首輪と紐を噛み切って来た?」
台座へ計器をかざしていたカインは自分が所有するアンドロイドがここに来ていた事に驚きはしなかった。フォースフィールドの識別設定では彼女を味方と認識し、通過できるようにしてあるので自分の近くにやって来れる者はマーサしかいないからだ。
フォースフィールドの中に入るなりマーサは愛おしそうに主の頬や頭を撫でている。
「地球からこの星への侵入経路ですか?それを知ってしまえば、捕まった時にカイン様の罪が増えますのでご容赦を。それよりも急いで下さいまし。どうやって知ったのかは知りませんが、我々に対して大神正宗が怪しい動きをしています」
「また奴か・・・」
「それにマナを欲しているのは我々だけではありません。先日のマナ穴からの大量強奪事件も我々以外の何者かが便乗しておりました。誰もがこの新しい粒子に目をつけています。先んじたいのであれば慎重且つ迅速に行動して下さい」
「そんな事は解っている。だから君が来てくれたのだろう?マーサ」
「ええ、カイン様一人では手に余ると思いましてね。ほら手に余る者達が来ましたよ」
ガシャンガシャン、ドスンドスンと音がして広間の入り口に大盾を構えた重鎧の大きな騎士達が現れた。
大盾に付いている細長い窓からカワーは悪の星のオーガを確認してヤイバに話しかけた。
「あれが泣き喚きながら消えていったという情けない星のオーガかい?ヤイバ」
「うん。でも隣の不気味な人型は知らない。用心した方がいいよカワー」
「ふん!心配などしてくれなくてもいい!」
「友達なんだから心配して当然だろう」
「べ、別に心配してほしくて言ったたわけじゃないからな!」
(僕はそこまで考えてはないよ、カワー・・・)
カワーはフルフェイスヘルムの下で顔を真っ赤にした。後方で姿を消して待機しているイグナは思う。男のツンデレは・・・可愛くない・・・と。
リツが鎧をガシャンとわざと鳴らし、一歩前に出てカイン達に警告する。
「それ以上、遺跡を調べるのは止めていただきたい。星のオーガ殿」
「お前達にそれを命令する権限は無い。我々はこの星の法の外にいる」
カインが余裕な態度でそう言うと、ヤイバ達の後ろから軽い声で茶化す何者かがいた。
「ヒィィィ!助けてママー!ウンコ漏れちゃう!とか言いながら転送されていく姿は中々面白かったですよ、リジヒ殿?イッヒッヒ!」
マサヨである。いついかなる時であろうと、皮肉を言ったりコケにするのが大好きな古代の地球人。カインはギリっと奥歯を噛んでマサヨを睨みつけるも、彼女からは白目を剥いたトビハゼの様な変顔で返される。
「幼稚でつまらん挑発だな。マーサ、奴らと少し遊んで差し上げろ」
「あらあら、嫉妬しますわね。私の愛しい主を悔しがらせるなんて・・・。そこの女、覚悟なさい?」
マーサがマサヨとの距離を詰めようと走り出すと、リツがそれを遮った。
重たい大盾を何の予備動作もなくマーサに当てようとしたが、彼女はそれを難なく避けて背後に回った。
リツは大盾をそのまま後方に勢い良くスライドさせて再度マーサを弾こうとしたが、フォースシールドに阻まれる。
「へぇ、恐ろしいこと。防御エネルギーが大きく減ったわ。凄まじいパワーね。でも・・・」
マーサは指先にエネルギーを溜めた。
「母上、あれは絶対に避けてください!防御は出来ません!」
しかし、それは回避できる次元のものでは無かった。避ける間もなく光速のビームがリツを貫こうと指先から解き放たれた。
「ワイがおる限り無駄やで、その攻撃は」
クロスケのフォースシールドが簡単にマーサのビームを拡散させてしまった。
「百年前の旧式、しかもノーマルスペックの貴方が頑張るじゃない?クロスケさん。でも防御エネルギーゲージの少ない貴方がいつまで皆を守れるかしら?」
「ワイは早漏やけど回復は早いで?」
「まぁお下品」
もう一度マーサがビームを指先に溜めた時、彼女の背後で空気が揺れてヤイバが現れる。
「攻撃と同時に防御は出来ないものだ!」
バトルハンマーが彼女の右肩を叩いた。
「うっ!」
ガイーンと打撃音がしてマーサはよろめくと、直ぐにヤイバから距離を取って肩を押さえた。
「アンドロイドの中でも一番の硬度を持つ私にダメージを与えるとは・・・流石ね」
ヤイバ達と距離を取ったことで安心したのか、マーサの動きが一時止まる。
そこをワロティニスのドリルのような蹴りが空気を割いて上から迫ってきた。
「ええぃ!うっとおしい!」
アンドロイドの指先はワロティニスに向いたが、ダメージの所為かその動きは僅かに遅くワロティニスの蹴りは彼女の左腕を見事粉砕してしまった。
「やったぁ!」
「ぎゃあ!このクソガキはァァ!」
ヤイバに右肩を攻撃されて動かないと思っていた右腕が持ち上がり、指先をワロティニスに向ける。
「無理や言うてるやろ」
「それはどうかしら?貴方のフォースシールドの周波数はもう既に解析済みよ。という事はね・・・」
ビームが今もワロティニスのフォースフィールドを狙い続ける。
「やば!ワロちゃん!避けて!」
「え?」
―――バシュ!―――
ビームはフォースシールドを貫いて一瞬にしてワロティニスを細かい灰に変えてしまった。
暗黒騎士団団長のセン・クロウが指示をだすと、ティンボル隊の暗黒騎士達は不満を口にしながらガードナイトの前に飛び出した。
彼らは鎌に負の感情を帯びさせてサイクロプスの群れに斬りかかっていく。
この状態の鎌で斬られると傷の治りが遅くなると言われていおり、斬った後に闇の爆発が起こるのも負の感情のお陰である。
「また俺らかよ。何でいつも切り込み隊みたいな扱いなんだろうな」
「俺達はマー隊みたいに特別優れているわけでもないってのによ。攻防一体のマー隊を前線に出せよ」
「だな。あいつらだけでサイクロプスの群れと鉄傀儡くらい何とかなるだろ。特に神の子ヤイバ様の力でな!」
今にも不平不満が爆発し反旗を翻しそうな勢いだが、センはそんな彼らの言葉を聞き流している。暗黒騎士は負の感情を糧にして戦うのでぶつくさ言いながら戦うのは毎度の事なのだ。
そんな暗黒騎士達の不満を聞いてか聞かずか、マー隊が鎧の音を大きく鳴らしながら前線に出てきた。
重厚な戦車のような彼らは自分たちの倍ほども有る異界のサイクロプスの攻撃を大盾で受けて涼しい顔をしている。
マー隊が活躍したらしたで、また暗黒騎士達は不平を言う。
「幾らエリートオーガでもあのメガトンパンチにびくともしないのはおかしいだろ。相当、練度の高い【物理障壁】がかけられているな。今回は魔法騎士団は来ていないはずだろ?」
「非公式で闇魔女がきているらしい」
「まじか!」
ティンボル隊員達は、サイクロプスの踏みつけ攻撃を回避しながら斬りつけ、鉄騎士の後ろに隠れると闇魔女を探しだした。
「ちっこいのにボインなんだよなぁ・・・闇魔女様は」
「今時、ボインとか言う奴いるんだな」
「うっせい!いたぞ!あれで三十路過ぎか~。全然そうは見えないな」
まだ仕事が終わっていないのに一仕事終えた様な雰囲気で鉄騎士の後方でティンボル隊の数人は一息つく。
闇魔女を見て眼福眼福と手を擦り合わせる若い同僚に、それまでサイクロプスと必死に戦っていた女性隊員は踵を返してツカツカと彼らに歩み寄る。
「お~~ど~~~れ~~~ら~~~!」
彼女は怒り肩でブンブンと鎌を振って男どもを前線に戻す。
「おわっ!あぶなっ!やめ~~い!やめっ!やめ~~い!」
少し離れた場所でその光景を冷めた目で見る召喚士とイービルアイがいた。
「なんか、あいつら八十年代のアニメみたいな事してんなぁ・・・。脳内補正されて何もかもが八十年代に見えてきた・・・」
「お~ど~れ~ら~って・・・、ねぇ・・・」
「それにしても星のオーガ関連になると、俺らは当然のように呼び出されるようになったな・・・」
「まぁマサヨさんも一応、この星では劣化版星のオーガですし。仕方ないでんがなまんがな。それに報酬がっぽがっぽでしょ?もう一生不自由なく生きていけますやん」
「まぁな・・・」
と言った後に少しフヒヒヒと笑ってマサヨは思う。
(もう地球に未練はねぇ!)
こっちの世界で金持ちとしてどう生きていくかを妄想しかけて、今はそんな時では無かったと我に返り、混沌とした市街を眺めた。
時折、戦いを繰り広げる鉄騎士と魔物に巻き込まれるがクロスケの半円形のフォースフィールドがそれらを遮る。
「・・・・霧の魔物と鉄傀儡と帝国軍と三つ巴でカオス状態だな。住民は大丈夫かな?」
「皆地下室に逃げ込んで・・・おっと!あそこに死にかけのゴブリンがおりまっせ!」
「よし!インプ達、あの死にかけのオッサンをここまで連れてこい!」
建物の角にボロ雑巾の様に転がるゴブリンを、召喚したインプに連れてこさせる。しかし手や二の腕を支え持って飛んでくるのでゴブリンの様が磔刑にされた囚人のようであった。
「なんだぁ?あのゴブリンは磔にされたキリストか?妙に神々しいズタボロのゴブリンだなおい!」
ゴブリンのコインで出来た鎧が太陽の光を反射して後光のような演出をしている。
「クロスケ、回復を頼む」
「え~・・・。でも大丈夫かな~。確かに地球人が原因とはいえ、地球政府の許可もなく回復してもええんかな~?マサヨさんみたいに異世界の地球人は結局お咎めは無かったけど」
「馬鹿!そんな事言ってる場合か!それに監視役のカプリコンがいない今、クロスケ!お前は真の自由を手にしているんだぞ!真の自由!」
「真の自由・・・!!じゃあここは自由の国ですか?U・S・A!U・S・A!」
クロスケはフリーダム!と叫ぶとゴブリンを回復し、更に調子に乗って戦況が見渡せるだけの高度まで飛び上がり、ギュルギュルと回転しだした。
「ビィィ!!フリィィィーーーーー!」
激しく回転するクロスケからレーザービームが乱れ飛び、サイクロプス達の弱点である目を次々と潰して戦闘不能にさせていく。
更に回転した時に散布したナノマシンが鉄傀儡のプログラムを書き換えて停止させてしまった。
クロスケがマサヨの近くに降りてくる頃には帝国軍から大歓声が上がる。
「うぉぉぉ!流石は星のオーガ様だ!マサヨ様バンザイ!マサヨ様バンザイ!」
「え?俺?」
「まぁ、ワイはマサヨさんの使い魔みたいな扱いですし当然の反応ですわな」
「まじで?今の内に調子乗っとくわ!」
マサヨは大仰なお辞儀をした後、両手を組み合わせて頭の上で振る。最後に爪をエプロンドレスで拭いてフッ!と吹いてドヤ顔をした。
「わぁぁぁ!調子こいてますなぁぁ!腹立つぅ!腹立つぅ!」
クロスケは笑いながらも調子に乗るマサヨの顔にイライラとしている。
「で、リジヒは・・・悪のスター・オーガは何処行った?」
マサヨはクロスケの回復によって意識を取り戻したゴブリンを抱きかかえると尋ねた。
「丘陵地帯の格納庫の方に行きま・・・・アダーーッ!」
ゴブリンが丘陵地帯の格納庫と言った時点でマサヨは抱きかかえるのを止めたので、ゴブリンはしこたま頭を打ち頭を抱えのたうち回る。
「よし!行くぞクロスケ!念のため、俺の考えた”さいつよ“メンバー連れて行くぞ!」
「最強・・・じゃなくて?っていうか、帝国軍もリジヒの居場所が解ったみたいでっせ。メンバーを道化師さんが選んでますわ」
「ドッ!」
クロスケは少し上まで飛んでナンベルが人選をしている所を見ている。
「ふむふむ、あれは正しく”さいつよ“メンバーですわ。ヤイバ君、カワー君、リツさんにライジンさん。お!砦の戦士も来てたんや?ワロちゃんもおるで。例のドラコーンもいるって事は古竜遺跡が関係あるんかもしれませんねぇ」
「全力でリジヒを殺しにかかってるな。次でトドメを刺すつもりかな?」
「イグナさんはヤイバ君に勝手について行くみたいやな。ワイらも選抜メンバーに入ってるみたいやで。ヤイバ君がこっち見て手を振ってはる」
「じゃ、行きますか」
「これで最後にして欲しいもんですわ」
「どうかな~。無防備なこの星で悪い地球人がリジヒだけとは限らないんだよな~」
「嫌なフラグ立てんといてくださいよー!」
「ハハハ!めんごめんご」
マサヨとクロスケは軽い言葉でやり取りをしているものの、内心は不安でいっぱいだった。しかし手を振るヤイバを見て、彼ならひょっとしてこれまでのように何とかしてくれるんじゃないかと勝手に期待しヤイバの元へと走って行く。
まだ調子に乗っているマサヨはヤイバに抱きついたので、鬼の形相をするワロティニスに怒られた。
先を逃げるカインの落としていった丸いボールから、閃光が走りビコノカミが痺れたように動けなくなった。
「大丈夫か?ビコノカミ!」
「一時的なものです。直ぐに回復します」
機械的な音声がそう答えると、ゴブリンの大魔法使いは舌打ちをした。
リジヒは射程範囲内にいるが魔法の副次的なダメージ以外は与えられないもどかしさが彼をイライラさせている。今も【食料創造】で油をリジヒの近くに作り出して、そこに【火球】を放ったが、悪の神は自分の周囲に風を発生させて立ち上る炎を消して進んだ。
「奴め、とうとう古竜の遺跡に入りおったぞ」
ムロのよく知る格納庫の地下の壁に見たこともない四角い穴が空いており、下に続く階段をカインは追いつけなかった自分たちを馬鹿にするように高笑いをしながら素早く降りていった。
「あんなところに階段が・・・」
「まさか遺跡の起動の仕方を知っているのか?そんなはずはないと思うが・・・嫌な予感がするな」
ようやく一時的な痺れから解放されたビコノカミはゆっくりと動き出した。
そのビコノカミの両手の上で、指先と指先を合わせる動作を繰り返して気分を落ち着かせようとするヴャーンズの表情に余裕はない。
「これで奴は五分ほどは稼げたか?・・・急ぐぞ、ムロ」
「はい・・・すみません」
上の格納庫がにわかに騒がしくなる。聞き覚えのあるヤイバの声が響き渡ったが、ヴャーンズは返事をせず、床に杖を向けて光るメッセージを書いて階段を降りていった。
ビコノカミの何処にあるか判らないスピーカーから微かに残響音の残る声でムロは言う。
「星のオーガにも個体差が有るようですね。彼は接近戦を挑んできません」
「ヒジリ陛下は前線の一番先頭で戦うのを好まれていたからな。とは言え油断はならんぞ、ほれ」
ヴャーンズは通路の先で道を塞ぐ光の壁を指した。そして懐からナイフを出すと光の壁に向かって投げるとナイフは音もなく灰となって消えた。
「迂回路を探すしか無いな。この一本道に迂回路があればだが」
しかしビコノカミは迂回路を探そうとはしなかった。訝しむヴャーンズを無視して地面に下ろすと、光の壁を生成するポールに触れズズズと動かして道を開いた。
拍子抜けしたヴャーンズは難しく物事を考えすぎた自分を恥かしく思い言い訳をする。
「・・・・。普通ならばこういったトラップ装置は固定されているものなんじゃがな・・・。固定しなくとも時間稼ぎの効果はあると思ったのか。実に舐められたもんじゃ・・・」
「ハハハ・・・。僕も迂回路を探そうと思っていました。よくやったぞビコノカミ!」
「どういたしまして」
更に先を進むと段々とカビ臭い原始的な洞窟に様変わりしてくる。奥から濃密なマナが漂ってくるのが大魔法使いには感じ取れた。
「以前は何の準備もなしにここまで来た為、用心して引き返した。ここから先はどうなているかは知らんが、マナの濃度からしてそろそろ遺跡の重要な場所に近い事が解る・・・」
「メイジじゃない僕でも感じますよ、流れてくるこのマナの濃さを」
無限にマナが供給される洞窟内に設置された複数の魔法の灯籠が強い光を放って大きな空間を照らしていた。
真ん中にはポツリと台座が置いてあり、当然の如くそこで台座を弄る邪なる星のオーガの姿があった。
リジヒは気がついていないが、ムロはこの大きな洞窟の広間に入ってすぐに凸凹とした岩の影に起動していないパネルがある事に気が付いていた。
更にパネルの近くには王座のような椅子が置いてあり、そこには干からびたミイラのような人影もあった。
「ヴャーンズさん、彼はまだこちらに気がついていません。あの岩陰に有る装置まで行きましょう」
「ああ、そうじゃな。どの道、奴のもとへは近づけん。さっきの光の壁を四方に張り巡らせておる。流石に今回はあのポールを動かせるとは思えんな」
ムロは岩陰でビコノカミから降りると、背中を見せて夢中になって台座を調べる星のオーガに気が付かれないようヴャーンズと共にパネルまで走った。
そして真っ先に調べたのが王座に座る遺体がアンデッドではないかどうかだった。
「ただの死体ですね。見たところ樹族っぽいですが・・・」
死んでから何千年経っているだろうか?今の樹族と違って肌が深い緑色をしており、簡素な服装から古代の樹族である事以外は知ることが出来なかった。
ヴャーンズは直ぐ様、パネルを弄りだす。浮かんだ文字を見て目を瞑り記憶の中を探った。
そして過去に自分の読んだ書物にこの文字に関する記述があり、今でもその知識が頭の中から抜け出ていなかった事を神に感謝する。
「古代樹族文字。彼らがドラゴンを神と崇めていた時代の文字だ・・・」
「能力持ちの人は努力を怠る傾向があるのに、ヴャーンズさんは色んな知識があるのですね。尊敬します」
「闇属性の者を操るという能力だけでは皇帝にまではなれんよ。デイが対抗手段を広めるまでは意識せずに光属性の装備を付けている者もいたからな。そういう輩を欺き騙すには知識は武器になるのだ。ムロも勉学を怠るではないぞ」
「はい」
ヴャーンズは老眼鏡を取り出すと装着して、パネルに浮かぶ文字を指でなぞるように読んでいる。
「ふむ、どうやらここは世界中のマナ穴の操作をする重要な場所だったみたいじゃな。そこの樹族の死体は恐ろしいことに、その操作をするための変換器みたいなものだったようじゃ。竜族がその樹族を不老不死にして永遠に装置の一部として稼働させるはずだったんじゃが、何故か死んでおるな」
「何かトラブルがあったんですかね?」
「そうだろうな。内容までは知らんが」
「じゃあ、操作は無理って事ですか?」
「うむ。あそこで必死になって台座を調べている邪神殿は無駄足だったというわけじゃ」
「ははは、そう思うと彼がとても間抜けに見えてきますね」
「更にこの装置を起動出来るのは、星属性のもの。星属性は星のオーガや古竜だけにしか確認出来ていない。この樹族は古竜の血が混じったドラコーンだったのかもな。ドラコーンは人と変わらない姿の者と竜族に似た姿の者がおる」
「なるほど・・・。それは良い事を聞きました」
「誰だ!」
岩の陰からのっぺらぼうの人形がこちらを覗いていた。深い海のように暗く青く透き通ったその顔は驚く二人の顔を歪ませて映している。
「こんにちは。私の名はマーサ。貴方がたが知るウメボシと似たような者です」
「チィ・・・。あのオーガの使い魔か」
「使い魔?まぁそうかもしれませんね。ただし昼間限定ですが。ウフフフ」
もしこの使い魔に顔があれば含み笑いをしていたであろう。笑って肩を揺らす彼女をムロは不気味に思った。
「で、ここに座るとどうなるのかしら?」
「そこまでは知らん。そこの死体のようになるやもしれんし、ならんやもしれん」
「そう。じゃあ試しに貴方が座ってみてくださいな」
「それはオススメ出来んな。意味があって星属性の者が座るようになっているのだ。私が座ればお前達の大事なマナが消え去るかもしれんぞ?」
「そう。じゃあ貴方達にこの施設の情報をもう少し引き出してもらおうかしら。それにここに何人か近づいてきているし、その中に役に立つ人がいると良いけど」
ヴャーンズは気味の悪い彼女を見て少しばかり恐怖を感じていたが、駆けつけてくる者が誰なのかを思い出して心が落ち着いてくる。
「いいだろう。専門外じゃが私もこの遺跡の情報が気になるのでな。ここは大人しくこの端末から情報を引き出すことに専念しようか」
「あら、素直ね。それは賢明な判断よ。誰しも自分の命は大事ですものね。じゃあ私は主に挨拶してきますね」
そう言うとマーサは音も無く立ち去った。
ムロは尊敬する年老いた友人が本気で我が身可愛さにマーサに従ったとは思っていない。彼が誰かを欺こうとする時や考え事をする時は、両手の指先を合わしながら喋るという癖を知っているからだ。
マーサは主を囲む設置型のフォースフィールドをすり抜けると、夢中になって台座を調べる主の肩に手を置いた。
「どうですか?その台座を調べて何か解りましたか?」
「おや、君かね。どうやって地球政府の首輪と紐を噛み切って来た?」
台座へ計器をかざしていたカインは自分が所有するアンドロイドがここに来ていた事に驚きはしなかった。フォースフィールドの識別設定では彼女を味方と認識し、通過できるようにしてあるので自分の近くにやって来れる者はマーサしかいないからだ。
フォースフィールドの中に入るなりマーサは愛おしそうに主の頬や頭を撫でている。
「地球からこの星への侵入経路ですか?それを知ってしまえば、捕まった時にカイン様の罪が増えますのでご容赦を。それよりも急いで下さいまし。どうやって知ったのかは知りませんが、我々に対して大神正宗が怪しい動きをしています」
「また奴か・・・」
「それにマナを欲しているのは我々だけではありません。先日のマナ穴からの大量強奪事件も我々以外の何者かが便乗しておりました。誰もがこの新しい粒子に目をつけています。先んじたいのであれば慎重且つ迅速に行動して下さい」
「そんな事は解っている。だから君が来てくれたのだろう?マーサ」
「ええ、カイン様一人では手に余ると思いましてね。ほら手に余る者達が来ましたよ」
ガシャンガシャン、ドスンドスンと音がして広間の入り口に大盾を構えた重鎧の大きな騎士達が現れた。
大盾に付いている細長い窓からカワーは悪の星のオーガを確認してヤイバに話しかけた。
「あれが泣き喚きながら消えていったという情けない星のオーガかい?ヤイバ」
「うん。でも隣の不気味な人型は知らない。用心した方がいいよカワー」
「ふん!心配などしてくれなくてもいい!」
「友達なんだから心配して当然だろう」
「べ、別に心配してほしくて言ったたわけじゃないからな!」
(僕はそこまで考えてはないよ、カワー・・・)
カワーはフルフェイスヘルムの下で顔を真っ赤にした。後方で姿を消して待機しているイグナは思う。男のツンデレは・・・可愛くない・・・と。
リツが鎧をガシャンとわざと鳴らし、一歩前に出てカイン達に警告する。
「それ以上、遺跡を調べるのは止めていただきたい。星のオーガ殿」
「お前達にそれを命令する権限は無い。我々はこの星の法の外にいる」
カインが余裕な態度でそう言うと、ヤイバ達の後ろから軽い声で茶化す何者かがいた。
「ヒィィィ!助けてママー!ウンコ漏れちゃう!とか言いながら転送されていく姿は中々面白かったですよ、リジヒ殿?イッヒッヒ!」
マサヨである。いついかなる時であろうと、皮肉を言ったりコケにするのが大好きな古代の地球人。カインはギリっと奥歯を噛んでマサヨを睨みつけるも、彼女からは白目を剥いたトビハゼの様な変顔で返される。
「幼稚でつまらん挑発だな。マーサ、奴らと少し遊んで差し上げろ」
「あらあら、嫉妬しますわね。私の愛しい主を悔しがらせるなんて・・・。そこの女、覚悟なさい?」
マーサがマサヨとの距離を詰めようと走り出すと、リツがそれを遮った。
重たい大盾を何の予備動作もなくマーサに当てようとしたが、彼女はそれを難なく避けて背後に回った。
リツは大盾をそのまま後方に勢い良くスライドさせて再度マーサを弾こうとしたが、フォースシールドに阻まれる。
「へぇ、恐ろしいこと。防御エネルギーが大きく減ったわ。凄まじいパワーね。でも・・・」
マーサは指先にエネルギーを溜めた。
「母上、あれは絶対に避けてください!防御は出来ません!」
しかし、それは回避できる次元のものでは無かった。避ける間もなく光速のビームがリツを貫こうと指先から解き放たれた。
「ワイがおる限り無駄やで、その攻撃は」
クロスケのフォースシールドが簡単にマーサのビームを拡散させてしまった。
「百年前の旧式、しかもノーマルスペックの貴方が頑張るじゃない?クロスケさん。でも防御エネルギーゲージの少ない貴方がいつまで皆を守れるかしら?」
「ワイは早漏やけど回復は早いで?」
「まぁお下品」
もう一度マーサがビームを指先に溜めた時、彼女の背後で空気が揺れてヤイバが現れる。
「攻撃と同時に防御は出来ないものだ!」
バトルハンマーが彼女の右肩を叩いた。
「うっ!」
ガイーンと打撃音がしてマーサはよろめくと、直ぐにヤイバから距離を取って肩を押さえた。
「アンドロイドの中でも一番の硬度を持つ私にダメージを与えるとは・・・流石ね」
ヤイバ達と距離を取ったことで安心したのか、マーサの動きが一時止まる。
そこをワロティニスのドリルのような蹴りが空気を割いて上から迫ってきた。
「ええぃ!うっとおしい!」
アンドロイドの指先はワロティニスに向いたが、ダメージの所為かその動きは僅かに遅くワロティニスの蹴りは彼女の左腕を見事粉砕してしまった。
「やったぁ!」
「ぎゃあ!このクソガキはァァ!」
ヤイバに右肩を攻撃されて動かないと思っていた右腕が持ち上がり、指先をワロティニスに向ける。
「無理や言うてるやろ」
「それはどうかしら?貴方のフォースシールドの周波数はもう既に解析済みよ。という事はね・・・」
ビームが今もワロティニスのフォースフィールドを狙い続ける。
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「え?」
―――バシュ!―――
ビームはフォースシールドを貫いて一瞬にしてワロティニスを細かい灰に変えてしまった。
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