未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(144)

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 スーは牽制ではなく、殺すつもりで赤い悪魔を狙ったが弓矢は素手で弾かれた。赤い悪魔が当然という素振りで矢を弾いたのでスーの垂れ目が見開く。

「うそ!何であの速さの弓矢を弾けるのよ!私はスキルを使ったのに!」

 早矢はやというスキルを発動させ、対応の難しい速度の矢を放ったのだが悪魔には効かなかった。ドリャップ程ではないにしろ、弓の名手としてマー隊に引き抜かれた自信が砕け散る。

 真っ先にマーがバトルハンマーで殴り掛かるも、これも素手で弾かれてよろめく。

 間髪入れずカワーが名剣ナマクラで攻撃したが、これもマー同様弾かれてよろめく。

 ハイダルネの槍に至っては槍先の少し下を折られてしまい唯の棒になってしまった。

「こなくそ!」

 やけくそになったヤイバは【閃光】の魔法と同時にバトルハンマーを振った。

 洞窟内は閃光で目が開けていられない程明るくなる。

(これで悪魔の視力を一時的に奪ってくれればいいが・・・)

 赤い悪魔には瞳がない。そもそも視覚で動いているのかどうかも怪しい。ヤイバがこれまで観察した様子では悪魔は暗闇で目が見えていないような気がする。心眼だけで動いているのだ。

 案の定、殴りかかったバトルハンマーは片手で受け止められてしまった。

「ヤイバも撮影に参加したのかね?」

 赤い悪魔からはひょうひょうとした囁くような声が聞こえてくる。

「・・・その声は父さん!!道理で戦い方が似ていると思った・・・」

 ヤイバは父親と思しき悪魔をヘッドロックすると声を潜めて話しかけた。

「何で父さんがこんな所にいるんですか!」

「仕事だよ。ヤイバ。仕事斡旋所に行ったらスタントマンの仕事があってね」

 そう言ってヒジリは息子のヘッドロックから逃れると、背後に周りアルゼンチンバックブリーカーを決めた。しかし父親は手加減しているせいか大したダメージはない。ちょっと衝撃が兜を伝わる程度だ。

「うわっ!いたたた。僕たちは帝国の仕事で洞窟内の魔物を掃討しに来たんですよ!」

「では撮影を中止するように言わなければ。ゴブリン達はどこだ?魔法水晶を持っていたゴブリンがいただろう?」

「気絶して倒れていましたけど・・・」

「なに?ああ、あの時か・・・。何の準備も説明もなくここに連れてこられたので暗視ゴーグルを持ってくるのを忘れたのだ。面白がる近所の子供に貸しっぱなしだったのでね。なので暗闇の中、目を瞑り気配だけで魔物を退治していたから、投げた魔物がゴブリンに当たったのかもしれない」

「もはや撮影とかスタントどころじゃないですか、それ。リアルで戦っているじゃないですか・・・グエッ!」

 父親は手加減しているつもりだが、仕掛けられたキャメルクラッチで背骨が折れそうだったのでヤイバは背筋と腹筋を総動員して、強引に顎を掴む腕の間に自分の腕を滑り込ませて技を解くと、起き上がって父親を羽交い締めにした。

「でかした!ヤイバ!そのままでいたまえ!トドメは僕が入れる!」

 カワーは手柄は渡さんとばかりに剣を振りかぶったが、ヒジリの蹴りがカワーのお腹に入った。

「グフォッ!」

 カワーが吹き飛び洞窟の壁に激突した。

「ちょ!父さん、やりす過ぎだ!」

「しかし、このまま撮影でした~、テヘッ!なんて言えば間違いなく連行されるだろう。公務執行妨害だぞこれは」

「解っているのなら手加減して下さいよ!」

 カワーが吹き飛ばされてマーは激昂した。最近はヤイバかカワーかで心が揺れ動くマーにとってカワーも可愛くて仕方ないのだ。

「このぉぉぉ!ヤイバ、そのまま抑えていろ!」

 マーはヤイバの横から、木こりが斧で木を切り倒すかのようにバトルハンマーを赤い悪魔の腹部目掛けて打ち込む。

 正面に立てば蹴りが飛んでくるからだ。

―――パスッ!―――

 空気の抜けるような間抜けな音がした。

 マーはハンマーから跳ね返ってくる手応えの無さに驚いていると、悪魔の体に触れているハンマーから電流が流れてくる。

 幾ら雷に耐性があるエリートオーガでも手が麻痺するほどの電流だった。ヤイバはマーよりも更に耐性があるのか平気な顔をしている。

「グワッ!」

 マーは驚いて武器を落としてしまう。

 その落としたハンマーをヒジリが蹴り飛ばすと、洞窟の壁に深くめり込み容易には取れなくなってしまった。

「くそ!」

 マーは一旦距離を置いて退いた。交代するように回復したクウゴが悪魔に近づく。

「さっきはよくもやってくれたな!おらびっくりしたぞ!もうちょっとで大事な朝飯を吐き戻すとこだった!」

 何か必殺技を出すのか、クウゴは踏ん張っていた。彼は手をワニの口のような形にし叫ぶ。

「か~め~・・・」

 それを見たヤイバは父の耳元で囁いた。

「彼の必殺技を食らって負けたフリをして、父さん。やられたフリをしつつゴブリン達を抱えて洞窟から出て下さい」

「む、無茶ぶりもいい加減にしたまえ。ヤイバ」

 クウゴの手にマナの素玉のような物が形成されていく。

「あーーたーーまぁぁぁぁぁ!!!」

 ドドーンという轟音とともに、クウゴの頭から洞窟の天井に向かって亀の頭部のような光が走る。

「やだっ!いやらしい!」

「うぇ・・・」

 ハイダルネとスーは光の形に男性の陰部を重ね見て顔を赤らめた。

「ぐわぁーーーーっ!やーらーれーたー!(棒)」

 食らっていない攻撃で何故かヒジリは苦しみ始める。

 ヤイバは悪魔を取り押さえるふりをして父の耳元で話しかけた。

「ちょっと!父さん。今ので何で苦しむんですか!彼の技は失敗したでしょう!」

 しかし、ヒジリは聞いていない。ヤイバを振りほどくとヨロヨロとよろめいて言う。

「よく天井に本体が有ると解ったな!ゴホッ!もう体が・・・持たない!かくなる上は・・・そこのゴブリン達の魂を魔界への土産とする!さらばだ!」

 シュッと動いてゴブリンを抱えるとヒジリはホバリングしながら視界から消えていった。

 カワーがクウゴの肩に手を置いて感心した声で言う。

「やるじゃないか・・・クウゴ。よく敵の弱点が解ったな」

 ハイダルネとスーもモジモジしながらクウゴを褒める。

「技は・・・ヘンテコでしたけど・・・あの強力な悪魔を倒すなんて素晴らしいですわ!」

「クウゴはスケベそうに見えないのにスケベなんだね」

「ねぇん(なんの)の話だか、おら、ちっともわかんねぇぞ!」

「はぁ?何も知らないで必殺技を出していたのかね!君は!」

 カワ―が名剣ナマクラを鞘に戻しながら言う。

「まぁどうであれ、敵は去った。それよりもあの悪魔が倒した魔物の山を見ろ!鉄騎士団の中でも一番だと思うぞこれは!さぁお前達!戦利品と体の一部を袋に詰めろ!」

 マーの勝利宣言を受け、隊員達が戦利品等を回収している間、ヤイバは沈黙していた。

(うう・・・・良心が痛む。僕の父親がマー隊をボコボコにしたなんて誰にも言えない。そもそもこの中じゃカワー以外は父さんの復活を知らない。僕は親友をも騙す事になる)

 しょげるヤイバを見てカワーはニヤニヤしている。

「どうした?嫉妬かね?クウゴに手柄を横取りされて不貞腐れているのか?」

「いや、そんな事はどうでも良いんだ・・・。その・・・済まないカワー」

「なんと!僕に手柄を譲れなかった事を悔やんでいるのかね?フ・・フン!別に君が気にする必要なんてないぞ!バカモノ!」

 勘違いして照れる親友を見てヤイバは余計申し訳ないと思うのだった。




 ゴブリン達を事務所に連れ帰ったヒジリは、直ぐに赤いヒーロータイツを脱ぐと報酬を要求した。

 しかし返ってきた返事は予想通りだった。

「ばっきゃもーん!途中で撮影が途切れているのに金なんて払えるきゃー!」

「やはりか!」

 ヒジリは肩を落とし、トボトボと事務所から出て酒場へと向かう途中、地走り族の商人らしき男が目を丸くして走ってきた。

「オーガのお兄さん!その肩のカタツムリはどこで?」

「カタツムリ?」

 右肩を見ると、虹色のカタツムリがヌメヌメと這っていた。

「何だこの虹色のカタツムリは・・・」

「それ売ってくれよ!なぁ頼むよ!珍しいカタツムリでさ!危険な洞窟にしか生息していないし個体数も少ないから私のようなマニアには垂涎モノなんだよぉ!お願いします!」

「で、では・・・相場価格で」

「いいのかい?今の下取り価格だと金貨百枚程だが・・・。自分で売ればもっと儲けがあるぞ?」

「君は正直なので、その値段で譲ろう。カタツムリも大事にしてくれる人の所にいるのが一番だしな」

「ありがとう!本当にありがとう!あんたは良いオーガだ!」

 地走り族の商人はほくほく顔で小切手を渡すと、カタツムリを大事そうに両手で受け取り去っていった。

「ハハッ!見ろ!私は結果的に金を稼いだぞ!」

 誰に言うでもなく、ヒジリはそう喜ぶと急いで酒場へ向かった。

 酒場に入ると後ろからマサヨシも入ってきた。いつもはヒジリを避ける彼だったが、今日は何故か隣のカウンター席に座っている。

 ヒジリは彼を気にすること無くカウンター向こうで皿を拭くワロに小切手を見せた。

「見ろ!ヘカ!今日だけでこんなに稼いできたぞ!」

 地球ではボランティアポイントというポイントをボランティア活動で稼いで専門的な技術知識や道具を手に入れるのだが、別に稼がなくても生きていける。

 しかしこの星ではお金を稼がないと基本的に自由はないし、生きてもいけない。

 これまでは何かをやればそれに付随して樹族国やら帝国から報酬としてお金を貰っていたので稼いだという実感がなかった。

 今回は自分で職を探しはしたが報酬は貰えなかった。しかし体に偶然付いていた虹色カタツムリを売るという幸運には恵まれ、結果的に自分で稼げたのだ。

「一、十、百・・・!金貨百枚!すげーど!流石、旦那様!明日も仕事でこれぐらい貰えるのか?」

「そ、それは・・・。ぐうぅ」

 狼狽する夫を気にせずヘカティニスは喜んで抱きついた。

 抱きつかれてちょっと得意げな顔をするヒジリの肩にそっと手を置く者がいた。

「俺、見てたんよ。カタツムリ・・・。オフッオフッ!」

 釣りに出かけて釣果がなく、魚屋で魚を買ったお父さんを見るような目でマサヨシはこちらを見ていた。

 ヒジリは密かに苦笑いをして思う。

(実にうっとおしいな、この男は・・・)
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