未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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アーイン鉱山

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「怒り任せに占拠したものの、どうしたもんかのう・・・」

 鉱山の中にある部屋で闇ドワーフは長く伸びた錆び色のあご髭を、太い指でクルクルとこねくり回している。

 皮鎧に張り付けてある銀色のミスリルプレートが髭の色を一層際立たせていた。

 考えながら何の気なしに現場責任者の机を探ると巻物があった。開いて見ると鉱山には関係の無いどうでもいい文章が共通語で羅列してある。

「何じゃこの巻物は・・・。それにしてもこんなにショボイ鉱山は初めてみたわぃ。掘っても掘っても割に合わん質の悪い鉱脈や鉱石ばかりじゃ」

 占拠した鉱山入り口のバリケードの向こうに、闇ドワーフの鉱夫らと睨み合う冒険者が十二人ほどいる。

 魔法がほぼ使えないドワーフだが力と耐久力は高い上、生まれつき戦士の素養がある。そのドワーフがミスリルの大楯と戦闘用に改良した柄の長いつるはしを装備しているのだ。

 更にバリケードの内側からはクロスボウで冒険者を狙っているドワーフもいる。なので冒険者も迂闊に手出しは出来ない。

 ミスリルは魔法を幾らか阻む特性があり、冒険者の魔法をレジストして闇ドワーフが突破してこれば、彼等より武器や肉弾戦に劣る樹族の冒険者達に勝ち目はない。

 闇ドワーフもミスリルの大楯があるとはいえ、レジストに失敗すると大けがを負う可能性がある。それだけ魔法は脅威なのだ。

「おい! 泥棒樹族ども! お前らの領主からの返事はまだか!」

 闇ドワーフがそう叫びバリケードを挟んで罵り合いが始まる。

「魔法も使えない能無しの闇ドワーフが何を言う! その野蛮な武器を捨てて投降するか撤退しろ!」

 僅かに緑がかった肌の樹族冒険者もそう言い返す。

 樹族は鋭利な武器を嫌うので基本的にワンド、杖、メイスしか装備しない。

 闇ドワーフが持つ刃物やつるはしを改良した武器はタブーなのだ。鋭利な武器を持つのは魔法よりも武器に頼っている証という事となり、魔法使いとして失格だという風潮が樹族にはある。

「いいか、何度も言ったが証拠もある。捕らえてある精霊使いも上の指示でやったと言っているんだぞ! 戦争中とはいえルールはある。領土侵攻してまで掘り進むのは明らかにルール違反であり泥棒行為だ! 証拠を見せてやるから来いと言っているのに樹族のお前らは誰一人来ようとしない。そんなに我々が怖いのなら、豚小屋にでも戻ってママのおっぱいでも吸っているんだな! 豚耳ども!」

 冒険者達は若干、豚耳というオークに相応しい言葉にカチンとくるも挑発に乗ろうとはしない。

「は! 誰がその手に乗るか! 証拠とやらを見せるといって背後から襲い掛かってくるのは目に見えているぞ! 闇側に組みする薄汚い裏切り者のドワーフどもめ! ・・・・なに?!」

 後方から砂煙を巻き上げて凄まじい速さで近づいてくる大きな影を見た他の冒険が、今まで罵り合いをしていたリーダーらしき人物に耳打ちをする。

 リーダーが素早く振り向くと、確かに地面から僅かに浮遊するオーガが地走り族を抱いて高速で接近して来る。

「各自魔法の詠唱をして待機!」

 リーダーらしき人物は指示を出すが、ヒジリは樹族達の警戒などお構いなしといった様子で目の前を過ぎ、バリケード前まで一気に到着する。

 闇ドワーフ達は同じ闇側の住人であるオーガを直ぐに攻撃をするような事はしない。

 途中で速度を上げたヒジリにブーブーと文句を言ってタスネは地面に降りた。

「何用か、オーガ殿」

 バリケード前の闇ドワーフはで怪訝そうにオーガと、その横に立つ地走り族の娘と、後方をふよふよ浮くイービルアイを見た。

「私はオオガ・ヒジリ。このちびっ子は私の主であるエポ村のタスネ。後ろにいるのがウメボシ。今日は冒険者として問題解決に来た」

 ここがどこで何が起きていようが大した出来事では無い、という態度で自己紹介をする目の前の裏切り者のオーガに対し、闇ドワーフは少し敵意を籠めた声で

「では光側に寝返った裏切り者のオーガ殿が、此方の要求通り証拠確認してくれるという訳だな」

 と言う。それから後ろで呆気に取られている樹族の冒険者達に向かって野太い声で叫ぶ。

「裏切り者とは言え、流石はオーガだ! お前らと違って勇気がある! さぁ弱々しく鳴け! 豚耳ども!」

 ドワーフの挑発に、我に返った冒険者達は、やはり困惑してワンドを握ろうか、メイスを握ろうか迷っている。

「直ぐにでも君達の上司に会わせて頂きたい」

 ヒジリはその冒険者に向ける罵倒の時間が無駄だという感じで、責任者の元へ案内するように鉱夫に促した。闇ドワーフはムスっとした顔で鉱山入り口へ歩きだす。

 急に現れて鉱山に入っていくオーガとオーガ使いを見て、冒険者の樹族は細い顎を撫でて訝しんだ。

「なんだあいつらは。何者だ」

 近くにいた情報に敏そうな冒険者が、レイドのリーダーに答える。

「ああ、恐らくエポ村に住むタスネとそのオーガだろう。今朝、食料を運んで来た武装商人が言っていたな。何でもオークの遊撃小隊を地走り族の少女がオーガ達を使役して撃破したらしい」

「オーガとイービルアイだけじゃ訓練されたオークの小隊相手にどうにもならんだろ。眉唾だな・・」

「眉唾も何も冒険者ギルドから商人へ経由しての情報なんだが・・・」

「なんだと・・・。それにしても怪しいじゃないか。ぽっと出のモンスターテイマーがそこまで出来るとは思えん・・・。スパイのオーガがギルドや村人の信頼を得るためにタスネとやらを操ってやった自作自演かもしれんぞ」

「まぁ有りうる話だが、それならもっと人心掌握術に長けた適任の種族がいるだろ。何でオーガとイービルアイなんだ? オーガは言うまでも無く、イービルアイの魅了の瞳の効果は、揮発性が高いから短いスパンでずっと魅了し続けないといけないぞ。豊富なマナ無しで、地走り族の少女を操るなんて無理だ。それに本件は鉱山の持ち主であるシオ・ラーザ男爵の依頼。どう説明する?」

「闇ドワーフの鉱山占拠も仕組まれたものかもしれんだろ。これですんなり解決するようだと、いよいよ、あのオーガと地走り族の少女は怪しいぞ」

 困惑と疑いの混ざった表情で冒険者一同は、鉱山に入っていくヒジリ達の背中を見つめた。




 ヒジリ達を見て、左目を閉じ右眉を最大まで吊り上げ、ウームと唸りながら赤錆色の髭を扱くドワイトは、裏切り者のオーガを目の前にしてどう対応するか迷っていた。

 オーガとはいえメイジだ。メイジとは狡賢しいものであるという偏見が、ドワイト・ステインフォージを僅かに警戒させる。

「やっと此方の要求を飲む相手が来たと思えば、皮肉な事に光側に寝返ったオーガとはのう。樹族は前からヘタレじゃとは思っておったがまさかオーガを寄越すとは・・・。ワシは鉱山のオーナー兼総責任者をやっとるドワイト・ステインフォージじゃ。今起きている事をワシから説明しても良いんじゃが、先入観を与えるのも不公平じゃし、そちらでここの状況確認をしてみてくれ。まずはそこの精霊使いから話を聞くのが良かろう」

 ドワイトが目で指した方を見るとポツンと置かれた椅子にうなだれるように座る眼鏡をかけた樹族の女性がいた。樹族特有の薄らと緑がかった肌、細い体つき、緑と金髪が混じったようなストレートのロングヘヤーと瞳。

 彼女は手首を革ひもで拘束されており、ヒジリが目の前に立つとゆっくりと顔をあげた。

 髪の間から覗く鋭い視線が、ヒジリを睨む。

「このオーガに私を凌辱させて情報を引き出させるつもりか! くっ! 殺せ!」

(クッコロとな!? このセリフ、二十一世紀のアニメで聞いた事があるぞ!)

 アニメのセリフをリアルで聞けて内心小躍りするほど嬉しいヒジリだが、それを表情には出さず、なるべく悪意を感じさせない声で樹族の女性に話しかけた。

「私は樹族国の冒険者ギルドから派遣されたヒジリというものだ。君の名は?」

「樹族国の冒険者ギルドから来たオーガだと? 嘘をつくな! 油断させといてお前の大きなピーーーを口にねじ込むつもりだろ! さっさと殺せ!」

 どこか様子がおかしい。性的興奮と高揚が見て取れる。

 後ろでこの樹族の様子を見ていたウメボシとタスネは白目で思う。

(この樹族、変態だーーー!)

 ドワイトは椅子に座って背を見せたまま、溜息をついた。

「ハァ・・・。ずっとその調子でな。ワシらも困っておるんじゃよ。その精霊使いは上からの命令で、土の精霊を召喚して掘っただけと繰り返すのみなんじゃ」

 ヒジリの後ろからタスネがヒョコっと現れた。

「私はエポ村のタスネ。このオーガとイービルアイは私が(一応)使役してるので安心してください。名前ぐらいは教えてくれないと会話し辛いよ?」

「チッ! 本当に冒険者ギルドから来やがったか・・・空気読めよ・・・」

 精霊使いはタスネを見て小さく呟く。

 今まで輝いていた目の光は消え、高揚して赤くなっていた頬は一瞬で緑がかった肌色に戻った。長い耳も垂れ下がり明らかに勢いがなくなったのが解る。

「えーっとぉ。私はぁ、没落貴族でぇ。食い扶持を求めてここに来た下っ端なので何も解りませーん。名前はマギン・マグニスでーす」

 口調まで変わってしまったマギンの二面性にタスネは驚く。

 ウメボシはそんなタスネに囁いた。

「この人、本当に何も情報を持って無さそうですね・・・」

「マグニスさん、当時の状況を教えてもらえると有難いのですが」

「あちしは~、上の命令で~、【鉱物探し】の魔法で鉱脈を探しつつ~、土の精霊を召喚して~、鉱山を掘ってたら~、闇ドワーフの鉱山に繋がっちゃったんですよ~。そしたら闇ドワーフがドワーっと(ドワーフだけに)沢山怒鳴りながら入ってきて~、私だけ人質にされて~、一緒にいた現場監督とかは~、超凄い速さで逃げていきました~。終わり」

 それまでテーブルで謎の巻物を見つつ、話の内容も聞いていたドワイトがドスドスと近づいてきた。

「ちょっとまて今【鉱物探し】の魔法と言ったか? 樹族はどこまでアホなんじゃ!」

「何で魔法で探しちゃ駄目なの?」

 タスネは純粋に質問する。

 鼻でムフーとため息をついて、やれやれと言った態度でドワイトは特殊なこの鉱山について説明を始めた。

「フム、お嬢ちゃんは専門外じゃから解らんのは仕方あるまいて。教えてやろうか。ここいら一帯は、魔法純金と呼ばれる貴重な鉱物が採れるのじゃ。ミスリル銀と違ってエンチャントの際、魔法効果を劣化させる事無く永続的にその効果を帯びる性質があり、大金を積んでも欲しがるものは多い。しかし、その性質が曲者でな。一番近くの鉱物を探す魔法【鉱物探し】で探すと魔法純金は【鉱物探し】の魔法を帯びてしまい、ずっと自らを探すという無意味な魔法効果を帯びた金になってしまうのじゃ」

「なるほど・・・これは敵対国に対する工作のように思えますね。貴重な資源を潰しつつ、素早く手当たり次第に鉱物を奪取するやり方のように見えます。鉱山で働く樹族が魔法純金の性質を知らないとは思えませんから」

 ウメボシは戦争中である事を加味して推測する。

 ヒジリはこの星の住人の争いに興味がなかったが、現状に何か違和感を感じてウメボシに命じた。

「どう見ても樹族側に大義はないな。ウメボシ、一応広域スキャンで遭遇地点が本当に闇ドワーフの領地かどうかを確認してくれ」

 それを聞いて髭を撫でて満足するドワイトはウムウムと頷いた。

「じゃろう? お前らが話の分かる奴らで助かったわぃ。それにしてもオーガ殿は流暢に共通語を喋るのぅ。ワシが見たオーガは皆、単語でしか喋れなかったぞぃ。オーガでもメイジになると普通に喋れるのじゃな」

 ドワイトは言葉足らずで誤解されそうな称賛を送る。これでも彼は褒めたつもりなのだ。

 ヒジリはドワーフのどうでもいい賞賛を流し、ウメボシのスキャン結果を待った。

「スキャン完了。以前見た複数の領土地図の平均的な境界線から北に二キロ程侵入しています・・・?! おや? マギンさんが闇ドワーフと接触したであろうと思われる場所から全長四メートル高さ二メートルの生体反応有り。ゆっくりと此方に向かって来ております」

「なんじゃと!! 鉱山で遭遇する大きな怪物と言えば土食いトカゲだけじゃ! 樹族の魔法で土食いトカゲまで呼び起こしてしまったか! あいつは火を吐かないドラゴンと言われておるほど頑丈な体をしておるのじゃぞ! 縄張り意識も強いから、見つかると鉱山の連中を八つ裂きにするまで怒りがおさまらんじゃろう。緊急避難じゃ! 入口のバリケード付近まで全員退避!」

「こちらに気が付いたようです。移動速度が上がりました。急いでください」

 ウメボシがそう言うと、部屋の中にいた数人のドワーフ達はドワイトの指示でドスドスと鉱山入り口に向かう。

 殆どの闇ドワーフがバリケード前で冒険者とにらみ合っていたので、部屋の中の闇ドワーフ達はスムーズに避難する事が出来た。

 マギンを担いだヒジリ達も鉱山の入り口まで走る。

 鉱山の入り口が騒々しい事に気が付いた冒険者の一人が仲間に警戒を促す。

「おい、バリケード前に闇ドワーフ達が集結しだしたぞ! 警戒しろ! タスネとやらがしくじりやがったのか?!」

 と冒険者が言った後に、顔を恐怖で引きつらせたタスネが走りながら鉱山から飛び出してきた。

 タスネは闇ドワーフと共に冒険者の近くまで走って来てに叫ぶ。

「土食いトカゲが来るよぉーーー! 下がってーー!」

 そう言い終わらないうちに入口から怒り狂った大きなずんぐりむっくりとしたトカゲが現れた。

 そして飛び出した勢いのまま、普段は硬い岩盤を掘る鋭い爪で、逃げ遅れた近くの闇ドワーフを引き裂こうとした。

 しかし闇ドワーフはタイミング良くくるっとトカゲの方へ振り向き、両手で持った大楯でその攻撃を防いだ。上手に防御したものの凄まじい衝撃で大楯は壊れ、闇ドワーフは後方に吹き飛ばされて地面に転がっていった。

 土食いトカゲの怒りは避難してきた闇ドワーフとごっちゃになった冒険者にも向き、次の攻撃目標を定めるために身構えている。

「くっそ、土食いトカゲかよ。土系魔法はレジストされやすいから【切り裂きの風】を使える者がメインで攻撃しろ!」

 冒険者の半数ほどが続けざまに【切り裂きの風】を唱えダメージを与えるが、分厚く頑丈な皮膚には致命傷を与える事は出来ず。

 僅かに血を流して怒り狂う土食いトカゲの突進を、冒険者達は止める事が出来なかった。

 指令を出す為に大声を挙げた冒険者のリーダーがトカゲの標的にされ、今まさに鋭い爪で切り裂かれそうになったその刹那、

「稲妻パンチ!!」

 と、叫ぶヒジリが土食いトカゲの頭を横からドロップキックした。

 土食いトカゲは不意に食らった衝撃で混乱し動きを止めている。

「わぁマスターかっこ悪い・・。パンチなのにキックしていますよ、稲妻も出ていないですし・・・」

「お約束のボケなのだよウメボシ。一々言わせないでくれ、恥ずかしい」

 ヒジリは崩れた体制から素早く跳ね起き、電撃の走る装置が内蔵されたグローブで、土食いトカゲの顔面を一発殴ると電撃が頭から体を駆け巡り土食いトカゲは失神した。
 
 ドスンと音を立ててドラゴン並みに強いはずのトカゲは地面に這いつくばってのびた。

 腕を組んでまじまじとトカゲを観察するヒジリは、飴玉を貰うつもりがすかしっ屁を貰った子供のように落胆して近くにいた樹族の冒険者に訊いた。

「はぁ・・・実にあっけなかった。・・・ところで、このトカゲは売れば金になるだろうか?」

 本来であれば冒険者と闇ドワーフが協力したとしても死傷者を多数出してようやく仕留められる土食いトカゲだったのだが、地走り族の使役するオーガは二回の打撃で失神させてしまった。

 一瞬の出来事にざわつく闇ドワーフや冒険者を気にせず、ヒジリはもう一度土食いトカゲが売れるかどうかを尋ねた。

「売れるかね?」

「あ、ああ・・・君の主のような魔物使いや動物園、魔物研究所に高く売れるかもしれんが。あと、尻尾を切り落として冒険者ギルドに持っていくと退治した証としてかなりの額の報酬が貰える」

 呆気にとられつつも、まさかこんな凶暴なモンスターを売るのか? といった顔で答える冒険者のリーダーの男は冷や汗を垂らす。

「そうかね。ではウメボシ、このトカゲを拘束して尻尾を切っておいてくれ」

「かしこまりました」

 そう言うとウメボシは何も無い空間から、蜘蛛の糸のような繊維を噴出させ反重力で浮かせた土食いトカゲを包みこむ。

 更にウメボシがバシュっと目から光線を出し尻尾を焼き切ろうとすると、トカゲの本能なのか光線が触れた途端勝手に切れてくねくねと動きだした。

「さて。ドタバタとはしたが・・・」

 闇ドワーフと冒険者が入り混じって、お互い攻撃したものかどうか変な空気になっている所にヒジリは言う。

「我が主タスネと共に鉱山内部の状況を確認してきたが、見た限りでは闇ドワーフ側に落ち度がないという事が解った。依頼主の独自行動なのか、国としての工作かは解らないが、今回の件は光側が闇側に不利益をもたらす為の工作だった可能性が高い。そこの精霊使いから話を聞けば大体は察する事が出来るだろう。これは外交問題であり、我々冒険者が介入する余地は皆無と言える。下手にこの件を領主や国に報告すれば君たちの首も危うい。報告せずとも黙って帰れば無報酬となり、それはそれで諸君らも辛いだろう。そこでだ。この尻尾を諸君らの報酬として引き下がってもらいたい」

「そ、それは有難い申し出だが、トカゲを倒したのはお前だろう。いいのか?」

「なに、諸君らの魔法があったからこそ、隙をついて攻撃が出来たのだ。諸君らにも尻尾を貰う権利はある。我々はこの生け捕りにしたトカゲを売って報酬とし、諸君らは尻尾をギルドに持っていき報酬とする。誰も損はしない」

 近くで仲間の手当てをしていたドワイトがベルトに挿していた例の巻物を手に持ってドスドスとやって来た。

「まて、オーガメイジ殿とその主殿。あんたら冒険者には関係ない話かも知れんがワシらは光側の所為で損をしておるぞ。それからヒジリ殿はメイジなのでワシらより賢いじゃろう。これが何かはわからんかね?」

 ヒジリは領主の封蝋がついた巻物を広げて文章を見る。

 冒険者達も横目でその巻物が領主であるシオ男爵からのものであると素早く確認した。

 ヒジリは既にウメボシに字を読めるようにしてもらっているので、巻物に書かれた文字は問題なく読める。書かれた文字を目で追うと、そこには指し障りのない文章がが並んでいるだけだった。

「なんだこの文章は・・・。ん? 待てよ、文章全体がきっちりとした正方形だな。まさかとは思うが・・・斜め読みか! ハハハ、見える!見えるぞ! 私にも見える!」

『こ う さ く か つ ど う か い し せ よ』

「なんとも・・お粗末な暗号ですね・・マスター。私でもここまで程度が低いと気が付くことが出来ませんでした。流石は低レベルな事にも精通する万能型だけはあります」

「皮肉を込めた称賛をありがとうウメボシ。諸君、これが最後のダメ押しだ。領主は国家レベルの工作活動に参加していたように見える。作戦後の尻拭いを我々冒険者にでもさせるつもりでいたのだろう。上手くドワーフを追い払えば良し、失敗して冒険者に死傷者が出れば、ドワーフの言い分を打ち消す外交カードとして利用できる。まぁお粗末な計略とはいえ、諸君らは国家機密に触れたのだから以降口を噤む事を推奨する」

 冒険者達はざわめき、青ざめた顔をして口々に不満を言う。

「くそ! このクエストを達成して貴族に取り入り、返り咲こうと思ったのに・・・」

「ハッ! 自分の首が危うくなる可能性が出てくるとはな!」

「口を堅く閉じていてもアサッシンに怯えて暮らす事になるさ・・・」

 ドワイトは指に絡んだ髭を引っ張りながら冒険者の愚痴る様子を見ている。

「敵国の人間とは言え、捨て駒のような扱いには同情するわい。なぁヒジリ殿、さっきも言ったがお前さん達に関係ない事とは言え我々は損をしておる。だから少しその埋め合わせに協力してくれんかね? 知恵を貸してくれるだけでも良い。どうもこのまま損をしたままでは寝覚めが悪いんじゃ」

「損を取り返す手段はあるにはある。ここではなんだし、鉱山で話をしようか。それでは冒険者の諸君、私は残った仕事を片付けに鉱山に戻る。出来ればあそこに座っているマギンとかいう精霊使いを家まで送ってくれると助かる」

「ああ、わかった」

 冒険者達は岩の裏に隠れていた真面目そうな精霊使いを見てから、ヒジリ達と闇ドワーフ達を目で追う。

 冒険者の一人がポツリと呟いた。

「初めて見たわ・・・。あんなに頭の良いオーガ」

 リーダー格の男がそれに反応する。

「最初は胡散臭いとは思っていたけどな・・・。まぁ本当にあいつらが工作員だったら土喰トカゲを倒したりせず逃げているだろうし。ところでお前ら、タスネの活躍を見たか? 戦闘中、タスネはオーガの後方でしきりに口をパクパクさせていた。あれは何かのサインだろう。沈黙のオーガ使いとはよくいったものだ。後ろでドーンと静かに構えてやがる。全く参るぜ・・・」

 それを聞いて、少しは魔物使いの知識がある冒険者は顎を撫でて考える。

「俺はこう考えるね。タスネは魔物使いだろ? じゃあ何らかの魅了効果で土食いトカゲの動きを鈍らせて隙を作っていたのかもしれんぞ。オーガを使役しつつ魅了も試みていた。全部は彼女のお手柄だったってわけさ。だって俺らの魔法は糞の役にも立っていなかっただろ?」

「土食い倒しのタスネ・・・か」

 それはタスネが新しい二つ名を手に入れた瞬間だった。現場で目撃した者たちが、後々ギルドや酒場で広めていく称号。勿論恥ずかしい称号がつく事もあるが今回はポジティブな称号だ。

「新しい二つ名の誕生か。羨ましいな。俺たちも二つ名がどんどん付く冒険者になりたいもんだ。まぁそれは他所の国で、ということになるがな。報酬を貰ったら直ぐに高跳びするぞ、お前ら。国同士の駆け引きで命を落としたくねぇからな。そういうのは俺達のような落ちぶれた元貴族には関係ねぇ話だ。後は王様や騎士様に任せるに限る」

 彼ら樹族の冒険者達も元は貴族だ。プライドは高い。そのプライドの高い樹族、が感嘆して称賛するほどヒジリ達は強烈な印象を彼らに植え付けたのだった。
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かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

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