未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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吸魔鬼

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 シオの屋敷の庭には魔力を吸われ、尚且つエナジードレインで衰弱した裏側の暗殺者十人が、彼方此方に転がっている。それを確認してジュウゾは少し胸を撫で下ろす。

「まだ息はあるな。良かった・・・。しかし、鍛え上げた精鋭たちが、残念な事になった。魔法防御にも力を入れるべきだったか。回避こそ防御の極意だという信念は捨てねばならんな。無念だ」

 裏側の長は不憫な部下達を見て悔しがる。

 そのジュウゾの前に突然、霧が凝縮して人の形を成した。

「あらぁ。もうお腹いっぱいなんですけど?」

 白目が黒く、一目で人外の者と解る赤い瞳の吸魔鬼は「うぷっ!」と軽くゲップをして扇で口元を押さえた。

 ジュウゾは気配もなく現れた吸魔鬼に驚き、すかさず飛びのくと、霧はすぐジュウゾの目の前まで追いかけて来てまた人の形をとる。更に飛び退いて結界の外に出ると女は忌々しそうに結界を睨んでいた。

「この鳥かごを取り払ってくれないかしら? お代は永遠の命で。どう? 皆様方?」

 後から馬で追いついてきた騎士たちに向かって、女は妖艶な笑みを浮かべて指で誘う。

「魅了耐性の低い者は、奴の目を見るな!」

 シルビィは部下にそう言うと数名が目を伏せた。

 騎士の後に息を切らせながら到着したシオが、腰の大きなカバンから追憶の燭台を取り出して女に叫んだ。

「ご先祖様! これを見てくれ!」

「あら、追憶の燭台? いいのかしら。私が記憶を封印したのはそれなりの理由があっての事。良い思い出だったら封印しないと思うのだけども?」

 そう言われるとシオは嫌な予感がしたが、追憶の燭台の効果は既に発動しており、空中に彼女の過去の記録を映し出してしまった。

 ―――映像は彼女が生まれた時の記憶から始まる。

 自分を抱き上げる赤い瞳の父親には鋭い犬歯が生えており、明らかに吸魔鬼だったが、乳を与えてくれる母親は普通の樹族だった。

 ファナと両親に呼ばれた赤ん坊の自分は、ハーフ吸魔鬼である。

 父親の吸魔鬼は、精神力の強い個体だったのか魔力を吸いたいという欲望に抗い続け、子供が生まれてからは一度も誰かを襲ってマナを吸い取る事がなかった。

 彼がいた時代は諸々の制度も確立されておらず、混沌とした時代。

 父親は闇側との戦争があった時に、無理やり領主に徴兵されることになった。

 次の場面では泣いて縋る幼きファナの頭を、微笑みながら優しく撫でる父親が映し出されている。

 父親は不死なので死ぬことはなく戦場で武功をあげて、有事の際に正式に戦場に赴く下級騎士の地位と褒美を貰って帰ってきた。

 暫く幸せな日々を家族で過ごしたが父親は長い間、マナや魔力を吸わなかったせいか、ある日突然灰となって消えてしまった。

 灰になった父親を呆然と見つめるファナと、こうなる事を既に知っていた年老いた母親が泣きながら灰をかき集めている。暫くして母親も亡くなりファナは一人になった。

 村人たちはファナの性格や行いの良さを知っているので、ハーフ吸魔鬼でも差別する事なく受け入れていたが、世代交代が進むにつれ歳を取らない彼女を見て、昔を知らない村人たちは段々と吸魔鬼を怖がるようになっていった。

 ファナは誰かのマナを吸いたいという欲望は左程強くなく、時々動物の魔力を分けてもらう程度で済んでいたが村人にその様子を見られると恐れられるので、村はずれの森の中でひっそりと暮らしていた。

 孤独に慣れた頃、下級貴族の兄弟が家に遊びにくるようになった。

 勉強が嫌で屋敷から抜け出してきた兄弟は、小屋にやって来ては、たわいもない話を毎日していく。この関係はこの下級貴族が成人した後にも続いた。

 そしてその日はやってきた。

 兄がファナにプロポーズをしたのだ。ファナは自分の素性を理由に何度も断ったが、毎日小屋に花を置いていく彼の健気さに負け、結婚する事になった。

 家族も快くファナを受け入れ、結婚してからは皆でファナの素性を隠し、そのうちに吸魔鬼の血を受け継がなかった息子も生まれ、幸せな日々は何十年と続いた。

 やがて兄弟の両親は亡くなり、遺産相続の話になると次第に兄弟の仲は悪くなっていった。

 今と違って、昔は後継ぎ以外の兄弟でも土地や遺産を分けてもらえたが、そうはならなかった。

 長男を優遇する遺言状を見た弟は豹変する。

 そしてこともあろうか、発足して間もない裏側にファナが吸魔鬼であると密告してしまった。

 裏側は調査の為に直ぐにやってきた。

 兄が妻は普通の樹族だと言い張り、頑なに引き渡しを拒むと、最後まで家宝の聖なる杖と魔法で裏側に抗った。

 しかし暗殺者達は手強く、敢えなくファナの夫は絶命する。その様子を見たファナは心が壊れ無気力になったところを、部屋にこっそりと入ってきた弟に捕縛され棺に閉じ込められた。

 棺の外からは弟が裏側と交渉する会話が聞こえてくる。

 兄に成り代わって家を引き継ぐ事や、封印を維持することを一族の責務とするので、お家取潰しは容赦してほしいという内容だった。

 封印され意識を失う寸前に、憎しみで心を取り戻し、いつまでも封印し続ける事が出来ない事や、自分から幸せを奪ったこの国に必ず復讐すると絶叫したところで映像は途切れた。




 自分の過去を見たファナは「フーン」と言っただけであった。

「なるほどねぇ・・。じゃああんた、憎い弟の子孫って事かい? 可愛い顔してるけど、クズの性質はきっと受け継いでいるんでしょうよ。アハハハハ!」

 ファナは不気味に笑った。

 笑ったその顔が奇妙に歪む。歪んだ所から「ボコッ!ボコッ!」と内側から膨れ上がっていく。

「マナと魔力を吸うと、吸魔鬼の力がどんどん覚醒しちゃってねぇ。ゴボゴボ。裏側どもの上質な魔力や経験が私をこんなにしちゃったのよ、ホホホホホ!」

 内側から押されて皮膚は裂け、顔も割れてその隙間を見るとウネウネと黒いヘビのような何かが這いずり回っている。

 ヒジリ達が到着した頃には、既に人の姿をした大きな黒い人型がそこにいた。

 タスネは小さく悲鳴を挙げてヒジリにしがみ付く。

 誰もが三メートルはありそうな巨大な黒い化け物を見て固まっている。

「ほらほら、何ぼんやりしてんだい? もしかして結界があるからって安心しているのかしらねぇ? 壊せないと思っているなら大間違いだよ! 今の私には力がある!」

 ファナはそう言うと背中から太く逞しい腕を二本出し、合計四本の腕で結界障壁を凄まじい速さで殴り出した。
 
 一発目で障壁は揺らぎ、二発目で小さな穴が開く。三発目で穴は少し広がり、それ以降の連打で穴はどんどん大きくなっていった。

「魔法詠唱開始! 準備が出来次第撃て!」

 シルビィが部下達に命令するとそれぞれの得意とする魔法が、横殴りの吹雪のようにファナに向かって飛ぶ。
 
 吸魔鬼に向かって放たれた複数の魔法が混り、被弾する事で爆発が起こった。爆発の煙が消えるとそこには形を保っていない黒い塊があるだけだった。

「やったか?」

 シルビィがそう言うとヒジリは言う。

「誰かが、やったか? と言うと大概はいないものだ」

 その言葉通り、黒い塊は結界の穴からズルズルと這い出て、大きな人の形に戻った。

「さて、私は晴れて自由の身になったわけだけど、このまま逃げて、また国家転覆を目論んじゃおうかしら? それともクズの子孫と一緒にここにいる全員を殺そうかねぇ? キャハハハハ!」

 何かが黒くうねる顔は、たじろぐ騎士たちを睨んで激しく笑った。
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