未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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セイバー再び

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「ヒジリ、入るわよぉー。えっ?!」

 学校に向かう前にヒジリを起こしに来た制服姿のフランは、手を口に当てて絶句する。

 静かに眠るヒジリの股間が雄々しくそそり立っており、シーツが山のように盛り上がっている。

「や、やだぁ・・・」

 頬を赤らめて目を伏せ、フランは立ち去ろうかどうか迷った。

「ヒジリもこういうふうになっちゃうんだ。でも保健の授業でも言ってたわね。男の人って、朝はこうなる事もあるって。仕方ないわよねぇ・・・」

 暫し間が空く。フランは立ち去ろうともヒジリを起こそうともせず、うっとりと股間を見つめていた。

「ヒジリは裸で寝てる。このシーツをめくったらアレが見れちゃうんだわ・・・。どうしようかしら」

 どうしようもクソもない。シーツをめくるなどという選択肢はない。少し時間を置いて再び起こしにくるか、部屋の外から声を掛ければいいだけなのだ。

「ちょっとだけなら、いいわよね?」

 そう自分に言い聞かせてシーツをめくろうとしたその時、大きな手がフランの小さな手を掴んだ。

「いけない子だな、フラン。君がこれを見るには少し若過ぎる」

 アーモンド型の綺麗な黒目が、フランを見つめている。

「お、起きていたの? ヒジリ。あれ? ウメボシは? いつも一緒にいるじゃない?」

 自分がいけない事をしようとしたという事実から目を逸らそうとして、話題を変える。

「ウメボシなら用事でいない。ところで君はコレに興味があるのかね? ここ最近、我が愚息は私の言う事を聞いてくれなくてね。ずっとこの調子なのだ」

「そ、そうなんだぁ? 私、そういうのあまり知らないから。ヒジリも起きたし、行くわね」

「ダメだ。これを見られたからには帰すわけにはいかない。君も興味があるんだろう? フラン。私がこれの使い方を教えてやる」

 裸のヒジリはフランを引っ張るとベッドに抱き入れた。

「あ、あのね。私まだそういうのは早いと思うの。それに初めてで怖いわ・・・」

「大丈夫だ、優しくする。さぁ私に身を委ねたまえ」

 ヒジリの唇がフランの厚い唇に触れて―――。

「きゃああああ! やっぱりだめ!」

 フランはベッドの上で悲鳴を上げ、起き上がる。

「なんだぁ。夢かぁ。なんて夢なのよぉ・・・」

 ハァハァと息をして胸を押さえ、何気なく二階の窓から裏庭を見るとヒジリが上半身裸で立っていた。

「また夢を思い出しちゃうじゃない、ヒジリの馬鹿。ところで何をしているのかしら?」

 初冬の早朝に上半身裸のヒジリは、向かいに立つ誰かと話をしているようだ。木が死角になって見えない。話が終わるとヒジリは誰かに飛びかかった。

 が、間を置かずにヒジリが投げ飛ばされてしまう。スチャっと着地したヒジリは何か言いながら笑っていた。

「だ、だれ? ヒジリを簡単に投げ飛ばすなんて!」

 フランはトイレに行くと用を済ませ、洗面所で顔をしっかりと洗って歯を磨く。慌てて外に出てヒジリに目ヤニのついた顔を見られたくはない。

 玄関に掛けてある外套を寝間着の上から羽織って外に出ると、裏庭から地面を踏みしめる音や、肉がぶつかり合うような音が聞こえてくる。

「ヒジリさんと僕の連携技は相性が良くないと思うのですが・・・。僕は時折、友人と連携技を戦場で出しますが、基本的に僕はメイジなので魔法を付与してサポートする側なのです。ヒジリさんは僕の魔法を打ち消してしまいますので、僕と組む意味はないかと」

「まぁそう言うな。いつか我々の連携技を使う時がくるかもしれんだろう? もう少し追求してみようではないか」

 聞き覚えのある声にフランは目を見開いた。あの生真面目で優しそうな声は――――、と彼の声と顔を思い出しながら急いで裏庭に駆けていく。

 そこには上半身裸のセイバーが困った顔でヒジリと組み合っていた。少し離れた場所で、腐女子属性のあるウメボシが、二人をうっとりした目で見つめている。

「ヒジリさん」

 明らかに困惑した顔で、セイバーはヒジリの名を呼ぶ。

「何で裸になる必要があるんですか。それに取っ組み合う意味は?(くそ! 彼の能力値は、魔力と信仰心以外は18と高いが、それでもオール21の僕には敵わないはずだ! 何故!? 力が拮抗するんだ?)」

 先程はヒジリを簡単に投げ飛ばせたセイバーだが、今はもう投げ飛ばせなくなっていた。

「必殺技や連携技を論理的に考えて開発しても面白くはないだろう。こういうものは感覚や、閃きでなんとかするものだ」

 サブカルチャー好きなヒジリは、アニメや漫画によくある特訓をイメージしてそう言うが、そんなものを知らないセイバーにとっては出鱈目な言動に聞こえる。

「そんな、滅茶苦茶な・・・。意味がわからない」

 油断しているとエリートオーガの体が浮いて天地が反転する。

「ぐぅ!」

 受け身を取り損ねて、角のような癖毛がある頭と背中をしこたまぶつけたセイバーは、目の前がチカチカした。

 そのセイバーを見下ろすようにフランが覗き込んでいた。

「大丈夫?」

 青い瞳がじっとこちらを見つめており、外套が少しはだけて白い脚が見えていた。

「(なんてセクシーなネグリジェなんだ。十三歳とは思えないよ)ひ、久しぶりですね、フランさ・・・、フラン!」

 セイバーはこれでヒジリの特訓に付き合わされなくて済むと思うと安堵して立ち上がり、十数年後に師匠となるフランを見た。

「もう来ないかと思ってたから嬉しいわぁ」

 そう言ってフランがセイバーの脚に抱きつくと、汗とともにムワッとした彼のフェロモンが彼女を包み込む。

「もう! セイバーさんもヒジリも!」

 魅了されるのが嫌で、フランはセイバーから離れる。

「何の事です?」

 セイバーは不思議そうな顔をするが、フランはプンプンと怒ったままだ。

「何でもないわ! ところで何をしていたのぉ?」

「その・・・おと、ヒジリさんが何か連携技を開発したいと言うので、特訓に付き合っていたのです」

「連携技って必殺技みたいなのが使えないと無理なんじゃないの? ヒジリはマナを消しちゃうから、そういった技が使えないし・・・」

「僕もそう言ったのですがね。ヒジリさんが戦技を使えれば僕も魔法を付与して強化出来るのですが・・・」

「何も私に魔法を付与しなくてもいいだろう。例えば私が敵を空中に投げ飛ばし、落下技に持ち込む。そうしたらセイバーは落下地点にて、魔法で氷針でも出しておけばいい」
 
「エグ過ぎますよ! なんですかそれ!」

 ヒジリが爽やかに残虐な事を言うので、セイバーは思わず突っ込む。

「そうですよ、マスター。その技は悪魔超人並に非道です。そんな事をしなくてもマスターは、一瞬にして敵を灰に出来るじゃないですか」

「それも何だか無慈悲ですけどね、ウメボシさん・・・」

「あ! こんなのどうかしら! セイバーさんが【粉砕の焔】で敵の骨をボキボキにした後、ヒジリがフニャフニャの敵を地面に叩きつけるの! もう敵はグチャグチャのベチャベチャよ!」

「【粉砕の焔】ですか・・・。シルビィさんが得意とする魔法ですよね。僕は炎魔法は少し苦手で。ってフランまでグロい技を閃かない!」

 皆で連携技についてあーだこうだ言っていると、メイドの樹族がフランを呼びに来た。

「フランお嬢様、朝食の準備が出来ております」

「はーい! じゃあ朝ごはんを食べてきます! 今日はずっとヒジリーハウスにいるんでしょ? 学校から帰ってきたらまたお話しましょ! セイバーさん」

「はい、今日は何も予定が無いですから。それでは!」

 背後からヒジリの筋肉が盛り上がる音が聞こえる。

「さて。続きをしようか、セイバー」

「あ、あれぇ? そう言えば僕は、お腹が減ってきました。お腹が減って力が出ない・・・」

 セイバーはわざとらしくそう言ってしゃがむと、ヒジリは普段通りの声で何か言った。

「わたし、ジャムオジサンを呼んでくる! ジャームオージサーン!」

「なんだい、バタコや!」

 ウメボシがヒジリに合わせて寸劇をするも、セイバーには彼らが何をしているのか判らなかった。二人の視線がこちらに向く。何を期待しているのだろうか?

「セイバー様は勿論犬のチーズ役ですよ。早く! アンアンと吠えるのです!」

「あ、はい・・・。でも僕はそういうのはいいです」

 とだけ言って自由騎士はヒジリーハウスの浴室へと歩きだした。

 何となく背中に視線を感じたので、自分の肩越しに後ろを振り返ってヒジリとウメボシを見ると、彼らはこれ以上無いほどに切ない顔でこちらを見ていたので、思わず噴き出してしまった。




 セイバーが浴室から出てくると、食卓には色んな種類のパンが並んでいた。

 その殆どが帝国で見るような味気ないシンプルなパンではなく、それ一つでおかずにも主食にもなる物や、甘そうな果物やクリームの乗ったほぼケーキではないか、と思えるパンもあった。

「私がバタコと一生懸命作ったんだよ、おあがり」

 ウメボシはまださっきの寸劇をやっている。

 老人の物真似をしているのだろうと思われる声で、セイバーにパンを勧める。

「アン、アーン!」

 一切似せようともしないヒジリは犬の鳴き声を出した。

「ちょっ! ヒジリさんが犬役をやるんですか? 止めてくださいよ! イメージが壊れますから! 世界規模の大英雄なんですよ! ヒジリさんは!」
 
「ほう? 私が? 君がどうやって同じ時間軸を移動しているのかは全く知らないが、ネタバレはしないでもらいたい」

「す、すみません」

「マスターが世界規模の大英雄ですか・・・。強力な力を割りとセコい事に使うのが好きなマスターが大英雄・・・」

「出鱈目を言うな、ウメボシ。私はそんな器の小さな人間ではない」

「そうでしょうか? こないだも街中を移動していたらバランス制御システムの不調で、お店に激突したでしょう? あの時、通行人に注目されて恥ずかしいからって、近くに落雷を落として、雷だー逃げろー逃げろーとか言って誤魔化していたじゃないですか」

「さぁ何のことかね。その時、ウメボシは別の買い物をしていたはずだろう?」

「マスターと一緒にいたコロネが教えてくれました。とっても嬉しそうに笑いながら」

「むぅ・・・。コロネめ」

「ヘルメスブーツをあまり過信しないでくださいまし。抱かれていたのが、すばしっこいコロネだったから対応できたものの、それがどんくさいタスネ様だったら、大怪我をしているところですよ!」

「だーれーがー、どんくさいですって! ウメボシィ!」

 ダイニングルームの入り口で、鬼瓦のような顔をしたタスネが立っていた。

「ヒ、ヒェ! そんな、ナルトォ! みたいな言い方で呼ばないで下さいタスネ様」

「全く! 自由騎士様が来ていると聞いて挨拶しにきたら、悪口を言われてるなんてね!」

「悪口だなんて、そんな・・・。あ! 良かったらお一つどうです? 美味しいですよ、パン!」

「ご機嫌取りの賄賂? ウメボシも下級貴族並にずる賢くなったわね」

 ふん、と不貞腐れつつも、甘いうぐいす豆がふんだんに入ったパンを取って食べる。

「やだぁ、なにこれ。美味しい~! 甘すぎずしっとりとしたお豆を、ふわふわのパンが持つ微かな塩味が引き立ててるぅ~。しかも見た目は小さいけど結構ずっしりしているし、ボリュームもあるね!」

 機嫌をすぐに直したタスネを見てウメボシはホッとする。

「ささ、お好きなだけどうぞ」

 朝食を食べただろうタスネは、別腹と言わんばかりに甘いパンばかりを食べて幸せそうな顔をしていた。

「わぁ~、タスネさんは本当に美味しそうな顔をしますね。僕も頂きます」

 暫く皆で黙々とパンを食べていると、タスネが突然、口の中の物を噴いてアーッと叫んだ。セイバーがビクっと体を震わせる。

「今日、フランの学校はお弁当持参なんだった! 持たせるの忘れたー!」

 パンの欠片が頬についたまま、タスネはゾンビのようにヨタヨタと歩くと、ヒジリに抱きついて上目遣いをした。

「フランにお弁当作って、持ってってあげて? ねぇ? ヒジリィ」

「何故、私が・・・。召使いはどうしたね?」

「召使いっていっても彼らはアタシの召使いじゃないの! 城から派遣されているから決められた仕事しかしないのよ! ねぇ~。ヘルメスブーツでスィーっと学校まで行って渡してきてよ~」

「ふむ・・・報酬は?」

「えっ? 報酬・・・? じゃあアタシのキスで」

「ほう? では先払いしてもらおうか」

 タスネがヒジリの顔をゴキリと強引に自分に向かせると、目を閉じて顔を近づけた。

 そんな主をヒジリはまじまじと見つめている。

 油ギトギトの唇に、パンくずやソースが付いた口周り・・・。不必要に寄る眉間の皺。

 うぇっと呻いて、ヒジリはタスネのキスを回避し、立ち上がった。

「仕方あるまい。ウメボシ、お弁当を用意してくれ。フランの学校まで届けるぞ。学校までは遠くはないのでヘルメスブーツで向かう」

「畏まりました」

「なによ! 私のキスがいやなの?」

 正直に嫌だと言えば、狭量なる我が主は激怒するだろう。

「やはり依頼を完遂してから頂く事にする。先に報酬を貰うとやる気が減るのでね」

「そう?」

「あ、僕も一緒に行きます」

 自由騎士であるセイバーがそう言うと、タスネの顔がサーッと青くなる。

「とととと、とんでもない! 自由騎士様にお遣いだなんて!」

「大丈夫ですよ、タスネさん。散歩みたいなものですから」

 シャキーンとセイバーの眩しい笑顔がタスネを魅了する。

「そう・・・。自由騎士様がそう言うなら・・・」

 セイバーに魅了され顔を赤らめるタスネの耳元で、ヒジリは意地悪に囁く。

「ホッフ・・・」

「もう! 煩いわね! さっさと行きなよ! 馬鹿ヒジリ!」

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