未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

文字の大きさ
86 / 373

イグナとの夜

しおりを挟む
 フランは夕暮れのサヴェリフェ家の庭で、機嫌よく今日の出来事を振り返っている。

 そして自分に話かけてくるセイバーに少し顔を赤らめながら紅茶を飲み、テーブルにカップを置くと、顔を手でパタパタと扇いだ。

 今日は夕方になっても気温が高く、全く寒くはない。しかしそれは原因かな? とフランは自問する。

(私ったら、またセイバーに魅了され始めてる。それにしても何で彼は、私の事を気にかけてくれるのかしら? 嬉しいけどもぉ)

 目の前の自由騎士は決して絶世の美男子というわけではない。ただ人を魅了する雰囲気や声をしているのだ。その加減が、尋常じゃないぐらいに上振れしているだけであって。

 そこへヒジリが現れて茶化した。

「おや? フランは顔が赤い。セイバーに魅了されてしまったか。フランは私と結婚するのではなかったのかね?」

「も、勿論よぉ?」

「え? フランは僕よりもヒジリさんの方がいいんですか? 僕の魅力はおと、ヒジリさんにも負けていないとは思うのですが」

「なによぉ、急にセイバーまで。ヒジリは変わり者だけど面白いし、包容力があるわ。セイバーは物知りだしイケボだしで・・・、ああっ!」

 フランは頭を抱えた。こんな幸せで、贅沢な悩みがあるだろうかと。

「どっちをとるか決めてくれたまえ。フラン」

「そうですよ。僕か、ヒジリさんか」

「そんなぁ~」

 悩める十三歳女子の横で、ウメボシがホログラムで作り出した手をパンパンと叩いた。

「はいはい、マスターもセイバー様も意地悪なことはしませんよ。思春期の乙女を迷わせるなんて悪戯にしても度が過ぎます」

「ハハハ! そうだな。すまない、フラン」

「ウフフ。フランさ・・・、フランがあまりにも可愛くてつい」

「も~~!(ドキドキした)」

 フランは頬を膨らませ、怒ったフリをして立ち上がると、お風呂に入ると言って屋敷へと入っていった。

 ヒジリとセイバーがそれをにこやかに見送ると、屋敷の上の方から声が聞こえてくる。

「は~ん、フランはいいわね! ハンサムとイケメンに言い寄られてさ!」

 二階の窓から頬杖を突いてこちらを見るタスネは、嫉みやら僻みやらが顔に渦巻いていた。今にもペッと唾を吐きそうな勢いである。

「主殿もどうだ? イケメンハンサム・サンドイッチを味わうかね?」

「誰が! っていうか、自分でハンサムとか言ちゃうかしらぁ? 馬鹿ヒジリ!」

 そう言ってタスネはピシャッと窓を閉めた。

「今日も主殿は機嫌が悪い。たまにはエポ村に行って、ホッフと会えばいいのにな」

「タスネ様が貴族となられた今、エポ村に行っても以前と同じ、というわけにはいきませんよ。ホッフ様にしても貴族相手に馴れ馴れしい態度をとるわけにもいかないでしょうし」

「面倒くさいものだな、身分というものは」

「江戸時代の湯屋のようなものがあればいいのですけどね。あそこは侍も平民も、別け隔てなく世間話が出来る場所でした。そういう場所があればお互いの距離が少しは縮むのではないでしょうか?」

「しかし、ここにはそういった文化がないからな。基本的に風呂でも他人に裸を見せるのはご法度だ。親しくなってようやく一緒に入るかどうかなのだ。大昔の日本のようにはいくまい」

 帝国の制服に纏わりつく落ち葉を摘んで魔法で燃やすと、セイバーも会話に加わった。

「おおよその国が、貴族は貴族同士、平民は平民同士で交流するので、交わることはありませんからね。その架け橋といえば商人くらいですが、彼らも商売でやっていることですし・・・」

「そういえばセイバーは貴族なのかね?」

「いいえ? 平民ですよ。僕の時代の帝国は、既に貴族制度が廃止されています」

「ほう? 素晴らしいな」

「昔と違って街に自由な雰囲気が出てきたと、母親も言っておりました」

「確かに以前、ツィガルの城下町に行った時は少しピリピリした雰囲気があったな。傲慢な貴族層とやさぐれた平民層といった感じの」

 話の途中で、セイバーの胸の内ポケットにある転移石からイグナの声が聞こえてきた。

「油を売ってないで、早く帰ってきなさい!」

 今のイグナより少し落ち着いた声が、セイバーの帰りを促す。

「おっと、闇魔女様がご立腹ですね。次に来る時は普通に遊びに来たいと思います。それではヒジリさん、ウメボシさん、さようなら」

「ああ、さようなら。向こうの人達にもよろしく言っておいてくれたまえ」

「さようなら、セイバー様」

 笑顔で手を振ると、セイバーは音もなく消えてしまった。

「行ってしまったか。それにしても羨ましい。私も転移石で未来に行ってみたいものだ」

「それは叶わぬ夢かと。以前、闇竜が言っておりましたように、我々は魔法を心の底で強く否定しております。魔法も科学で解明できるはずだ、と。想いや願いを具現化するマナは、我々のように何でも数式にする事が出来ると思っている人間には、寄ってこないのかもしれません」

「まぁ無い物ねだりをしても仕方ないな。さて、さっさと今日の出来事をレポートにして地球に送信するか」

 ヒジリは急に冬の寒さを取り戻した薄暗闇で深呼吸をし、何となく軽くストレッチをしてからヒジリーハウスへと入っていった。





 ベッドの中で、網膜に映るデータを地球に送信し目を開けると、近くで自立するパワードスーツをヒジリはじっと見つめた。

「どこから改造したものか。一番の問題はパワードスーツの性能に自身の能力がついていけない事なのだが。能力をカバーするために、パワードスーツがオートで動ける権限を広げるしかないな」

 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「うん? こんな夜中に誰かね?」

「私・・・」

 イグナの不安そうな声が聞こえてきた。

「入りたまえ」

 入室の許可を出すヒジリの声に反応してロックが外れ、ドアが開くと、イグナは何かに怯えた様子でヒジリのベッドに潜り込んで震えた。

「どうしたね? イグナ」

「おばけの声が聞える」

「おばけ? ウメボシ、周囲をスキャン・・・。おっと、彼女は今夜はメンテナンス室にいるのだった」

「ウメボシはいないの?」

「ああ。だからいつもの様に気楽にすればいい」

「あのね、おばけの声が聞こえてきて、私怖くなってね、ヒジリなら何とかしてくれるかもしれないって思ってね、走ってきたの」

 イグナはヒジリと二人きりになった時だけ、素の自分を晒す。姉妹にも見せない素の自分だ。

 何故そうやって自分を隠すのかは知らないが、本来のイグナはとても子供らしく可愛いとヒジリは思う。

「今も聞えるのかね?」

「ううん、こうやってヒジリに触れていると聞こえないの」

 腕枕の中で顔を胸に擦り付けるイグナを見て、ヒジリの顎が梅干しのようにキュッとなる。

「(これが、萌えというやつか・・・)そういえば、私も魔法のことが書かれた本を読むようになってね。アルケディアの本屋で見つけた本の中には、魔力の高い魔人族の話が書かれていた。魔力の高い魔人族の多くは、晩年気が狂ってしまうそうだ。その原因は精霊らしい」

「うん、知ってる。魔力の高い人程、色んな精霊の影響を受けやすくなるから、なるべく感情を制御した方がいいって」

「(ん? ああ、そうか! それでイグナは普段は言葉を少なくし、感情を抑えているのか。心を閉ざしているばかりというわけでもなかったのだな)やはりイグナは本を沢山読んでいるだけはあるな。そう、だからイグナが聞いている声も、精霊の声なんじゃないのかな?」

「そうかも・・・。でも怖いから、今晩は一緒に寝てもいい?」

「勿論だとも。これから精霊の声が聞える時は、私のもとへ来るがいいさ」

「うん、ヒジリ大好き」

 姉たちと同じく、豊満なボディを持つイグナの柔らかい体が、ぴっとりとくっついてきた。

「それとね、明日は降臨祭だから、一緒にお祭り見に行こう?」

「いいとも。他の姉妹も誘ってな」

「皆、友達と行くんだって。私は友達いないから、タスネお姉ちゃんと行く予定だったんだけど、お姉ちゃんはやっぱり家にいるって言い出して・・・」

 イグナは魔法学校を卒業する前に、試験すら受けずして実力を認められたメイジだ。魔法院での戦いがそれを証明している。

 樹族国最強のメイジであるチャビンとそれなりに戦える素人などいない。更にジュウゾやシルビィの推薦もあり、王からメイジとしてのお墨付きを貰ったのだ。

 ヒジリは優しくイグナの黒髪を撫でてから微笑む。

「友達ならここにいるだろう? イグナが行く所、どこまでも付き合おうじゃないか」

「ヒジリは友達じゃない。恋人」

 十一歳の少女の言う事だからヒジリは真に受けてはいないが、それでも胸がキュンとした。

(大好きな猫を見た時でもこんな気持にはならなかったぞ。やはり感情制御チップの機能が弱まっているのか? でも悪くはないなこの気持は)

 アニメや漫画の中でのみの感情だと思っていた萌えを今、ヒジリは実感している。

 いつの間にか腕の中で寝息を立てているイグナを愛おしく思いながら、ヒジリも眠りについた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...