未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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ゴールキ将軍

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 空中を錐揉み落下しながら、覆面のゴールキは頭から地面に落ちる。

 雪原砦の自称将軍はマットの上でバウンドして大の字になった。

「親父!」

 リングの外で戦いを見守っていた砦の戦士たちは、ゴールキ将軍が立ち上がる事を期待してマットを叩いたが、反応はない。

「どこの馬の骨とも判らん奴に娘をやっていいのかよ! 親父!」

 砦の戦士ギルドのムードーメーカーであるスカーは、死闘の末にオーガメイジのコークスクリューアッパーカットを受けてマットに沈む無敗の将軍を鼓舞する。

「立てよ、親父ィ! 相手はメイジだぞ! 幾ら歳を取ったからってそりゃあねぇだろうがよ! まぁ俺たちもそのメイジに負けたんだが・・・。なぁ! 仇を取ってくれよ!」

 ギルドの中で一番若いギャラモンがマットを叩く。ギャラモンも試合に参加しており、ヒジリの張り手を食らったせいで顔がパンパンに腫れ上がっていた。

「五年前、あんたに憧れて迷いの森と迷いの雪原を命がけで突破し、雪原砦の門を叩いたのに、なんてザマだ将軍!」

 試合開始十秒で場外まで投げ飛ばされて気絶した新入りのザックが、拳を握って将軍が目を開けるのを待った。

 しかしカウントダウンは無慈悲にテンカウントを刻み、将軍は遂に立ち上がることがなかった。

 出身も正体も不明なオーガメイジは、肩で息をしながら腕を上げて勝者アピールをしている。最初はポニーテールだった黒髪も、試合中に髪留めを失くしたのか、無造作に垂れ下がっている。

「やったど! 砦の戦士達をブチのめした!」

 ヘカティニスはリングに上がり、ヒジリに抱きつく。

 ヒジリは抱きついてきたヘカティニスに逆に抱きついて、倒れないように踏ん張った。それほどの死闘だったのだ。

 ゴデの街の貧民地区にある空き地で行われたレスリング大会は、ヒジリの優勝で沸き立っていた。賭けで勝っただろう露店の店主が、大喜びしながら無料でソーセージとビールを配り歩いている。

「またあのオーガメイジでヤンスか! チキショー!」

 いつもどこからともなく現れて解説をするゴブリンのヤンスは、今回の戦いを見逃してしまった事を悔しがっている。

 ヒジリはヘロヘロになって、コーナーポスト前にある椅子に座り空を仰いだ。冬の寒い空気の中で、熱を帯びた上半身から湯気が立ち上っている。

「ウップ! もどしそうだ・・・。ハァハァ。パワードスーツ無しで連戦するのは流石にきつかった」

「あの魔法の服だか鎧だかを着ても良かったんだど? 装備も実力の内だかだな」

 そう言ってヒジリの頭を胸に押し付けて撫でているヘカティニスに我慢できなくなったのか、ウメボシもリングに上って強引に二人の間に割って入った。

「流石はマスターですね。きっとこの星に来た当初でしたら、ザックさんにすら勝てなかったでしょう」

「ここ数日間、ヘカティニスとスパーリングをしたお陰だな」

「違います、これまでの戦闘経験のお陰です!!」

 一週間ヒジリとヘカティニスがみっちりと稽古しているのを歯噛みして見ていたウメボシは、それを思い出して不機嫌になった。寝技の練習の時に練習台となったヘカティニスが女の顔をしていたように思えたからだ。

 まだ気絶しているゴールキ将軍の頬を、瓶底眼鏡インテリ戦士ベンキが叩いて起こす。

「起きろ、将軍。あまり伸びていると砦の戦士ギルドへの依頼料が下がってしまうだろう。さっさと起きて嘘でもいいから強がってみせてくれ」

 名声で依頼料が変わると言っても、試合での負けなら大して報酬に影響はしない。それでもゴールキは無敗の将軍という看板を下ろさなければならないので、ギルドとしてはいい気分はしない。

 普段は軽薄な雰囲気のするスカーだが、今は真顔になって軽く両手を広げ、ヘカティニスに近づく。

「ヘカちゃんよぉ。父ちゃんが伸びてるのに心配してやらねぇのかよ。いつまでもそのオーガメイジにべったりくっついているなんて、少々冷たくねぇか?」

「うでゅさい! 負けた奴はウスラハゲデバネズミ以下だ」

「ひでぇ・・・。幾らオーガの掟で、敗者に何も権利は与えられないとはいえ、父ちゃんは気絶してんだぞ? 様子見に行ってやれよ」

「知らん。会議の時にヒジリをグランデモニウムの王様にしたくないと言ったのは父ちゃんだけだったろ。ナンベルもおでも王様はヒジリが良いと言った。おでたちの言葉を無視してヒジリに喧嘩を売ったのは父ちゃんだ。なのに負けたのはとても恥ずかしい事」

「かぁー、頑固なところは母ちゃんそっくりだな。いや親父も頑固か。だから別れたんだな。ハッ!」

 スカーは呆れながらも、意識を取り戻したゴールキのもとへ行く。

「大丈夫か? 親父ィ。結構、長いこと気絶していたな」

「ああ、顎にがっつり奴の拳を受けちまってな。これで無敗の肩書もなくなった・・・」

 頭を振ってから立ち上がるとゴールキは、ヒジリとヘカティニスのもとへ歩きだした。

「お前の勝ちだ、ヒジリ。娘は嫁にくれてやる。俺は早く孫の顔を見たいから、今日からでも子作りをしろ」

「いや、私の目的はそれではない。将軍が私の事をグランデモニウムの王として認めるかどうかだ」

 ゴールキはロープに寄り掛かると暫く沈黙した後、空を見上げた。

「・・・俺はよ、ヘカが惚れた男が一体どんな奴なのか知りたかったんだよ。娘は頭が悪いから騙されているんじゃなかろうかと思ってな。お前は随分と上手に言葉を喋るし、頭も切れる。更にメイジときたもんだ。だから何かを企んで娘に近づく胡散臭い奴だと思ったんだ。が、この試合で、お前は魔法も使わずに実力だけで勝ちやがった。言っとくが俺の可愛い息子達は、どいつもこいつも弱くはねえぞ。いや寧ろ強い。何度も帝国の鉄騎士どもを追い返している実力者だからな。それを休まずに次々と撃破していった強靭さ、不利な状況をものともしないお前の精神力は、確かに王者のそれだ」

「では・・・」

「ああ、いいだろう。お前を王として認めてやる。多分、王族と一緒に逃げることが出来なかった貴族たちが、お前に言い寄ってくるだろうが、精々舐められんようにするんだな。あいつらは隙さえあれば、誰に対してでも直ぐに寝首をかこうとする。狂王は絶対的な能力があったが、お前には何もなさそうだ。もし少しでも舐めた態度をとる貴族がいれば、情けなどかけずにさっさと殺してしまえ」

「私は臣下など要らないし、貴族制度も廃止するつもりだ」

「なに? ・・・おっと、難しい話はやめてくれ。俺たちはヘカよりも賢いが、そこまで賢くはない。政治のことはお前に任せた。それにしてもいい試合が出来たぜ。少しマンネリ気味でこの興行も収入が減っていたところだ。お前が優勝していい活性剤になった。また参加してくれ」

「むぅ。良いように客寄せに使われたような気がしないでもないが、いいだろう。暇があればまた参加してみよう」

「次回は息子たちが今よりも強くなっているぞ。鍛錬は怠らない事だ」

 そう言って将軍がロープを潜りリングの外に出ようとしたが、ヒジリは呼び止めた。

「後で話がある。オーガの酒場に来てくれ、将軍」

「なぬ? あそこにはミカが・・・」

 ヒジリに絡みつくように抱きついているヘカティニスがニヤニヤしている。

「父ちゃんは母ちゃんが怖いのか?」

「バカタレ! 俺に怖いものなどない! いいぞ、一時間後に行く」

 ゴールキは動揺しているのかロープに足を引っ掛けてしまい、転びそうになったが、そのまま勢いでゴロリと回転して立つと、何事もなかったようにテントの中へと入っていった。
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