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統治の手始め
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オーガの酒場のドアベルが鳴って、約束通りゴールキはやって来た。
三メートルもある大柄な体は、六十歳とは思えないほど筋肉で盛り上がっている。毛皮の服が筋肉ではちきれそうだ。
「なんでオメェは覆面被ってんだ? 今は試合中じゃないど」
ミカティニスはゴールキを見るなり鼻にシワを寄せる。
ゴールキの覆面は、ズタ袋に目と口を出す穴が開いているだけのシンプルなものだ。
眉間のところに何故か縦線が二本入っている。なのでいつも不機嫌そうに見えるが、可愛くも見える。
「父ちゃんにしてみたら、今もある意味試合みたいなもんだど。ウハハ」
ヘカティニスが茶化す。
「うるせぇぞヘカ! ババァもちったぁ気を利かせて酒でも出せ」
「昼間っから酒なんか出すわけねぇど! クソアホが!」
仲の悪い元夫婦二人に、ヒジリはどうしたら良いか判らない。
「ウメボシ、私はこういった人間関係の中に身を置いた事がない。どんな顔をすればいいのだ?」
「笑えばいいと思います」
「今この気まずい空気の中で、エヴァネタなど要らない。どうすればいいのだ?」
「ですから、ニコニコして二人のやり取りが終わるのを待っていれば良いと思います」
「そうか・・・」
ヒジリは無理やり頬を上げて笑顔を作ったが、目が笑っていないので不気味である。
「おわぁ・・・。父ちゃんと母ちゃんが喧嘩してっからヒジリが怒ってるど。ヒジリのこんな怖い顔、おで今まで見たことがねぇ」
「いや、怒っては・・・」
ゴールキとミカティニスはヒジリを見た後、お互い顔を見合わせて、ゴホンと咳払いをした。
「すまねぇ、ヒジリ。大事な話があるんだったな。なんだ?」
まぁ話が進められるからいいかとヒジリは考えて、コーヒーで一度喉を湿らせる。
「実は、私がこの国を統治するにあたって最も重要視する事が一つある。それはどの街も村も、法の下で取り締まる者がいない。なので治安が悪い。そこで、だ。砦の戦士ギルドに治安維持の仕事を頼みたいと思う」
「俺たちも、傭兵以外での収入となると、さっきやったレスリングの見世物しかねぇ。だからその話はとてもありがてぇんだが、戦士たちは十人しかいねぇぞ。この国がいくら小さいつっても、十人で各街や村を見て回るのは無理だ」
「それは問題ない。私が直接面接して、適性のある者を君たちの部下として各地で雇う。君たちは力のある犯罪者や魔物が現れた時に、部下達の要請に応じ出動出来るようにゴデの街で待機してくれればいい」
「どうやって移動すんだ? そんな直ぐに色んな場所に行こうと思ったら、主要都市だけでも転移石は十対必要だ。転移石は一対だけでも豪邸が何軒も建つ値段だぞ」
「実は転移石はあるのだ。私は遺跡調査の際にそういった類のアイテムを見つけて保管している。古代の時代ではそれほど高価なアイテムではなかったのか、割りと簡単に見つけ出すことが出来た(とは言ってもウメボシのスキャニングに頼らなければ、コロネでも見つける事は難しかっただろうが)」
「じゃあ問題ねぇな。いいぞ、治安維持の仕事は引き受けた。そうなると雪原砦が疎かになるな。帝国がこっそり侵入できるルートは、あそこの北側にある沢山の洞窟からよ。監視者がいないと食い止める事が出来なくなる」
「その心配はないと思うがね、将軍。私が集めた情報では、狂王がいない今、次に彼らが攻めてくる事があれば真正面から正々堂々と攻めてくる。軍隊を国境沿いに少しずつ集結させているという話も聞いた。まぁ現段階ではただの威嚇だとは思うが」
ゴールキは驚いてブッとコーヒーを噴いてしまい、ミカティニスの顔にそれががかかってしまった。
直ぐにミカティニスからビンタが飛ぶ。
「おめぇの、クセェ唾液まみれのコーヒーで、化粧が台無しだろうが!」
「あぁ? ババァの癖に化粧してんのか!」
ミカティニスはヘカティニスにタオルを渡されて顔を拭こうとしたが、その手をゴールキが止めてまじまじと元妻の顔を見る。
「ブハハハ! ほんとだ! 一丁前に化粧なんかしてらぁな! 年寄りが色気づきやがって!」
ゴールキの手を振りほどいて、ミカティニスは顔を拭く。
「ヘカが最近化粧を覚えたから、おでもしてもらっただけだ」
娘の顔をよく見ると派手な化粧ではなく、自然で控えめな化粧をしていた。
「くぅ~。敵の返り血で化粧をしていたお前が、今や男の為に可愛らしい化粧をするようになったとはなぁ。父ちゃん涙がでらぁな。こりゃあ死んでいった息子達の墓に出向いて報告しねぇとな!」
「うん? 死んだ息子もいるのかね? 随分と大所帯だな」
ヒジリはスカーやギャラモン達が、ゴールキの事を親父と呼んでいたのを思い出す。
「ああ、スカー達も息子だが、本当の息子じゃねぇ。あいつらの殆どは戦争孤児で、見込みのある奴を、砦に連れて帰って家族同然に育てきたんだ。本当の息子たちは、十何年前に起きた樹族国との紛争で死んだ。息子達は樹族の騎士に取り囲まれて、一斉に魔法を撃ちこまれたんだ・・・」
「それは悪いことを聞いた。すまない」
「いいってことよ。息子たちは弱かったから死んだ。だから俺はヘカをここまで強くした。そしたらよぉ、このババァが、ヘカを危険な目に遭わせるのは嫌だって言い出してよ。だから別れたんよ。まぁどの道、ヘカは傭兵の道を選んだろうけどな」
「ふん! 娘が砦の戦士と一緒にならなかっただけマシだど。お前らと一緒にいると、無茶な事ばかりさせられるからな!」
「はッ! どうせ戦場じゃヘカと一緒になる事が多い。砦の戦士も、一匹狼のヘカもおんなじこったぁな!」
ヒジリはまた無理やり笑顔を作って、二人の喧嘩が終わるのを待った。
「ヒッ! 父ちゃん、母ちゃん! またヒジリが怒ってるど!」
「いや、怒っては・・・」
「と、とにかく。ヒジリ王の申し出は受けた。では俺ぁ、墓参りに行ってくるからよ。準備ができたら、貴族街の空き家に連絡をくれ。表札をかけておく。俺たちゃ勝手にそこに住んでるからよ」
ゴールキはヒジリの人形のような不気味な笑顔から顔を背けて、オーガの酒場の裏庭にある息子たちの墓に向かった。
「さて、主殿達を迎える家の準備をしてやらをしないとな」
「地走り族のチビっ子達を呼ぶんか?」
「ん? ああ、あの姉妹はいつも私と共にある」
ウメボシがカウンターテーブルの上に降りてきて動きを止めた。
「ウメボシはてっきり、タスネ様達は樹族国に人質に取られると思ったのですが、すんなりとグランデモニウム王国への移住が決まって意外でしたね」
「まぁ私は王や王政派からは信頼されているからな。シルビィがなんとかしてくれたのだろう。元老院サイドからは、サヴェリフェ姉妹を人質に取れという話も出ていたらしい。元老院は反王政派貴族や魔法院と関わりのあった貴族で構成されているから、シュラス陛下が決めた事はなんだって反対する。私がグランデモニウムの統治許可を申請しに行った時も、大反対していたらしい。が、いずれグランデモニウム王国が帝国と対峙する事になると知った途端に黙ったそうだ」
「失敗すれば王政叩きの材料にできますし、成功してもグランデモニウムの鉱物資源の利権に集ろうと考えているのでしょう。貴族には樹族至上主義者もいるそうですから、マスターを優遇しているシュラス陛下は、彼らにとって良い王ではないでしょうね」
「うむ。樹族国も内側で、結構ゴタゴタとしている。それもなんとかしてやらんとな」
ヒジリとウメボシの話が理解できないヘカティニスは、ムスっとしてヒジリの首に腕を回して自分だけを見ろと目で訴えた。
「旦那様はウメロシとではなく、おでと話すべき。旦那様はグランデモニウム城に住むのだろう? チビっ子達も住むのか?」
「ん? 我々は城に住まんよ。ゴデの街は他の街へのアクセスがいいからな。城は、国境近くの辺鄙なところにあるから使い勝手が悪い。あそこには魔法人形(ホログラム)でも配置しておこう。常に国境を監視させるのだ」
「じゃあ、おで達の愛の巣はここに作るんか?」
「まぁそういう事になるな。家を建てるついでに貧民対策もしてしまおうか、ウメボシ」
「と言いますと?」
「貧しい者達には、とにかくちゃんとした住む場所を与えねばならん。バラック小屋なんかではなく、巨大な集合住宅にでも住んでもらおう。貧民街は整地して本格的な商業区に。ドワイトに協力して鉱山の採掘作業の効率を上げ、規模も拡大する。コーヒー豆も外国に売り込んで農園を広げよう。とにかく雇用を作るのだ」
「それは構いませんが、集合住宅はどうやって建てるのですか?」
「カプリコンに頼む」
「最近は地球の監視者達を無視するようになってきましたね? マスター。マサムネ様の白髪がまた増えるでしょう」
「監視者達には実質的な権限は何もないからな。父さんがあれこれ嫌味を言われるかもしれないが、直接的な害はないはずだ。いつもの如く、餌を撒いて地球にいる私の支持者に黙らせよう。そうだな・・・。低級ドラゴンの体組織と習性のレポートでも送っておいてくれ。ファンタジーマニアが喜びそうだ」
「だそうです、カプリコン様」
「畏まりました。集合住宅のデュプリケイトは、遮蔽フィールドの影響で何度か失敗すると思いますので、一日はかかるでしょう」
「場所はナンベル孤児院の丘の下にある原っぱで頼む」
そう言ってからヒジリは顎を擦って考え事をする。
「せめて惑星遮蔽フィールドの動きを見ることが出来ればな・・・。いや、いっそ遮蔽フィールドの供給元を絶つか・・・。そう簡単には見つからんだろうがな」
「地道に遺跡を調査するしかありませんね」
「暫くはそんな暇がないのが残念だ」
ヒジリはこれから忙しそうに動き回る自分を思い浮かべ身震いをし、ヒジリーハウスでイグナやウメボシとのんびりと実験や観察をしていた頃に戻りたいと思った。
しかし、このまま世界の流れを傍観していれば、それも儘ならないだろう。
今は動く時なのだ、と自分に言い聞かせてカウンター席を離れると、酒場のドアを開ける。
ヒジリは早速カプリコンの作業が上手くいっているかどうかを確認しに、ナンベル孤児院がある丘へと向かうことにした。
三メートルもある大柄な体は、六十歳とは思えないほど筋肉で盛り上がっている。毛皮の服が筋肉ではちきれそうだ。
「なんでオメェは覆面被ってんだ? 今は試合中じゃないど」
ミカティニスはゴールキを見るなり鼻にシワを寄せる。
ゴールキの覆面は、ズタ袋に目と口を出す穴が開いているだけのシンプルなものだ。
眉間のところに何故か縦線が二本入っている。なのでいつも不機嫌そうに見えるが、可愛くも見える。
「父ちゃんにしてみたら、今もある意味試合みたいなもんだど。ウハハ」
ヘカティニスが茶化す。
「うるせぇぞヘカ! ババァもちったぁ気を利かせて酒でも出せ」
「昼間っから酒なんか出すわけねぇど! クソアホが!」
仲の悪い元夫婦二人に、ヒジリはどうしたら良いか判らない。
「ウメボシ、私はこういった人間関係の中に身を置いた事がない。どんな顔をすればいいのだ?」
「笑えばいいと思います」
「今この気まずい空気の中で、エヴァネタなど要らない。どうすればいいのだ?」
「ですから、ニコニコして二人のやり取りが終わるのを待っていれば良いと思います」
「そうか・・・」
ヒジリは無理やり頬を上げて笑顔を作ったが、目が笑っていないので不気味である。
「おわぁ・・・。父ちゃんと母ちゃんが喧嘩してっからヒジリが怒ってるど。ヒジリのこんな怖い顔、おで今まで見たことがねぇ」
「いや、怒っては・・・」
ゴールキとミカティニスはヒジリを見た後、お互い顔を見合わせて、ゴホンと咳払いをした。
「すまねぇ、ヒジリ。大事な話があるんだったな。なんだ?」
まぁ話が進められるからいいかとヒジリは考えて、コーヒーで一度喉を湿らせる。
「実は、私がこの国を統治するにあたって最も重要視する事が一つある。それはどの街も村も、法の下で取り締まる者がいない。なので治安が悪い。そこで、だ。砦の戦士ギルドに治安維持の仕事を頼みたいと思う」
「俺たちも、傭兵以外での収入となると、さっきやったレスリングの見世物しかねぇ。だからその話はとてもありがてぇんだが、戦士たちは十人しかいねぇぞ。この国がいくら小さいつっても、十人で各街や村を見て回るのは無理だ」
「それは問題ない。私が直接面接して、適性のある者を君たちの部下として各地で雇う。君たちは力のある犯罪者や魔物が現れた時に、部下達の要請に応じ出動出来るようにゴデの街で待機してくれればいい」
「どうやって移動すんだ? そんな直ぐに色んな場所に行こうと思ったら、主要都市だけでも転移石は十対必要だ。転移石は一対だけでも豪邸が何軒も建つ値段だぞ」
「実は転移石はあるのだ。私は遺跡調査の際にそういった類のアイテムを見つけて保管している。古代の時代ではそれほど高価なアイテムではなかったのか、割りと簡単に見つけ出すことが出来た(とは言ってもウメボシのスキャニングに頼らなければ、コロネでも見つける事は難しかっただろうが)」
「じゃあ問題ねぇな。いいぞ、治安維持の仕事は引き受けた。そうなると雪原砦が疎かになるな。帝国がこっそり侵入できるルートは、あそこの北側にある沢山の洞窟からよ。監視者がいないと食い止める事が出来なくなる」
「その心配はないと思うがね、将軍。私が集めた情報では、狂王がいない今、次に彼らが攻めてくる事があれば真正面から正々堂々と攻めてくる。軍隊を国境沿いに少しずつ集結させているという話も聞いた。まぁ現段階ではただの威嚇だとは思うが」
ゴールキは驚いてブッとコーヒーを噴いてしまい、ミカティニスの顔にそれががかかってしまった。
直ぐにミカティニスからビンタが飛ぶ。
「おめぇの、クセェ唾液まみれのコーヒーで、化粧が台無しだろうが!」
「あぁ? ババァの癖に化粧してんのか!」
ミカティニスはヘカティニスにタオルを渡されて顔を拭こうとしたが、その手をゴールキが止めてまじまじと元妻の顔を見る。
「ブハハハ! ほんとだ! 一丁前に化粧なんかしてらぁな! 年寄りが色気づきやがって!」
ゴールキの手を振りほどいて、ミカティニスは顔を拭く。
「ヘカが最近化粧を覚えたから、おでもしてもらっただけだ」
娘の顔をよく見ると派手な化粧ではなく、自然で控えめな化粧をしていた。
「くぅ~。敵の返り血で化粧をしていたお前が、今や男の為に可愛らしい化粧をするようになったとはなぁ。父ちゃん涙がでらぁな。こりゃあ死んでいった息子達の墓に出向いて報告しねぇとな!」
「うん? 死んだ息子もいるのかね? 随分と大所帯だな」
ヒジリはスカーやギャラモン達が、ゴールキの事を親父と呼んでいたのを思い出す。
「ああ、スカー達も息子だが、本当の息子じゃねぇ。あいつらの殆どは戦争孤児で、見込みのある奴を、砦に連れて帰って家族同然に育てきたんだ。本当の息子たちは、十何年前に起きた樹族国との紛争で死んだ。息子達は樹族の騎士に取り囲まれて、一斉に魔法を撃ちこまれたんだ・・・」
「それは悪いことを聞いた。すまない」
「いいってことよ。息子たちは弱かったから死んだ。だから俺はヘカをここまで強くした。そしたらよぉ、このババァが、ヘカを危険な目に遭わせるのは嫌だって言い出してよ。だから別れたんよ。まぁどの道、ヘカは傭兵の道を選んだろうけどな」
「ふん! 娘が砦の戦士と一緒にならなかっただけマシだど。お前らと一緒にいると、無茶な事ばかりさせられるからな!」
「はッ! どうせ戦場じゃヘカと一緒になる事が多い。砦の戦士も、一匹狼のヘカもおんなじこったぁな!」
ヒジリはまた無理やり笑顔を作って、二人の喧嘩が終わるのを待った。
「ヒッ! 父ちゃん、母ちゃん! またヒジリが怒ってるど!」
「いや、怒っては・・・」
「と、とにかく。ヒジリ王の申し出は受けた。では俺ぁ、墓参りに行ってくるからよ。準備ができたら、貴族街の空き家に連絡をくれ。表札をかけておく。俺たちゃ勝手にそこに住んでるからよ」
ゴールキはヒジリの人形のような不気味な笑顔から顔を背けて、オーガの酒場の裏庭にある息子たちの墓に向かった。
「さて、主殿達を迎える家の準備をしてやらをしないとな」
「地走り族のチビっ子達を呼ぶんか?」
「ん? ああ、あの姉妹はいつも私と共にある」
ウメボシがカウンターテーブルの上に降りてきて動きを止めた。
「ウメボシはてっきり、タスネ様達は樹族国に人質に取られると思ったのですが、すんなりとグランデモニウム王国への移住が決まって意外でしたね」
「まぁ私は王や王政派からは信頼されているからな。シルビィがなんとかしてくれたのだろう。元老院サイドからは、サヴェリフェ姉妹を人質に取れという話も出ていたらしい。元老院は反王政派貴族や魔法院と関わりのあった貴族で構成されているから、シュラス陛下が決めた事はなんだって反対する。私がグランデモニウムの統治許可を申請しに行った時も、大反対していたらしい。が、いずれグランデモニウム王国が帝国と対峙する事になると知った途端に黙ったそうだ」
「失敗すれば王政叩きの材料にできますし、成功してもグランデモニウムの鉱物資源の利権に集ろうと考えているのでしょう。貴族には樹族至上主義者もいるそうですから、マスターを優遇しているシュラス陛下は、彼らにとって良い王ではないでしょうね」
「うむ。樹族国も内側で、結構ゴタゴタとしている。それもなんとかしてやらんとな」
ヒジリとウメボシの話が理解できないヘカティニスは、ムスっとしてヒジリの首に腕を回して自分だけを見ろと目で訴えた。
「旦那様はウメロシとではなく、おでと話すべき。旦那様はグランデモニウム城に住むのだろう? チビっ子達も住むのか?」
「ん? 我々は城に住まんよ。ゴデの街は他の街へのアクセスがいいからな。城は、国境近くの辺鄙なところにあるから使い勝手が悪い。あそこには魔法人形(ホログラム)でも配置しておこう。常に国境を監視させるのだ」
「じゃあ、おで達の愛の巣はここに作るんか?」
「まぁそういう事になるな。家を建てるついでに貧民対策もしてしまおうか、ウメボシ」
「と言いますと?」
「貧しい者達には、とにかくちゃんとした住む場所を与えねばならん。バラック小屋なんかではなく、巨大な集合住宅にでも住んでもらおう。貧民街は整地して本格的な商業区に。ドワイトに協力して鉱山の採掘作業の効率を上げ、規模も拡大する。コーヒー豆も外国に売り込んで農園を広げよう。とにかく雇用を作るのだ」
「それは構いませんが、集合住宅はどうやって建てるのですか?」
「カプリコンに頼む」
「最近は地球の監視者達を無視するようになってきましたね? マスター。マサムネ様の白髪がまた増えるでしょう」
「監視者達には実質的な権限は何もないからな。父さんがあれこれ嫌味を言われるかもしれないが、直接的な害はないはずだ。いつもの如く、餌を撒いて地球にいる私の支持者に黙らせよう。そうだな・・・。低級ドラゴンの体組織と習性のレポートでも送っておいてくれ。ファンタジーマニアが喜びそうだ」
「だそうです、カプリコン様」
「畏まりました。集合住宅のデュプリケイトは、遮蔽フィールドの影響で何度か失敗すると思いますので、一日はかかるでしょう」
「場所はナンベル孤児院の丘の下にある原っぱで頼む」
そう言ってからヒジリは顎を擦って考え事をする。
「せめて惑星遮蔽フィールドの動きを見ることが出来ればな・・・。いや、いっそ遮蔽フィールドの供給元を絶つか・・・。そう簡単には見つからんだろうがな」
「地道に遺跡を調査するしかありませんね」
「暫くはそんな暇がないのが残念だ」
ヒジリはこれから忙しそうに動き回る自分を思い浮かべ身震いをし、ヒジリーハウスでイグナやウメボシとのんびりと実験や観察をしていた頃に戻りたいと思った。
しかし、このまま世界の流れを傍観していれば、それも儘ならないだろう。
今は動く時なのだ、と自分に言い聞かせてカウンター席を離れると、酒場のドアを開ける。
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