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マギン・シンベルシン
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一つの体に柴犬の頭を三つ持つ犬を見て、ウメボシの頭に気味悪さと可愛さが混同する。
タスネがこの村に来る途中でテイムしたこのモンスターは、チョロチョロと動き回っている。
モフモフはウメボシに近づくと容赦なく頬を舐めだした。
「ひゃあ! こ、これは何という名前の魔物なのですか? タスネ様」
「へ? 知らないの? ウメボシほどの博学者が?」
「ええ、あまり魔物の知識は頭に入れておりませんので」
タスネは顔がパアァと明るくなり嬉しくなった。ウメボシに知識で上回る日が来ようとは思わなかったからだ。
ニヤける顔を我慢して、スマートさを演じながら、ウメボシにさらりと教える。
「これはケルベロスの仲間で滅多に見かけないレアな魔物、シバベロスだよ」
「(ん、そのまんまじゃないですかッ!)へ、へぇ~! 流石は伝説のモンスターテイマー! レアモンスターをゲットするなんて!」
「まぁね、フフン!」
「そこは謙遜するところよ、お姉ちゃん・・・」
今しがた転移石でイグナと共にやって来たフランが、転送石を置いている空き家から現れ、ドヤ顔の姉をたしなめた。
「お、ちゃんとアタシが買ってあげた黄鉄の鎧を着ているわね。それね、一応、魔法の鎧なんだよ」
「知ってる。孤児院でミミに【知識の欲】で見てもらったもの。でもこれねぇ・・・。黄鉄のデメリット(湿気に弱い、肌に悪い)を無くす為の魔法しかかけられてないんだってぇ。だったら普通に鉄の鎧を着たほうが良いヨってナンベルさんに言われたわぁ。で、誰がこんなバカげた鎧を作ったと思う?」
「さぁ。誰?」
「鉱山王のドワイト・ステインフォージさんの息子、ドワームさんよ。ナンベルさん曰く、ステインフォージ家はドワーフなのに、鍛冶が苦手な一族なんだって。しかも魔法を付与したのは、若い頃ダレダ・ナニガシというな名前で符魔師をやっていた、ナンベルさんの双子のお兄ちゃんなんですって・・・。これ、相当安かったでしょ? どこで買ってきたの?」
「どこって、露店で激安セールしてたから買ったのよ」
「見た目が黄金っぽいからって理由で買ったんでしょ? 聖騎士に相応しい色だとか何とか思って」
妹の鋭いツッコミに図星のタスネは、鳴っていない口笛を吹いて誤魔化そうとした。
「あのね、お姉ちゃん。私は外見なんてどうでもいいの。地味でも実質的な鎧のほうが嬉しいわぁ。だって貧乏だった頃にヒジリが言ってたもの。君はシャツ一枚だけでも充分素敵だって。だから鎧も、シンプルで性能もそこそこの物で良いって思ったの」
「シャツ一枚だけって・・・下は? すっぽんぽん? 変態でしょ、それ」
「ちがーーう! もう馬鹿お姉!」
フランはプンプンと怒りながら、ウメボシが設営したままにしてある、大きなドームテントへと入っていった。ここを仮説診療所とし、祈りで患者を癒やすのだ。
「なによ、折角買ってあげた鎧なのに・・・。ウメボシ、行こう。村を守る魔物をもっと探しに行くわよ」
「はい」
村から出ていくウメボシとタスネを見送るとイグナは、仮説診療所へと入ろうとした。が、心が妙にざわつく。
―――助けて!
ナンベルになるべく使わないようにと言われていた【読心】の魔法に、誰かの声が引っ掛かったのだ。あまり馴染みのない場所ではついこの魔法に頼ってしまう。
メイジは火力こそ高いが先制攻撃に弱い。悪意を持って自分を見る敵に先手を打たせないようにするには【読心】の魔法が一番効果的と言える。
「誰だろう。近くで誰かが助けを求めている」
周辺を探そうとして、足を前に踏み出してはみたものの、イグナは立ち止まった。
・・・おかしい。近くに怪我人や魔物に襲われている人がいれば、ウメボシが真っ先に気がつくはずだ、と頭の中で危険信号が鳴る。
「誰?」
イグナは咄嗟に【物理障壁】、【魔法障壁】、【弓矢そらし】、【魔法探知】を唱え、敵に備える。
しかし、それらの警戒はすぐに無駄となった。
地面に這いつくばるようにして【姿隠し】の魔法を解除した、坊主頭の魔人族が現れたからだ。
特に外傷はなさそうな彼女は、声にならない声で「助けて・・・」とイグナに言うと、バタリと倒れてしまった。
「大変。フランお姉ちゃんに知らせないと」
姉妹の中でも、一番力と体力があるフランは、魔人族の女性をおんぶして仮説診療所まで運んでいると、その様子を見ていた闇樹族たちが驚いて道を開ける。
「おお、流石聖騎士になるお方。我らメイジとは腕力も体力も違う」
(驚いてないで手伝いなさいよぉ、もう・・・)
自分より背丈の高い魔人族だったが、体重は軽い。
軽いが意識のない彼女が落ちないようにバランスを取りながら運んでいるので、無駄にスタミナを消耗してしまい重く感じる。
「おねえちゃん、頑張れ」
「なによ、イグナが【浮遊】でもかけてくれれば、もっと楽なんじゃないのぉ?」
「【浮遊】は空中に浮きそうな名前だけどゆっくり落下するだけの魔法。重さは変わらない。【軽量化】という魔法があるけど私は覚えていない」
「なんだ、イグナでも覚えていない魔法があるのねぇ。よっこらせ!」
なんとかしてベッドの上に魔人族を寝かせると、フランもベッドに寝転びたい気持ちになったが、呼吸を整え自身の疲労の回復を待った。
「彼女を直ぐに回復してあげないと」
フランが魔人族に手をかざそうとしたその時、魔人族は目を見開いてその手を掴む。
「癒やしの祈りはしないで! 癒やしは・・・!」
そう言って彼女はまた気絶してしまった。
「癒されるとまた拷問をされるからだろうな。癒やしの祈りが恐怖にすり替わってしまっているのだ」
テントの入口に大きな影がさす。
「ヒジリ! いつの間に来ていたのぉ?」
横にはリツもいる。
カプリコンによる転送を初めて経験したリツは、転送酔いでフラフラしていた。ヒジリがリツの肩を持って支えている。
「その魔人族から離れたまえ。それは我らに害をなす存在だ」
「誰なの?」
「私も素顔を見たことがないので確証はないが、その女はかつてチャビンが雇った暗殺者だろう。名をマギン・シンベルシンという。エリムスに呪いをかけた本人であり、他にも余罪が沢山ある。ナンベル・ウィンの家族を殺したのも、この女なのだ」
イグナがびくりと肩を震わせる。
「ナンベルのおじちゃんの・・・? おじちゃんはその事を知っているの?」
「知らないさ。私も先程、転送でシルビィの屋敷まで行き詳細を聞いてきたのだ。この事をナンベルが知れば、マギンを是が非でも殺しにかかるだろう」
ヒジリは、突然部屋に現れた自分を見て飛び上がるシルビィを思い出す。
彼女は休日を肌着のまま過ごしていたのだ。
ベッドに腰を掛け、シルビィの横に座ってマギンの話を聞こうとすると、彼女は暗い顔をしてヒジリの逞しい腿に頭を乗せてきた。
チャビン戦に関わる事はこれまであまり喋ろうとはしなかった彼女だが、ぽつりぽつりと話し出す。
怒りに身を染め復讐の鬼と化した自分は、狂気一歩手前、闇堕ち一歩手前だったと話し始め、マギンにした拷問の数々を告白した。
そして使った拷問器具の中に、相手の情報を無理やり引き出す特殊な魔法の針の事を詳しく話す。
マギンから引き出した情報には、ラーザ家の吸魔鬼に雇われていた彼女が、国の破滅を企んでいた事や、その後接触してきたチャビンに雇われて、間接的にヒジリ暗殺計画を遂行していた事。ここまではジュウゾから聞いていた話と同じだった。
新たな情報としては、彼女が殺した被害者の情報の中に、ナンベルの家族の名前があった事・・・。
ヒジリは、ナンベルが家族を殺された時に、どれほど嘆き悲しんだかを想像して胸が痛む。いつもはあんなにふざけている彼だが、その心の内側は、家族を守れなかった後悔が常に渦巻いているのではなかろうか。
そこで回想を止めて、ベッドの上に寝るマギンと思しき女をどうするか考えた。
「取り敢えず、ジュウゾ殿を呼ぶか。こんな直ぐに見つかるとは思っていないだろうから、彼も別の任務に向かっただろうな。来るのは明日になるだろう」
ヒジリは外に出ると口笛を吹いた。
ジュウゾが訓練した伝書鳩がヒジリの手のひらに乗る。脂でヌメッとした羽に、少し驚きながらも体を掴み、鳩の脚に赤い足輪をはめて飛ばす。マギンを見つけたという印だ。
「ジュウゾ殿も行ったり来たり大変だ。ウメボシが帰ってきたら、あの魔人族の周りにフォースフィールドを張るべきだな」
ヒジリが何から何までやっていることに驚いて、リツは落ちてくるメガネを人差し指で上げた。
「監視なら王自らがやらなくてもいいのではないでしょうか? そんなものは適当な誰かにやらせてはどうでしょう?」
「これに関してはメイジキラーである私が適任だと思うのだが。それにこの女は、変装の名人で、精霊使いで、殺人狂だ。魔法を無効化出来ない者が、少しでも油断をしていると容赦なく殺されるだろう。私はフランやイグナを絶対に死なせたくないのでね」
体裁にこだわらず、合理的な判断をするこの男に、リツは感心する。普通の王であれば、部下にこういった事をさせて、自分は紅茶など飲んで寛いでいるものだが。
幾ら予算のない貧乏王だとはいえ、率先して動くヒジリに、リツは好印象を持った。
(皇帝陛下もロロム様も興奮して、この男の事を話す理由が少し解ったかもしれませんわ。この王はきっと何でも解決してしまう・・・)
所見でヒジリ王を見下していた自分の心境の変化に、リツは少し苛立った。簡単な女過ぎると、心の何処かで別の自分がそう言ったからだ。
太い眉毛を隠す前髪をリツは何気なく気にしてから、帝国の制服である黒いロングコートのお尻を押さえて、椅子に座り、ヒジリ王がこの問題をどう解決するのかを見物させてもらうおうと、腕を組んだ。
タスネがこの村に来る途中でテイムしたこのモンスターは、チョロチョロと動き回っている。
モフモフはウメボシに近づくと容赦なく頬を舐めだした。
「ひゃあ! こ、これは何という名前の魔物なのですか? タスネ様」
「へ? 知らないの? ウメボシほどの博学者が?」
「ええ、あまり魔物の知識は頭に入れておりませんので」
タスネは顔がパアァと明るくなり嬉しくなった。ウメボシに知識で上回る日が来ようとは思わなかったからだ。
ニヤける顔を我慢して、スマートさを演じながら、ウメボシにさらりと教える。
「これはケルベロスの仲間で滅多に見かけないレアな魔物、シバベロスだよ」
「(ん、そのまんまじゃないですかッ!)へ、へぇ~! 流石は伝説のモンスターテイマー! レアモンスターをゲットするなんて!」
「まぁね、フフン!」
「そこは謙遜するところよ、お姉ちゃん・・・」
今しがた転移石でイグナと共にやって来たフランが、転送石を置いている空き家から現れ、ドヤ顔の姉をたしなめた。
「お、ちゃんとアタシが買ってあげた黄鉄の鎧を着ているわね。それね、一応、魔法の鎧なんだよ」
「知ってる。孤児院でミミに【知識の欲】で見てもらったもの。でもこれねぇ・・・。黄鉄のデメリット(湿気に弱い、肌に悪い)を無くす為の魔法しかかけられてないんだってぇ。だったら普通に鉄の鎧を着たほうが良いヨってナンベルさんに言われたわぁ。で、誰がこんなバカげた鎧を作ったと思う?」
「さぁ。誰?」
「鉱山王のドワイト・ステインフォージさんの息子、ドワームさんよ。ナンベルさん曰く、ステインフォージ家はドワーフなのに、鍛冶が苦手な一族なんだって。しかも魔法を付与したのは、若い頃ダレダ・ナニガシというな名前で符魔師をやっていた、ナンベルさんの双子のお兄ちゃんなんですって・・・。これ、相当安かったでしょ? どこで買ってきたの?」
「どこって、露店で激安セールしてたから買ったのよ」
「見た目が黄金っぽいからって理由で買ったんでしょ? 聖騎士に相応しい色だとか何とか思って」
妹の鋭いツッコミに図星のタスネは、鳴っていない口笛を吹いて誤魔化そうとした。
「あのね、お姉ちゃん。私は外見なんてどうでもいいの。地味でも実質的な鎧のほうが嬉しいわぁ。だって貧乏だった頃にヒジリが言ってたもの。君はシャツ一枚だけでも充分素敵だって。だから鎧も、シンプルで性能もそこそこの物で良いって思ったの」
「シャツ一枚だけって・・・下は? すっぽんぽん? 変態でしょ、それ」
「ちがーーう! もう馬鹿お姉!」
フランはプンプンと怒りながら、ウメボシが設営したままにしてある、大きなドームテントへと入っていった。ここを仮説診療所とし、祈りで患者を癒やすのだ。
「なによ、折角買ってあげた鎧なのに・・・。ウメボシ、行こう。村を守る魔物をもっと探しに行くわよ」
「はい」
村から出ていくウメボシとタスネを見送るとイグナは、仮説診療所へと入ろうとした。が、心が妙にざわつく。
―――助けて!
ナンベルになるべく使わないようにと言われていた【読心】の魔法に、誰かの声が引っ掛かったのだ。あまり馴染みのない場所ではついこの魔法に頼ってしまう。
メイジは火力こそ高いが先制攻撃に弱い。悪意を持って自分を見る敵に先手を打たせないようにするには【読心】の魔法が一番効果的と言える。
「誰だろう。近くで誰かが助けを求めている」
周辺を探そうとして、足を前に踏み出してはみたものの、イグナは立ち止まった。
・・・おかしい。近くに怪我人や魔物に襲われている人がいれば、ウメボシが真っ先に気がつくはずだ、と頭の中で危険信号が鳴る。
「誰?」
イグナは咄嗟に【物理障壁】、【魔法障壁】、【弓矢そらし】、【魔法探知】を唱え、敵に備える。
しかし、それらの警戒はすぐに無駄となった。
地面に這いつくばるようにして【姿隠し】の魔法を解除した、坊主頭の魔人族が現れたからだ。
特に外傷はなさそうな彼女は、声にならない声で「助けて・・・」とイグナに言うと、バタリと倒れてしまった。
「大変。フランお姉ちゃんに知らせないと」
姉妹の中でも、一番力と体力があるフランは、魔人族の女性をおんぶして仮説診療所まで運んでいると、その様子を見ていた闇樹族たちが驚いて道を開ける。
「おお、流石聖騎士になるお方。我らメイジとは腕力も体力も違う」
(驚いてないで手伝いなさいよぉ、もう・・・)
自分より背丈の高い魔人族だったが、体重は軽い。
軽いが意識のない彼女が落ちないようにバランスを取りながら運んでいるので、無駄にスタミナを消耗してしまい重く感じる。
「おねえちゃん、頑張れ」
「なによ、イグナが【浮遊】でもかけてくれれば、もっと楽なんじゃないのぉ?」
「【浮遊】は空中に浮きそうな名前だけどゆっくり落下するだけの魔法。重さは変わらない。【軽量化】という魔法があるけど私は覚えていない」
「なんだ、イグナでも覚えていない魔法があるのねぇ。よっこらせ!」
なんとかしてベッドの上に魔人族を寝かせると、フランもベッドに寝転びたい気持ちになったが、呼吸を整え自身の疲労の回復を待った。
「彼女を直ぐに回復してあげないと」
フランが魔人族に手をかざそうとしたその時、魔人族は目を見開いてその手を掴む。
「癒やしの祈りはしないで! 癒やしは・・・!」
そう言って彼女はまた気絶してしまった。
「癒されるとまた拷問をされるからだろうな。癒やしの祈りが恐怖にすり替わってしまっているのだ」
テントの入口に大きな影がさす。
「ヒジリ! いつの間に来ていたのぉ?」
横にはリツもいる。
カプリコンによる転送を初めて経験したリツは、転送酔いでフラフラしていた。ヒジリがリツの肩を持って支えている。
「その魔人族から離れたまえ。それは我らに害をなす存在だ」
「誰なの?」
「私も素顔を見たことがないので確証はないが、その女はかつてチャビンが雇った暗殺者だろう。名をマギン・シンベルシンという。エリムスに呪いをかけた本人であり、他にも余罪が沢山ある。ナンベル・ウィンの家族を殺したのも、この女なのだ」
イグナがびくりと肩を震わせる。
「ナンベルのおじちゃんの・・・? おじちゃんはその事を知っているの?」
「知らないさ。私も先程、転送でシルビィの屋敷まで行き詳細を聞いてきたのだ。この事をナンベルが知れば、マギンを是が非でも殺しにかかるだろう」
ヒジリは、突然部屋に現れた自分を見て飛び上がるシルビィを思い出す。
彼女は休日を肌着のまま過ごしていたのだ。
ベッドに腰を掛け、シルビィの横に座ってマギンの話を聞こうとすると、彼女は暗い顔をしてヒジリの逞しい腿に頭を乗せてきた。
チャビン戦に関わる事はこれまであまり喋ろうとはしなかった彼女だが、ぽつりぽつりと話し出す。
怒りに身を染め復讐の鬼と化した自分は、狂気一歩手前、闇堕ち一歩手前だったと話し始め、マギンにした拷問の数々を告白した。
そして使った拷問器具の中に、相手の情報を無理やり引き出す特殊な魔法の針の事を詳しく話す。
マギンから引き出した情報には、ラーザ家の吸魔鬼に雇われていた彼女が、国の破滅を企んでいた事や、その後接触してきたチャビンに雇われて、間接的にヒジリ暗殺計画を遂行していた事。ここまではジュウゾから聞いていた話と同じだった。
新たな情報としては、彼女が殺した被害者の情報の中に、ナンベルの家族の名前があった事・・・。
ヒジリは、ナンベルが家族を殺された時に、どれほど嘆き悲しんだかを想像して胸が痛む。いつもはあんなにふざけている彼だが、その心の内側は、家族を守れなかった後悔が常に渦巻いているのではなかろうか。
そこで回想を止めて、ベッドの上に寝るマギンと思しき女をどうするか考えた。
「取り敢えず、ジュウゾ殿を呼ぶか。こんな直ぐに見つかるとは思っていないだろうから、彼も別の任務に向かっただろうな。来るのは明日になるだろう」
ヒジリは外に出ると口笛を吹いた。
ジュウゾが訓練した伝書鳩がヒジリの手のひらに乗る。脂でヌメッとした羽に、少し驚きながらも体を掴み、鳩の脚に赤い足輪をはめて飛ばす。マギンを見つけたという印だ。
「ジュウゾ殿も行ったり来たり大変だ。ウメボシが帰ってきたら、あの魔人族の周りにフォースフィールドを張るべきだな」
ヒジリが何から何までやっていることに驚いて、リツは落ちてくるメガネを人差し指で上げた。
「監視なら王自らがやらなくてもいいのではないでしょうか? そんなものは適当な誰かにやらせてはどうでしょう?」
「これに関してはメイジキラーである私が適任だと思うのだが。それにこの女は、変装の名人で、精霊使いで、殺人狂だ。魔法を無効化出来ない者が、少しでも油断をしていると容赦なく殺されるだろう。私はフランやイグナを絶対に死なせたくないのでね」
体裁にこだわらず、合理的な判断をするこの男に、リツは感心する。普通の王であれば、部下にこういった事をさせて、自分は紅茶など飲んで寛いでいるものだが。
幾ら予算のない貧乏王だとはいえ、率先して動くヒジリに、リツは好印象を持った。
(皇帝陛下もロロム様も興奮して、この男の事を話す理由が少し解ったかもしれませんわ。この王はきっと何でも解決してしまう・・・)
所見でヒジリ王を見下していた自分の心境の変化に、リツは少し苛立った。簡単な女過ぎると、心の何処かで別の自分がそう言ったからだ。
太い眉毛を隠す前髪をリツは何気なく気にしてから、帝国の制服である黒いロングコートのお尻を押さえて、椅子に座り、ヒジリ王がこの問題をどう解決するのかを見物させてもらうおうと、腕を組んだ。
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