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冬の空
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「わぁ! お友達がいっぱいだ!」
ルビにしてみれば昨日に何か怖いことがあって、一瞬目の前が暗くなったが、次の日には何事もなく目が覚めたような感覚なので、父親との対面はそこまで感動はない。
暫く父親と一緒にいたが飽きてしまい、下校中の生徒たちに誰彼構わず話しかけていた。
オークやオーガの生徒たちも、彼女がナンベル校長の娘だと知って驚く。
「校長ってこんな小さな子どもがいたんだな~。俺達の年齢で言えば四十路半ばくらいだろ? 高齢出産ってやつ? 奥さんどこだ?」
そう言ってキョロキョロしていると、タラップからリツに支えられて降りてくる坊主頭の女性が視界に入った。
「あれがそうなのかな?」
生徒たちは坊主頭の女性を見つつも、暫くルビを構っていたが、家に帰るからと言って去っていく。
ルビは仕方なく自分を呼ぶ父親や、黒い服を着たオーガたちと校舎の中へ入っていった。
「もう感謝は必要ない!」
ナンベルが感謝と喜びの表現として、さっきからずっと体に触ったり、頬にキスしたりするのでヒジリは笑いながらも道化師の顔を向こうへグイと押しやった。
「駄目ですよ! 感謝してもシ足りません!」
「だが、君の妻の遺体は無かったのだぞ。生き返らせる事が出来なかった。私でも悔いが残るのだ。なのに君が悔しがらないのはおかしい」
「そこまで小生は厚かましくないですヨ! ルビが戻ってきてくれただけでもイイーンです。それにヒジリ君は星のオーガなんだし、いつか妻も生き返らせてくれると信じてタップを鳴らし続けます」
そう言ってナンベルはいつもより煩く踊った。
「やはり君は厚かましいな。私もそこまで万能ではないのだがね。でもそうする事で、君の狂気が少しでも和らぐのであれば協力はする」
ヒジリがそう言うとナンベルは「アハァ!」と奇妙な声を上げて、また頬に感謝のキスをしだした。
見かねたイグナが狂喜の道化師を【捕縛】の魔法で縛り上げる。
「ヒジリに何回もキスをしていいのは、妻となる私だけ」
「そんなぁ~。じゃあ小生もヒー君と結婚します」
「駄目(ヒー君?)」
ヒジリに妙なあだ名をつけるナンベルに、イグナはムッとした。
(私だってヒジリにあだ名をつけて、仲良しアピールをしたいのに・・・)
「それにしても、彼女は誰なのだろうな」
背が高くスマートな体型が多い魔人族にしては、体に筋肉がついている。
「魔人族で戦士系をやっている方かな? 珍しいですネ」
ソファに座ってぼんやりする彼女は、まだ体力が回復していない。フランやカプリコンによる癒やしを一切拒み、ケーキを食べるルビをただじっと見ている。
「オウベル・・・」
彼女の記憶にあるのはそれだけなのか、ポツリとそう呟く。
他者にあまり気をかけないナンベルだったが、彼女の零した言葉をしっかりと拾っていた。
「オウベル・・・? 小生のおじいちゃんと同じ名前ですね」
そう言って厳しかった祖父をナンベルは思い出す。記憶の中の祖父は若い見た目のままだ。樹族同様、魔人族も死に際まで老化しない。
戦争に巻き込まれて死んだ両親の代わりに、双子の自分たちを育ててくれた祖父。質実剛健で曲がった事が大嫌いだった祖父は、何かにつけ卑怯な手ばかり使う性格のナンベルを何度も叱りつけていた。
(結局、小生のネジ曲がった性格は治らなかった)
祖父から拳骨を食らって、目の中に星を散らす自分を見て笑っていた近所の女の子を思い出す。
「そういえばハナはどうしていますかね・・・。彼女も魔人族なのに戦士の道を歩んでいった。とてつもない茨の道なのに・・・」
そういうナンベルも、元々は付魔師だったが今は暗殺者だ。
「ハナか。私の母親に似た名前だな」
頬にケーキのクリームがついているイグナの頬を、ハンカチで拭きながら、ヒジリはハナについて尋ねた。
「幼馴染かね?」
「ええ。ハナは魔力が魔人族の最低値しかなくてねぇ。腕力や体力だって、ドワーフやオーガに比べたら遥かに劣るのに、それでも戦士の道を選んでしまいました。各国で傭兵として転戦しては、戦地から手紙を送ってきてくれましてね。しかし世界は彼女のような中途半端な者が生きていくには厳しいと思います。今頃、どこかで野垂れ死んでいるやもしれませんね」
中途半端な者、という言葉がヒジリの心に突き刺さる。それは地球で器用貧乏として扱われ、笑われていた自分の事でもある。
「野垂れ死んでいるとは穏やかじゃないな。幼馴染なんだろう? 生きている事を願ってやらんのかね?」
「小生だってそう思いたいですがね。彼女は暗黒大陸へ傭兵として渡っています。悪魔がひしめく暗黒大陸へ渡る前に死を覚悟したのか、自分の子供をこの孤児院へ預けに来ました。小生の兄との間の子です」
「ほう。君の兄はどうしたね? 何故彼女は子供をナンベル孤児院に預けたのだ?」
道化師は自分に【捕縛】をかけたまま、ケーキに夢中になっているイグナに顔を向けた。
「いい加減、捕縛を解いてくださいよ。イグナちゃん」
魔法を解いてもらったナンベルは、娘の隣に座る。
ケーキのおかわりを欲しそうにするルビの皿に、自分のケーキを置いた。
目を輝かせてお礼を言い、美味しそうにケーキを食べる娘を見て、「娘はここにいる!」と実感し、少し涙ぐみながら彼女の頭を撫でた。
「ほぼ私生児なんですよ。兄は自分に子供がいる事なんて知りません」
「教えてやらないのか?」
「ハナに固く口止めされていますからネ。それどころか、帰ってくるまで子供の名前はつけないと言って去ったものですから、小生は未だに兄の子を、名無しと呼んでおります」
生きて帰ってくるという約束なのだろうが、子供にしてはたまったものではないなとヒジリは思う。もし母親が死んでいたら一生名無しのままだ。他人が名前をつけてくれたところで、根っこではずっと名無しのままなのだ。
「本当に名無しと呼んでいるのかね?」
「いいえ、ちょっとシャレオツに、ナナァーシィと呼んでおりますヨ」
「大して変わらんな・・・。案外、そこの魔人族の女が、君の幼馴染のハナかもしれんぞ」
ナンベルは、ソファに座る女を下から舐めるように見つめた。
「ノー! 小生は! 若かりし頃に! 兄のホクベルと彼女を奪い合うほどでしたから、ハナの顔を忘れることはありませんヨ。それにハナの性格は肝っ玉母ちゃんタイプで覇気があります。そこの抜け殻みたいな女ではありませーん」
美人なのに肝っ玉母ちゃん・・・。自分の好みではないな、とヒジリはどうでもいい事を考えて、謎の魔人族の女性を見つめた。
確かに器量は良い方ではない。それに不自然な感じがする。何がどう不自然なのかは判らないが、何となく出会った頃のイグナのような生気の無さを感じる。
「ウメボシ、彼女をスキャンしてみたのか?」
ウメボシは瞳を虹色にさせて困惑している。
「ええ、彼女を見た瞬間にスキャニングしました。しかし、マナを溜め込んだマジックアイテム同様、あまりデータは得られませんでした」
「魔人族はマナ依存が高いからか? しかし、ミミやナンベルを見る事は出来ていただろう?」
「はい、スキャニングできていました。どういった条件があるのかわかりませんが、時々、セイバー様やこの方のように、見通す事が出来ない方がおります。原因は不明です」
「そうか。では彼女が何かを思い出すまで、ここで預かってくれないかね? ナンちゃん」
突然、あだ名で自分を呼ぶヒジリに、ナンベルは怒る。
「いきなりあだ名で呼ばないでください! どうかしています、ヒー君! 急激に距離を詰めてくるだなんて、馴れ馴れしいにも程がありますヨ!」
「なに? 君だって私のことをヒー君と呼んでいるだろう。君はよくて、私は駄目なのか?」
「小生はいいんです! それに小生はそんな安い女じゃありませんから! ツーン!」
ウメボシの真似をするナンベルに、ヒジリは苦笑いして「もう滅茶苦茶だな」と肩を竦めた。
「ウメボシの真似、上手い」
イグナがボソッとナンベルを褒める。
「ほんとねぇ。流石は道化師ねぇ」
それまで静かだったフランもクスクスと笑いだした。
ウメボシはむぅと拗ねて向こうを向いて不貞腐れる。
そんなウメボシが可愛く思え、抱えて撫でるとヒジリは立ち上がった。
「さぁ美味しい紅茶も飲んだし、城に帰るか。では彼女の事を頼んだぞ、ナンベル」
ヒジリが急に王としての立場で物を言うので、ナンベルは丁寧に一礼してそれに応える。
「御意」
孤児院の門まで見送りに来たナンベル達に手を振り、スレイプニル車に向かう数歩の間、ヒジリは何気なく空を見上げた。
日没後のオレンジや青、紫色の混じった薄明かりが幻想的だったが、それらを綺麗に映す冬の空気が、寒さを一層駆り立てている。
次の春が来ればこの星に来てから一年が経つ事になるな、とふとヒジリは思った。
この星の謎の幾つかは解明出来たが、未だに謎だらけだ。
魔法の存在も、サカモト博士が歩んだ軌跡も、星を包む遮蔽装置の場所も、判らない事ばかりだが、地球外知的生命体がいるこの惑星ヒジリは、自分にとって生涯の住処とも言える。
この星で研究した結果内容を送るだけで、地球は一々大騒ぎになるのだ。科学者としてこれほど嬉しいことはない。
判らない事だらけの不安よりも、解明していく喜びに心が打ち震える。しかも気がつけば一国の王。
街では、貧乏王やお人好し王と揶揄される事もあるが、皆が自分を頼ってくれて、そこから絆が生まれていく。地球では味わえなかった幸せがここにあるのだ。
そう思うと嬉しくなり、ヒジリはイグナとフランをいきなり抱えると、驚く二人の悲鳴を耳元で聞きながら、スレイプニル車に乗り込んだ。
ルビにしてみれば昨日に何か怖いことがあって、一瞬目の前が暗くなったが、次の日には何事もなく目が覚めたような感覚なので、父親との対面はそこまで感動はない。
暫く父親と一緒にいたが飽きてしまい、下校中の生徒たちに誰彼構わず話しかけていた。
オークやオーガの生徒たちも、彼女がナンベル校長の娘だと知って驚く。
「校長ってこんな小さな子どもがいたんだな~。俺達の年齢で言えば四十路半ばくらいだろ? 高齢出産ってやつ? 奥さんどこだ?」
そう言ってキョロキョロしていると、タラップからリツに支えられて降りてくる坊主頭の女性が視界に入った。
「あれがそうなのかな?」
生徒たちは坊主頭の女性を見つつも、暫くルビを構っていたが、家に帰るからと言って去っていく。
ルビは仕方なく自分を呼ぶ父親や、黒い服を着たオーガたちと校舎の中へ入っていった。
「もう感謝は必要ない!」
ナンベルが感謝と喜びの表現として、さっきからずっと体に触ったり、頬にキスしたりするのでヒジリは笑いながらも道化師の顔を向こうへグイと押しやった。
「駄目ですよ! 感謝してもシ足りません!」
「だが、君の妻の遺体は無かったのだぞ。生き返らせる事が出来なかった。私でも悔いが残るのだ。なのに君が悔しがらないのはおかしい」
「そこまで小生は厚かましくないですヨ! ルビが戻ってきてくれただけでもイイーンです。それにヒジリ君は星のオーガなんだし、いつか妻も生き返らせてくれると信じてタップを鳴らし続けます」
そう言ってナンベルはいつもより煩く踊った。
「やはり君は厚かましいな。私もそこまで万能ではないのだがね。でもそうする事で、君の狂気が少しでも和らぐのであれば協力はする」
ヒジリがそう言うとナンベルは「アハァ!」と奇妙な声を上げて、また頬に感謝のキスをしだした。
見かねたイグナが狂喜の道化師を【捕縛】の魔法で縛り上げる。
「ヒジリに何回もキスをしていいのは、妻となる私だけ」
「そんなぁ~。じゃあ小生もヒー君と結婚します」
「駄目(ヒー君?)」
ヒジリに妙なあだ名をつけるナンベルに、イグナはムッとした。
(私だってヒジリにあだ名をつけて、仲良しアピールをしたいのに・・・)
「それにしても、彼女は誰なのだろうな」
背が高くスマートな体型が多い魔人族にしては、体に筋肉がついている。
「魔人族で戦士系をやっている方かな? 珍しいですネ」
ソファに座ってぼんやりする彼女は、まだ体力が回復していない。フランやカプリコンによる癒やしを一切拒み、ケーキを食べるルビをただじっと見ている。
「オウベル・・・」
彼女の記憶にあるのはそれだけなのか、ポツリとそう呟く。
他者にあまり気をかけないナンベルだったが、彼女の零した言葉をしっかりと拾っていた。
「オウベル・・・? 小生のおじいちゃんと同じ名前ですね」
そう言って厳しかった祖父をナンベルは思い出す。記憶の中の祖父は若い見た目のままだ。樹族同様、魔人族も死に際まで老化しない。
戦争に巻き込まれて死んだ両親の代わりに、双子の自分たちを育ててくれた祖父。質実剛健で曲がった事が大嫌いだった祖父は、何かにつけ卑怯な手ばかり使う性格のナンベルを何度も叱りつけていた。
(結局、小生のネジ曲がった性格は治らなかった)
祖父から拳骨を食らって、目の中に星を散らす自分を見て笑っていた近所の女の子を思い出す。
「そういえばハナはどうしていますかね・・・。彼女も魔人族なのに戦士の道を歩んでいった。とてつもない茨の道なのに・・・」
そういうナンベルも、元々は付魔師だったが今は暗殺者だ。
「ハナか。私の母親に似た名前だな」
頬にケーキのクリームがついているイグナの頬を、ハンカチで拭きながら、ヒジリはハナについて尋ねた。
「幼馴染かね?」
「ええ。ハナは魔力が魔人族の最低値しかなくてねぇ。腕力や体力だって、ドワーフやオーガに比べたら遥かに劣るのに、それでも戦士の道を選んでしまいました。各国で傭兵として転戦しては、戦地から手紙を送ってきてくれましてね。しかし世界は彼女のような中途半端な者が生きていくには厳しいと思います。今頃、どこかで野垂れ死んでいるやもしれませんね」
中途半端な者、という言葉がヒジリの心に突き刺さる。それは地球で器用貧乏として扱われ、笑われていた自分の事でもある。
「野垂れ死んでいるとは穏やかじゃないな。幼馴染なんだろう? 生きている事を願ってやらんのかね?」
「小生だってそう思いたいですがね。彼女は暗黒大陸へ傭兵として渡っています。悪魔がひしめく暗黒大陸へ渡る前に死を覚悟したのか、自分の子供をこの孤児院へ預けに来ました。小生の兄との間の子です」
「ほう。君の兄はどうしたね? 何故彼女は子供をナンベル孤児院に預けたのだ?」
道化師は自分に【捕縛】をかけたまま、ケーキに夢中になっているイグナに顔を向けた。
「いい加減、捕縛を解いてくださいよ。イグナちゃん」
魔法を解いてもらったナンベルは、娘の隣に座る。
ケーキのおかわりを欲しそうにするルビの皿に、自分のケーキを置いた。
目を輝かせてお礼を言い、美味しそうにケーキを食べる娘を見て、「娘はここにいる!」と実感し、少し涙ぐみながら彼女の頭を撫でた。
「ほぼ私生児なんですよ。兄は自分に子供がいる事なんて知りません」
「教えてやらないのか?」
「ハナに固く口止めされていますからネ。それどころか、帰ってくるまで子供の名前はつけないと言って去ったものですから、小生は未だに兄の子を、名無しと呼んでおります」
生きて帰ってくるという約束なのだろうが、子供にしてはたまったものではないなとヒジリは思う。もし母親が死んでいたら一生名無しのままだ。他人が名前をつけてくれたところで、根っこではずっと名無しのままなのだ。
「本当に名無しと呼んでいるのかね?」
「いいえ、ちょっとシャレオツに、ナナァーシィと呼んでおりますヨ」
「大して変わらんな・・・。案外、そこの魔人族の女が、君の幼馴染のハナかもしれんぞ」
ナンベルは、ソファに座る女を下から舐めるように見つめた。
「ノー! 小生は! 若かりし頃に! 兄のホクベルと彼女を奪い合うほどでしたから、ハナの顔を忘れることはありませんヨ。それにハナの性格は肝っ玉母ちゃんタイプで覇気があります。そこの抜け殻みたいな女ではありませーん」
美人なのに肝っ玉母ちゃん・・・。自分の好みではないな、とヒジリはどうでもいい事を考えて、謎の魔人族の女性を見つめた。
確かに器量は良い方ではない。それに不自然な感じがする。何がどう不自然なのかは判らないが、何となく出会った頃のイグナのような生気の無さを感じる。
「ウメボシ、彼女をスキャンしてみたのか?」
ウメボシは瞳を虹色にさせて困惑している。
「ええ、彼女を見た瞬間にスキャニングしました。しかし、マナを溜め込んだマジックアイテム同様、あまりデータは得られませんでした」
「魔人族はマナ依存が高いからか? しかし、ミミやナンベルを見る事は出来ていただろう?」
「はい、スキャニングできていました。どういった条件があるのかわかりませんが、時々、セイバー様やこの方のように、見通す事が出来ない方がおります。原因は不明です」
「そうか。では彼女が何かを思い出すまで、ここで預かってくれないかね? ナンちゃん」
突然、あだ名で自分を呼ぶヒジリに、ナンベルは怒る。
「いきなりあだ名で呼ばないでください! どうかしています、ヒー君! 急激に距離を詰めてくるだなんて、馴れ馴れしいにも程がありますヨ!」
「なに? 君だって私のことをヒー君と呼んでいるだろう。君はよくて、私は駄目なのか?」
「小生はいいんです! それに小生はそんな安い女じゃありませんから! ツーン!」
ウメボシの真似をするナンベルに、ヒジリは苦笑いして「もう滅茶苦茶だな」と肩を竦めた。
「ウメボシの真似、上手い」
イグナがボソッとナンベルを褒める。
「ほんとねぇ。流石は道化師ねぇ」
それまで静かだったフランもクスクスと笑いだした。
ウメボシはむぅと拗ねて向こうを向いて不貞腐れる。
そんなウメボシが可愛く思え、抱えて撫でるとヒジリは立ち上がった。
「さぁ美味しい紅茶も飲んだし、城に帰るか。では彼女の事を頼んだぞ、ナンベル」
ヒジリが急に王としての立場で物を言うので、ナンベルは丁寧に一礼してそれに応える。
「御意」
孤児院の門まで見送りに来たナンベル達に手を振り、スレイプニル車に向かう数歩の間、ヒジリは何気なく空を見上げた。
日没後のオレンジや青、紫色の混じった薄明かりが幻想的だったが、それらを綺麗に映す冬の空気が、寒さを一層駆り立てている。
次の春が来ればこの星に来てから一年が経つ事になるな、とふとヒジリは思った。
この星の謎の幾つかは解明出来たが、未だに謎だらけだ。
魔法の存在も、サカモト博士が歩んだ軌跡も、星を包む遮蔽装置の場所も、判らない事ばかりだが、地球外知的生命体がいるこの惑星ヒジリは、自分にとって生涯の住処とも言える。
この星で研究した結果内容を送るだけで、地球は一々大騒ぎになるのだ。科学者としてこれほど嬉しいことはない。
判らない事だらけの不安よりも、解明していく喜びに心が打ち震える。しかも気がつけば一国の王。
街では、貧乏王やお人好し王と揶揄される事もあるが、皆が自分を頼ってくれて、そこから絆が生まれていく。地球では味わえなかった幸せがここにあるのだ。
そう思うと嬉しくなり、ヒジリはイグナとフランをいきなり抱えると、驚く二人の悲鳴を耳元で聞きながら、スレイプニル車に乗り込んだ。
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「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
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