112 / 373
ダンゴ
しおりを挟む
格納庫入り口でウメボシは「ウフッ」と短く笑った。
「今時、質問に答える形式のセキュリティドアなんて・・・」
「質問はなんだ?」
ヒジリはウメボシに顔を寄せて、小さな液晶モニターに映る質問を見た。
「ニンニキに続く言葉を言え? ニンニキとはなんだ?」
「あら、ドリフターズの最遊記を知らないのですか?マスター」
「知らないな」
「その人形劇の中で、彼らが歌う歌の中に出てくるフレーズですよ」
「そのフレーズの意味は?」
「意味はないと思います。パスワードはニキニキ!」
ウメボシがそう言うと二十メートルはある格納庫の扉が、ニンニキニキニキ、ニンニキニキニキと歌いながら開いた。
「これ合言葉の意味、あるの? 答えを歌っちゃってるじゃん」
タスネが呆れて肩を竦めていると、生意気だと言わんばかりにイグナとフランが無言で背中を小突いてきた。
(まだアタシがヒジリにキスしてもらった事を怒ってるの? とばっちりもいいとこだよ。怒るなら、ヒジリに怒ればいいのに)
タスネが不満そうな顔で頬にほうれい線を作り、妹たちを小突き返していると、とばっちりの原因が感嘆の声を上げた。
「ほお・・・」
ヒジリは開いた扉の奥にハンガーに収まっている物を見て驚く。十八メートルはあるだろうか? ムロの鉄傀儡ビコノカミと違って無駄に尖ってはいない。実にシンプルで丸っこい。
「ゲッターロボとマジンガーZを、まぜこぜにしたようなロボットだな・・・。博士の趣味か?」
「無骨ですね。頑丈さを第一に作られています」
「ここにあるということは、完成が間に合わなかったのかもな」
二人がああだこうだとロボットについて話をしていると、奥からキャタピラで動くロボットが現れた。機械的で不自然な中年女性のような声で「まぁまぁまぁ」と驚いている。
レトロフューチャーを思わせる団子のようなロボットは、キャタピラをキュロキュロと鳴らして皆に話しかけてくる。フレキシブルアームに三本の指がついており、彼女はその両手を広げて歓迎のポーズをとった。
「これはこれは、ご主人様。お戻りになられましたか。ワタクシの感知できるセンサー範囲外に出ていかれてから九千年と三ヶ月と六日が経ちました。ギギッ! ガガガ。我らが創造主アヌンナキを滅亡に追いやった、あの忌々しいクソッタレは、見事スクラップに出来たでしょうか?」
性能の良くなさそうなロボットを見てヒジリは憐れむ。九千年も主を待ち続けた末に壊れてしまい、この自分をサカモト博士だと認識しているのだ。
「おや? パワードスーツを新調なされたのですか? 随分と高性能なものを御召しで」
勝手に主をスキャニングしようとしたロボットにウメボシが怒る。
「無礼ですよ! マスターは貴方の主ではありません。勝手に体を舐め回さないでください!」
「ハハッ! これは失礼しました、ウィスプ様。貴方様がおられました」
「私はウメボシですよ、ポンコツさん」
「はて? ワタクシのお名前をお忘れですか? ワタクシはダンゴですよ、ダァ~ンゴッ」
「知りません。博士のウィスプと私を混同しないで下さい」
「ウィスプ様、一度宇宙船に戻って検査を受けてみてはいかがでしょうか? あっ! 失礼しました。宇宙船はあの憎き樹族たちに破壊されたのでしたね」
「寧ろ、貴方が検査を受けるべきですね。カプリコン様、彼女をそちらに転送して直せますか?」
「残念ながら彼女はサカモト博士の作った完全オリジナルです。持ち主の許可無く、人工知能の搭載されたロボットを直す事はできません」
渋い紳士的な声が、ウメボシとヒジリのみに話しかける。
先程まで邪魔をしていた遮蔽フィールドの雲は流れていったのか、カプリコンの声が、はっきりと聞き取れる。
「そうですか・・・」
ウメボシの目にもダンゴに対する憐れみが浮かぶ。しかしそんな思いに気づかないダンゴは明るい声で三本指をカチカチと鳴らした。
「さぁ、博士! お外は寒かったでしょう? 今暖かい食事をお出ししますので、休憩室で待っていてください」
「デュプリケーターはどうしたね?」
「へ? あれは複製出来る数に制限がありますから、この施設には設置出来なかったと博士自身が仰っていたじゃありませんか。さぁ、休憩室へ。すぐに調理室で食事を作りますから。ギガガッ」
ダンゴは嬉しそうに調理室へキャタピラを鳴らして走っていく。その後姿が余計にヒジリやウメボシの心を切なくした。
何千年と主を待ち続けた彼女は、最早人物認識回路が正しく作動していない。恐らく施設内の道具を使い自分にある権限の範囲内でメンテナスをしてきたのだろう。権限の少ないロボットに出来るメンテナンスなどたかが知れている。
徐々に劣化していく自分を、壊れていると気づいていないだけマシなのかもしれない。
「二人共どうしたの?」
他人の感情に敏感なイグナはどこか悲しい顔をするヒジリとウメボシに聞いた。特にヒジリの感情が心の底から揺れ動く姿は出会った当初、あまり見た事がなかったように思う。
「うむ・・・。彼女は正気を失っており、私をサカモト神だと思いこんでいるのだ。何千年も主を待っている間に、彼女は壊れてしまった」
「じゃあ、直してあげたらいいじゃん。あれも鉄傀儡の仲間なんでしょ? いつものようにババーっと光らせてさ」
タスネは神と同族のヒジリなら簡単な事だろうと軽く言う。
「我々にも色々あるのだよ、主殿。彼女を直すことは出来ない。我々の世界にも法は存在するし制限も多い」
「マスターはいつも法に引っ掛かるギリギリの事ばかりするので、お父様が監視委員に嫌味を言われていますけどね」
ゴホンと咳をして、ヒジリは背の低いテーブルがあるソファに座った。ソファはダンゴによって常に綺麗に保たれていたのか、埃一つ舞うことはない。
「なぁ、旦那様はさっきから何の話してんだ? あのヘンテコは何だ?」
ヘカティニスは、リツが座ろうとしていたヒジリの左側の席に強引に割り込んで座り、ダンゴの事を聞いた。
リツは呆れて反対側に座ろうとしたが、フランが座っており「もうっ!」と小さく地団駄を踏んで向かいのソファに座った。愛しの人は神であり複数の恋人がいる。一夫一妻制の帝国ではあり得ないが、ここは外国だ。それに従うしかない。・・・本当は彼を独り占めしたいのに。
ヒジリの膝の上にはイグナが座っており、彼女は無表情ながら雰囲気的に、ドヤ顔をしているように見える。
突然誰かがリツの肩を叩いた。ウメボシだ。
諦め顔をした彼女は、溜息をつきながら顔を左右に振っている。
ウメボシは、質量のあるホログラムの手を消すとリツを慰めた。
「諦めてくださいまし、リツ様。マスターは生まれつきのスケコマシです。自分を愛してくれる人を無条件で愛し返そうとします。彼は人を愛する事の本当の意味を知りませんから、今は模索しているところなのでしょう。ですから許してやってください。いずれ皆様への愛も本物となるに違いありません(まぁその一番の恩恵を受けるのは、きっとウメボシでしょうけど。うふふ)」
自分を嫌っていたと思っていたウメボシが同情してくれている。リツは嫉妬に怒らせていた肩の力を抜いて寂しそうに微笑んだ。
「神の寵愛を受けられるだけでも、私は感謝すべきかもしれませんね・・・」
「あら・・・。リツ様は中々控えめな方でしたのですね。少し誤解をしていたかもしれません。帝国鉄騎士団のトップですし、修羅地獄のような中、ライバルをなぎ倒して、のし上がってきた方かと思っておりましたが」
「それは否定しませんわ。綺麗事だけでは帝国では生きていけませんもの。でも好きな人の前では、本当の自分でありたいのです」
「まぁ・・・」
ウメボシは乙女のような事を言うリツを見た後、視線を主に移す。主はヘカティニスにダンゴが壊れている事を簡単な言葉で説明していた。
(本当に人を愛する事に気がついた時、我が主様は自分が抱える沢山の愛をどう思うのでしょうか? あまりの重さに押しつぶされたり・・・、はしませんよね。弱点となる子供の死や、身近な者の死に対して以外は、結構図太い神経の持ち主ですし)
「お待たせしました皆様! 食事をお持ちしました!」
ダンゴが沢山の料理をテーブルの上に置く。
一同は期待を込めた目で皿の上の料理を見てから、顔を曇らせた。
「なにこれ。真っ黒・・・」
数千年間保存していた食料は腐敗を通り越して、真っ黒な何かになっており、油で炒めようがお湯で煮ようがどうしようもない汚物と化していた。
「さぁ! どうぞ召し上がれ!」
う、とタスネが呻いて助けを求めるようにヒジリとウメボシを見る。しかしヒジリは目を閉じて首を振るばかりだ。
(まさか、黙って食えって言ってるの? 本気?)
タスネの考えと違って、ヒジリは単に食べ物に落胆して首を振っているだけであった。
が、タスネにはヒジリの身振りが「折角ダンゴが作った食事に対して嫌そうな顔をするとは何事ですか、さぁお食べなさい、食べるのです」といったふうに見えたのだ。
可哀想なロボットが一生懸命作った料理だ。食ってやるか! とタスネは漢を見せた。
「ええ~い! ままよ!」
タスネは皿から黒い物体をスプーンで掬う。ニチャーっとした汁が滴り落ちる。それを口に運んで奥歯で勢い良く噛んで、味わう事もせずに飲み込んだ。
「なん・・・だと?! あ、主殿?! なぜ食べた!」
これは何事にも動じないヒジリも驚く。
主の顔がどんどん青くなっていき、体がブルブルと震えだした。そして胃の奥から新たな生命が生まれてくるかのような勢いで喉が膨らむ。
「オゲェ~~~~!!」
虹色の吐瀉物がヒジリに向かって飛んできた。漫画的な表現でもなんでもなく、本当に虹色の吐瀉物だった。
危機を感じたヒジリの時間が、ゆっくりと進む。
「ウ~メ~ボ~シ! フォ~~~スシ~~~ルドを~~! 展開しろ~~~ぉ!」
ウメボシはあまりに見事な虹色の吐瀉物に驚いて、フォースシールドを張るの忘れてしまっていた。
刹那の時間でタスネの吐瀉物を回避する選択をしたヒジリの時間が、動き出す。
「緊急パンプアップ!」
ヒジリの腕と太ももの筋肉が凄まじく膨れ上がり、座ったままの姿勢でちょんと地面を蹴ると、天井近くまで勢い良く跳ね上がった。両腕にヘカティニスとフランを抱きかかえ、膝にはイグナが乗ったままだ。
ピクピクして失神するタスネを、ウメボシは直ぐに健康状態時に戻す。
「なぜそんなものを食べたのかね? 主殿! 自殺願望があるのか?」
滅多に怒らないヒジリだが、迂闊な事をした主をそう叱る。
瞬時に意識を取り戻し、口を拭うタスネはヒジリに逆ギレした。
「馬鹿ヒジリが目で訴えていたでしょ! 食えって!」
「なに? 私はそんなサイン、これぽっちも送ってはいないが・・・」
確かにそうだ。勝手に自分がそう思って食べてしまったのだと、タスネはやり場のない怒りをダンゴにぶつけた。
「大体なんでこんな酷い料理を出すのよ!」
タスネがボコンとダンゴの頭を叩いた。
「ホゲッ」
グラグラとダンゴの頭が動いて、暫く彼女は静止する。
それからジー・・・ガチャン、と何かが噛み合うような音がしたか。すると彼女の丸い目が一斉に皆をスキャンしてサイレンを鳴らしだした。
「不法侵入者を確認、排除行動に移ります!」
「今時、質問に答える形式のセキュリティドアなんて・・・」
「質問はなんだ?」
ヒジリはウメボシに顔を寄せて、小さな液晶モニターに映る質問を見た。
「ニンニキに続く言葉を言え? ニンニキとはなんだ?」
「あら、ドリフターズの最遊記を知らないのですか?マスター」
「知らないな」
「その人形劇の中で、彼らが歌う歌の中に出てくるフレーズですよ」
「そのフレーズの意味は?」
「意味はないと思います。パスワードはニキニキ!」
ウメボシがそう言うと二十メートルはある格納庫の扉が、ニンニキニキニキ、ニンニキニキニキと歌いながら開いた。
「これ合言葉の意味、あるの? 答えを歌っちゃってるじゃん」
タスネが呆れて肩を竦めていると、生意気だと言わんばかりにイグナとフランが無言で背中を小突いてきた。
(まだアタシがヒジリにキスしてもらった事を怒ってるの? とばっちりもいいとこだよ。怒るなら、ヒジリに怒ればいいのに)
タスネが不満そうな顔で頬にほうれい線を作り、妹たちを小突き返していると、とばっちりの原因が感嘆の声を上げた。
「ほお・・・」
ヒジリは開いた扉の奥にハンガーに収まっている物を見て驚く。十八メートルはあるだろうか? ムロの鉄傀儡ビコノカミと違って無駄に尖ってはいない。実にシンプルで丸っこい。
「ゲッターロボとマジンガーZを、まぜこぜにしたようなロボットだな・・・。博士の趣味か?」
「無骨ですね。頑丈さを第一に作られています」
「ここにあるということは、完成が間に合わなかったのかもな」
二人がああだこうだとロボットについて話をしていると、奥からキャタピラで動くロボットが現れた。機械的で不自然な中年女性のような声で「まぁまぁまぁ」と驚いている。
レトロフューチャーを思わせる団子のようなロボットは、キャタピラをキュロキュロと鳴らして皆に話しかけてくる。フレキシブルアームに三本の指がついており、彼女はその両手を広げて歓迎のポーズをとった。
「これはこれは、ご主人様。お戻りになられましたか。ワタクシの感知できるセンサー範囲外に出ていかれてから九千年と三ヶ月と六日が経ちました。ギギッ! ガガガ。我らが創造主アヌンナキを滅亡に追いやった、あの忌々しいクソッタレは、見事スクラップに出来たでしょうか?」
性能の良くなさそうなロボットを見てヒジリは憐れむ。九千年も主を待ち続けた末に壊れてしまい、この自分をサカモト博士だと認識しているのだ。
「おや? パワードスーツを新調なされたのですか? 随分と高性能なものを御召しで」
勝手に主をスキャニングしようとしたロボットにウメボシが怒る。
「無礼ですよ! マスターは貴方の主ではありません。勝手に体を舐め回さないでください!」
「ハハッ! これは失礼しました、ウィスプ様。貴方様がおられました」
「私はウメボシですよ、ポンコツさん」
「はて? ワタクシのお名前をお忘れですか? ワタクシはダンゴですよ、ダァ~ンゴッ」
「知りません。博士のウィスプと私を混同しないで下さい」
「ウィスプ様、一度宇宙船に戻って検査を受けてみてはいかがでしょうか? あっ! 失礼しました。宇宙船はあの憎き樹族たちに破壊されたのでしたね」
「寧ろ、貴方が検査を受けるべきですね。カプリコン様、彼女をそちらに転送して直せますか?」
「残念ながら彼女はサカモト博士の作った完全オリジナルです。持ち主の許可無く、人工知能の搭載されたロボットを直す事はできません」
渋い紳士的な声が、ウメボシとヒジリのみに話しかける。
先程まで邪魔をしていた遮蔽フィールドの雲は流れていったのか、カプリコンの声が、はっきりと聞き取れる。
「そうですか・・・」
ウメボシの目にもダンゴに対する憐れみが浮かぶ。しかしそんな思いに気づかないダンゴは明るい声で三本指をカチカチと鳴らした。
「さぁ、博士! お外は寒かったでしょう? 今暖かい食事をお出ししますので、休憩室で待っていてください」
「デュプリケーターはどうしたね?」
「へ? あれは複製出来る数に制限がありますから、この施設には設置出来なかったと博士自身が仰っていたじゃありませんか。さぁ、休憩室へ。すぐに調理室で食事を作りますから。ギガガッ」
ダンゴは嬉しそうに調理室へキャタピラを鳴らして走っていく。その後姿が余計にヒジリやウメボシの心を切なくした。
何千年と主を待ち続けた彼女は、最早人物認識回路が正しく作動していない。恐らく施設内の道具を使い自分にある権限の範囲内でメンテナスをしてきたのだろう。権限の少ないロボットに出来るメンテナンスなどたかが知れている。
徐々に劣化していく自分を、壊れていると気づいていないだけマシなのかもしれない。
「二人共どうしたの?」
他人の感情に敏感なイグナはどこか悲しい顔をするヒジリとウメボシに聞いた。特にヒジリの感情が心の底から揺れ動く姿は出会った当初、あまり見た事がなかったように思う。
「うむ・・・。彼女は正気を失っており、私をサカモト神だと思いこんでいるのだ。何千年も主を待っている間に、彼女は壊れてしまった」
「じゃあ、直してあげたらいいじゃん。あれも鉄傀儡の仲間なんでしょ? いつものようにババーっと光らせてさ」
タスネは神と同族のヒジリなら簡単な事だろうと軽く言う。
「我々にも色々あるのだよ、主殿。彼女を直すことは出来ない。我々の世界にも法は存在するし制限も多い」
「マスターはいつも法に引っ掛かるギリギリの事ばかりするので、お父様が監視委員に嫌味を言われていますけどね」
ゴホンと咳をして、ヒジリは背の低いテーブルがあるソファに座った。ソファはダンゴによって常に綺麗に保たれていたのか、埃一つ舞うことはない。
「なぁ、旦那様はさっきから何の話してんだ? あのヘンテコは何だ?」
ヘカティニスは、リツが座ろうとしていたヒジリの左側の席に強引に割り込んで座り、ダンゴの事を聞いた。
リツは呆れて反対側に座ろうとしたが、フランが座っており「もうっ!」と小さく地団駄を踏んで向かいのソファに座った。愛しの人は神であり複数の恋人がいる。一夫一妻制の帝国ではあり得ないが、ここは外国だ。それに従うしかない。・・・本当は彼を独り占めしたいのに。
ヒジリの膝の上にはイグナが座っており、彼女は無表情ながら雰囲気的に、ドヤ顔をしているように見える。
突然誰かがリツの肩を叩いた。ウメボシだ。
諦め顔をした彼女は、溜息をつきながら顔を左右に振っている。
ウメボシは、質量のあるホログラムの手を消すとリツを慰めた。
「諦めてくださいまし、リツ様。マスターは生まれつきのスケコマシです。自分を愛してくれる人を無条件で愛し返そうとします。彼は人を愛する事の本当の意味を知りませんから、今は模索しているところなのでしょう。ですから許してやってください。いずれ皆様への愛も本物となるに違いありません(まぁその一番の恩恵を受けるのは、きっとウメボシでしょうけど。うふふ)」
自分を嫌っていたと思っていたウメボシが同情してくれている。リツは嫉妬に怒らせていた肩の力を抜いて寂しそうに微笑んだ。
「神の寵愛を受けられるだけでも、私は感謝すべきかもしれませんね・・・」
「あら・・・。リツ様は中々控えめな方でしたのですね。少し誤解をしていたかもしれません。帝国鉄騎士団のトップですし、修羅地獄のような中、ライバルをなぎ倒して、のし上がってきた方かと思っておりましたが」
「それは否定しませんわ。綺麗事だけでは帝国では生きていけませんもの。でも好きな人の前では、本当の自分でありたいのです」
「まぁ・・・」
ウメボシは乙女のような事を言うリツを見た後、視線を主に移す。主はヘカティニスにダンゴが壊れている事を簡単な言葉で説明していた。
(本当に人を愛する事に気がついた時、我が主様は自分が抱える沢山の愛をどう思うのでしょうか? あまりの重さに押しつぶされたり・・・、はしませんよね。弱点となる子供の死や、身近な者の死に対して以外は、結構図太い神経の持ち主ですし)
「お待たせしました皆様! 食事をお持ちしました!」
ダンゴが沢山の料理をテーブルの上に置く。
一同は期待を込めた目で皿の上の料理を見てから、顔を曇らせた。
「なにこれ。真っ黒・・・」
数千年間保存していた食料は腐敗を通り越して、真っ黒な何かになっており、油で炒めようがお湯で煮ようがどうしようもない汚物と化していた。
「さぁ! どうぞ召し上がれ!」
う、とタスネが呻いて助けを求めるようにヒジリとウメボシを見る。しかしヒジリは目を閉じて首を振るばかりだ。
(まさか、黙って食えって言ってるの? 本気?)
タスネの考えと違って、ヒジリは単に食べ物に落胆して首を振っているだけであった。
が、タスネにはヒジリの身振りが「折角ダンゴが作った食事に対して嫌そうな顔をするとは何事ですか、さぁお食べなさい、食べるのです」といったふうに見えたのだ。
可哀想なロボットが一生懸命作った料理だ。食ってやるか! とタスネは漢を見せた。
「ええ~い! ままよ!」
タスネは皿から黒い物体をスプーンで掬う。ニチャーっとした汁が滴り落ちる。それを口に運んで奥歯で勢い良く噛んで、味わう事もせずに飲み込んだ。
「なん・・・だと?! あ、主殿?! なぜ食べた!」
これは何事にも動じないヒジリも驚く。
主の顔がどんどん青くなっていき、体がブルブルと震えだした。そして胃の奥から新たな生命が生まれてくるかのような勢いで喉が膨らむ。
「オゲェ~~~~!!」
虹色の吐瀉物がヒジリに向かって飛んできた。漫画的な表現でもなんでもなく、本当に虹色の吐瀉物だった。
危機を感じたヒジリの時間が、ゆっくりと進む。
「ウ~メ~ボ~シ! フォ~~~スシ~~~ルドを~~! 展開しろ~~~ぉ!」
ウメボシはあまりに見事な虹色の吐瀉物に驚いて、フォースシールドを張るの忘れてしまっていた。
刹那の時間でタスネの吐瀉物を回避する選択をしたヒジリの時間が、動き出す。
「緊急パンプアップ!」
ヒジリの腕と太ももの筋肉が凄まじく膨れ上がり、座ったままの姿勢でちょんと地面を蹴ると、天井近くまで勢い良く跳ね上がった。両腕にヘカティニスとフランを抱きかかえ、膝にはイグナが乗ったままだ。
ピクピクして失神するタスネを、ウメボシは直ぐに健康状態時に戻す。
「なぜそんなものを食べたのかね? 主殿! 自殺願望があるのか?」
滅多に怒らないヒジリだが、迂闊な事をした主をそう叱る。
瞬時に意識を取り戻し、口を拭うタスネはヒジリに逆ギレした。
「馬鹿ヒジリが目で訴えていたでしょ! 食えって!」
「なに? 私はそんなサイン、これぽっちも送ってはいないが・・・」
確かにそうだ。勝手に自分がそう思って食べてしまったのだと、タスネはやり場のない怒りをダンゴにぶつけた。
「大体なんでこんな酷い料理を出すのよ!」
タスネがボコンとダンゴの頭を叩いた。
「ホゲッ」
グラグラとダンゴの頭が動いて、暫く彼女は静止する。
それからジー・・・ガチャン、と何かが噛み合うような音がしたか。すると彼女の丸い目が一斉に皆をスキャンしてサイレンを鳴らしだした。
「不法侵入者を確認、排除行動に移ります!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる