未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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下水道の門

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 ノームもどきのシディマは必死になって逃げていた。後ろからは執拗に砦の戦士たちが追いかけてくる。

「ハァハァ・・・。王の犬めらが・・・」

 新王によってゴブリンゲートが撤去されたゴブリン谷をノームもどきは素早く駆け抜ける。

 これまでどこに逃げようが必ず砦の戦士達がやって来て自分を捕まえようとするので、休む暇もなかった。そろそろ体力の限界が近い。激しく呼吸をするあまり、喉の奥からヒューヒューと奇妙な音がしだした。

「チィ!何で伝票を改ざんした事がばれたんだ。ハーハー。樹族の奴らがばらしたのか?いや、そんなはずはねぇ。そんな事をすれば商人ギルドの連中だって鉱石の値段を暴落させた事がバレる。そうなりゃ国際問題だ。取り敢えず国境まで逃げなければ・・・」

 砦の戦士達は独自の鍛錬方法によりエリートオーガ並に強い。しかも足の遅い者が多いオーガだが、彼らは例外だ。更に賢い者も多く、嘘や誤魔化しは通用しない。

「くそ!あいつだ!きっとあの眼鏡が俺の行動を予想してんだ」

 ちらりと後ろを見ると瓶底眼鏡のオーガが駆けながら仲間に支持を出していた。数人が崖に突き出た岩を跳躍して登っていく。

(くそったれ!絶望平野経由で国境近くまで行く気だな?崖際なら危険な魔物やアンデッドは少ないしな。とにかく!なんとかあいつらを突破して国境まで行けばこっちの勝ちだ。商人ギルドの奴らが話通り本当に待機していればの話しだがな。失敗を考慮して暫くはギルドの者を配置しておくとは言ってたけどよぉ・・・)

 ゴブリン谷を抜け、国境前の草原まで来ると予想通りオーガ達は待ち構えていた。

「残念だったなぁ?シディマ」

 スカーが腕を組んでニヤニヤとしている。

「勘弁してくださいよぉ、もう~。私だってねぇ、食っていかなきゃならんのですよ。ハァハァ。新王が来る前であれば私のやった事など咎める者はいなかったはずですよぉ!」

 シディマは四つん這いになって苦しそうに息をしながらも話をして、何とか体力を回復する時間を稼ぐ。

「時代は常に変わるもんさ。ルールもな。それについていけねぇ奴はどんなに偉い奴だろうが淘汰される。ある意味弱肉強食じゃねぇか。根本的には闇側のルールと然程変わらねぇ」

 追いついてきたベンキが息一つ切らさずにスカーに忠告する。

「そいつの話を聞く必要はないぞ、スカー。さっさと捕まえろ」

 シディマは憎々しげに砦の戦士の頭脳、眼鏡のベンキを睨む。

「はん!お前は七三分けの分け目から禿げて死でしまいなさい!見なさい!これは爆弾ですよ!私は自爆しますから命が惜しいなら近寄らない事ですね!」

 そう叫ぶと導火線の付いた筒を掲げた。既に導火線には火が付いており、激しく火花を散らしている。

「全員下がれ!」

 スカーが叫ぶと砦の戦士たちは一斉に後方に跳躍する。

「ハッハー!アホが!」

 シディマの掲げた筒から花火が打ち上がった。

「花火だとぉ!?くだらねぇ事すんじゃねぇぞ!シディマ!」

 スカーが怒鳴ったその時、突然地面からグレーターデーモンが生えてきた。

「なんだ?その花火は召喚アイテムだったのか?!砦の戦士一人だったら手こずる相手かもしれねぇが、今日は六人もいる。残念だが瞬殺だぜ!」

「それはどうですかねぇ?後で吠え面かいても・・・・」

(おい!シディマ!こっちだ!)

 近くの茂みから声がした。商人ギルドの者だ。

 オーガ達がグレーターデーモンと睨み合っている間にシディマは茂みへと飛び込む。

「いやぁ~。ナイスタイミングです。私、もう駄目かと思いました。すみませんねぇ、私のためにグレーターデーモンなんか召喚してもらっちゃって」

 覆面で顔が判らない樹族は鼻で笑って言う。

「誰がお前の為にコストのかかるグレーターデーモンを召喚するものか。あれは幻術だ。すぐにバレる。向こうの林に隠してある光の門まで走れ。門は樹族国へと繋がっている。暫く樹族国で身を潜めているんだな。扉をくぐればギルドの者が待っているからそれに従え」

 そう言うと商人ギルドの使いは国境門まで走り去っていった。

「じゃあ俺も逃げるか」

 シディマは幻術の悪魔を殴りかかって手応えがない事に驚くオーガ達を見てキヒヒと笑い、言われた林まで走って行くと勢い良く門をくぐった。

 良い気になって門をくぐったものの、着いた先を見てシディマの表情がなくなる。

「そういう事かよ・・・」
 
 そこは思い描いていた隠れ家のような場所ではなく、よく判らないダンジョンらしき場所だった。

「勿論、手引をしてくれる奴もいねぇんだろうな・・・。ようはここで死ねって事か・・・」

 闇の中を何かが動く気配がする。徐々に目が慣れて暗視が出来るようになると、シディマは腰の短剣を抜いて周りを見渡す。

 周囲には大ネズミやらオオムカデが蠢いていた。

「ついてねぇな。やっぱり樹族なんて信用するもんじゃねぇな」

 そう呟いて、シディマはネズミやムカデを刺激しないように注意を払い、当てもなく歩きだした。



 地下下水道のゴースト退治はこれといったピンチもなく恙無つつがなく終了し、シオはホッと胸を撫で下ろした。

 もし自分のミスが原因でシルビィに怪我をさせれば間違いなく髭筋肉ダルマのリューロックが魔法の金棒を振り回しながら怒鳴り込んでくるだろう。下手をすれば責任を取って娘と結婚しろなどと言ってくるかもしれない。

「流石は対アンデッド特化のメイジ。私の出番など無かったな」

 シルビィはハハハと笑ってシオの細い肩を叩く。

「シルビィ様に怪我はさせられませんから・・・。(ほっとくとすぐに前に出ようとするからな、この人は)」

「あとは下水道の中心に御札を貼るだけだけどよぉ。この迷路みたいな中で迷子になるなよ?お嬢ちゃん」

「なるかよ糞杖。ちゃんと地図を持ってきてるから迷わねぇよ」

 そう言って広げた紙の地図に目を通すと、シオは下水道の中心が黒い事に気がついた。

「何で真ん中は黒塗りなのだ?」

 シルビィが顔を寄せて地図を見る。意外と花のような良い匂いがしてシオはドキリとした。

「も、元々ここは下水道じゃなかったらしいですから。昔の人がこのダンジョンを見つけて探索し、出口の近くに浄化クラゲの棲む湖を見つけたから下水道として使っていたみたいなんです。でも浄化クラゲがいつの間にか絶滅してしまい下水道も使われなくなりました。今や初心者冒険者の腕試しダンジョンになっています。恐らく黒い部分は誰も入れなかった未踏の場所なのでしょうね」

「普段はぶっきらぼうで知性の欠片もない喋り方なのに意外と博学なんだな、シオは」

 シルビィの歯に衣を着せぬ言葉に杖がブシャシャと笑う。

「主を褒めて頂いて光栄ですがね、シルビィ様。お嬢ちゃんは意外と間抜けでさぁ!こないだもね・・・イダッ!」

 シオが地面に杖を叩きつけた。

「次喋ったら、お前は糞を燻製するチップにするからな」

「糞なんか燻製してどうすんだ?食うつもりか?イデ!」

 もう一度杖を地面に叩きつけるシオを見てシルビィは肩を竦めた。

「もう君らの喧嘩は見飽きたな。さぁ中心部へ向かおう」



 途中、大ネズミを追い払いながらやって来た下水道の中心部は大きな門があり、押しても動く気配がない。

「鍵穴も無いし、そりゃ誰も入れないわけだ」

 シルビィは魔法【光】を唱え、尚且つカンテラを照らして念入りに門を見たが、ヒジリーハウスのようなのっぺりとした金属の門には開く手がかりが全く見当たらなかった。

「じゃあここに御札を貼って帰りますか。本当は中心に貼った方が余すことなく幽霊避けの効果が出るのですけど・・・」

「うむ、仕方あるまい・・・。ん?誰だ!隠れているのはわかっているぞ!」

 シルビィは静かなこの場所で一瞬誰かがブーツで石を蹴る音を聞いたのだ。

「ああ!貴方様は!いつぞやの!」

 シディマはシルビィを暗視で確認して見覚えのある顔だと安心する。

「お前はゴデの街のノームもどき!何故樹族国にいる?」

「それが・・・。変な魔物に飛ばされまして・・・」

「ん?ああ、グランデモニウム王国にはそういった魔物がいるらしいな。確かヘカティニスもそれに飛ばされて樹族国に来た事があった」

「そうなんですよぉ。ゴデの街に帰ろうにも全く知らない場所に飛ばされて困っていたところなんです」

「では後々、ダー・・・ヒジリ王に連絡して迎えを寄越すよう伝えてやろう。それまで一緒に行動するが良い」

「ヒジリ王?!滅相もない!そんな恐れ多い事頼めません!(あいつはドワイトと繋がりがあるからな。もう既に俺の悪事が伝わっている頃だろう)馬車代と越境許可書を頂ければ勝手に帰りますから」

「闇側の住人にしては中々控えめな奴だな。解った。そのようにしよう」

「(ホッ・・・)すみません、助かります。ところで二人はここで何を?」

「ああ、ゴースト避けの札を・・・」

 シオがそう言いかけた途中で杖が茶々を入れる。

「本当は二人でここで良い事しようとしてたんだぜ?お前さんはその邪魔をしたってわけだ。謝っとけ早く」

「な?!」

 シオは顔を真っ赤にしてチラリとシルビィを見ると彼女は苦笑いをしていた。

「お前なぁ!何でいっつも俺に恥をかかせるんだよ!俺がシルビィ様みたいな高貴な方とそういう仲になるわけないだろうが!」

「わかんねぇぜ?シルビィ様は男っぽいからお嬢ちゃんみたいな可愛い男と相性がいいかもしれねぇし」

「そういう問題じゃねぇ!」

 シオは杖を振りかぶって門に叩きつけた。

「イデェー!」

 杖が叫ぶと、ゴゴゴとどこからか音がした。

「エスゼロゼロイチ型ナノマシンを確認。博士の関係者と認定。門を開きます」

 どうやっても開かなかった門は杖が触れた事で開き始めた。

「嘘だろ・・・。今まで誰も開くことが出来なかった門が・・・」

 驚くシオの横でシルビィは好奇心に目を光らせる。

「前人未到の場所に入れるのだ!行くぞ!シオ!」

 ワハハと笑いながら門の向こう側へと歩くシルビィを追ってシオとシディマは仄明るい書庫のような部屋へと入っていった。
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