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揉みくちゃ博士
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「もう嫌だ! 帰って母さんになんて言えばいいんだ! 僕は父さんが死ぬのを黙って見ていました、なんて言えないぞ! くそ!」
馬車の荷台で泣きながら駄々っ子のように暴れるヤイバに千切られた自分の触手を見て、ダンティラスはため息をついた。
ヤイバが暴れる度に荷台は壊れ、御者の地走り族は悲鳴をあげるが、ダンティラスにはどうしようもない。
「もう目が覚めたのであるか・・・。ヤイバ殿は実に厄介な魔法耐性を持っている。流石は魔法無効化の出来るヒジリ殿の息子であるな。吾輩は、もう君を拘束する事は出来ない。君を縛り付けていた触手を全て千切らてしまったからな」
泣きながらジタバタするヒジリの息子を見ながら、ダンティラスは心に引っ掛かるある事に気が付いた。
(ん? なぜこんな簡単な事に気が付かなかったのであるか・・・)
「落ち着いて話を聞いてくれぬか? ヤイバ殿。吾輩は、とある事に気が付いたのだがね」
「うぐ・・・。ぐすっ! なんですか・・・?」
腕で泣き顔を隠すヤイバは、苛立った声でダンティラスに返事を返す。
「君が生まれたのはいつであるか?」
「今よりも・・・。あっ!」
「気が付いて何より。そう、君の母上とヒジリ殿は、まだそういう関係になっていないのである。なのに君は消えたり、存在が書き変わったりしていないのだよ」
「では、父さんは・・・!」
「ああ、生きているのである」
「でも、あの凄まじい熱の中で! どうやって生き延びたというのですか?」
「それは吾輩に聞かれても困る。しかし彼は星のオーガ。我々の知らない力で、どうにかなったのやもしれぬ」
「そうだ! きっとそうだ!」
ヤイバはガバっと起き上って、涙を拭いた。
「父さんは生きている!」
頬を伝っていた涙は消え去り、ヒジリに似た顔を喜びに満たして、自由騎士はダンティラスをハグする。
「案外、城に帰れば何食わぬ顔をしているかもしれんな」
ダンティラスは、吸魔鬼である自分を恐れずに抱きついてくるヒジリの息子に驚きつつも共に喜んだ。
グランデモニウム王国と樹族国の国境前までつくと、御者は馬車を止める。
「着きましたよ! お客さん! それから荷台の修理代は頂きやすからね!」
ヤイバは革袋から金貨五枚を出すと御者に渡し、ダンティラスと気絶しているウメボシと、そしてサカモト博士を抱えて【高速移動】の魔法を脚にかけた。
「お客さん! 流石に金貨五枚は多すぎでやす!」
「いいんだ! 僕は今、嬉しくて仕方がないのです! そのお金は幸せな気持ちの御裾分けです! それに僕はフーリー家の一員でもある。お金には不自由していないんだ! だから貰っておいてください」
ヤイバは御者に手を振って別れを告げると、国境警備兵にグリフィンの紋章を見せた。
有名ではあるが、多くの者が初めて見るその自由騎士の紋章に、樹族の警備兵たちは驚いてヤイバに道を譲り、結界を解除する。
ヤイバは警備兵達に礼を言うと、急いでグランデモニウム王国に入境し、ゴデの街にある桃色城を目指して夜のゴブリン谷を移動した。
サヴェリフェ姉妹が寛ぐ居間に、ひしと抱き合うヒジリとマサヨシが突然現れた。
「ふぁ? ちょっと! なにやってんのよ! 二人とも! そういう関係だったの?」
タスネが、驚きとニヤニヤの混じった表情で二人を見つめた。
「ふむ・・・。確か私は邪神との戦いで、熱に焼かれて死んだはず。それにマサヨシも消滅したはずだが・・・」
「ちょっと~、離れてくださいよぉ~、ヒジリ氏~。何事~? 俺、ロリムチな女の子が好きなんでつけど~!」
オフッ! と笑ったマサヨシの細い目が、フランとイグナを捉えたので、ヒジリは忠告する。
「おっと! 彼女たちはダメだぞマサヨシ。イグナとフランは、私の将来の妻だ」
将来の妻と言われて気を良くしたイグナが、いつもよりは明るい声でヒジリに質問をした。
「お帰り、ヒジリ。何で転移魔法で帰ってきたの?」
「ん? ああ、色々あってね・・・。それにしてもなぜ助かったのか・・・。恐らくセイバーの開けた穴から、カプリコンが転送をしてくれたのだろう。そうだろう? カプリコン」
ヒジリは、星の外に浮かぶ宇宙船カプリコンに尋ねた。
「いえ・・・。転送記録はありません。おや・・・、気の所為でしたね。転送記録がありました。どうやら私が無意識のうちに、ヒジリ様を救出したようです。これは不味い・・・。亜空間での出来事には、干渉してはならないのですが・・・。これでは地球政府にどやされてしまいます」
「問題ない。厳密に言うと、あれは邪神が作り出した擬似亜空間だ。亜空間の膜で覆われているだけの実空間だ。ありがとう、カプリコン」
「いえ、ヒジリ様を助ける事が出来て光栄です。それから・・・、その・・・。今回の件をヒジリ様が、直接地球政府に報告して頂けると助かります」
人工知能とは言え、諸々の責任を回避したいのだろうとヒジリは察する。
「ああ、しておこう」
「邪神って、なぁに?」
フランがまず思い浮かべたのは、神話の時代にサカモト神と共に消えた邪神である。
「実はサカモト神の復活に成功したのだが、その時に邪神も復活させてしまってね。マサヨシが死んでしまい、私も邪神と同化して、逃げる事が出来なくなって死ぬ一歩手前だったのだ」
「え? それ本当の話? 怪我とか無いの? ヒジリ。大丈夫?」
タスネはヒジリの体の周りを忙しなく動いて、怪我がないかを見ている。
「あれ? なんか右腕がペラペラしてない?」
「ふむ、パワードスーツが補助して動いていたから、気が付かなかったが右腕が無いな」
「えええええ!!! 大丈夫なの!?」
「大丈夫だ、後で治す。パワードスーツだけ残して、腕だけ無いのも何だかおかしいが、まぁいいか・・・」
タスネは心配そうに中身のない腕部を見てから、涙目でヒジリに怒る。
「もう! いつも無茶ばかりして! 誰も知らない所で、邪神なんかと戦ってるし! 前にシオんとこでヒジリがいなくなった時を思い出しちゃったじゃない! 馬鹿!」
タスネはマサヨシを突き飛ばすと、ヒジリに抱きついた。
ヒジリは優しくタスネの頭を撫でる。
「すまない、そして心配してくれてありがとう」
ヒジリはタスネを抱きかかえると、頬にキスをした。
「あ!」
「あ!」
それを見たイグナとフランが不貞腐れて頬を膨らませた。
「お姉ちゃんは、ヒジリと結婚しないって言ってたのに、キスされるのはおかしい」
「そうよぉ!」
「し、知らないわよ。ヒジリが勝手にキスしただけだもん」
「おふぅ! ではヒジリの代わりに・・・、このマサヨシがっ! キスをしてしんぜようッ!」
マサヨシが大アリクイの威嚇のように両手を広げて、イグナとフランに迫った。
「キャー! マサヨシはヒジリの代わりになんかならないってぇ! イケメンになったとはいえ、やっぱり昔のマサヨシの顔がチラつくし~。性格も変わってないし~!」
フランはそう言って逃げていく。
「ではイグナちゃんに・・・。ニュー!」
マサヨシは口をタコのように尖らせ、イグナに近づく。
イグナは何度か魔法で抗っているが、マサヨシは魔法を無効化できるので効果がない。
ドアの近くまで追いやられ、イグナは通らない小さな声で叫ぶ。
「わわー! わわー! ヒジリ! マサヨシがーー!」
しかしヒジリは、まんざらでもないという顔をしてクスクスと笑っている姉の頬に、何度もキスをしていて気が付いていない。
「イグナちゃんのほっぺ! 頂きまんもすっすっすっすーー! 自前エコー!」
しかしイグナがさっと横に避けると、誰かがドアを開けて中に入って来た。
開いた扉にしこたま顔をぶつけて、マサヨシはドアと壁の間でサンドイッチとなる。
「父さん!」
わぁぁ! と泣きながらヤイバが、タスネごとヒジリを抱きしめた。
「良かった! やっぱり生きていた! 父さんは生きていましたよ! ダンティラスさん!」
後ろで静かに頷くダンティラスは微笑んでいた。
「流石は星のオーガである」
「父さん! どうやって生き延びたのですか?」
「君が開けた穴から、カプリコンが転移してくれたのだ。ある意味、君のお蔭で助かったともいえる、ありがとう。セイバー」
二人の会話を聞いて、フランがセイバーの青い鎧の胸に付いている自由騎士の紋章で確認する。
「え? セイバー? ヒジリを父さんって呼ぶなんてどういうことぉ? そういえば、セイバーの素顔を初めて見たけど・・・。えぇーーー! 顔がヒジリに似てる!!」
「ひどい、ヒジリ。隠し子がいたなんて・・・」
イグナがショックを受けて固まる。
「待て、イグナ。私に隠し子がいるような年齢に見えるかね?」
「今まで隠していてすみません、イグナさん、フランさん。僕はオオガ・ヒジリの長男、ヤイバです。未来からやって来ました。僕はリツ・フーリーの息子でもあり、闇魔女イグナと聖騎士フランの弟子でもあります」
「いいのかね? 正体をばらして」
「いいんです。僕は未来に帰りますから。そしてもう二度と、この過去の世界には干渉はしません」
「では二度と会えないのか? 寂しいな」
「二度とではないですよ、父さん。僕はあなたの息子として、生まれてくるのでまた会えます」
「それにしてもイケメンねぇ・・・。ハンサム系ヒジリを美少年系にしたらこんな感じかしらぁ。将来、こんなイケメンを弟子にとれるなんて、私は幸せ者だわぁ」
フランは赤い頬を押さえてうっとりしながら、ヤイバを見つめている。
魔性の瞳で見つめられてヤイバは、僅かに湧き起る劣情をすぐに抑え込んで、物憂げな顔をする。
「そうだ・・・。父さん・・・。マサヨシさんの事は、残念でした・・・」
「ああ、彼か・・・。確かに残念だったな。髪も生えてスッとしたイケメンになれたのに、性格が前のまんまで実に残念な男だった」
「いえ・・・、そうじゃなくて父さん・・・。あれ? そうやって茶化すって事は、マサヨシさんも生きているのですか?!」
「オッフッフッフ! 俺を誰だとお思いか? 俺を誰だとお思いかねー! 一応これでも星のオーガなのでつぞ! 不死身のマサヨシ、見参!」
鼻血をボタボタとこぼして威張りながら、扉の後ろからマサヨシが現れた。
「ああ! マサヨシさん!」
「おふぅ!」
鼻血が鎧に付くことも気にせず、ヤイバはマサヨシを抱きしめた。
「僕がこの世界に来た時、丁度マサヨシさんが消されるところだったんだ。もう胸が張り裂けそうになって・・・。未来でもマサヨシさんは簡単に復活したりするけど、あの虹色の泡の中じゃ、もう復活は出来ないんじゃないかって嫌な予感がして・・・」
「きっとセイバー・・・。じゃなくて・・・、ヤイバがあの穴を開けてくれたからでつ」
「うむ。マサヨシと私は、ヤイバに救われたようなもんだな。改めて言う。ありがとう、我が息子」
ヒジリはタスネを降ろすと、ヤイバとマサヨシをハグした。
「あらぁ~。男同士のハグもいいわねぇ。なんでだかわからないけど、この光景を見ながら、パンを十個ぐらい食べれそうな気分」
フランは鼻息荒くそう言う。
コツンとブーツが大理石の床を蹴る音がして、誰かが部屋に入ってきた。
「なんじゃい。キモイな、お前ら! オエッ!」
舌を出してえずくサカモト博士は、未だ気絶しているウメボシを脇に抱えて、ドアの近くに立っていた。
始祖の現人神は、タンポポの綿毛のようなフワフワの毛が頭の両サイドについており、それ以外がツルツルだった。
「ねぇヒジリ」
タスネがヒジリの尻を突っつくと、不意を突かれたヒジリはビクンと僅かに体を震わせて主を見る。
「な、何かね」
「あの団子鼻のおじいさんって、もしかして、ハイヤット・ダイクタ・サカモト神なの?」
「そうだが?」
タスネは可愛らしい目を更に丸くして驚き、すぐさま跪いた。
「あの・・・! 神様に会えてとても光栄です!」
「おほ! なんとも可愛らしい地走り族の娘じゃ。それにちゃんと礼儀を弁えておる。よし! 結婚してくれィ!」
「そ、それはちょっと・・・」
「ちぇ・・・。ところでヒジリとやら。どうやってあの擬似亜空間から、瞬時に脱出できたんじゃ? ワシの計算じゃと、閉じゆく擬似亜空間に開いた穴からデータ化して外に出るには、僅かに時間が足りんかったはずじゃが。それに邪神との分離はどうやった? お前さん、ワシみたいに邪神のナノマシンを、体のどこかに付けているかもしれんぞ」
「ナノマシンに関して問題があれば、カプリコンが直ぐに気が付く」
「マナ粒子に隠れていれば、見つけられんじゃろ・・・。ワシもそうじゃったからの」
「それは問題無い。邪神のナノマシンが付着していれば、私のナノマシンの中で、黒点のように映るからな。それに私のナノマシンが、マナを排除してくれると思う。博士は幾らかマナを受け入れているようだから・・・」
ヒジリが質問に答えていると、博士に抱えられているウメボシが静かに目を覚ました。
「博士・・・。質問の前に、まず言う事があるのではないでしょうか・・・」
「ん? ああ、そうじゃった、ウィ・・、ウメボシ」
博士はコホンと咳払いして頬を赤く染めた。
「そ、そのなんじゃ。・・・えっと・・・助けてくれてありがとうの。お前達」
その言葉を聞いたヒジリはにっこりと微笑んで、モジモジする博士に頷くと、手を差し出した。
「えーー! ワシもそのハグの輪の中に入れというのかー? 嫌じゃー! だったら、そこの地走り族達にハグされたーい!」
ウメボシを後ろに頬り投げて、タスネに突進しようとした博士の襟首を、ヒジリはパワードスーツだけになった腕をニューっと伸ばして掴むと、強引にハグの輪の中に引きずり込んだ。
「じゃわぁー! 嫌じゃ! むさくるしい男と、触れ合うのはいやじゃぁぁ!!」
輪の中でヒジリ達に頬ずりされ揉みくちゃになっていく博士は、死の間際に見た、サカモト粒子砲から放たれた虚無の渦を思い出していた。
(あの何もない空虚なる闇に比べたら、こいつらのキチャナイ頬ずりもありがたいものじゃな。科学者のワシが言うのもなんじゃが、こいつらに助けられたのも、運命の導きによるものじゃろう。もし運命の神がいて、ワシをこのように導いてくれたのならば、礼を言わねばならん。ありがとう)
馬車の荷台で泣きながら駄々っ子のように暴れるヤイバに千切られた自分の触手を見て、ダンティラスはため息をついた。
ヤイバが暴れる度に荷台は壊れ、御者の地走り族は悲鳴をあげるが、ダンティラスにはどうしようもない。
「もう目が覚めたのであるか・・・。ヤイバ殿は実に厄介な魔法耐性を持っている。流石は魔法無効化の出来るヒジリ殿の息子であるな。吾輩は、もう君を拘束する事は出来ない。君を縛り付けていた触手を全て千切らてしまったからな」
泣きながらジタバタするヒジリの息子を見ながら、ダンティラスは心に引っ掛かるある事に気が付いた。
(ん? なぜこんな簡単な事に気が付かなかったのであるか・・・)
「落ち着いて話を聞いてくれぬか? ヤイバ殿。吾輩は、とある事に気が付いたのだがね」
「うぐ・・・。ぐすっ! なんですか・・・?」
腕で泣き顔を隠すヤイバは、苛立った声でダンティラスに返事を返す。
「君が生まれたのはいつであるか?」
「今よりも・・・。あっ!」
「気が付いて何より。そう、君の母上とヒジリ殿は、まだそういう関係になっていないのである。なのに君は消えたり、存在が書き変わったりしていないのだよ」
「では、父さんは・・・!」
「ああ、生きているのである」
「でも、あの凄まじい熱の中で! どうやって生き延びたというのですか?」
「それは吾輩に聞かれても困る。しかし彼は星のオーガ。我々の知らない力で、どうにかなったのやもしれぬ」
「そうだ! きっとそうだ!」
ヤイバはガバっと起き上って、涙を拭いた。
「父さんは生きている!」
頬を伝っていた涙は消え去り、ヒジリに似た顔を喜びに満たして、自由騎士はダンティラスをハグする。
「案外、城に帰れば何食わぬ顔をしているかもしれんな」
ダンティラスは、吸魔鬼である自分を恐れずに抱きついてくるヒジリの息子に驚きつつも共に喜んだ。
グランデモニウム王国と樹族国の国境前までつくと、御者は馬車を止める。
「着きましたよ! お客さん! それから荷台の修理代は頂きやすからね!」
ヤイバは革袋から金貨五枚を出すと御者に渡し、ダンティラスと気絶しているウメボシと、そしてサカモト博士を抱えて【高速移動】の魔法を脚にかけた。
「お客さん! 流石に金貨五枚は多すぎでやす!」
「いいんだ! 僕は今、嬉しくて仕方がないのです! そのお金は幸せな気持ちの御裾分けです! それに僕はフーリー家の一員でもある。お金には不自由していないんだ! だから貰っておいてください」
ヤイバは御者に手を振って別れを告げると、国境警備兵にグリフィンの紋章を見せた。
有名ではあるが、多くの者が初めて見るその自由騎士の紋章に、樹族の警備兵たちは驚いてヤイバに道を譲り、結界を解除する。
ヤイバは警備兵達に礼を言うと、急いでグランデモニウム王国に入境し、ゴデの街にある桃色城を目指して夜のゴブリン谷を移動した。
サヴェリフェ姉妹が寛ぐ居間に、ひしと抱き合うヒジリとマサヨシが突然現れた。
「ふぁ? ちょっと! なにやってんのよ! 二人とも! そういう関係だったの?」
タスネが、驚きとニヤニヤの混じった表情で二人を見つめた。
「ふむ・・・。確か私は邪神との戦いで、熱に焼かれて死んだはず。それにマサヨシも消滅したはずだが・・・」
「ちょっと~、離れてくださいよぉ~、ヒジリ氏~。何事~? 俺、ロリムチな女の子が好きなんでつけど~!」
オフッ! と笑ったマサヨシの細い目が、フランとイグナを捉えたので、ヒジリは忠告する。
「おっと! 彼女たちはダメだぞマサヨシ。イグナとフランは、私の将来の妻だ」
将来の妻と言われて気を良くしたイグナが、いつもよりは明るい声でヒジリに質問をした。
「お帰り、ヒジリ。何で転移魔法で帰ってきたの?」
「ん? ああ、色々あってね・・・。それにしてもなぜ助かったのか・・・。恐らくセイバーの開けた穴から、カプリコンが転送をしてくれたのだろう。そうだろう? カプリコン」
ヒジリは、星の外に浮かぶ宇宙船カプリコンに尋ねた。
「いえ・・・。転送記録はありません。おや・・・、気の所為でしたね。転送記録がありました。どうやら私が無意識のうちに、ヒジリ様を救出したようです。これは不味い・・・。亜空間での出来事には、干渉してはならないのですが・・・。これでは地球政府にどやされてしまいます」
「問題ない。厳密に言うと、あれは邪神が作り出した擬似亜空間だ。亜空間の膜で覆われているだけの実空間だ。ありがとう、カプリコン」
「いえ、ヒジリ様を助ける事が出来て光栄です。それから・・・、その・・・。今回の件をヒジリ様が、直接地球政府に報告して頂けると助かります」
人工知能とは言え、諸々の責任を回避したいのだろうとヒジリは察する。
「ああ、しておこう」
「邪神って、なぁに?」
フランがまず思い浮かべたのは、神話の時代にサカモト神と共に消えた邪神である。
「実はサカモト神の復活に成功したのだが、その時に邪神も復活させてしまってね。マサヨシが死んでしまい、私も邪神と同化して、逃げる事が出来なくなって死ぬ一歩手前だったのだ」
「え? それ本当の話? 怪我とか無いの? ヒジリ。大丈夫?」
タスネはヒジリの体の周りを忙しなく動いて、怪我がないかを見ている。
「あれ? なんか右腕がペラペラしてない?」
「ふむ、パワードスーツが補助して動いていたから、気が付かなかったが右腕が無いな」
「えええええ!!! 大丈夫なの!?」
「大丈夫だ、後で治す。パワードスーツだけ残して、腕だけ無いのも何だかおかしいが、まぁいいか・・・」
タスネは心配そうに中身のない腕部を見てから、涙目でヒジリに怒る。
「もう! いつも無茶ばかりして! 誰も知らない所で、邪神なんかと戦ってるし! 前にシオんとこでヒジリがいなくなった時を思い出しちゃったじゃない! 馬鹿!」
タスネはマサヨシを突き飛ばすと、ヒジリに抱きついた。
ヒジリは優しくタスネの頭を撫でる。
「すまない、そして心配してくれてありがとう」
ヒジリはタスネを抱きかかえると、頬にキスをした。
「あ!」
「あ!」
それを見たイグナとフランが不貞腐れて頬を膨らませた。
「お姉ちゃんは、ヒジリと結婚しないって言ってたのに、キスされるのはおかしい」
「そうよぉ!」
「し、知らないわよ。ヒジリが勝手にキスしただけだもん」
「おふぅ! ではヒジリの代わりに・・・、このマサヨシがっ! キスをしてしんぜようッ!」
マサヨシが大アリクイの威嚇のように両手を広げて、イグナとフランに迫った。
「キャー! マサヨシはヒジリの代わりになんかならないってぇ! イケメンになったとはいえ、やっぱり昔のマサヨシの顔がチラつくし~。性格も変わってないし~!」
フランはそう言って逃げていく。
「ではイグナちゃんに・・・。ニュー!」
マサヨシは口をタコのように尖らせ、イグナに近づく。
イグナは何度か魔法で抗っているが、マサヨシは魔法を無効化できるので効果がない。
ドアの近くまで追いやられ、イグナは通らない小さな声で叫ぶ。
「わわー! わわー! ヒジリ! マサヨシがーー!」
しかしヒジリは、まんざらでもないという顔をしてクスクスと笑っている姉の頬に、何度もキスをしていて気が付いていない。
「イグナちゃんのほっぺ! 頂きまんもすっすっすっすーー! 自前エコー!」
しかしイグナがさっと横に避けると、誰かがドアを開けて中に入って来た。
開いた扉にしこたま顔をぶつけて、マサヨシはドアと壁の間でサンドイッチとなる。
「父さん!」
わぁぁ! と泣きながらヤイバが、タスネごとヒジリを抱きしめた。
「良かった! やっぱり生きていた! 父さんは生きていましたよ! ダンティラスさん!」
後ろで静かに頷くダンティラスは微笑んでいた。
「流石は星のオーガである」
「父さん! どうやって生き延びたのですか?」
「君が開けた穴から、カプリコンが転移してくれたのだ。ある意味、君のお蔭で助かったともいえる、ありがとう。セイバー」
二人の会話を聞いて、フランがセイバーの青い鎧の胸に付いている自由騎士の紋章で確認する。
「え? セイバー? ヒジリを父さんって呼ぶなんてどういうことぉ? そういえば、セイバーの素顔を初めて見たけど・・・。えぇーーー! 顔がヒジリに似てる!!」
「ひどい、ヒジリ。隠し子がいたなんて・・・」
イグナがショックを受けて固まる。
「待て、イグナ。私に隠し子がいるような年齢に見えるかね?」
「今まで隠していてすみません、イグナさん、フランさん。僕はオオガ・ヒジリの長男、ヤイバです。未来からやって来ました。僕はリツ・フーリーの息子でもあり、闇魔女イグナと聖騎士フランの弟子でもあります」
「いいのかね? 正体をばらして」
「いいんです。僕は未来に帰りますから。そしてもう二度と、この過去の世界には干渉はしません」
「では二度と会えないのか? 寂しいな」
「二度とではないですよ、父さん。僕はあなたの息子として、生まれてくるのでまた会えます」
「それにしてもイケメンねぇ・・・。ハンサム系ヒジリを美少年系にしたらこんな感じかしらぁ。将来、こんなイケメンを弟子にとれるなんて、私は幸せ者だわぁ」
フランは赤い頬を押さえてうっとりしながら、ヤイバを見つめている。
魔性の瞳で見つめられてヤイバは、僅かに湧き起る劣情をすぐに抑え込んで、物憂げな顔をする。
「そうだ・・・。父さん・・・。マサヨシさんの事は、残念でした・・・」
「ああ、彼か・・・。確かに残念だったな。髪も生えてスッとしたイケメンになれたのに、性格が前のまんまで実に残念な男だった」
「いえ・・・、そうじゃなくて父さん・・・。あれ? そうやって茶化すって事は、マサヨシさんも生きているのですか?!」
「オッフッフッフ! 俺を誰だとお思いか? 俺を誰だとお思いかねー! 一応これでも星のオーガなのでつぞ! 不死身のマサヨシ、見参!」
鼻血をボタボタとこぼして威張りながら、扉の後ろからマサヨシが現れた。
「ああ! マサヨシさん!」
「おふぅ!」
鼻血が鎧に付くことも気にせず、ヤイバはマサヨシを抱きしめた。
「僕がこの世界に来た時、丁度マサヨシさんが消されるところだったんだ。もう胸が張り裂けそうになって・・・。未来でもマサヨシさんは簡単に復活したりするけど、あの虹色の泡の中じゃ、もう復活は出来ないんじゃないかって嫌な予感がして・・・」
「きっとセイバー・・・。じゃなくて・・・、ヤイバがあの穴を開けてくれたからでつ」
「うむ。マサヨシと私は、ヤイバに救われたようなもんだな。改めて言う。ありがとう、我が息子」
ヒジリはタスネを降ろすと、ヤイバとマサヨシをハグした。
「あらぁ~。男同士のハグもいいわねぇ。なんでだかわからないけど、この光景を見ながら、パンを十個ぐらい食べれそうな気分」
フランは鼻息荒くそう言う。
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「なんじゃい。キモイな、お前ら! オエッ!」
舌を出してえずくサカモト博士は、未だ気絶しているウメボシを脇に抱えて、ドアの近くに立っていた。
始祖の現人神は、タンポポの綿毛のようなフワフワの毛が頭の両サイドについており、それ以外がツルツルだった。
「ねぇヒジリ」
タスネがヒジリの尻を突っつくと、不意を突かれたヒジリはビクンと僅かに体を震わせて主を見る。
「な、何かね」
「あの団子鼻のおじいさんって、もしかして、ハイヤット・ダイクタ・サカモト神なの?」
「そうだが?」
タスネは可愛らしい目を更に丸くして驚き、すぐさま跪いた。
「あの・・・! 神様に会えてとても光栄です!」
「おほ! なんとも可愛らしい地走り族の娘じゃ。それにちゃんと礼儀を弁えておる。よし! 結婚してくれィ!」
「そ、それはちょっと・・・」
「ちぇ・・・。ところでヒジリとやら。どうやってあの擬似亜空間から、瞬時に脱出できたんじゃ? ワシの計算じゃと、閉じゆく擬似亜空間に開いた穴からデータ化して外に出るには、僅かに時間が足りんかったはずじゃが。それに邪神との分離はどうやった? お前さん、ワシみたいに邪神のナノマシンを、体のどこかに付けているかもしれんぞ」
「ナノマシンに関して問題があれば、カプリコンが直ぐに気が付く」
「マナ粒子に隠れていれば、見つけられんじゃろ・・・。ワシもそうじゃったからの」
「それは問題無い。邪神のナノマシンが付着していれば、私のナノマシンの中で、黒点のように映るからな。それに私のナノマシンが、マナを排除してくれると思う。博士は幾らかマナを受け入れているようだから・・・」
ヒジリが質問に答えていると、博士に抱えられているウメボシが静かに目を覚ました。
「博士・・・。質問の前に、まず言う事があるのではないでしょうか・・・」
「ん? ああ、そうじゃった、ウィ・・、ウメボシ」
博士はコホンと咳払いして頬を赤く染めた。
「そ、そのなんじゃ。・・・えっと・・・助けてくれてありがとうの。お前達」
その言葉を聞いたヒジリはにっこりと微笑んで、モジモジする博士に頷くと、手を差し出した。
「えーー! ワシもそのハグの輪の中に入れというのかー? 嫌じゃー! だったら、そこの地走り族達にハグされたーい!」
ウメボシを後ろに頬り投げて、タスネに突進しようとした博士の襟首を、ヒジリはパワードスーツだけになった腕をニューっと伸ばして掴むと、強引にハグの輪の中に引きずり込んだ。
「じゃわぁー! 嫌じゃ! むさくるしい男と、触れ合うのはいやじゃぁぁ!!」
輪の中でヒジリ達に頬ずりされ揉みくちゃになっていく博士は、死の間際に見た、サカモト粒子砲から放たれた虚無の渦を思い出していた。
(あの何もない空虚なる闇に比べたら、こいつらのキチャナイ頬ずりもありがたいものじゃな。科学者のワシが言うのもなんじゃが、こいつらに助けられたのも、運命の導きによるものじゃろう。もし運命の神がいて、ワシをこのように導いてくれたのならば、礼を言わねばならん。ありがとう)
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――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
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異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
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現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
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俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
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貧弱の英雄
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この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
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よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
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愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
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