未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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ビヨンド

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 一体ここがどこで、何をする場所かマサヨシには見当がつかなかった。

 暗闇の中で燃える光の玉は、宇宙空間の中で輝く太陽と同じに見える。しかし太陽に照らされる他の惑星は見えない。

 浮かぶ大きな太陽に照らされて見るヒジリと、眼鏡のゴブリンの顔は真剣だった。

「あれ? そこの眼鏡のゴブリンはヤンス? いつも何か起きると、どこからともなくやって来て、奇妙な解説をするお節介なゴブリンだろ? 何でこんな所にいるの? っていうかここどこでつか?」

「やぁ、マサヨシ。君もヤンスに拾われたのか。ここはビヨンドという空間だ。まぁ所謂四次元世界だな」

「待つデヤンス、ヒジリ。あっしはマサヨシを拾ってはいない。彼は確かに、この世界から消えて死んだはずでヤンス」

「どうなのかね? マサヨシ」

「んなわけない。俺は異世界転生の能力があるって言ったでそ。こっちの世界で死んでも、元の世界で自分が生きている限り、何度でも甦れるんでつよ。でも他の世界で死ぬと、暫く記憶を失うみたいで、思い出すまでが大変なんでつ。オフフ」

「はぁ・・・。貴方も宇宙の理の外にいる特異点でヤンスか・・・」

「何もかも知っているような顔をしてまつが、ヤンスは何者~? オフッ!」

 マサヨシは、この不思議な空間にいる小さなヤンスが滑稽に見えた。なぜかは判断できないが、場違いに思えたからだ。

「彼は運命の神カオジフだ」

「ハハッ! ヒジリって科学者でつよね? 神様とか信じるわけ?」

「正確には精神生命体と言うべきか。星の統合思念体というべきか。知的生命体のいる星には必ず、一人或いは数人存在するそうな」

「また~。じゃあ地球にもいるの?」

「それが・・・、君たちの星には存在しないでヤンス。あの星は、何も与えられていない可哀想な星でヤンスから」

「どゆこと?」

「私から説明しよう。遥か大昔に四次元からやって来たウンモ星人というのが、二つの星に介入した。彼らは知的生命体が育ちつつある地球と惑星ヒジリに、とある実験をしたのだ。地球にはサカモト粒子発生装置を置いて、何かを得ようとするのであれば、必死に努力しないと手に入らないようにした」

 ふむふむ、とマサヨシは腕を組んだ。

「でも、それって当たり前でつよね・・・」

「我々からすればな。だがこの世界において、地球は異端なのだ。本来、どこの星にも多かれ少なかれマナ粒子があり、我々より容易に夢や希望が叶うらしい」

「ちょい待ち! だったら何で惑星ヒジリの住民は、いつまでも中世みたいな暮らしをしていて、何もない地球は科学技術が発展してんの?」

「地球人は何もないからこそ、頭をひねって試行錯誤をし、発展していった。逆にマナ粒子に頼るこの星の多くの住人は、自力で発展する努力を怠り、そしてマナの使用を制限したのだ」

「何で制限するんでつか? 夢のような粒子じゃないでつか。マナ粒子は」

「何でも叶うという事は、破滅も招くという事だ、マサヨシ。皆が皆、節度を守ってマナを使いこなすわけではない。それで滅びていった星は沢山あるという。特にマナ粒子が大量に発生する惑星ヒジリにおいては、ヤンスも気が気でなかったそうだ」

 ヒジリの言葉にヤンスは頷く。

「マナの暴走で消えていく知的生命体や、同胞を見るのは忍びなかったでヤンス」

「そっか、神様も一蓮托生なんでつよね。その星の知的生命体の思念の集まりでつから」

 ヒジリは喉が渇いたのか、亜空間ポケットから炭酸水の入ったペットボトルを出して二人に渡し、自分はすぐに飲み始めた。

「放っておけば暴走しかねないマナ粒子の使い手達を、制限するために出来たのが魔法なのだよ。魔法は制御装置みたいなものでね。この呪文はこれしか出来ない、と意識に植えこむ為に作られたのだそうな」

「それでも時々、災害レベルの魔物を呼び出したり、強力な広範囲魔法をどこからか見つけてきて、ぶっ放す奴がいるでヤンス」

 ヒジリはもう一口炭酸水を飲んでから、ヤンスに相づちを打った。

「せっかく制限を設けても、その枠から飛び出してしまう者がどうしても数百年に一度現れるのだそうだ。それが能力保持者だったり、制限を意識しない狂人だったりするわけだ。それらは恐らくだが・・・。変革をもたらす者として、ウンモ星人が用意したのでは、と思う。いつ暴走して消えるかわからない惑星ヒジリとは対称的に、何も無いがゆえに安定していた地球は科学技術が発展していった。地球も幾度か滅亡の危機に瀕したが、それでもマナの暴走に比べたら、まだマシなのだと」

「で、ウンモ星人は今もいるのでつか? どこにいるのかな? ヤンス」

「ウンモ星人はもういないでヤンス。彼らはとうの昔に人類として、次の段階に進化してこの世界から消えたでヤンス」

「無責任な! じゃあ今日までマナ暴走で滅ばずに済んだ惑星ヒジリは、奇跡中の奇跡でつね」

「いや、あっしは以前にアカシックレコードで、少し先の未来を見た事があるでヤンスが、時間の大きな濁流の中に、この星は無かったでヤンス。つまりこの星は、死ぬ運命にあったんでヤンスよ。それを予め知ったあっしは悲しみの中、星が消え去るのを、ただ見守っていたでヤンス」

「あんた神様なんだろ? なんとかならなかったんでつか?」

「あっしは見守る事しか出来ないでヤンス。だから世界中を旅して、滅びゆく運命のこの星を記憶に残そうと、見てまわっていたでヤンスよ。でも突然、世界に特異点が現れて、支流を本流に変えてしまったでヤンス」

「その支流とは、惑星ヒジリが滅びないという運命でつか?」

「そうでヤンス。いきなり現れて強引な力技を披露した、その特異点がオオガ・ヒジリなんでヤンス。エルダーリッチを退けたり、強力な悪魔を倒したり。本来、暴走して星を亡ぼすはずだった闇魔女の心を安定させたり。でもその恩あるヒジリが、とあるマジックアイテムのせいで死にそうになっていたでヤンスから、あっしは唯一使える転移魔法で、ヒジリをビヨンドに連れて来たんでヤンス」

「マジックアイテム?」

「そうでヤンス。実は今までマサヨシやヒジリが過ごした世界は、禁断の箱庭というマジックアイテムの中だったでヤンス」

「え? 夢落ちみたいなお話? 箱庭の中の俺達は、幻でしたみたいな~?」

「違うでヤンス。君たちは君達でヤンス。マジックアイテムは、現実世界とそっくりに作り出した箱庭に、あらゆる人々の魂の半分を封じ込めるものでヤンス」

「そんな事して、何になるのでつか?」

「箱庭は過去を再現する事も出来るんでヤンスよ。ウンモ星人が去った後、別宇宙からやって来たアヌンナキという宇宙人が、この宙域を支配しました。彼らは主に地球に介入して恩恵を与えていたのだけど、それは地球の資源が欲しかったからでヤンス。アヌンナキ星人は、介入した星から資源を幾らか取るとそのまま放置して、次の宇宙に行くでヤンスよ。放置された星の殆どが、後に統制が取れなくなり、マナ暴走で滅んでしまうのでヤンス。地球は他の星よりもマナ粒子が極端に少なく不遇ゆえ、その破滅から逃れる努力ができたでヤンス」

「それと過去を再現できる箱庭が、どう関係しているんでつか?」

「せっかちでヤンスね。話はこれからでヤンス。アヌンナキは未発達な知的生命体に知性を授け、色々な知識を与えるんでヤンス。一見良い事のように思えますが、彼らが介入した殆どの星が滅んでいるという事で、他の宇宙人からは批難されているんでヤンスよ。それでも彼らは無視し続けたので、とうとう母星を破壊されたでヤンス」

「まぁ因果応報ですな」

「しかしアヌンナキ星人は、巨大な移動式コロニーに避難しており、絶滅を免れたでヤンス」

「そこまでされたのだから、勿論反省したんでつよね?」

「答えは、いいえでヤンス。その後も同じ事を、色んな宇宙で続けて他の宇宙人の怒りを買い、結局、討伐される事になるのでヤンス。サカモト博士やヒジリが倒した邪神は、元々はアヌンナキ討伐用のアンドロイドでした。そのアンドロイドは、色んな知的生命体や物を取り込みながら成長し、苦戦の末、アヌンナキを討伐しましたが、色んなものを取り込んだ事で、エラーやバグが発生して狂ってしまったんでヤンス」

「また狂気か・・・。私には常に狂気が付き纏うな・・・」

 ヒジリは鼻に皺を寄せて、不愉快な気持を顔に出す。

「しかし、そこまでしても、アヌンナキ星人は滅んでもおらず、自らを時間停止させて身を隠していたでヤンス。彼らは、邪神が箱庭の外のヒジリによって破壊された事を知ると喜んだでガンス」

「ガンス? しっかりキャラ付けしとけよぉ~。オフフ」

「間違ったでヤンス・・・」

 マサヨシは中々箱庭まで辿り着かないこの話に少し飽きて、ヒジリに貰った炭酸水をグビリと飲んだ。

「復活したアヌンナキ星人が次に興味を持ったのは、この星なんでヤンス。彼らはマナに直接頼らない進化をしてきたので、魔法やマジックアイテムにとても興味持ったでヤーンス」

「で、この禁断の箱庭を見つけてしまった、というわけでつね?」

「そうでヤーンス。この箱庭が何故、禁断かというと、再現した過去が現実に影響するからでヤンス」

「おったまげ~! 何の為にそんな危険な物を作ったのでつか! 誰でつか! そんな神様レベルの物を作ったのは!」

「さっきも言った変革をもたらす者、でヤンス」

「なるほど。恐らく箱庭は小規模な事に対して使っていたのではないかな。例えば観察中の貴重な植物や動物を死なせてしまって、経過や結果が解らなかった時に使うとか」

 ヒジリは心の中で禁断の箱庭が欲しいと思った。

「その通り。このマジックアイテムを発明した能力者は良識があり、ごく小規模の範囲に限定して使っていたでヤンス。で、後々の危険性を考慮して封印していたのを、復活したアヌンナキ星人が見つけてしまったでヤンス」

「余計な事するなぁ・・・。で、俺達の魂は封じ込められたのでつね?」

「そうでヤンス。彼らはよくわかりもしないで禁断の箱庭をいじり、ごく最近の過去から始めてしまったでヤンス。彼らも最初の内は、箱庭の中を興味深げに見ていましたが、邪神復活の要素ありと解ると、別の宇宙に逃げて行ったでヤンス。もしヒジリが邪神を倒せなかった場合、アヌンナキは邪神に追い回されるでヤンスから」

「結果を見る前に逃げて行くとは、余程邪神にトラウマがあるみたいだな。もし邪神が正常であったなら、私ではどうする事も出来ないほど、強力な敵だったかもしれない」

「実際、邪神は復活した時に、それほど狂ってなかったでヤンス。ただマナを取り込んだ事で、ヒジリとの相性が悪くなり滅んだんでヤンス。ヒジリはマナを消滅させるでヤンスからね」

「ふむ・・・」

 壮大過ぎる話にヒジリはこれが本当の話かどうか判らなくなってきた。よく考えれば自分の腕は邪神と同化して離れなくなっていたはずだ。ここに来るには切り離して来なければならないが、自分の右腕はここにある。

 四次元世界というのは時間も自分の思い通りに出来ると聞いた事がある。腕があるのは自分が完璧だった時の体だからだろうと、ヒジリは適当に納得する。

「で、ヤンスはただ私を助けたわけではないのだろう? いや、運命の神カオジフと呼んだ方が良いかね?」

「いや、ヤンスでいいでヤンス。どうせ箱庭の中に戻ればここであった出来事は、誰しもが忘れるでヤンスから。ヒジリを助けたのは、箱庭の外のヒジリに恩があるし、特異点なのでこの世界から消える事の無い存在だからでヤンス。ヤンスが助けなくてもいずれ復活していたかもしれないでヤンス。でも今助けた方が良い気がしたでヤンス」

「どうしてかね?」

「ヒジリが箱庭の内側から、解除スイッチのある遺跡まで辿り着く可能性が、一番高いからでヤンス。その遂行は早ければ早い程いいでヤンスからね」

「それはセイバー・・・、私の息子にも出来そうだが・・・。彼は現実世界から、箱庭に入ってこれる程の力があるじゃないか」

「彼に箱庭の中を過去だと思わせたのはヤンスでヤンスよ。どの道似た様なものでヤンスからね。箱庭への移動は、サカモト粒子を上手く操る彼にしか出来ない芸当でヤンスよ。ヒジリの負担を少しでも軽減させられたらと思って、あの自由騎士に侵入方法を教えたのでヤンスが、結局上手くいかなかったでヤンス」

「最初からセイバーに全てを話して、そのように動いてもらえば良かったのでは?」

 ヒジリは「この神は回りくどいな」と考える。

「残念ながら神にも、誰が決めたか判らないルールがあるでヤンス。神がこの世界の理を話しても、誰も覚えていないように出来ているでヤンス」

「色々と不便なのだな。出来る事は転移魔法と、世界を見る事と不、死身の体かね?」

「そうでヤンス。そして今回の行動も、その神のルールを破っているでヤンス。暫くは星に関わる事が出来なくなるでヤンスよ。これまでは遠回しなお告げや、導きも出来ていたでヤンスが、それも出来なくなるでヤンス」

「残念だな。少しの間、あの実況は聞けなくなるわけか。君には一部の固定ファンがいたのだが。さて、ではそろそろ箱庭の中に戻してくれるかな?」

 ヒジリがそう言うと、マサヨシが慌てて話に割り込んでくる。

「なぁ、ヤンス。ヒジリが箱庭の解除を成し遂げたら、俺たちや世界はどうなるのでつか?」

「魂は確実に半身に戻るでヤンスが、世界はどうなるかは判らないでヤンス。箱庭の影響が綺麗さっぱり無くなるのか、はたまたその逆か。でもこのまま箱庭を放置しておけば、碌な事にならない気がするでヤンスよ」

「わかんねぇとな? 頼りない神でつなぁ・・・」

「面倒だが箱庭に戻るしか、解決方法はあるまい。戻って日常生活を送ればいいのだな?」

「はいでヤンス」

「では戻ろう。・・・それからマサヨシ、心配してこんな所まで来てくれて、ありがとう」

 ヒジリはマサヨシをハグをする。

 もしこの場にウメボシがいれば、自分とマサヨシの周りに薔薇のホログラムを浮かべたかもしれない、とヒジリは密かに考えて小さく笑う。

「ちょっ・・・。やめ・・・。惚れてまうやろ~!」

「嫁に来るかね?」

「いくかっ!」

 二人は抱き合ったまま、ヤンスの転移魔法で箱庭まで送られた。
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