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異世界転生マサヨシ
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「正義君、ドンピシャだった!」
「そ、そうでつか? それはよかったでつ。オフフ!」
マサヨシはアルバイト先の店長に褒められて、頭を掻く。
引き籠りではあったが、何となく外で一杯飲みたくなったマサヨシは、立ち飲み屋で意気投合したゲーム屋の店長の店で、今はアルバイトをしているのだ。
「それにしても助かるよ。最近のゲームはダウンロード販売もあるし、ネット販売もある。わざわざ店まで足を運んで、ゲームを買う人がいなくてね。アルバイトを募集しても自給が安くて、誰も来てくれなかったんだ。だから君を飲み屋でスカウトしたのは正解だったよ! 君の言うとおりにカードゲームやらプラモデル、フィギア、レトロゲームなんかを置いてみたら、外国人がどんどん買ってくれるようになって、売り上げが伸びまくり!」
店長はゲームマニアではあるが、幅広い知識のあるオタクではなかったので、マサヨシのオタク知識をありがたがっている。
マサヨシは照れながら、店長が入荷したとあるレトロゲームに気が付く。それはショーケースの中で目立つように置かれていた。お値段なんと三十万円!
「あれ! これウィザードドラゴンじゃないでつか! バリバリ硬派の洋物ダンジョンRPGでそ! これって販売数も少ない上に、マニアが多くて誰も手放さないから、中古市場に出回らないソフトでつよね?」
「お! よく気が付いたね。そう、これ実家で失くしたと思ってたんだけど、蔵の奥で眠っていたんだ。しかも厳重に保管していたので新品同様」
「はぁ~、懐かしいなぁ~。俺、これにハマって、忍者をレベル千まで上げた事あるんすよ」
「え? 千? そりゃ凄いね! でもねぇ・・・。レベル高くても、死ぬ時は死ぬんだよねぇ・・・」
「そうなんでつよ、低階層の首刎ね兎ちゃんにクリティカルヒットを受けて、あっさりと即死とか・・・」
「あるある。あと確率は低いけど、低層でも中層以降のレアアイテムが見つかったりね。初見プレイで、地下一階でドラゴンキラー見つけた時は驚いたよ! だってこのゲーム、ラスボスがドラゴンでしょ? 悪そうなドラゴンがプロローグで、グハハ! って笑ってるから、ラスボス殺しの剣を見つけたと思って、喜んだもんさ。まぁ単にロングソードの攻撃力が、ドラゴン相手だと四倍になるってだけの剣だったけど」
「あ~、それ俺も同じ様に喜びますた。ドラゴンが出てくる頃には、もっと強い武器がドロップされるから、役に立たなくなるんでつよね。オフッオフッ! 俺もドラゴンキラーをリアルで持ってましたけど、一度も役に立った事なくて」
「ん? え? リアルで? そりゃ役に立ったら困るよ。あ? もしかして下ネタかい? ワハハハ!」
「ほぇ? オフフフ!」
(あれ? リアルで? 俺、何でそんな事言ったのかな。オフフフ・・・)
アルバイトを終えて家に帰ったマサヨシは、店に来たオタク系女子が可愛かった事を思い出して、ニヤついていた。
「オフッ! あの子可愛かったなぁ・・・。俺の事、イケメンって言ってくれたし。そんなに見た目が変わったかなぁ? 以前は少し太ってただけで、今とそう変わらんでもないような・・・」
ガラッと居間の襖が開いて、妹の子供たちが走り寄って来る。
「正義おじちゃん、お帰り!」
子供たちが襖を開けた途端、居間からエアコンの冷たい風が流れて来て心地良い。
「なんだ~、お前達、来ていたのか~」
幼稚園に通う兄弟は、叔父によじ登ろうとしている。マサヨシを二人を抱きかかえて、感覚的に重さを量ってみた。
「まだまだ軽いな~。コロネちゃんと、どっちが軽いかな?オフ!」
「コロネちゃんって誰? 外国の子?」
「え? あれ・・・? コロネちゃんは・・・。おじちゃんが書いてた小説の中のキャラクターかな? 多分・・・」
「な~んだ」
居間から妹の千佳が、顔を見せる。
「ちょっとお兄ちゃん。子供に脳内妄想の話しないでよね。イケメンになっても、中身は昔のまんまじゃん・・・」
「これ! 千佳! お兄ちゃんは社会復帰に頑張ってんだよ! 心を折るような事を言うんじゃないよ!」
奥から母親の声が聞こえて来た。
「その程度で折れるか! アホッ!」
マサヨシはバックから自分が食べようと買ったチョコバーを出して、千佳の子供たちに渡す。
「おじちゃん、汗臭いからシャワーで、体をシャワワ~してくるね」
「わかったー!」
風呂場へ向かう廊下で、マサヨシは何かを思い出せそうで思い出せない。胸のモヤモヤに首を捻って歩く。
「う~ん。ちびっ子たちに集られると、何かを思い出しそうになるんだけどな~。なんだったかな~。なんかピンクのお城に、お菓子を持って行った時にも、サヴェリフェ家の姉妹に集られたような・・・。ハワッ! 俺、まさか! 自分の書いた小説と現実の区別がつかなくなっているのかも・・・・ これはヤバい。ヤバいですぞ~・・・」
マサヨシは急いで脱衣所で服を脱ぐと、冷たいシャワーを頭から浴びた。
「放置作戦が功を奏したんだな。ハッハッハ!」
父親が夕飯の席で笑う。これまで引きこもり対策をしてこなかった父に、母が肘打ちを食らわせた。
「お母さんね、アンタが部屋の中で死んでるんじゃないかと、いつも不安だったんだから。いつの間にかアルバイトしてたり、イケメンになってたりで、驚いたわ」
「まぁ、気配殺して時々外に出てましたしお寿司。だって外出中に、玄関のドアの鍵を変えられちゃうかもしれないだろ?」
「しないわよ、そんな事! ウフフフ!」
ウフフフと笑う母親の目は笑っていない。
こうやって家族が集まって食事をするのは何年振りだろうか。しかも妹の子供までいる。
「それにしても、静かだった食卓が急に賑やかになったもんだねぇ」
母親は孫たちにもっとお食べと、おかずをよそっている。妹の子供たちは、チョコバーを食べた事を忘れたかのようにモリモリとご飯を食べていた。
「正義もスタートダッシュこそ遅かったけど、これでようやく人並みの生き方が出来るんじゃないかな?」
「人並って・・・。そりゃないでしょお父ちゃん。今までの俺は、何だったんだって話でつよ」
「ん~、豚かな? 食って寝て起きて、また食って寝て。豚と人の間の豚人ってところか」
「うわ! お父さん酷い! 流石の私もそんな事言えないよ! プークススス!」
「豚人・・・。なんか前にも誰かに言われたような・・・。いや・・・、これは小説の話か・・・」
「何ブツブツ言ってんの? お兄ちゃん」
「豚人・・・」
―――彼が豚人のマサヨシだ!
―――誰が豚人でつか!
自分が書いた小説において、スーパーヒーローであるヒジリは、自分を豚人と言って紹介した事は一度も無い。
自分を主人公にした小説で、自分を卑下するような物語を誰が書くだろうか? いや、そういう人もいるかもしれないが、良い格好しいの自分は絶対に書かない。
小説を書いた傍から、内容を忘れていく正義は、一生懸命自分の書いた小説を思い出していた。
内容は、ある日突然、アルケディアに異世界転生した自分が、底辺からのし上がっていくストーリーだ。
魔法無効化能力以外、何の取柄もない自分は、生きるために必死に働いて資金を作り、冒険者として成り上がっていく。
途中で出会った異世界の地球人オオガ・ヒジリと一緒に冒険をしたりもした。結局、二人とも邪神にやられてバッドエンドになったわけだが・・・。
「お兄ちゃんの小説って、どんな話なの?」
突然思考停止して動かなくなったように見える兄に気を使って、妹の千佳は話しかける。
「え? ああ。小説? 異世界人が未開な世界に行ったら無敵だった件っていうタイトルの、在りがちな異世界転生ファンタジーだよ。主人公は底辺から頑張って成り上がっていくんだけど、結局最後は死んで終わりっていうね。オフフフ! お気に入り数も184しかなーい」
「そうなんだ? よく書いたね、そんなの。バッドエンドとかって萎えるし。それって最後にちゃぶ台ひっくり返して、ぶち壊しって事でしょ?」
「まぁね。でもそういう終わり方があってもいいでそ。別に」
「どっかの出版社の目に止まって、本になればいいな、正義。ワハハ!」
父親が夢みたいな事を言って笑う。
普通はそんな小説を書いていないで、真面目に働けと言ったりするものだが、のんびり屋の父親は、そういう事を一切言わない。
「いや、無理でそ。誤字脱字多いし、説明不足も多い。お気に入りがあるだけでも奇跡レベルでつから。読者に感謝感謝。オフフフ!」
「自分で限界を作ったらそこで終わりだぞ、正義。夜空に瞬く星のような、微かな光でも光は光だ。頑張りなさい」
「うん、ありがと・・・」
光・・・。
時折、見える記憶の中の光。
光は希望の象徴だと、誰が決めたのだろうか?
自分が見たその光は、恐怖でしかない。
何故、恐怖を感じたのか・・・。
どんな恐怖を感じたのか。
人生の終わり。絶望。愛しい世界との別れ。そして怯えて何も出来なかった、無力な自分への悔しさ。
「あああ、思い出した・・・。俺は・・・! あそこで死んだんだ・・・。あのバッドエンドは・・・! 小説の話なんかじゃない!」
突然立ち上がって頭を抱える兄に、千佳は驚く。
「どうしたの? お兄ちゃん!」
「正義!」
父親はマサヨシの肩を揺する。
「戻らなきゃ! 急いで戻らなきゃ! ヒジリをイメージするんだ! 探れ! 彼のいる世界を探れ!」
「お兄ちゃん!」
マサヨシは異世界転移の準備をする。
(確か異世界転移の条件は、ゲップとオナラを同時にする事! 出来る! 今なら出来る!)
「ゲフォーーー!!」
―――ブッ!
生ごみのような臭いが部屋に充満した途端、世界は暗転し、現実世界が小窓のように小さくなって消えていく。窓の向こうで、驚く家族の顔が見えた。
「ごめん、皆。俺、行かないと。何の確証もないけど、ヒジリを救えるのは、俺しかいない気がするんでつ」
世界は暗いままだったが、大きな太陽の前に立つヒジリが見えた。その前には、何故か眼鏡をかけたゴブリンが立って何かを説明している。
ヒジリはいつもの癖で、顎を撫でて難しい顔をしていた。
「おぉい! ヒジリ氏! たーすけに来たぞーい!」
マサヨシが声を掛けると、ヒジリは驚いた顔で振り返った。
「マサヨシ・・・。君もか・・・」
「そ、そうでつか? それはよかったでつ。オフフ!」
マサヨシはアルバイト先の店長に褒められて、頭を掻く。
引き籠りではあったが、何となく外で一杯飲みたくなったマサヨシは、立ち飲み屋で意気投合したゲーム屋の店長の店で、今はアルバイトをしているのだ。
「それにしても助かるよ。最近のゲームはダウンロード販売もあるし、ネット販売もある。わざわざ店まで足を運んで、ゲームを買う人がいなくてね。アルバイトを募集しても自給が安くて、誰も来てくれなかったんだ。だから君を飲み屋でスカウトしたのは正解だったよ! 君の言うとおりにカードゲームやらプラモデル、フィギア、レトロゲームなんかを置いてみたら、外国人がどんどん買ってくれるようになって、売り上げが伸びまくり!」
店長はゲームマニアではあるが、幅広い知識のあるオタクではなかったので、マサヨシのオタク知識をありがたがっている。
マサヨシは照れながら、店長が入荷したとあるレトロゲームに気が付く。それはショーケースの中で目立つように置かれていた。お値段なんと三十万円!
「あれ! これウィザードドラゴンじゃないでつか! バリバリ硬派の洋物ダンジョンRPGでそ! これって販売数も少ない上に、マニアが多くて誰も手放さないから、中古市場に出回らないソフトでつよね?」
「お! よく気が付いたね。そう、これ実家で失くしたと思ってたんだけど、蔵の奥で眠っていたんだ。しかも厳重に保管していたので新品同様」
「はぁ~、懐かしいなぁ~。俺、これにハマって、忍者をレベル千まで上げた事あるんすよ」
「え? 千? そりゃ凄いね! でもねぇ・・・。レベル高くても、死ぬ時は死ぬんだよねぇ・・・」
「そうなんでつよ、低階層の首刎ね兎ちゃんにクリティカルヒットを受けて、あっさりと即死とか・・・」
「あるある。あと確率は低いけど、低層でも中層以降のレアアイテムが見つかったりね。初見プレイで、地下一階でドラゴンキラー見つけた時は驚いたよ! だってこのゲーム、ラスボスがドラゴンでしょ? 悪そうなドラゴンがプロローグで、グハハ! って笑ってるから、ラスボス殺しの剣を見つけたと思って、喜んだもんさ。まぁ単にロングソードの攻撃力が、ドラゴン相手だと四倍になるってだけの剣だったけど」
「あ~、それ俺も同じ様に喜びますた。ドラゴンが出てくる頃には、もっと強い武器がドロップされるから、役に立たなくなるんでつよね。オフッオフッ! 俺もドラゴンキラーをリアルで持ってましたけど、一度も役に立った事なくて」
「ん? え? リアルで? そりゃ役に立ったら困るよ。あ? もしかして下ネタかい? ワハハハ!」
「ほぇ? オフフフ!」
(あれ? リアルで? 俺、何でそんな事言ったのかな。オフフフ・・・)
アルバイトを終えて家に帰ったマサヨシは、店に来たオタク系女子が可愛かった事を思い出して、ニヤついていた。
「オフッ! あの子可愛かったなぁ・・・。俺の事、イケメンって言ってくれたし。そんなに見た目が変わったかなぁ? 以前は少し太ってただけで、今とそう変わらんでもないような・・・」
ガラッと居間の襖が開いて、妹の子供たちが走り寄って来る。
「正義おじちゃん、お帰り!」
子供たちが襖を開けた途端、居間からエアコンの冷たい風が流れて来て心地良い。
「なんだ~、お前達、来ていたのか~」
幼稚園に通う兄弟は、叔父によじ登ろうとしている。マサヨシを二人を抱きかかえて、感覚的に重さを量ってみた。
「まだまだ軽いな~。コロネちゃんと、どっちが軽いかな?オフ!」
「コロネちゃんって誰? 外国の子?」
「え? あれ・・・? コロネちゃんは・・・。おじちゃんが書いてた小説の中のキャラクターかな? 多分・・・」
「な~んだ」
居間から妹の千佳が、顔を見せる。
「ちょっとお兄ちゃん。子供に脳内妄想の話しないでよね。イケメンになっても、中身は昔のまんまじゃん・・・」
「これ! 千佳! お兄ちゃんは社会復帰に頑張ってんだよ! 心を折るような事を言うんじゃないよ!」
奥から母親の声が聞こえて来た。
「その程度で折れるか! アホッ!」
マサヨシはバックから自分が食べようと買ったチョコバーを出して、千佳の子供たちに渡す。
「おじちゃん、汗臭いからシャワーで、体をシャワワ~してくるね」
「わかったー!」
風呂場へ向かう廊下で、マサヨシは何かを思い出せそうで思い出せない。胸のモヤモヤに首を捻って歩く。
「う~ん。ちびっ子たちに集られると、何かを思い出しそうになるんだけどな~。なんだったかな~。なんかピンクのお城に、お菓子を持って行った時にも、サヴェリフェ家の姉妹に集られたような・・・。ハワッ! 俺、まさか! 自分の書いた小説と現実の区別がつかなくなっているのかも・・・・ これはヤバい。ヤバいですぞ~・・・」
マサヨシは急いで脱衣所で服を脱ぐと、冷たいシャワーを頭から浴びた。
「放置作戦が功を奏したんだな。ハッハッハ!」
父親が夕飯の席で笑う。これまで引きこもり対策をしてこなかった父に、母が肘打ちを食らわせた。
「お母さんね、アンタが部屋の中で死んでるんじゃないかと、いつも不安だったんだから。いつの間にかアルバイトしてたり、イケメンになってたりで、驚いたわ」
「まぁ、気配殺して時々外に出てましたしお寿司。だって外出中に、玄関のドアの鍵を変えられちゃうかもしれないだろ?」
「しないわよ、そんな事! ウフフフ!」
ウフフフと笑う母親の目は笑っていない。
こうやって家族が集まって食事をするのは何年振りだろうか。しかも妹の子供までいる。
「それにしても、静かだった食卓が急に賑やかになったもんだねぇ」
母親は孫たちにもっとお食べと、おかずをよそっている。妹の子供たちは、チョコバーを食べた事を忘れたかのようにモリモリとご飯を食べていた。
「正義もスタートダッシュこそ遅かったけど、これでようやく人並みの生き方が出来るんじゃないかな?」
「人並って・・・。そりゃないでしょお父ちゃん。今までの俺は、何だったんだって話でつよ」
「ん~、豚かな? 食って寝て起きて、また食って寝て。豚と人の間の豚人ってところか」
「うわ! お父さん酷い! 流石の私もそんな事言えないよ! プークススス!」
「豚人・・・。なんか前にも誰かに言われたような・・・。いや・・・、これは小説の話か・・・」
「何ブツブツ言ってんの? お兄ちゃん」
「豚人・・・」
―――彼が豚人のマサヨシだ!
―――誰が豚人でつか!
自分が書いた小説において、スーパーヒーローであるヒジリは、自分を豚人と言って紹介した事は一度も無い。
自分を主人公にした小説で、自分を卑下するような物語を誰が書くだろうか? いや、そういう人もいるかもしれないが、良い格好しいの自分は絶対に書かない。
小説を書いた傍から、内容を忘れていく正義は、一生懸命自分の書いた小説を思い出していた。
内容は、ある日突然、アルケディアに異世界転生した自分が、底辺からのし上がっていくストーリーだ。
魔法無効化能力以外、何の取柄もない自分は、生きるために必死に働いて資金を作り、冒険者として成り上がっていく。
途中で出会った異世界の地球人オオガ・ヒジリと一緒に冒険をしたりもした。結局、二人とも邪神にやられてバッドエンドになったわけだが・・・。
「お兄ちゃんの小説って、どんな話なの?」
突然思考停止して動かなくなったように見える兄に気を使って、妹の千佳は話しかける。
「え? ああ。小説? 異世界人が未開な世界に行ったら無敵だった件っていうタイトルの、在りがちな異世界転生ファンタジーだよ。主人公は底辺から頑張って成り上がっていくんだけど、結局最後は死んで終わりっていうね。オフフフ! お気に入り数も184しかなーい」
「そうなんだ? よく書いたね、そんなの。バッドエンドとかって萎えるし。それって最後にちゃぶ台ひっくり返して、ぶち壊しって事でしょ?」
「まぁね。でもそういう終わり方があってもいいでそ。別に」
「どっかの出版社の目に止まって、本になればいいな、正義。ワハハ!」
父親が夢みたいな事を言って笑う。
普通はそんな小説を書いていないで、真面目に働けと言ったりするものだが、のんびり屋の父親は、そういう事を一切言わない。
「いや、無理でそ。誤字脱字多いし、説明不足も多い。お気に入りがあるだけでも奇跡レベルでつから。読者に感謝感謝。オフフフ!」
「自分で限界を作ったらそこで終わりだぞ、正義。夜空に瞬く星のような、微かな光でも光は光だ。頑張りなさい」
「うん、ありがと・・・」
光・・・。
時折、見える記憶の中の光。
光は希望の象徴だと、誰が決めたのだろうか?
自分が見たその光は、恐怖でしかない。
何故、恐怖を感じたのか・・・。
どんな恐怖を感じたのか。
人生の終わり。絶望。愛しい世界との別れ。そして怯えて何も出来なかった、無力な自分への悔しさ。
「あああ、思い出した・・・。俺は・・・! あそこで死んだんだ・・・。あのバッドエンドは・・・! 小説の話なんかじゃない!」
突然立ち上がって頭を抱える兄に、千佳は驚く。
「どうしたの? お兄ちゃん!」
「正義!」
父親はマサヨシの肩を揺する。
「戻らなきゃ! 急いで戻らなきゃ! ヒジリをイメージするんだ! 探れ! 彼のいる世界を探れ!」
「お兄ちゃん!」
マサヨシは異世界転移の準備をする。
(確か異世界転移の条件は、ゲップとオナラを同時にする事! 出来る! 今なら出来る!)
「ゲフォーーー!!」
―――ブッ!
生ごみのような臭いが部屋に充満した途端、世界は暗転し、現実世界が小窓のように小さくなって消えていく。窓の向こうで、驚く家族の顔が見えた。
「ごめん、皆。俺、行かないと。何の確証もないけど、ヒジリを救えるのは、俺しかいない気がするんでつ」
世界は暗いままだったが、大きな太陽の前に立つヒジリが見えた。その前には、何故か眼鏡をかけたゴブリンが立って何かを説明している。
ヒジリはいつもの癖で、顎を撫でて難しい顔をしていた。
「おぉい! ヒジリ氏! たーすけに来たぞーい!」
マサヨシが声を掛けると、ヒジリは驚いた顔で振り返った。
「マサヨシ・・・。君もか・・・」
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