未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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蹂躙する鉄傀儡

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 モリ森の奥深くで冒険者パーティ「才能ある凡夫」は岩陰や草むらに潜んで鉄傀儡の様子を窺っている。先に来たギルドの多くの仲間たちが鉄傀儡に倒されて戦闘不能になり、地面に寝転がっていた。

「あれはムロの鉄傀儡の色違いに見える」

 バートラ出身のアサッシンは簡素な望遠鏡で宙に浮いて微動だにしない鉄傀儡を窺っている。その隣でオークの呪術師が何かを思い出す様に頭を掻いてメンバーに情報を伝える。

「ムロの鉄傀儡っていや、他の丸っこい鉄傀儡よりも性能が良いって聞くぜ?」

 全体的に尖った形をする黒い鉄傀儡は、バートラで見たムロという機工士の所有する白い鉄傀儡にそっくりに見えた。

 木のような肌をした人型の種族が呪術師の情報を補足する。

「ああ、しかもムロの鉄傀儡は丸っこい鉄傀儡を従える事が出来るらしいんだが、この鉄傀儡は一機だけだなィ」

「だかだこそ、皆やれると思ってしまったんだ。そしてこの有り様だ」

 オーガの戦士は、地面に這いつくばって今にも命の灯が消えそうな冒険者ギルドの仲間たちを見て悔しそうな顔をする。

「時代は変わったな。オーガのお前が倒れている仲間の心配をするなんて。お前らオーガはちょっと前まで仲間が倒れていても知らんぷりしてたのに」

 リーダーらしきレンジャーのホブゴブリンが大きな弓矢を作りながら言う。

「おでもヒジランドのオーガ達の真似がしたくなった。砦の戦士ギルドはチームワークを重要視するようになって更に強くなった。だかだ真似して何が悪い」

「悪くはないさ。これでもうお前が勝手に前に飛び出す事がなくなると思うと気が楽だぜ」

 フフッと笑うリーダーにオークが話しかける。

「なぁ。あの鉄傀儡、俺らに気が付いている気がするンだが。何でか知らねえが襲ってこねぇな。もしかしてこちらから攻撃しない限り、襲って来ないんじゃねぇの?他のパーティは金欲しさに問答無用で鉄傀儡に襲い掛かったみたいだが・・・。俺らはどうする?」

 オークの呪術師はお腹が減ったのか、ローブのフードから干し肉を取りだして齧った。それをリーダーのホブゴブリンが怪訝な顔で見つめる。

「どこに干し肉入れてんだよ。落ちるだろ、そんな所に入れてたら。・・・取りあえずウッドヒットは近くで倒れている奴らに【再生】の魔法をかけてくれ」

 トレントと呼ばれる珍しい種族のドルイドは、横目で鉄傀儡をちらりと見てから、少し離れた場所で倒れているゴブリンに水魔法【再生】をかけた。光魔法にも似た様な魔法はあるが、闇側の種族は光魔法を唱えられない。

 【再生】の魔法をかけられたゴブリンは傷が少しずつ回復していっているのが見てとれたが気絶したままだ。

「よし、回復魔法で鉄傀儡の注意は引かなかったようだな。他の奴等にも頼む」

「うィ」

 トレントのウッドヒットは更に他の倒れた仲間達に回復施す。

「傷は少しずつ治せてるが、気絶ばっかりはどうしようもねぇど」

 オーガ戦士のフムガーは、ウッドヒットの回復魔法で傷が癒えていく他パーティのメンバーを抱えては木の下へと運んで行く。もう鉄傀儡は襲って来ないと確信したのか、身を隠す素振りも見せない。

 しかし、フムガーのその軽率な行動が鉄傀儡を反応させる。

 ピピー、ガー!と奇妙な音をさせて鉄傀儡は顔をオーガ戦士の方へと向けた。

「おい!フムガー逃げろ!あいつ、お前を見ている!」

 リーダーの声にフムガーは鉄傀儡を見て、倒れている冒険者を見た。

 フムガーの頭に真っ先に頭に浮かんだのが、気絶した他のパーティメンバーを戦闘に巻き込んではいけないという事だった。

 気絶した冒険者達からドスドスと走って離れ、誰もいない木の下を目指すフムガーを黒い鉄傀儡は光るデュアルアイで追いかける。

 次の瞬間、フムガーの脚が鉄傀儡の目から放たれたビームで貫かれた。

「いぎぃ!」

 倒れて右太腿を押さえるフムガーは必死に痛みを耐えている。心配そうにこちらを見つめるリーダーに目でこっちに来るなと合図を送っている。

「フムガー!」

「く、くんなっで!グンダリ」

「仲間だろうが!ほっとけるか!」

 ホブゴブリンのリーダー、グンダリは自分の身長ほどもある大弓の弦を引いた。

 ビュッ!と音がして太い大矢が空中に浮く鉄傀儡目掛けて飛んでいく。

 その矢を当然のように躱し、鉄傀儡は地面に降りた。ゆっくりと歩いてフムガーに近づき手に持った柄の長いハンマーを振り上げたその時。

 ドルイドの土魔法【蔓縛り】が鉄傀儡を絡めとる。見えない魔法のロープで縛る【捕縛】と違って蔓で絡めとるという物理的な捕縛に近いので魔法抵抗値が高い者にも効果はある。

「ナイス、ウッドヒット!」

「そう長くはもたないィ。早くフムガーを!ブットン!例の呪術をフムガーにィ!」

「よしきた!」

 呪術師のブットンは杖を一回頭の上で回してからフムガーに向けると、彼は何事もなかったように立ち上がって逃げ出す。

 が、フムガーの貫かれた太腿からは血がダラダラと流れ落ちている。痛みを無くし、損傷した体の機能を一時的に補う闇の呪術【痛み騙し】は下手をすれば傷を余計にひどくする。

「すぐに【再生】をかけるからなィ!」

 パーティは鉄傀儡から十分に離れてから、岩陰に隠れた。ウッドヒットがフムガーを治している間に、アサッシンは遠眼鏡で鉄傀儡の様子を窺う。

「よし、いいぞ。上手い事、蔓が絡んでいる。逃げる時間はありそう・・・なに?!」

 一瞬、鉄傀儡がぶれて見えたと思ったら、絡まっていた蔓が緩んで地面に落ちていく。

「何が起きた?くそ!鉄傀儡がこっちに来るぞ!」

 狼狽するアサッシンにリーダーのグンダリは指示を出した。

「ナハト、閃光玉を投げろ!」

 ナハトと呼ばれたアサッシンゴブリンは言われた通り、ゆっくりとこちらに向かってくる鉄傀儡に小さな玉を投げた。
 
 玉は空中で破裂し、辺り一面を白く照らす。

「効果あったか?」

 グンダリがナハトに様子を聞いたが返事はない。その代りに立ったまま動かないナハトの頭から肉の焼けこげる臭いと煙が上がっていた。眉間を正確に光線で撃ち抜かれていたのだ。

「ああああ!くそ!ナハトがやられた!くそ!くそ!」

 グンダリがナハトの遺体を岩陰に隠す。

「すまねぇナハト。故郷の嫁さんになんって言ったら・・・。皆、散開しろ!いいか、とにかく逃げて皇帝陛下にこの事を伝えるんだ!冒険者の手に負える依頼じゃねぇってな!」

 残った四人は岩陰から飛び出すと散り散りになって走り出した。ナハトの死体を置いていくのは心苦しいが生き延びる事が優先だ。

 方々に逃げて行く冒険者達を見て鉄傀儡は尖った肩を分離させ浮かせる。漏斗のような形をしたそれは逃げるドルイドのウッドヒットと呪術師のブットンを飛んで追いかけて脚を撃ち抜いた。

 逃げながらもその様子を見ていたブットンの目が涙で滲む。十年もの間苦楽を共にしてきた仲間たちが次々と殺されていく。

 最初は六人パーティだったが、戦士の一人が死んで、その戦士を偲ぶ意味で二度とメンバーの補充はしないと誓ったあの日の光景が浮かぶ。それ以降、仲間の絆は更に深まり、ベテラン冒険者と呼ばれるほどパーティは成長し、そこそこ名が知れるようになった。

 涙で滲むグンダリの目には、まだ息のあるブットンにフムガーが駆け寄る姿が見える。

「あいつ!馬鹿!逃げろって言ったのに!何してんだ!」

 足を止めて振り返ると、大弓を引いて鉄傀儡を狙う。そしてフムガーが何をしているのかを知って泣きながら笑った。

「はは!オーガが命乞いしてやがる!戦いで死ぬのを良しとするオーガが仲間の為に命乞いを・・・!」

 フムガーは鉄傀儡の前で跪いて両手を合わせて必死になって命乞いをしていた。土下座をしたり、この仲間が如何に大事かを鉄傀儡に向かって話しかけている。

 しかし鉄傀儡は言葉を理解しないのか、ハンマーを振り上げた。

「させるか!」

 レンジャーのグンダリはフムガーに注意を向けている鉄傀儡に向かって大矢を放つ。

 タイミング、力加減、狙い。どれをとっても完璧なその攻撃は会心のそれと言っても過言ではない。

 空気を切り裂いて飛ぶ大矢は見事鉄傀儡の胴体に命中した。矢が装甲を凹ませて突き刺さっている。

「やったぞ!くそったれめ!」

 グンダリには解っていた。この一撃で戦局が変わるわけではないと。しかし、どうしても一矢報いたかったのだ。心の中で、この隙にフムガーは逃げてくれと祈ってもう一矢構える。

 しかし鉄傀儡は「矢がどうした?」言わんばかりにこちらをチラリと見ると、目の前のフムガーとブットンを目から出る光線で撃ち抜いた。
 
「そんな・・・。フムガー・・・ブットン・・・」

 地面に仰向けになって倒れるフムガーとブットンの胸には大きな穴が開いていた。

「こうなったら俺だけでも逃げねぇと・・・。生き延びてヴャーンズ皇帝陛下に知らせねぇと死んだ仲間が浮かばれねぇ」

 そう言って走るも、足に力が入らない。フニャフニャとした足取りで逃げるグンダリの後ろから鉄傀儡がゆっくりとホバリングしながら近づいてくる。

「弄んでるのか?殺すなら一思いに・・・。早くしてくれ・・・」

 グンダリの願いに応えるように鉄傀儡の目が光ったその刹那。

 鉄傀儡の横から凄まじい衝撃波を放つ斬撃が鉄傀儡を切り裂いてバラバラにしてしまった。

「ふえ~。すげぇな。カー坊。俺がドラゴンキラーを振ってもそんな技は出せなかったでつよ」

「まぁ私は生粋の鉄騎士だからな。マ・・・マッサンは召喚士兼盗賊だろう?剣は扱えても力までは引き出せん」

 剣についてあれこれ話す何者かの足音が近づいて来る。グンダリは安心してへたり込むと呆けて地面を見た。
 
「大丈夫でつかな?ホブゴブリン君」

「ああ、何者か知らねぇけど、助かった・・・。でも仲間が・・・」

 ホブゴブリンは地面に涙を染み込ませて悔やみ、拳を叩きつけた。

 マサヨシは周りのあちこちで倒れている冒険者達を見て、うへぇと言って顎を引く。見るに堪えない状態の死体もあるからだ。

「ご愁傷さま・・・いや!待てよ!これは路銀を稼ぐチャンス!」

「むぅ?皇帝顧問殿は金に困ってはいないと聞いたが・・・」

 未来の世界でこの男がフーリー家に出入りして甘い汁を吸うのをカワ―は何度も見ていた。とにかく金に目ざとくて、がめつい。

「金を持ちすぎて困る事などないのでつよ。それに上級冒険者は金持ちだと聞いた事ありますぞ。今稼がないでいつ稼ぐの?ナウでしょう」

「また・・・例の天使を召喚するのかね?」

「それ以外に何があるんでつか?っていうか、喋り方がヒジリ氏そっくりですな。憧れてんのかな?」

「まぁ・・・。あの神に憧れていないオーガなどいないだろうからな?」

「くぅ~。いいねぇ。現人神ヒジリ様はよぉ~。誰からも愛されて!ぺっ!」

 マサヨシは「俺にも愛を下さい」と呟いてから唾を吐くと、天使を召喚した。

 天使は何故かいつもの白いローブを着ておらず下着姿だった。

「またですかぁ~。ご主人様ぁ~。そう何度も召喚されては困りますよぉ~。今からお風呂に入ろうと思ってたのに~」

「うるさいっ!契約に従ってちゃっちゃとその辺に転がってる冒険者達を生き返らせなさい!生きてる者には回復でつよ!」

 と言いつつも、後々どんな善行を押し付けられるのか、マサヨシはヒヤヒヤしている。こちらが提案する善行は、生ぬるいという事で全部却下されてしまうのだ。

「仕方ないなぁ~。じゃあやりま~す!」

 ぶるんとおっぱいを振るわせて両手を上げると、光が辺り一帯を包み込む。

 次々と冒険者たちが蘇るのを見てグンダリは開いた口を閉じるのを忘れてしまった。

「神だ・・・。これは神の奇跡だ・・・」

 それを聞いたマサヨシはポンと手を打つ。

(現人神になれるチャーンス!)

 マサヨシは尊大な顔をして大仏のようなポーズをとる。

「そう、朕は神なり。天使を操る神であーる。頭が高ーい!控えおろー!」

 神役と引き立て役を一人で二役するマサヨシは、その辺の石を拾って印籠の代わりとしたが、誰もマサヨシの行動が理解できなかった。

 しかし冒険者たちは自分を癒し蘇生してくれた召喚士マサヨシの元へ集まり跪く。

「なんとお礼を言っていいやら。良かった・・・。フムガー、ナハト、ブットン、ウッドヒット!うう・・・」

 リーダーのグンダリは蘇った仲間を一人ずつ抱きしめている。ほかの冒険者達も同様に仲間を抱きしめている。

「なんかもっとこう・・・殺伐としてたよね、帝国人って。いつからこんな風になったんでつか・・・」

「これも現人神ヒジリ様のお陰だろう。彼の活躍や考え方は魔法水晶のニュースや噂で流れているからな」

「くふぅー!またヒジリ氏の功績!まぁいいでつ。そりでは君たちぃ!懐のチャリチャリや高級装備を置いて行ってもらえるかな?蘇生代金として」

 冒険者たちはそれは当然の要求かと頷き、懐からお金の入った革袋を取り出しているとクソビッチ・テコキコフがストップをかけた。

「スタァァップ!そのお金は受け取れませ~ん。報酬を貰うとは何事ですか?ご主人様」

「え?別にいいじゃん。だって神聖国モティとか樹族国の神学庁とか莫大な報酬を要求してるしお寿司」

「ん~?彼らは胡散臭いですからね~。神の為に存在しているというよりも利権の為に存在しています。私にしてみれば偽物にしか見えませ~ん」

「でもそういった制限がないと人々は無限に生きようとするで?」

「勿論、易々と蘇生をするなんてもってのほかですぅ。私はご主人様のやりたいようにやらせていますが、いつか手痛いツケを払わされますよ?自然の摂理を歪め続けていると」

「怖い事いうなよぉ・・・。わかった。じゃあ、報酬は貰わない。これは善行でつよね?」

 マサヨシの問いにクソビッチの顔に怪しい笑みが浮かぶ。

「とんでもない。報酬を貰わないのは当然の事ですから。善行とはまた別のお話です」

 今回は三十人ほど生き返らせただろうか?けが人には回復もさせた。どんな要求をされるのか・・・。

 マサヨシの顔からみるみる生気が無くなっていった。
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