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ドラゴンキラー
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樹族が作った竜殺しのミドルソード。といっても彼らにとってはロングソードなのだが、マサヨシにとってはミドルソードでカワーにとってはショートソードに近い。
一振りする毎に竜が嫌がる音がするらしいが、その音は竜以外には聞こえない。試し振りをしてみたが確かにカワーの耳は何も音を拾わなかった。寧ろ、空気を切り裂く音すらしない。
「軽いな・・・」
剣を持ったオーガを警戒して動きを止めていたオーク達だったが、その中のショートスピアを持つオークが前触れもなく渾身の突きを放った。
それは余りに良い突きだったので誰もがオーガに致命傷を負わせる突きだと確信したが、スピアはオーガに届く前に柄をみじん切りにされ、バラバラと床に落ちた。
「ぶひぃ!やっぱり魔法の剣だ!」
槍で突いてきたオークは驚いて後ろに退くと、ショートソードを持ったオーク達が一斉にカワーに飛びかかる。
「その魔剣、俺達が奪って高く売ってやるよ!」
「笑止!豚肉の小間切れとなって輪廻の海に漂え!」
「おい!俺たちは豚じゃねぇ!」
オーク達に隙間なく飛びかかられたカワ―を中心に、魔法の赤い光と衝撃波が発生する。竜の鎧も容易く切り裂くドラゴンキラーはオーク達を綺麗に真っ二つにすると衝撃波で遺体を跳ね飛ばした。
ビチャア!と音をさせ、内臓をまき散らして壁に激突する死体にマサヨシはドン引きする。ドラゴンキラーを貸しはしたが、ここまでの大事になるとは思っていなかった。
「ちょ・・・。やり過ぎぃ!君、情け容赦ないね・・・」
マサヨシは直ぐにクソビッチ・テコキコフを呼び出して死体となったオーク達を即座に蘇らせる。
最初に絡んで来たオークと槍を切られて後ろに下がっていたオークは、手練れの仲間達があっさりと斬り殺された事にショックを受けて尻もちをついた。そしてカワーを恐怖の篭った眼差しで見つめてから、天使の施す蘇生の光を見て仲間の復活が成功しますようにと心中で祈った。
「はい、勝負あったー」
オーク達が生き返ったところで、マサヨシがカワ―とオーク達の間に割り込み場を仕切った。
天使を召喚しオーク達を生き返らせたマサヨシに冒険者達は驚いて見ている。
闇側にはヒーラーが少なく、死人が蘇生される場を見る機会は滅多にない。精々噂でヒジランドの国民の半分がゾンビ化し、それをヒジリ王が蘇生したと聞いた程度の関わりしかない。
「ご主人様。報酬を」
クソビッチが笑顔で首を傾けて両手を差し出す。
「な、なにがいいんでつか?」
クソビッチはマサヨシに体を密着させてから耳元で囁いた。
「ゴニョゴニョ」
「断るッ!」
即座にマサヨシは天使の要求を断った。
「今すぐ私の慰めものになれだぁ?それは善行じゃないでしょうがっ!それにクソビッチとそういう事を想像すると助平な俺でも背中に悪寒が走るんでつよ!」
「ひっど~い!私に施しを与えてくれてもいいじゃないですか~!それだって善行ですよぉ~。ちぇーっ!じゃあ、そこの悪人顔オーガの肩を揉んで下さい。彼は愛に飢えてますから」
「えっ」
「えっ」
マサヨシは助太刀したとはいえ、面識もない悪人面のオーガの肩など揉みたくはない。揉むならカウンター向こうで縮こまってこちらを見ている可愛いゴブリンの女の子がいい。緊張でさぞかし肩がこっている事だろう。
カワ―も自分が人の愛や優しさに飢えている事を天使に見抜かれて困惑していた。【読心】などの魔法で読める思考の更に奥深くにある感情を読まれたのだから。
しかもまだ自分が生まれていない過去の世界とはいえ、自分より地位が上のマサヨシ皇帝顧問に肩を揉ませるのは気まずい。例え弱みを握ろうとした相手とはいえ。
「いや、剣を貸してもらった上に肩を揉ませるのはちょっとな・・・」
「だからいいんじゃないですかー!助けてやった野郎の肩を揉んでヘコヘコする・・・。ご主人様にとっては最高の屈辱・・・いやもとい、最高の善行!」
「今屈辱って言ったぁ!」
「言ってませんよぉ~。はよう、はよう」
クソビッチは片足を”レ”の字に曲げて両手を囃し立てるように揺らして催促する。
「くそったれぇ!」
某アニメのツンデレ王子の物真似をしてから、マサヨシはカワーを椅子に座らせて肩を揉んだ。
「お客様、力加減はどうですか~?」
マサヨシがブスっとしてカワーの肩を揉む姿を見てクソビッチ・テコキコフは満足そうに微笑み、カワ―に加減を聞いた。
「ん、ああ。悪くはないが・・。もういい」
「そうですか。それでは私は消えまーす。アディオス、アスタルエゴ!」
天使が消え、マサヨシとカワ―は何となく気まずい空気の中、無理から作り出す笑顔で誤魔化す。
「あ!そうだ!おい!オーク達!蘇生代金置いてけぃ!今ある持ち金で勘弁してやっから。オフフフ」
カワ―と違って本物の帝国制服を着るマサヨシに対し、オーク達は黙って有り金を全部置くと、冒険者ギルドから逃げ出していった。
「おふふ。儲け儲け」
マサヨシはオークの置いて行った宝石や金の入った小袋をリュックサックにしまっていく。その間に冒険者達がピーピーと指笛を鳴らしたり、拍手している。それだけ蘇生魔法は彼らにとって印象的だったのだ。
(よしよし、これで冒険者を集めやすくなったぞぃ。なんてたって俺は今や冒険者達の憧れの的!ウッシッシッシ)
「朕はこの国の高位の高官である。お前達のような下々の者に名乗る名は無い。今から冒険者を募ろうと思うのじゃが、我こそはと思う者は手を挙げて、朕の旅の護衛としてついて来てたもれ!ホッホ!」
勿論一斉に手が上がる。冒険者達にとってもまたとないコネ作りのチャンスだからだ。皆、綺麗な姿勢で真っ直ぐと手を挙げマサヨシをじっと見つめている。
(なんという真剣な眼差しか。誰もが背筋をピンと伸ばして真っ直ぐに俺を見ている。すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風・・・なんだろう吹いてきてる確実に。着実に、俺たちのほうに。中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。信じよう。そしてともに戦おう。工作員の邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ、とかなんとか言いたくなるな。オフフフ。引き籠り歴三十年の俺が今、人々の尊敬を一身に受けているなんて我がオカンも想像しなかっただろう。オフッオフッ!オフフフフ!)
「で、旦那様。どこへ行くんですかい?」
自分の心の声に酔いしれていたマサヨシに、鉄鎧に身を包んだ戦士のゴブリンがくぐもった声で尋ねてきた。
「うんむ、朕はモリ森に行きたいと思うておる」
そう言った途端、冒険者達の手が下がった。
「な?何だ?ぶ、無礼者!手を下げるとは何事ぢゃ!」
調子に乗っていたマサヨシの顔から余裕が消えた。
そのマサヨシに先程の戦士ゴブリンが理由を話す。
「気を悪くしねぇでくだせぇ、旦那様。今あそこには誰も近寄らねぇんでさぁ」
「な、なんで?」
「何でか知らねぇんですけど、凶暴な鉄傀儡が出没するんで危ないんですよ。鉄傀儡は変な光で攻撃してきたり、爆発玉を投げてきたり、鉄の盾を焼き切る槍みたいなハンマーみたいなのを持ってたりで、ベテラン冒険者があそこに何人も行って帰って来ないんですよ。今ここにいる冒険者は残りカスみたいなもんでさぁ」
「鉄傀儡か・・・。それじゃあ仕方ないでつねぇ。戦闘ロボットが相手だとねぇ・・・。この中で鉄傀儡と戦った事がある人は?」
シーンとギルドが静まり返るが、冒険者達の視線はマサヨシの後ろに注がれていた。
マサヨシが振り返ると、先程剣を貸したオーガが手を挙げていたのだ。
「コスプレ君・・・。君の実力はさっきので解ったけど、相手は鉄傀儡ですぞ?」
「私はコスプレ君ではない。バンガー家の者だ。名前はカワ―」
冒険者たちがどよめく。フーリー家とバンガー家といえば帝国で知らない者はいない程の名門一族だ。
「なんですとー!じゃあ君は鉄騎士団副団長のアイキャランヴァ・バンガーの親戚か何かか?」
「如何にもそれは父・・・伯父の名前。(あぶない・・・。私はまだ生まれていないのだった)」
「じゃあ鉄傀儡と戦った経験があるというのも頷けるでつね。他に参加者は?」
やはり冒険者ギルドはシーンとしたままだった。
「はぁ。仕方ない。ホウケイ君とかいったかね?」
「カワ―だ!」
「失礼。カワー君。君を雇う事にするよ。何も無くても一日鉄貨一枚。戦闘が発生する毎に鉄貨三枚を支払う。どうでつか?」
「ああ、いいだろう。このドラゴンキラーは借りていいかな?」
「良いが、一日鉄貨一枚のレンタル料が発生します。壊した場合は莫大な修理費を請求します。おふおふ」
「が、がめつい・・・!」
「当たり前でそ。それ、超レアな剣なんですぞ?触れるだけでも感謝しなさいって」
普段はこれで蜘蛛の巣を掃ったり、つっかえ棒にしたりしてますけどと自分の声が頭に響く。
「確かに・・・。この剣は業物図鑑でしか見た事が無い。それを振れるなんてもう一生無いかもしれないな」
「でそ?」
「ところでマサヨシ殿。何故モリ森に?」
「それはね・・・。ん?あれ?俺はここに来てから名乗ってないでそ?それに帝国でも俺の名前を知る者はまだまだ少ないはずだけんど。君、なんで俺の名前を知っているのでつかな?」
マサヨシの細い目が少し見開かれる。間抜けそうに見えるが油断ならない三白眼という印象をカワ―は持った。間近で顔を見るのは初めてかもしれない。
「わ、私とてバンガー家の端くれ。皇帝顧問兼戦略参謀殿の名前ぐらい伯父上から聞いて知っている」
「あ、そっか。オフフ。それに騎士のコスプレをするぐらいでつから、城の情報には詳しそうでつね(きっと何らかの理由で騎士になりたくてもなれなかったんでしょうな。可哀想な子)。まぁ君の頑張り次第では皇帝陛下に口利きしてあげてもいいよ。城の兵士ぐらいにはなれるんじゃないかなぁ君なら。ブーマー・・・あ、ブーマーっていうドジなオーガがいるんだけんど、彼との地下水路巡回任務は楽しいぞ。頑張ろうな?オフッオフッ!」
「くっ!(私は鉄騎士団の中でもエリート部隊の上級騎士だぞ!)さ、さて契約も済んだ事だし、早速出発しようではないか、皇帝顧問殿」
「堅苦しいなぁ~。俺の事はマッサンでいいよ。ほれ、呼んでみ。マッサンって」
「むぅ!・・・マ・・・マッサン・・・」
「よすよす。じゃあ君はカー坊な。では出発しますか、カー坊。あまり長居してると掃除代金とか弁償代を請求されそうだし」
床や壁に飛び散ったオークの血の他に、カワ―が壊した椅子やテーブルもある。
マサヨシは取りあえず今日の分の鉄貨一枚をカワ―に渡し、二人で足早に冒険者ギルドを出ていった。
一振りする毎に竜が嫌がる音がするらしいが、その音は竜以外には聞こえない。試し振りをしてみたが確かにカワーの耳は何も音を拾わなかった。寧ろ、空気を切り裂く音すらしない。
「軽いな・・・」
剣を持ったオーガを警戒して動きを止めていたオーク達だったが、その中のショートスピアを持つオークが前触れもなく渾身の突きを放った。
それは余りに良い突きだったので誰もがオーガに致命傷を負わせる突きだと確信したが、スピアはオーガに届く前に柄をみじん切りにされ、バラバラと床に落ちた。
「ぶひぃ!やっぱり魔法の剣だ!」
槍で突いてきたオークは驚いて後ろに退くと、ショートソードを持ったオーク達が一斉にカワーに飛びかかる。
「その魔剣、俺達が奪って高く売ってやるよ!」
「笑止!豚肉の小間切れとなって輪廻の海に漂え!」
「おい!俺たちは豚じゃねぇ!」
オーク達に隙間なく飛びかかられたカワ―を中心に、魔法の赤い光と衝撃波が発生する。竜の鎧も容易く切り裂くドラゴンキラーはオーク達を綺麗に真っ二つにすると衝撃波で遺体を跳ね飛ばした。
ビチャア!と音をさせ、内臓をまき散らして壁に激突する死体にマサヨシはドン引きする。ドラゴンキラーを貸しはしたが、ここまでの大事になるとは思っていなかった。
「ちょ・・・。やり過ぎぃ!君、情け容赦ないね・・・」
マサヨシは直ぐにクソビッチ・テコキコフを呼び出して死体となったオーク達を即座に蘇らせる。
最初に絡んで来たオークと槍を切られて後ろに下がっていたオークは、手練れの仲間達があっさりと斬り殺された事にショックを受けて尻もちをついた。そしてカワーを恐怖の篭った眼差しで見つめてから、天使の施す蘇生の光を見て仲間の復活が成功しますようにと心中で祈った。
「はい、勝負あったー」
オーク達が生き返ったところで、マサヨシがカワ―とオーク達の間に割り込み場を仕切った。
天使を召喚しオーク達を生き返らせたマサヨシに冒険者達は驚いて見ている。
闇側にはヒーラーが少なく、死人が蘇生される場を見る機会は滅多にない。精々噂でヒジランドの国民の半分がゾンビ化し、それをヒジリ王が蘇生したと聞いた程度の関わりしかない。
「ご主人様。報酬を」
クソビッチが笑顔で首を傾けて両手を差し出す。
「な、なにがいいんでつか?」
クソビッチはマサヨシに体を密着させてから耳元で囁いた。
「ゴニョゴニョ」
「断るッ!」
即座にマサヨシは天使の要求を断った。
「今すぐ私の慰めものになれだぁ?それは善行じゃないでしょうがっ!それにクソビッチとそういう事を想像すると助平な俺でも背中に悪寒が走るんでつよ!」
「ひっど~い!私に施しを与えてくれてもいいじゃないですか~!それだって善行ですよぉ~。ちぇーっ!じゃあ、そこの悪人顔オーガの肩を揉んで下さい。彼は愛に飢えてますから」
「えっ」
「えっ」
マサヨシは助太刀したとはいえ、面識もない悪人面のオーガの肩など揉みたくはない。揉むならカウンター向こうで縮こまってこちらを見ている可愛いゴブリンの女の子がいい。緊張でさぞかし肩がこっている事だろう。
カワ―も自分が人の愛や優しさに飢えている事を天使に見抜かれて困惑していた。【読心】などの魔法で読める思考の更に奥深くにある感情を読まれたのだから。
しかもまだ自分が生まれていない過去の世界とはいえ、自分より地位が上のマサヨシ皇帝顧問に肩を揉ませるのは気まずい。例え弱みを握ろうとした相手とはいえ。
「いや、剣を貸してもらった上に肩を揉ませるのはちょっとな・・・」
「だからいいんじゃないですかー!助けてやった野郎の肩を揉んでヘコヘコする・・・。ご主人様にとっては最高の屈辱・・・いやもとい、最高の善行!」
「今屈辱って言ったぁ!」
「言ってませんよぉ~。はよう、はよう」
クソビッチは片足を”レ”の字に曲げて両手を囃し立てるように揺らして催促する。
「くそったれぇ!」
某アニメのツンデレ王子の物真似をしてから、マサヨシはカワーを椅子に座らせて肩を揉んだ。
「お客様、力加減はどうですか~?」
マサヨシがブスっとしてカワーの肩を揉む姿を見てクソビッチ・テコキコフは満足そうに微笑み、カワ―に加減を聞いた。
「ん、ああ。悪くはないが・・。もういい」
「そうですか。それでは私は消えまーす。アディオス、アスタルエゴ!」
天使が消え、マサヨシとカワ―は何となく気まずい空気の中、無理から作り出す笑顔で誤魔化す。
「あ!そうだ!おい!オーク達!蘇生代金置いてけぃ!今ある持ち金で勘弁してやっから。オフフフ」
カワ―と違って本物の帝国制服を着るマサヨシに対し、オーク達は黙って有り金を全部置くと、冒険者ギルドから逃げ出していった。
「おふふ。儲け儲け」
マサヨシはオークの置いて行った宝石や金の入った小袋をリュックサックにしまっていく。その間に冒険者達がピーピーと指笛を鳴らしたり、拍手している。それだけ蘇生魔法は彼らにとって印象的だったのだ。
(よしよし、これで冒険者を集めやすくなったぞぃ。なんてたって俺は今や冒険者達の憧れの的!ウッシッシッシ)
「朕はこの国の高位の高官である。お前達のような下々の者に名乗る名は無い。今から冒険者を募ろうと思うのじゃが、我こそはと思う者は手を挙げて、朕の旅の護衛としてついて来てたもれ!ホッホ!」
勿論一斉に手が上がる。冒険者達にとってもまたとないコネ作りのチャンスだからだ。皆、綺麗な姿勢で真っ直ぐと手を挙げマサヨシをじっと見つめている。
(なんという真剣な眼差しか。誰もが背筋をピンと伸ばして真っ直ぐに俺を見ている。すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風・・・なんだろう吹いてきてる確実に。着実に、俺たちのほうに。中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。信じよう。そしてともに戦おう。工作員の邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ、とかなんとか言いたくなるな。オフフフ。引き籠り歴三十年の俺が今、人々の尊敬を一身に受けているなんて我がオカンも想像しなかっただろう。オフッオフッ!オフフフフ!)
「で、旦那様。どこへ行くんですかい?」
自分の心の声に酔いしれていたマサヨシに、鉄鎧に身を包んだ戦士のゴブリンがくぐもった声で尋ねてきた。
「うんむ、朕はモリ森に行きたいと思うておる」
そう言った途端、冒険者達の手が下がった。
「な?何だ?ぶ、無礼者!手を下げるとは何事ぢゃ!」
調子に乗っていたマサヨシの顔から余裕が消えた。
そのマサヨシに先程の戦士ゴブリンが理由を話す。
「気を悪くしねぇでくだせぇ、旦那様。今あそこには誰も近寄らねぇんでさぁ」
「な、なんで?」
「何でか知らねぇんですけど、凶暴な鉄傀儡が出没するんで危ないんですよ。鉄傀儡は変な光で攻撃してきたり、爆発玉を投げてきたり、鉄の盾を焼き切る槍みたいなハンマーみたいなのを持ってたりで、ベテラン冒険者があそこに何人も行って帰って来ないんですよ。今ここにいる冒険者は残りカスみたいなもんでさぁ」
「鉄傀儡か・・・。それじゃあ仕方ないでつねぇ。戦闘ロボットが相手だとねぇ・・・。この中で鉄傀儡と戦った事がある人は?」
シーンとギルドが静まり返るが、冒険者達の視線はマサヨシの後ろに注がれていた。
マサヨシが振り返ると、先程剣を貸したオーガが手を挙げていたのだ。
「コスプレ君・・・。君の実力はさっきので解ったけど、相手は鉄傀儡ですぞ?」
「私はコスプレ君ではない。バンガー家の者だ。名前はカワ―」
冒険者たちがどよめく。フーリー家とバンガー家といえば帝国で知らない者はいない程の名門一族だ。
「なんですとー!じゃあ君は鉄騎士団副団長のアイキャランヴァ・バンガーの親戚か何かか?」
「如何にもそれは父・・・伯父の名前。(あぶない・・・。私はまだ生まれていないのだった)」
「じゃあ鉄傀儡と戦った経験があるというのも頷けるでつね。他に参加者は?」
やはり冒険者ギルドはシーンとしたままだった。
「はぁ。仕方ない。ホウケイ君とかいったかね?」
「カワ―だ!」
「失礼。カワー君。君を雇う事にするよ。何も無くても一日鉄貨一枚。戦闘が発生する毎に鉄貨三枚を支払う。どうでつか?」
「ああ、いいだろう。このドラゴンキラーは借りていいかな?」
「良いが、一日鉄貨一枚のレンタル料が発生します。壊した場合は莫大な修理費を請求します。おふおふ」
「が、がめつい・・・!」
「当たり前でそ。それ、超レアな剣なんですぞ?触れるだけでも感謝しなさいって」
普段はこれで蜘蛛の巣を掃ったり、つっかえ棒にしたりしてますけどと自分の声が頭に響く。
「確かに・・・。この剣は業物図鑑でしか見た事が無い。それを振れるなんてもう一生無いかもしれないな」
「でそ?」
「ところでマサヨシ殿。何故モリ森に?」
「それはね・・・。ん?あれ?俺はここに来てから名乗ってないでそ?それに帝国でも俺の名前を知る者はまだまだ少ないはずだけんど。君、なんで俺の名前を知っているのでつかな?」
マサヨシの細い目が少し見開かれる。間抜けそうに見えるが油断ならない三白眼という印象をカワ―は持った。間近で顔を見るのは初めてかもしれない。
「わ、私とてバンガー家の端くれ。皇帝顧問兼戦略参謀殿の名前ぐらい伯父上から聞いて知っている」
「あ、そっか。オフフ。それに騎士のコスプレをするぐらいでつから、城の情報には詳しそうでつね(きっと何らかの理由で騎士になりたくてもなれなかったんでしょうな。可哀想な子)。まぁ君の頑張り次第では皇帝陛下に口利きしてあげてもいいよ。城の兵士ぐらいにはなれるんじゃないかなぁ君なら。ブーマー・・・あ、ブーマーっていうドジなオーガがいるんだけんど、彼との地下水路巡回任務は楽しいぞ。頑張ろうな?オフッオフッ!」
「くっ!(私は鉄騎士団の中でもエリート部隊の上級騎士だぞ!)さ、さて契約も済んだ事だし、早速出発しようではないか、皇帝顧問殿」
「堅苦しいなぁ~。俺の事はマッサンでいいよ。ほれ、呼んでみ。マッサンって」
「むぅ!・・・マ・・・マッサン・・・」
「よすよす。じゃあ君はカー坊な。では出発しますか、カー坊。あまり長居してると掃除代金とか弁償代を請求されそうだし」
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