未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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失いし少女オンブル

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 夜中に喉の乾きでマサヨシは集会所で目が覚める。

 周りで同じ様に雑魚寝する影人達を踏まないように、慎重に歩いて扉から出るとスペルキャスターを主としている者なら誰でも唱えられるコモン魔法【魔法の光】を杖に宿して辺りを照らす。

 整備されていない砂利道に足を取られながらも、集会所に通される途中で場所を確認しておいた湧き水の噴水を目指す。

「うぅっぷ。酔いには大量の水を飲んでおしっこをするのが一番でつね。それにしてもカー坊が酒に強いなんてなぁ・・・。ああいう顔の奴って大抵酒は飲まんとか言って断りそうなのにぃ。あいつの所為で俺まで大量に飲まされたじゃないでつか」

 カワ―は飲むと陽気になるタイプだった。自分が帝国鉄騎士団で如何に武功をあげてきたかを永遠と自慢げに話すので、マサヨシは途中から面倒臭くなって聞くのをやめて眠ってしまった。途中でヤイバがどうとか言っていたような気がするが酔っていたのでわからない。

 影人達は興味深そうにカワ―の話を聞いては一喜一憂していたのが何だか可愛らしかったなと思い出して微笑む。

「ってか、あいつは騎士になれなかった可哀想な奴でしょうが。何自慢げに嘘話してんのよ。嘘ばっかりついてますとね、頭が禿げあがって髪型がスヌーーみたいになりますぞ、ってそれ昔のワシやないか~い!」

 虚空に向かって人差し指を掲げツッコむもそれを見て笑う者はおらず、生ぬるい春の夜風が頬を撫でただけであった。

 ふと静かな夜の寂しさが過去を思いださせる。

 嘘に嘘を重ねて生きてきた人生。嘘をついて騒げば、何の取柄も無い空気のような自分でも皆が注目してくれる。が、その代償は大きかった。次第に皆から嫌われ疎まれ、誰からも相手にされなくなり等々引き篭りになってしまった。

 家族からも冷遇され、何度も家から追い出されそうになった。家族とはいえ、彼らが本気で自分を追い出そうと決めたら冷酷だった。トイレに行っている間に部屋の荷物を何度も外に捨てられたり、部屋の鍵を変えられたりと。

「う~い。嫌な事を思い出した・・・。まぁ自業自得なんでつけどね。でも俺はこの世界でちゃんと真面目に努力して生きている。一度自分の世界に帰った時も、皆俺の事を立派になったと認めてくれた。家族の一員として扱ってくれたんだ。もう嘘をついて生きる必要はない・・・。正直に生きよう・・・」

 過去を振り返り反省しつつ、小さな噴水からガブガブと水を飲んでマサヨシは一息ついた。

 と、どこからかシクシクと泣き声が聞こえてくる。

「うおぉ?幽霊?こえぇぇ」

 マサヨシは自分を抱きしめてキョロキョロと辺りを見渡した。果たして影人の幽霊なんているのだろうかと思いつつ。

 しかし、目をよく凝らすと村の真ん中にある大木の下で影人が一人で泣いている事に気が付いた。

 例の能登さんの声の影人だ!とマサヨシは彼女に近づく。

「どうしたんでつかな~?お嬢さん」

 泣いている女性にどう接していいのか判らないマサヨシは、思わずオフッオフッと笑って近づいた。

「マ、マサヨシさん・・・。ごめんなさい、恥ずかしい所を見せてしまって・・・」

「いいんでつよ。もし悩み事があるなら、俺が聞きまつよ。村人じゃないから話しやすいでそ」

 影人の少女は少し戸惑った後に話し始めた。

「助けてもらったのに紹介がまだでしたね・・・。私の名前はオンブル。私は時間や思い出を失くした恥ずべき影人」

「ん?何でそれが恥ずかしい事なんでつか?記憶喪失って事でそ?」

「時間と思い出は我ら影人にとってこれ以上ない宝物なのです。自分の存在そのものと言ってもいいでしょう。私たち影人は不定の時間の中で生きている種族なのです。だから時間が一定に流れて決して後戻りする事のないこの世界で、一生懸命に生きている人々の思い出や時間は影人にとって儚くも強い輝きを見せる宝石のように思えるのです」

「いや、オンブルちゃんが存在するこの世界の時間は一定方向に流れていまつよ」

「うふふ、説明不足でしたね。私達影人の本体は時間が定かでない別の世界にあります。ですがこの世界にも肉体を持っているのです。何故なら私達がこの世界に持つ強い憧れをマナが聞き入れてくれたから。なので全ての次元のマナの根源となるこの星の力に我々影人はとても感謝しています」

「え!そうなの?この星が全てのマナの出どころなの?」

「はい。絶望も怒りも悲しみも、そして希望も喜びも愛も全てを許容し実現させるこの星は、この次元の、この宇宙のここにしか存在しません」

「なんですとーっ!俺は凄い所にいるのでつね・・・。何だか怖くなってきた・・・。だったら、君の記憶や時間も取り戻すようにマナに願ってみたらどうかな?」

「・・・。ずっとそう願って、時々村の外に出て自分の時間と記憶を探しています。どこかで落としたのじゃないかって思って・・・」

「記憶とか時間ってその辺にポトリと落ちるものなのでつか?」

「判りません。でも探していないと心が落ち着かなくて・・・。私に残る微かな記憶は、村の中に突然現れた灰色の渦に触れたというものだけです」

「灰色の渦・・・。ヴャーンズ皇帝陛下が一度だけ見せてくれた虚無の渦に似てまつね。そう言えばヒジリ氏も何か虚無の渦の事を言ってたような気がするけど思い出せない。オフフフ」

 ロロムやヴャーンズに気に入られているマサヨシは時々彼らとプライベートな時間を過ごす。

 その時に魔法の話になると、ヴャーンズやロロムが魔法を披露してくれるのだ。もしその場に一度見覚えのイグナがいれば間違いなく彼女の魔法能力が大幅にアップするであろう練度の高い魔法にマサヨシは何度驚いた事だろうか。

 ヴャーンズが「これは対星のオーガ用にとっておいた魔法じゃが」といって見せてくれた魔法が虚無の渦であった。

 噂では樹族国でヒジリ達が吸魔鬼を退治した時の渦も虚無の渦だと聞いている。あの時はシオが巻物を使って発生させたそうだが、ヴャーンズは自らの力でそれを発生させている。

 結局、渦に敵対者を追い込むにはあれこれと策を用いるなどの下準備が必要なので、他の魔法のように刹那的な実用性が低いという事と、ヒジランドと同盟を結んだ事で隠す意味はなくなったという事で、ヴャーンズは極秘魔法を見せてくれたのだ。

 虚無の渦という聞きなれない言葉にオンブルは首を傾げる。

「虚無の渦・・・ですか?」

「うん。渦の中に入ったあらゆるものを粉々に砕いて別の世界に飛ばすらしいっす。もし影人が時間と思い出という概念で構成されているのであれば、オンブルちゃんは渦にそれを吸い込まれたのかもしれませんな。それに虚無の渦は極々稀に自然発生する事もあるそうでつから無い話ではないでつよ」

「きっと・・・きっとそうなんでしょう。ああ・・・。もう私の砕かれた時間と記憶は戻らないのね・・・」

 オンブルは顔を押さえて静かに泣き始めた。

「時間や思い出がないなら・・・。今から作ればいいでつよ。オフフ!オンブルちゃんは実に運がいい。何故なら思い出や過ごしてきた時間が濃厚な(たぶん・・)俺やカワーがこの村にやって来ているのでつから」

 オンブルはハッ!と顔を上げてマサヨシを見る。そして首に抱きついた。

「そうでした!私、また自分の時間や思い出が作れる!」

 抱きつかれて彼女の胸の感触やら甘い匂いにマサヨシは興奮した。

「フ、フガー!あんまり抱きつかない方がいいでつよ!俺は惚れっぽいから!このままだとオンブルちゃんに惚れちゃうかもしれませんぞーっ!オンブルちゃんの愛に甘えてオンブルに抱っこ!なんつってー!」

「うふふふ!マサヨシさんって面白い!」

「オフフ。でも良かったでつね。きっとマナがオンブルちゃんの願いを聞き入れてくれたから、俺達が来たのでつよ。オフオフ!」

「ええ!きっとそうです!」

 二人は暫く木の下でお喋りをした後、オンブルはマサヨシを客用の簡素な家に案内した。

「今日はありがとうございました。ゆっくりお休みになってくださいね。それではまた明日!」

 そう言ってオンブルはモジモジしてからマサヨシの頬にキスをして走り去っていった。

「おぅ・・・。オンブルちゃん、可愛い過ぎ・・・。顔も影になってて見えないのに何で可愛いと思ってしまうのでしょうか。おふっ・・。また明日会うのが楽しみですわ~」

 マサヨシは灰色のローブを脱ぐとアニメプリントのシャツと七分丈ズボンという、この世界に来た時のままの格好になった。そしてベッドに潜り込むと枕に顔を押し付けてオフオフと笑ってから眠りについた。
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