未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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クローネの活躍

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 シルビィの【捕縛】で捕らえられたランデは、身動きが取れずに横向きになって地面に転がった。

「わ、私が誰だか知っているのか?モティの司祭長フッキウ様の右腕だぞ。こんな事をしてただで済むと思うなよ?」

 地面に横たわりながらも脅迫してくるランデにシルビィは哀れみの視線を向けた。

「今、緊急連絡用の携帯魔法水晶に王宮から連絡があったのだがな、モティはこの一件をお前の単独計画だと発表したぞ。どこかでこの戦いを見ているようだな」

「な、なに!」

「尻尾切りってやつだ。しかし、樹族の神が本物であるならば支持するとも言っている。どちらにも転んでもいいようにしてあるぞ、貴様の国は」

「ぐっ!ならば、私はここで無名の神の勝利を祈らせてもらう。無名の神が勝てば今回の事はどうとでもなる!いいな?」

「構わんが?どうせ無駄な祈りに終わるだけだぞ。何故ならヒジランドの王は前線に出てきて暴れるばかりの脳筋オーガではないからな」

 そう言って立ち去るシルビィのその一言がランデを更に不安にさせた。

 幾重にも策を巡らせているという事か。それに比べ、樹族の神は無策に見える。ただただ、この混乱を楽しんでいるようだ。それに星のオーガがその辺のオーガとは別物だとは知っていたが、ここまで樹族国の騎士達の支えになるとは思わなかった。オーガの神にも拘らず、自分を頼る者なら光側も闇側も関係なく救う。まさに神じゃないか!

「信仰すべき神を間違えたか・・・」

 ランデは暫く混沌とする神殿の周りで逃げ惑うモティのメイジを歯噛みしながら見つめ、拘束された体で芋虫のように這う。そして木に寄りかかるとクソ!と悪態をついた。

「メイジたちが帰れないところを見るとモティは証拠隠しに転移石の片割れを破壊したな?高価な転移石を壊してまで保身を図るとは・・・まさに樹族の鏡だな。ハッ!」

 皮肉を言っていると時折一瞬だけ意識が断絶するような気がする。

「神は先程から能力を使われているようだが・・・」

 ランデが神殿の入り口で向き合う鉄傀儡と無名の神を見る。

 クローネはコクピットの中で笑っていた。

「あの人が言ったとおりだったねぇ・・・」

 鉄傀儡のスピーカーからクローネの声が聞こえてくる。

「あんた、時間停止は出来ても重い物は動かせないのだろう?そして停止中に魔法を使っていないという事は使えないって事だね?」

 黒ローブのリッチであるズーイは何も答えない。

「図星ね?でも困ったわ。あんたの弱点が解ったところでこちらは手出しできないからねぇ。時間を止められてしまえば追う事も出来ないし」

「時間停止をせずともお前ごときを倒せない私だと思うか?」

「へぇ?どうやって?この鉄傀儡を破ったのは帝国の自由騎士と闇魔女くらいよ?」

「ハッ!お前は大馬鹿者だ。私にヒントを与えてどうする。自由騎士の事は知らんが、闇魔女の事なら知っているぞ。私と同じく闇魔法の使い手だ。つまり鉄傀儡に通じる闇魔法があるという事だ」

「あら・・・。余計な事言っちゃったわ・・・」

「ざっと見たところ、鉄傀儡は密閉性が低い様に見える。となると使うべき魔法は一つ。雲系の魔法だ」

「解ったところでもうおしまいだけどね。さよなら、偽の神様。計画とは違うけど今ここで死んでもらうよ」

 突然、ズーイとクローネの周辺でチッチッチと音がしだした。鉄傀儡の近くにいるズーイは動きが止まったようにランデには見えた。

「なんだ?何が起きている?」

 クローネは鉄傀儡で動きが緩慢になった無名の神を握りつぶそうとしているのだ。が鉄傀儡の三本指は上手く神を握りきれない。

「くそ!上手く握れやしない!至近距離で爆発系の武器は使えないし、光線も狙いを定めるのが難しいからねぇ・・・。光の剣はもう在庫がないし。素直に旦那の計画通り動くべきだったかねぇ」

 戸惑っている鉄傀儡に身動きの出来ないランデが【地割れ】の魔法を唱えた。

 触媒も無しに高位の魔法を使っても効果は薄いが、地割れは鉄傀儡の体勢を崩すくらいはできた。

「なに?邪魔が入った?」

 鉄傀儡は体勢を整えようとして体中のあちこちにある小さなバーニアが噴射する。

 そうこうしている間に、クローネの能力の効果時間が過ぎ去った。

「我らが神よ!その鉄傀儡の乗り手は時間系能力者ですぞ!どうぞ警戒を!能力の範囲は狭いです!距離を取ってください」

 次の瞬間、ランデにまた意識の断絶が起こる。

 気が付くと無名の神は鉄傀儡の手の中からいなくなっていた。

「あと一歩だったのに!余計な事をしてくれたね!」

 鉄傀儡の丸っこい腕の穴からゴム弾が発射される。身動きできないランデは鳩尾にそれを食らって意識を失った。

「ったく!騎士様達は何をしてんだろうね!捕縛したメイジに【沈黙】をかけてないじゃないかい!」

 クローネが文句を言いながらコクピットの中のモニターで偽神を探していると、機体内に突然毒の煙が充満しだした。

「【毒の雲】!ええい!換気しても追いつかないね・・・。オブェッ!」

 鉄傀儡の換気機能を上回る毒の雲がコクピットに充満し、クローネは嘔吐する。それでもモニターを見つめ偽神を探し、階段脇にある大きな岩場に彼が立っているのを見つけた。

「あたしゃね、ヒジリ王にたんまり報酬を貰って子供たちに可愛いオべべと玩具を買って帰るんだよ!こんなところで死んでられるか!」

 操作スティックを握ってバーニアの推進剤を全部使い、鉄傀儡はズーイに突進した。

 クローネの意識が瞬間的に断絶する度にズーイは場所を移動する。

「無駄だ、鉄傀儡の乗り手よ。私が逃げ回っている間に毒は回るぞ?」

「ちょこまかちょこまかとうっとおしいね!」

 笑って油断する偽神にクローネは照明弾を撃った。

 照明弾は素早く飛んでズーイの前で激しく光を放って炸裂する。

「ぐわっ!」

 瞬間的にズーイは時間を止めてしまったので眩しい光もそのままだ。しかも目に光が焼き付いて何も見えない。

 視界が戻るまで停止時間限界の三十秒をいっぱいまで使ってから直ぐに能力を解除すると、光の中から鉄傀儡が突進してきた。鉄傀儡の三本指が偽神を捕まえる。

「何かするなら早くしておくれ!ヒジリの旦那!三本指は隙間が多いからまた逃げられちまうよ!ゴポォ!」

 嘔吐しながらクローネは時間遅延能力を使いつつ偽神を掲げた。

「マスター!今です!」

 ウメボシがそう言うと、ヒジリは旧時代の無反動スナイパーライフルを抱えスコープを覗き込む。

「偽神は有罪か無罪か」

 突然わけの解らない事を主は言うのでウメボシは戸惑いながら答える。

「に、偽神は樹族国を混乱に陥れました。有罪です」

「よし・・・・では・・・。ギルティィーーー!」

 ズキューンと空気を切り裂いて強力な麻酔弾が飛んでいく。

「マスターはギルティをミキティーーー!みたいに言いたかったのですね?そうですね?そうですよね?え?」

 ウメボシが問い詰めるもヒジリはスコープを覗いたまま、とぼけた顔をして無視をする。

(まぁ!なんて憎たらしい顔なんでしょう!)

 麻酔弾がズーイの肩に突き刺さると同時に鉄傀儡の中のクローネが毒で失神する。鉄傀儡は基本的に戦闘不能になった操縦者を排出するようになっており、ハッチを開いてクローネを吐き出した。

 麻酔弾で意識を失ったズーイも鉄傀儡の手の中からするりと落ちて地面に横たわる。

 スコープでそれを見たヒジリは直ぐに指示を出した。

「クローネが紫色の顔をしている。ウメボシ、治療を頼む」

「はい!」

 ウメボシは数秒で神殿前まで行き、倒れているクローネを健康状態にまで戻す。

「はぁ、ゲホゲホ!助かったよ、ウメボシ」

 クローネは口の周りに付く吐しゃ物を手で拭って立つ。

「どういたしまして。鉄傀儡の中の汚物も綺麗にしておきましょう」

 鉄傀儡の中の不要な有機物を分解し、ウメボシは意識のないズーイを浮かせた。

「さぁ、マスターのもとへ行きましょう。今回の一番の功労者はクローネさんですよ」



「よくやった!クローネ!」

 ヒジリは猫人のクローネを抱き上げるとムツゴロウの如く撫でまわした。

「嬉しいねぇ。あたしは撫でまわされるのが好きなんだよ」

 喉を撫でられる猫の様な顔をしてクローネはうっとりする。

 思いの外嫉妬深いイグナがヒジリの脛をコツンと無言で蹴ってむくれた。

「マスター、クローネ様を撫でまわすのは良いですが、彼女の顔には吐しゃ物がついておりますので気を付けください」

「構うものか。この吐しゃ物だって彼女が立派に任務を遂行した証なのだよ。というか、何故彼女を綺麗にしてやらなかったのだ、ウメボシ」

「マスターがクローネ様を撫でまわすと思ったからですよ!プンスカ!」

 ウメボシもイグナ同様嫉妬深い。

 偽神を警戒してワンドを構えるシルビィが王国近衛兵騎士団大元帥のリューロックと共にヒジリ達に近づいて来た。神殿のメイジ達は戦う気力を失って降参してしまったようだ。

「ダー・・・ヒジリ陛下、その偽神をどうするんだ?何故殺してしまわなかったのだ?」

「根拠はないのだが・・・。殺してしまうともっと厄介な事になるのではないかと思ってね」

 本当に根拠はない。科学者が最も言ってはいけない言葉だが、ヒジリの勘がそう言わせる。

「ヒジリの勘は正しい」

 イグナが意識のないズーイのフードをずらして額の印を見せる。それは穴から骨の手が出ているように見えた。

「これは【黄泉がえり】の印。死霊術の奥義。何者かによって殺された場合、元々高位のメイジである彼はより強力なアンデッドとなって生まれ変わる。そうなった場合エルダーリッチ並みのワイトが生まれたと思う。蘇った瞬間、超広範囲の闇魔法で樹族国の国民を皆殺しにしたと予想する」

「恐ろしいねぇ・・・」

 クローネはヒジリから飛び降りると毛づくろいをしながらそう言った。

「既にアンデッドみたいな顔しているのにぃ・・・」

 フランが骨と皮だらけのズーイの顔を覗き込んでヒジリの脚にしがみ付いた。

 リッチはアンデッドではなく、魔力や強力な魔法と引き換えに人の身を捨てただけで実際は生きているのだ。

「さて、何が厄介かというと彼の能力だな。どうにかならないかね・・・」

 ヒジリはマサヨシが持って来てくれた時間系能力無効化のマジックアイテムをズーイに使うかどうか悩んだ。これはとても貴重で強力なアイテムだからだ。時間系能力者はまだほかにもいるかもしれない。かといって能力封じのダイスは時間制限がある。

「やはり殺してしまおう!で、蘇ったらフランの浄化の祈りですぐさま昇天させるのはどうだ?」

 シルビィがハハッ!と爽やかに笑って偽神を殺す気満々でメイスを構えた。

「ちょっと待って!私にはまだ強力なアンデッドの浄化なんて無理よぉ!」

 フランが泣きそうな声で言う。

「う~む・・・」

 悩むヒジリにリューロックが声を掛けた。

「ヒジリ陛下、私には偽神の能力を封じる手段がある」

「ふーん・・・そうかね・・・。えっ!なんだと?!手段を知っているのか?雷電!」

「ら、雷電・・・?誰ですかな?それは・・・。まず台車を用意してもらえると有難いのですが」

「台車?!」

 ヒジリはリューロックが何を言っているのかさっぱりわからなかった。台車でどうするつもりなのか。まさか台車にズーイを乗せて崖から落とす等の下らない事じゃないだろうなとも疑う。

 しかしリューロックは得意げな顔をしてターンAガンダムのような髭を撫でている。

「ダーリン、ここは父上に任せてみてはどうか。こんなに自信満々な父上は・・・いや、いつも見ているな・・・。父上はいつも以上に自信満々だ。きっと大丈夫なのだと思う」

 シルビィが小さな声でヒジリにそう伝える。

「うぅむ・・・。解った。ウメボシ、台車を出してくれ」

 すぐさま台車が地面に現れた。

 何をするのかさっぱりわからないといった表情をするヒジリの前でリューロックは益々尊大な顔になり、小指を立てて上品に台車の持ち手を掴んだ。

 そして徐に懐から見覚えのあるダガーを台車に置く。

 リューロックは一旦、ヒジリから台車を引いて離れてから勢いよく台車を押しながら大きな声を出して駆けてきた。

「おーい!ヒジリ陛下!能力盗りのダガーがあったよぉぉー!」

 ガラガラと木の台車を押して走って来るリューロックはどこか輝いて見える。自分はやりきっている、イケている、有能なのだ、という思いが体中から溢れていたが、それを見る皆の目は冷たいものだった。

 ハァハァと息を切らしてヒジリの前に来て急停止したので、台車の上の能力盗りのダガーはカラカラと回転しながら落ち、地面を滑って行った。

「どうです?この作法は星の国の作法だと陛下が言っていたとジュウゾから聞きましたぞ!その場面にぴったりと合った有効な物を持つ者はこうやって、物を持ってくるものだと!」

「そ、そうなのか?ダーリン・・・」

 シルビィはヒソヒソと聞く。

「あ、ああ・・・。そ、その通り。流石はリューロック殿。どんな時でも気遣いが出来るとは流石は軍の統率者。その気遣いで戦況を見守って臨機応変な指示を出すのだな?素晴らしい!」

「お褒め頂き光栄です。ガッハッハ!」

 随分と前にヘカティニスに彼岸島のネタを話した事があるのをヒジリは思い出した。それが巡り巡ってこうなったのだ。

 ヒジリは心の中で作者の松本光司先生に謝る。すまぬ・・・すまぬ・・・と。

「さて、都合よく能力盗りのダガーがここにあるわけだが、使ってもいいという事だな?リューロック殿」

「勿論です。ジュウゾから今回の一連の話を聞いた時にウォール家の宝物庫にこれがあったのを思い出しましてな。このために持って来たのです。どうぞお使いになってください、陛下」

「うむ。ズーイはこれで無名の神を刺し殺していたが・・・」

「殺す必要はありません。少し刺すだけで十分ですぞ」

 ヒジリはダガーを手に取ろうとしたが、危ない危ないと言って手を引っ込める。

「おっと、私はマジックアイテムに触れないのだった。誰か頼む」

 シルビィが能力盗りのダガーを手に取ると、偽神の手のひらに容赦なく突き立てた。

 そこまで深く刺す必要はないだろうと思いつつもヒジリは頷く。

「これでよし。で、このダガーは大事に保管しておいた方がいいな。時間停止能力を封ずるダガーなんて危険この上ない」

「マスターが触れて壊してしまえばいいのではないでしょうか?」

「いや、そうすると世界のどこかに時間停止系の能力者が今すぐ現れるかもしれない。本で読んだ事があるが、能力者が死ぬと世界のどこかの誰かにその能力が与えられるとあった。封印しておけばそれを防ぐ事が出来るだろう」

「神が与える能力はそうそう発現しないから大丈夫だと思うけど、封印しておくのは正しいと思う」

 イグナもヒジリに賛同する。

「では、ウォール家で厳重に保管しておきますぞ。それにこれ以上の家宝はないと思いますし」

 リューロックはシュラス王が駄々を捏ねてこのダガーを欲しがる姿を想像してほくそ笑む。家宝レベルになるといくら王様でも強引に買い取るなんて事は出来ない。そんな事をすれば部下の忠誠心を失うとシュラスも解っている。

「では今回の騒動、これにて一件落着とする」

 ヒジリがそう言って手じめをした。

 後は遺跡のミイラ男だけだと思うとヒジリは随分と気が楽になった。それでもあのミイラ男は何か能力を隠しているかもしれない。

 更にモティへの制裁も考えなければ。樹族国と共に賠償金を請求するのは勿論、遺跡の装置を停止したら、今回の件やこれまでちょくちょく自分のもとへ送ってきていた暗殺者の件をを追求しなくてはなと考えて顎を撫でた。
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