未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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フローレスの復讐

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 今も過去の栄光にしがみ付くのか、醜く太った樹族の老人は豪華な錫杖の様な杖を片手に召使いに支えられながらヒジリに近づいて来る。

「彼は元法皇フローレスじゃ。ヒジリ」

 シュラスは何度もモティで見た事の有る法王の名をヒジリに教える。

「ふむ」

 この男が聖女を監禁しオークションに出した張本人だろう。

「君が元法皇か。君は奴隷制度を良しとしているのかね?聖職者だったのだろう?」

「ええ、聖職者だった時は建前上奴隷を否定していましたよ。建前上・・・ね。が、今はどこぞの現人神のせいでただの一般人と成り下りました。だから制度上許されている奴隷売買に手を出しても何も問題ないはずですよ」

「問題はある。聖女は樹族国の国民。モティの一般人が拉致して奴隷にしていい法などないはずだ」

「さぁ、それは彼女を拉致した奴隷商人に言ってくださいな。法は奴隷商人から奴隷を買っただけの我らに咎を押し付けたりはしない。その奴隷をオークションにかける事もポルロンドの法の中では何も問題ないのですよ。もし貴方が現人神だと証明できるなら今の考えを変えなくもないですがね・・・」

 頬も耳も垂れ下がった太った樹族の老人は執拗にこちらの正体を確かめようとしている。

「私が魔法国スイーツから自由騎士の称号を受けた事は知っているな?これで証明できるだろう」

 ヒジリは亜空間ポケットからグリフィンの紋章が付いたメダリオンを取りだした。

 ヒジリのパワードスーツに魔法による紋章の付着は無理なので女王がドワーフに作らせたのだ。

「確かに!ホッホッホ!確かに確かに!」

 突然法王が目に狂気を宿して笑いだした。

「何千年と続いた我が神聖国モティの繁栄を突如として断ち切った闇の神ヒジリめ!今ここで真の神の裁きを受けるがいい!」

「ほう?どうやってじゃ?」

 腕を組んで自信満々な顔をするシュラスに法王は魔法で真空波を飛ばした。

 シュラスは咄嗟に魔法障壁を張ってそれを防御する。シュラスもそこそこ実力のあるメイジである。この程度の魔法は対処できる。

「今からそれをご覧にいれますから。子供は黙って見ていなさい」

 法王はシュラスからヒジリに向き直り、ピラミッドの様なオブジェを取りだした。

「貴方が無敵なのは私も知っていますよ、現人神ヒジリ。国滅級の魔物、いやそれ以上の魔物を倒してきた貴方を知らない者など、この星にはおりますまい。しかし、どんな者にも抗う事の出来ない魔法は存在するのです。それが神だろうが悪魔だろうが!何だかわかりますか?」

「虚無の魔法だな」

「さよう。流石は博識なオーガメイジ!憎い貴方を渦に吸い込み、粉々に砕いて別の世界に葬り去る虚無の魔法!私はそれを欲したのだ!しかし残念ながら私は完璧な虚無魔法を見つける事が出来なかった!貴方に復讐したいというのに!」

「じゃあ尻尾巻いて帰れよ、アホが」

 スカーがヘヘヘと笑って食べていた林檎の芯をフローレスに投げつける。

 フローレスはリンゴの芯が顔に当たったが気にせず笑い出した。

「フハハ!だがしかし!出来損ないの虚無魔法でも問題ないのですよ。要は貴方一人がこの世界から消え去ればいいのだから!」

 そう言ってフローレスはピラミッドのオブジェを掲げた。光が辺りを包み込み始めた。

「なんだかわからんが、あのオブジェを撃ち抜け、ウメボシ!」

「畏まりました!」

 ピシュっと音がして小さなピラミッドはウメボシの目から出た光線によって破壊された。

 しかし光は消えない。

「きっとまだアイテム効果のあるマナがフローレスに繋がっているから効果を発動させているのだ」

 ベンキが腰の後ろでクロスさせているハチェットをホルダーから出して法王に投げつける。

 ハチェットは見事フローレスの胸に突き刺さり呆気なく絶命させる。

 魔法効果に寄与しているマナの流れを断ち切ったにもかかわらず光はどんどんと広がる。

 光はヒジリのいる場所まであっという間に到達すると彼を消し去り始めた。

「マスター!!」

「なんだ、どういう事だ?カプリコン、転送を頼む」

「これは一種の転送です。転送中の身を転送は出来ません!お許しを、ヒジリ様!」

 カプリコンの紳士的な声に悔しさが混じっている。

(転送の罠の類か?いやしかし、そんな陳腐な物を私に使うだろうか?)

 ヒジリは息絶えて地面にうつ伏せになるフローレスを見る。

「そんな!嫌です!何でマスターだけ!」

「ヒジリ!」

 消え去るヒジリの前にウメボシやスカー達が集まる。

 ヒジリは手を伸ばして何かを言おうとしたが声が出ない。

「マスター!マスター!」

 ヒジリの意識が途切れる終わりに見たのはウメボシの泣き顔だった。




 もうすぐ日の入りが近い夕方の公園で、オーガの子に石を投げる子供達がいた。石を投げる方もオーガである。

「やーーい!父無し子!泣きべそをかけー!あほー!」

「泣くものか!決闘しろ!逃げるな!」

 しかし子供たちは揶揄いながらも、決闘しろと叫ぶオーガの子供から逃げる。敵わないからだ。敵わないから徒党を組んで馬鹿にして逃げる。

 青黒い髪のオーガは咄嗟に印を組んで【吹雪】の魔法で自分を揶揄う子供達を凍えさせた。

「魔法なんて卑怯だぞ!卑怯者のオーガメイジ!父上が言っていたぞ!軟弱者ほど魔法に頼るってな!」

 ブルブルと鼻水を垂らして震える子供たちはそれでも煽るので、魔法を使ったオーガメイジの子供は悔しそうに下を向いた。

 その悔しそうにする子供にミミズクか猫のような髪型の影が差す。そしてバリトンの低い声が大きく公園に響いた。

「その軟弱なオーガメイジに負けている君たちは何かね?」

 子供たちは赤い瞳で睨み付けられて今度は本気で逃げ出す。

「わぁ!吸魔鬼が来たーー!逃げろ!」
 
「さぁヤイバ!顔をあげるのである、偉大なる者の子よ。下を向き続けるのであれば、それこそ軟弱なオーガとなろう」

 ヤイバは公園まで迎えに来てくれた吸魔鬼の始祖ダンティラスにしがみ付いた。

「何で父さんは死んだんだ!父さんさえいれば、僕は・・・僕は・・・」

「あの子供たちは皆ヤイバが羨ましいのである。同じエリートオーガなのに何をやっても君には敵わない。だから何とかして弱点を見つけだして、そこを攻めようとする。故に父無し子と揶揄うのである」

「父さんは・・・邪神と戦わずに逃げればよかったんだ。あんな意地悪な奴らがいる世界なんて滅んでしまえばよかったのに・・・」

「その考えは君の父上の無駄死を意味する。彼はこの星の全ての者に何を望んで死んでいったと思うかね?きっと平和や安寧であろう。その父上の願いを打ち消すような事は言うものではない」

 ―――ドドーーーン!

 突然公園に雷が落ちた。

 二人ともあまりの音に驚いて暫く動けず、音のしたほうを見てさらに驚いた。

 凹んだ地面に横向きに横たわる彼は紛れもなく星のオーガ。オーガとあまり区別のつかない星のオーガを何故星のオーガだと断定できるのか。それは彼が誰もが知っている顔だったからだ。

「馬鹿な・・・!」

「あれって・・・。ねぇ!ダンティラスさん!あれって父さんだよね?帰ってきたんだ!きっと蘇ったんだよ!」




 ヒジリは目を覚ますと見覚えのあるベッドで寝ていた。

「ふむ、桃色城に飛ばされたのか?それだけの為に元法皇は命を懸けたとは思えないが・・・」

 ヒジリが立ち上がると、外で物音を聞きつけた姉妹たちが入って来る。

「ヒジリ!」

 真っ先に飛びついたのは主のタスネだった。それから他の姉妹が抱きついて来る。

「やぁ、熱烈な歓迎ぶりだな。む?」

 ヒジリはタスネの顔をじっと見てから静かに驚く。

 タスネはヒジリの視線に気が付いたのか恥ずかしそうに顔を背けた。

「驚いたでしょ?私、吸魔鬼になっちゃったんだ。戦いで死にかけてた私をダンティラスが吸魔鬼にして助けてくれたの」

「私がいない間にそんな事が・・・。すまない、主殿。君を助ける事が出来なくて」

「いいのよ、ヒジリ。吸魔鬼も悪くないわ。それにね、私、ダンティラスと結婚したの」

 主の一人称がアタシから私に変わっていたが、ヒジリはそれを彼女が結婚をして落ち着いたからだと思った。

「ほう!それは素晴らしい!主殿はずっと独身で一生を終えるのではないかと思っていたのだがね」

「もう、ヒジリったら!相変わらずね!」

 タスネはバシンとヒジリを叩くとパワードスーツが衝撃を吸収してパスッ!と音をさせた。

「あなた!」

 開いている扉から大きな音をさせてリツが入ってきた。小学生低学年くらいの子供を連れている。

 リツはヒジリに抱きつくと顔中に猛烈なキスを浴びせた。

「うわっぷ!リツ、激しすぎやしないかね。ちょっとポルロンドに出かけ・・・おぷ!」

 リツの連れていた子供が突然泣き出して自分に抱き着いてきた。

「うわぁぁ!おとうさーーん!お父さんだー!」

「ふぇ?」

 リツとはまだそういう行為をしていない。なので子供が生まれるわけがないのだ。しかし、その子供の顔は確かにヤイバの顔だった。自分の子供時代にそっくりな顔。

「ヤイバ・・・。(どういう事だ?・・・そうか!)」

 ヒジリはフローレスのマジックアイテムを思い出した。

(そういう事か・・・。ここは違う時間軸の世界。法王が命を懸けた復讐の意味はここにあったのだ!)
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