即席!! 8ページラブコメ

竹林

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鈍感男×後輩女子

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 私は今から、同じ部活の先輩に想いを伝える。

 学校の屋上。昼休み。隣にはその先輩が座っている。

「あの、先輩」

 髪を耳にかけるふりをして顔を隠しつつ、彼の名を呼ぶ。

「ん?」

 こわごわと自分の気持ちを吐き出す。

「私、先輩のこと好きです」

 先輩は虚を突かれた表情を浮かべたかと思うと、それが満面の笑みに変わる。

「俺も好きだぜ!」

 サムズアップする鈍感男。

 はい、わかってました。

 やっぱりこうなるよね。

「やっぱり意味わかってないですよね」

「えーちがうの? じゃあどういうことだよ」

 これがいつものパターンだ。

 好意を伝えても先輩は気づいてくれない。

 今まで幾度となく想いを伝えようとしてきたものの、全く気が付いてくれないのだ。

「先輩には言ってもわからないと思いますけど」

「なにい? 俺はかわいい後輩のことなら何でもわかるぜ」

 ……すぐそういうこと言う。

 見た目がいいとか女の子っぽいっていう意味の「可愛い」じゃないのは知ってるんだけど。

 分かっているつもりなのに頬が少し上気する。

 顔を見られないように反対を向き、小声で反抗する。

「……ほんとそういうとこ嫌いです」

「えぇ、そんなこと言わんでくれよー」

 少し困ったように微笑む先輩。

 こういう表情もかっこいいと思ってしまうのが余計にむかつく。

 はあとため息をつき、気持ちを落ち着ける。

「今言ってましたけど、先輩は私のことなら何でもわかるんですよね」

「もちろん」

「じゃあ聞きますけど」

「おう、何でも聞いてくれ」

「私が今、何考えてるかわかります?」

「えーと、先輩のメロンパンおいしそうだなぁ。私にも一口ください!」

「なんですかその食いしん坊キャラみたいなモノローグ。全然違いますよ」

「うんこに行きたいと思」

「トイレに流しますよ」

「えぇ、後輩ちゃん、今日当たり強くない?」

「じゃあヒント上げます。私の好きな人のタイプは?」

 ヒントを飛び越してもはや答えだけど、ここまで言わないと気づかないと思う。

「えーっとたしか、年上で、気さくで、楽に話せて……ん? あれ? それって」

 首を傾げた後、口元を隠す先輩。

 もしかして気づいたのかな?

 私の気持ちに。

「そうです。私が好きなのは年上で、気さくで楽に話せる人」

 ぐいっと距離を詰め、先輩の目を見つめる。

「お、おう」

「じゃあ、私が今何考えてるか、分かりますか?」

 顔が熱くなっているのを自覚しつつも、先輩を見つめ続ける。

「後輩、その顔もしかして……」

 心臓が熱くなっていく。

 今まで先輩といてドキドキしたことなんてなかった。

 どうせ先輩は私の気持ちに気づかないから。

 どんなに言っても伝わらないと思っていたから。

 だけど今日は違う。

 やっと先輩に私の想いが伝わったんだ。

 先輩、どう思ってるかな?

 先輩は黙ったまま動かない。

 手を口元に当てたまま固まっている。

 だんだんと不安が大きくなってきた。

 迷惑かな、うっとうしいかな、困らせたかな?

 この時間が、静けさが怖い。

 ねえお願い、早く答えてよ。

 私の心の声が聞こえたのか、先輩はぱっと顔を上げる。

「ズバリ……トイレに行きたいと思っているー!!」

 え……?

「は? ぶっ飛ばしますよ」

 なんなのそれ。ありえない。

 鈍感なのはわかってるけど、ここまでだとは思ってなかった。

 気づいてくれたと思ってたのに。

 もう無理だ。これ以上先輩に私の気持ちを伝える方法が思い浮かばない。

 これからも永遠にこの気持ちは届くことはないのかな。

 今までも気持ちを伝えようと頑張ってきたけれど、もう限界だ。

 一緒にいるのさえ辛くなってくる。

 出会ったばかりのころ、部活の上級生の中では先輩が一番話しやすくて、私はいつも先輩の後について行ってたっけ。

 私が二年になってからはいつもこうして屋上でお弁当を食べて、くだらない話をして、楽しかったな。

 もうやめにしよう。

 この気持ちもずっと心に仕舞ったままで。

「ごめん今の嘘、優香、俺も好きだ」

 ……なにそれ。

 どうせ後輩として、とかでしょ。

 女の子として、じゃないんでしょ。

 これ以上私をみじめな気持ちにしないでよ。

「なんですかそれ。今怒ってるので話しかけないでください」

「ほんとだよ。さっきは恥ずかしくて言えなかった。ごめん」

「嘘だ。どうせ本気じゃないんでしょ」

 私は立てた膝に顔をうずめたまま答える。

「本気だよ」

「嘘」

「ほんと」

「……絶対嘘」

「嘘かどうか試してみるか?」

 顔を上げると、先輩が両腕を開いてこちらを向いている。

 そのまま私はふわりと抱きしめられた。

 先輩の体温が私を包む。

 でも少しすると、私を引きはがすようにする。

 ほらやっぱりね。好きな相手なら引きはがしたりしない。

 まだハグくらいじゃ信じない。

 どうせ私を落ち着かせるための――。

 そこで私の思考は止まった。

 先輩の唇が、私のおでこにくっついていた。

 触れ合った部分から熱が伝わってくる。

 心臓がバクバクと鳴る。

 思考が追い付かなくなる。

「これで分かってくれたか?」

 そう言ってほほ笑む先輩。

 その笑顔が、温かさが、好きで好きでたまらなくなる。

「まだ分からないです。もう一回、してくれないと」

 そうして私たちの心はようやく通じ合う。

 お互いの想いを、伝え合う。
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