史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十三章 黒髪少女の軌跡編

1000話 記憶喪失のエランという少女

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 さっきまで、ししょーが隣にいた。いや、手だってつないで……あ、本持ってるから離してたのか。
 どっちにしても……隣にいたはずのししょーの姿が、そこにない。それに、ししょーだけじゃない。

 周りにいたたくさんの人たちはみんないなくなって……人だけじゃなくて、たてものも、空だってなにもない。
 ただ真っ暗な空間にいるだけだ……

「やあ……こんにちは、小さなお嬢さん」

 真っ暗で、静かな空間……だから、聞こえた声ははっきりしていた。
 はっとして、声のほうを向く。そこにいたのは、ししょーではない。

 ししょーではないけど……ししょーとおんなじとがった耳や、緑色の目をしている人だ。
 でも、ししょーとは違って肌の色は黒っぽいし、髪の色だって金色じゃなくて銀色だ。

「だ、誰!?」

 ししょーも誰もいない空間。だから、誰かいてくれたことは安心したけど……その誰かが、誰なのかわからない。
 もしかしたら、私をおそったおじさんみたいな変な人かもしれない!

 私はいかくするように、その人をにらみつける。

「そんなに睨まないでおくれ、ボクはキミに危害を加えるつもりはないんだから」

 にこりと笑いながら、その人はなにもするつもりはない、とあぴーるするように両手を上げた。

 うーん……軽装で、まんととか着ているわけでもない。刃物とかをかくし持っているってことはなさそうだ。
 身体にぴったりした服だから、服の中になにか入れてもいない。

 でも、だからってけいかいを解くのは……

「ごめんね、いきなりこんな所に連れてきて。でも、どうしても二人きりで話がしたくてね」

「!」

 この人……こんなところに連れてきて、って言った。ってことは、私をこの真っ暗な空間にとじこめたのは、この人ってことだ!

「なにがもくてき!? 話!?」

 こういうの……人さらい、っていうのかな。私は、両手をその人に向ける。
 さっきたくさん食べて、まりょくだって満タンなんだから! たぶん!

 もし変なことをしようっていうなら、まほうでぶっ飛ばしてやる!

「……へぇ、記憶がないってのにずいぶん強気な態度だね。やっぱり、記憶がなくても身体に染み付いたその人の在り方は簡単には消えないのか」

「……っ」

 ……この人、私に記憶がないってことを、知っている……? それだけじゃない……まるで、以前の私を知っているような口ぶり!
 私をこんなところに連れてきて、記憶を失う前の私を知っている!

 本当に、なにものだ!?

「おっと、なんだかさらに警戒されているような?」

「あなた、誰なの!?」

「あぁ、これは失敬……今のキミにはボクが誰だかわからないよね。
 ボクはダークエルフ……キミの師匠の同族みたいなものかな。名前は……ま、適当に呼んでくれ」

「じゃあ人さらいやさおとこで」

「……やっぱりカインとでも呼んでくれ」

 好きに呼んでいいと言うから呼んだというのに、なんでか彼のひょうじょうは険しかった。
 名前があるなら最初からそう言えばいいのに。かっこつけちゃって。

 それにしても……カイン、か……

「まったく知らん」

 私に関係ある人の名前なら、名前を聞いたらなにか思い出すかもと思ったけど……全然そんなことはなかった。
 というか、これ本当の名前か?

 カインと"でも"呼んでくれって、変だもん。

「それで、そのカインさんが話ってなんの? 悪いけど私、忙しいんだから」

 ぎゅっと本を胸に抱く。
 これから帰って、ししょーのために料理を作らないといけないんだから。

 こんなところでぐずぐずしている暇はない。

「はは、それは申し訳ない。けれど、時間を心配する必要はない……今ボクたちは、隔離された空間にいる。外……つまりキミの師匠がいる場所とは、時間の流れが違うんだ。ここでどれだけ話をしようと、外になんら影響はない……キミがこの空間を訪れたことさえ、誰も気づくことはないだろう」

「むずかしいこと並べて話ごまかそうったってそうはいかないぞ」

「そんなつもりはないんだけど……まあ、時間を気にする必要はないってことだけ覚えておいてよ」

 時間を……ねぇ。
 でも、いくら時間があるからって私がこの人とお話する理由はないんだけどな。

 それこそ、もくてきさえ聞ければもうおさらばだ。

「この空間、闇属性の魔術を応用したものなんだ。対象を暗闇に閉じ込めるものを、時間を操作するものをそれぞれ掛け合わせた、とでも言うべきかな。
 いやあ、ただでさえ闇魔術は精神的に疲れるのに、こんな芸当をした暁にはもう疲労がすごくて……」

「聞いてないんだけど! いいから私の質問に答えろよ!」

 こいつ! ほっぺた赤くしながらなんか語りだしたぞ! 興味ないよ!

 ……いや、まじゅつとかにはちょっと興味あるけどさ!

「それと……ここでのことは、ここを出たらしばらくの間忘れてしまうから。思い出すのが明日か、一年後か、それとも十年後か……」

「え、なんだって?」

「なんでもない、こっちの話。で、キミの質問はなんだっけ」

「だから私に話があるってんだろ!?」

 この人全然人の話聞いてないな! 全然話が進まないんだけど!
 時間のながれがうんぬんかんぬん言ってるけど、それが本当かもわからないし。もしかして、私をここにとどめるのが目的?

 なんだか知らないけど、このままここにいるつもりはない。

「あぁ、そうだったね。話し込むとあっちこっちに散らかっちゃうのが、ボクの悪い癖でね」

「だから話せって」

「はいはい。ま、話ってたいしたものでもないんだ……正確には、記憶を失ったその後のキミの姿を見ておきたかった……かな。それに、叶うなら話もしたかった。だから、多少強引な手段を取らせてもらった」
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