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第十三章 黒髪少女の軌跡編
1001話 詐欺
しおりを挟む私の前に現れた、カインって名前の……まあそれが本当の名前ではないっぽいけど……男は、私に会いたかったからこんなことをしたと言った。
記憶を失う前の私を知っているらしい人物。そんな人が、私に会いに来たんだ。
もしかして、私をさらったりするつもりだろうか?
「……っ」
「だから警戒しないでくれ。言ったろ、一目見たかった……それに、話をしたかった。ただそれだけだって」
他になにもするつもりがないと言うように、カインは手を広げて肩をすくめる。
正直、うさんくさすぎるけど……この人、ししょーに気づかれずにこんなことができるなんて、たぶんかなりのやり手だ。
私がていこうしたところで、無意味……かもしれないな。
「……それじゃあ、もう用はすんだでしょ。私はこの通りぴんぴんしてるし、話もしてあげた。さっさと帰して」
「わぁ、冷たいし相変わらずクールだねぇ。そんな素っ気なくしなくてもいいじゃない」
「いきなりさらわれたようなもんだし、愛想よくしろってほうがむりだよ」
この人は私に好意的……なのかもしれないけど、私はそうはなれない。いきなりこんな真っ暗なところに連れてこられて。
初めて会った人をしんようしろってのも、むずかしい話だ。
いくら相手が、以前の私を知っているかもしれないとはいえ。
「いやぁ、ボクと仲良くしておいて損はないと思うんだけどな。キミ自身、もう気づいているだろうけど……ボクは、記憶を失うより以前のキミを知っている」
……やっぱり、そうか。この男、私のことを知ってる。
でも、親兄弟……ってわけじゃないよな。こいつえるふだし。
でも、ししょーとどーぞく……? って言ってたし……
「もしかして、ししょーと友達なの? どーぞくなんでしょ?」
「? ……ぷっ、あははは! と、友達? 全然違うよ!」
なぜか、カインはお腹をかかえて笑い出した。私、なにか面白いことを言っただろうか?
「同族だからって、友達ってわけじゃないよ。キミだって、さっき本屋で話していた店員と……同じ人間族でも、友達ではないだろう?」
「どっから見てたんだよ、きっしょ」
「あたりが強いなぁ」
む……こいつ、もしかしてずっと見てたのかな。だとしたら、そうとういやらしいやつだ!
私みたいな小さな女の子をつけ回すなんて、へんたいだへんたい!
「ま、キミの師匠とは顔も合わせたことはないよ。エルフ族って括りでは同じってだけ。彼は有名人だから一方的に知ってはいるけどね」
「……?」
「それで……ボクと仲良くして損はないよ? キミも知りたいんじゃないか……キミ自身のこと」
……へんたいだけど、妙にはく力があると言うか。えるふ……いや、だーくえるふってみんなこうなのかな?
きれいな見た目をしているのに、しゃべりかたがもったいない気もするけど。
それにしても……私自身のこと、か……
「……もしも、知りたいって言ったら……教えてくれるの?」
自分のことを知るために、他の人に自分のことを聞く……なんともおかしな話だ。
でも、今の私にはこれくらいしかできない。
ししょーは、私の手がかりをさがしてくれた。私のこのとくちょう的な見た目なら、すぐに身内なり知り合いは見つかるだろうと言っていた。
でも結果は、それらしい人は見つからなかった。まだ一日しかたっていないとはいえ、この広い国でだ。
そんな中で会った、私のことを知っている人……もし、知ることができるなら、私は……
「キミが知りたいというのなら、もちろん……教えないよー!」
男は、意味深に笑って……両手で左右からほっぺを押し、くちびるをとがらせて私に言った。
めちゃくちゃうれしそうな声色で。
「イラッ」
「キミが知りたいと言っても、ボクはそれを教えるつもりはない。だってキミの物語はまだまだ続くんだ、こんなところで明かしてしまったらつまらないじゃないか。
……よって、知りたいことは教えませーん!」
「イライラッ」
こいつ……殴っていいかなっ? 拳に力が入るのが感じる。
「おっとっと、そんな怖い顔しないで。落ち着いて、セーイ」
「誰のせいだと思ってんだ!」
別に私は、自分のことを知りたい……と思っているわけではない。いや、教えてくれると言うならそれを断る理由はないけど……
あくまでも、知りたくて知りたくて仕方ない、というわけじゃない。
ししょーが手がかりを探してくれているのもうれしいし、目の前にいる男が私のことを知ってるなら……手を伸ばすところにあるのなら、とも思う。
でも……
「私だって、教えるって言われたって教えられてやるもんか!」
ビシッ、とカインを指さし、私は叫ぶ。
こんないたいけな少女をおちょくるようなやつから、知りたいことなんてなにもないね! 今さら教えるって言われたって、死んでもいやだね!
そもそも、こいつが本当に記憶そうしつ前の私を知っているのかすら怪しい。
この国に入ってから私を見ていたのなら……いや、もしかしたらその前から私を見ていたのなら……私が記憶そうしつであることは、わかる。
それがわかっていれば、以前のお前を知ってるとかそれらしいことを言って、信ぴょう性を高めればいい!
「あっぶない。危うくサギ師に引っかかるところだったよ」
「キミの中でどんなやり取りが行われていたのか非常に興味深いね」
男は、非常にゆかいそうだ。そして私はとても不ゆかいだ
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