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第十三章 黒髪少女の軌跡編
1002話 未来
しおりを挟む私のことを知っていると言うけれど、私のことを教えるつもりはないと言う男。だーくえるふのカインと名乗るふしん者。
私に会いたかったらしいので、その用が済んだらもう帰ってほしい。
「ほら帰った帰った、しっしっ」
「冷たいなぁ。もっと愛をくれよ」
「なら愛されるようなことをして出直してくるんだね」
カインは少し残念そうな顔をするが、そんな顔をしたいのは私の方だ。
外とは空間が切り離されているという。なので時間を気にすることもないと言うけど、外でどれだけの時間がたったかより、私が感じる時間のほうが問題だ。
「ま、いいや。わりと話もできたし、ボクはおおかた満足だよ」
「そりゃ良ござんしたね」
「まったくだよ」
ははは、と笑うカインは、私のひにくが効いていないようだ。というか聞いてないのかな。
「それに、この空間を維持するのも楽じゃないんだ。なんせ空間も時間も切り離した場所……いわば本来干渉できないものに干渉しているんだ。消費魔力も半端なものじゃない」
「そこまでしてこんな小さい女の子に会いに来たとか、きっしょ」
「なんかどんどん雑になってない? キミのことだから、こういう魔術には興味があると思ってたんだけど」
肩をすくめて、カインは笑う。
まじゅつ……はせいれいさんが私を助けてくれたやつだよな。あれと比べれば、ぜんぜん違う。
でも……せいれいさんのは、あたたかかった。でもこれは……この男のは、冷たい感じがする。
「闇の魔術。興味が出たらいろいろ調べてみるといい。キミには素質があるから。
まあ、闇の魔術なんてダークエルフが使うもの、書物にもあまり載ってはいないだろうけどね」
……闇、か。この空間もそうだけど、真っ暗で冷たくて……なんだか、あんまりいいひびきじゃない。
おんなじエルフ族だって言うなら、ししょーも知っているんだろうか。戻ったら聞いてみようか。
……あ、でもここから出たらここでのこと忘れるって言ってたな。けちな男だ。
「別に、そしつなんて言われてもうれしくないし」
まあ、ししょーにまどうのそしつがあると言われたときは、うれしかったけどさ。
「嬉しいと感じようが感じまいが、実際にあるんだから仕方ない。それにしても、キミはつくづくダークエルフと縁があるみたいだね」
「えん……? ……私が会っただーくえるふなんて、あんただけだけど」
「いや、未来の話」
? なんだろう……記憶がない頃に、私はだーくえるふと会ったことがあるっていうんだろうか?
だーくえるふってみんな、こんなふざけた感じのやつなのかなぁ。
だとしたら、いやだな。
「さあて、そろそろ魔力も限界かな。キミを元の場所に帰そう」
「ぜひそうしてほしい」
「ははは。……ここでのことは、いずれ思い出すだろう。そのとき、キミが果たしてどんな風に成長を遂げているのか……見ものだね」
「? なにを……」
パチンッ……
大きな音が、ひびいた。でもじっさいには、それほど大きな音ではなかった。
私たち以外に誰もいない空間だったから、そう聞こえただけだろう。だって、指をぱちんと鳴らしただけなんだから。でもそれが、すごく響いた。
次のしゅんかん……私たち以外に音のなかった世界に、がやがやと音が戻ってくる。
人々が話している声、せわしなく歩いている足音、建物の扉が開く音……
どっと、音が押し寄せてくる。
「エラン、あのお店に行ってみないか?」
「え?」
ぴくっと反応して、顔を上げる。そこには、ししょーがいた。
前にあるお店を指さして、あそこに行こうと言っている。
その顔を見て、私はぽかんとしていた。
「? エラン? どうかしたかい?」
私から返事がないから、ししょーは首をかしげる。
「あ……えっと……ししょー!」
「ん?」
なにをぼーっとしていたんだ私は。ようやく戻ってこれたんだ。
本当に時間の流れは違っていて、ししょーと離れてしまったちょくぜんのあのしゅんかんのまんまだ。
時間がたっていなかったことに安心して、私はさっきのことを聞くことにする。
「あのね、ししょー。聞きたいことがあるんだけど……」
そう、さっきの、ことを……
「どうしたんだい、急に」
「えっと……」
さっきの……さ、さっきの……?
……さっきのことって、なんだっけ。
「……忘れちゃった」
「ん? あはは、エランは忘れんぼだね?」
くすくす、と笑うししょーの笑顔は明るい。私を見て、楽しそうに笑っている。
それがうれしくて。でも胸の奥にはなにかがつっかえていた。
さっき……私、なに言おうとしてたんだっけ。そもそも、ししょーと離れるとか、時間の流れがとか……なんのことだ?
私、ずっとししょーと一緒にいたはずなのに。
「あははは、そうみたい。それより、行こししょー!」
「あ、あぁっ」
本を抱え直し、ししょーの手を引く。駆け足でししょーを引っ張り、さっきししょーが指さしていた店に向かう。
なにか、あった気がする。でも、なんにもなかった気もする。
気のせい……かな。うん、気のせいだろう、なんにもなかった。
それから、あちこちをいっぱい見て回って……日が落ち始めたときに、国を出ることになった。
今日は、なんでか知らないけどどっと疲れちゃったな。こんな大きな国にはしゃいじゃったのかな?
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