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第十三章 黒髪少女の軌跡編
1022話 期待
しおりを挟む……魔導学園。私と同じように、魔導を学ぶことを目的とした子たちが集まる場所。
そんな場所があることに驚いたけど、同時にワクワクもした。そんな場所があるってことは、魔導を学びたい子がたくさんいるのだと。
魔導の知識を深めることはもちろん、同じく魔導を学ぶ者同士お互いに高め合ったり、競い合ったり。学園だから、いろんな子たちがいるのだろう。
これまで師匠のところで、師匠と過ごしてきた私にとってはすごく新鮮な場所だ。
師匠は私のために、魔導学園という場所の存在を教えてくれて……そして、私に決めさせてくれた。
だから私は、そこに行くことにしたんだ。いつか師匠を超える魔導士になることを誓って。
「これが、エランと食べる最後の食事かな」
「……そうだね」
魔導学園に行くことを決めて。入学試験の準備やらなんやらを済ませて。
そして師匠と過ごす、最後の時間。これまでずっと一緒だったのに、これからは離ればなれ……なのか。
どうやら師匠は、私を送り出したあとまた旅に出るみたい。元々旅人ではあったけど、私の面倒を見るためにここに留まってくれた。
師匠は、ベルザ国は魔導大国だから近くに暮らすことはなんの問題もない、と言ってくれたけど。
「師匠は、寂しかったりしない?」
「名残惜しい気持ちがないと言えば、嘘になるかな。特に、エランの料理がもう食べられないっていうのは、残念でならないよ」
「師匠結局、料理上達しなかったもんね」
私がここから出ていくことになって、師匠には料理を教えた。もちろん、それ以前もちょくちょく教えていたりはしたんだけど。
私の教えも虚しく……いやまあ、多少はうまくなったとは思うんだけどさ。
私が人に教えるのが下手なのか、それとも師匠が壊滅的に料理が下手なのか。
「私がいなくなったからって、ひもじい食生活してたらだめだよ? そのへんの草とか食べてちゃだめだからね」
「探せば食べられる草もあると思うんだが……」
「そういう問題じゃないの」
本当に大丈夫だろうか、師匠は。まあ私と出会う前も、なんとかやってきたっぽいから……大丈夫だろう。多分。
私としては、師匠の生活も心配要素だよ。
……でも、私がいつまでも師匠の邪魔をするわけにいかないもんね。師匠は一つの場所に留まるような人じゃない。
私が師匠に着いていく……ってのも考えたけど、それは師匠に却下された。
世界を見るのも大事だけど、それよりも学ぶべきことがたくさんある……って。
「じゃあ、存分に味わってよ。で、恋しくなったらいつでも食べに来なよ」
「……そうだね」
魔導学園は、入学すればその後は寮生活になるみたいだ。だから、どっちみちここには居られなくなる。
師匠がどこに行くのかは、わからない。でも、私は在籍中はずっと同じ場所にいるのだ。だから、会いに来ることもできるんだよ。
ま、入学試験に合格すればの話だけどね。
「エランならきっと、余裕で合格できるよ」
私の考えていることを言い当てる師匠。
この十年で、お互いの考えていることはだいぶわかるようになった。気がする。
それが嬉しくもあり、ちょっと恥ずかしかったりもする。
「だといいんだけど。試験って、難しいの?」
「うーん……最近はどういう感じになっているのかはわからないけど、エランができることをやれば、必ず合格できるよ」
正直、不安はある。それは、師匠と離れることももちろんだけど……うまくやっていけるのかって不安だ。
今日まで私は、師匠と二人暮らしだった。たまに師匠に着いてベルザ国へ行くことはあっても、人と関わるのはそれくらいだ。
だから、学園という大きな場所で、たくさんの人に囲まれて……ちゃんとやっていけるのか。ちょっと不安だったりする。
「エランなら、すぐに友達もできるだろうさ」
「! そ、そうかなぁ?」
友達、かぁ。それは憧れてはいたんだよな。
師匠は家族で、友達ではない。だから私には、友達はいない……あ、精霊さんは友達だよ!
……その精霊さんとも、ここでお別れすることになる。やっぱり精霊さんはこの場所が気に入っているので、ここに留まるみたいだ。
着いてきてくれたらな、なんて思うけど、こればかりは仕方ない。
精霊さんは、いろんなところにいろんな種類がいる。でも、私の友達の精霊さんは、ここに居る精霊さんに違いない。
「師匠、私頑張るよ!」
「お、その意気だ」
いつまでも考えていても仕方ないもんね! 不安はあるけど、それは期待の裏返しだ。のはずだ。
それから私たちは、最後の食事を楽しんだ。これまでと同じようにお話をして、笑い合って……そして、完食した。
空になった食器を見て、じんわりと懐かしさがこみ上げてくる。いつもこのお皿で料理を作っていたんだよな……
魔導学園には、最低限のものしか持っていかない。だから思い入れのあるものとも、ここでお別れだ。
これをどうするかは、師匠次第。どうするつもりなのかは……敢えて、聞かない。
「……よっし」
不安と、期待と、他にもいろんなものが混じった気持ちが、胸の中をかき回す。
バクバクと心臓が動いている。静かに深呼吸をして、そっと胸に手を当てた。
これから私の身に起こることは、きっと私が想像もしないことだろう。だけど……だからこそ、私は行くんだ。
もっと強くなって、いつか師匠を超えるために!
「じゃあ師匠、行ってくるね!」
「あぁ、行ってこいエランっ」
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