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第十四章 他学年試合編
1073話 ノマの進化
しおりを挟む凄まじいほどの魔力が、ノマちゃんを中心に溢れ出している。
ノマちゃんの魔力が飛躍的に上昇していたことは知っていたけど……まさか、これほどとは。
それを間近で受けているタメリア先輩は……
「……驚いたな。なんだいその魔力」
いつもの飄々とした表情は消え、冷や汗を流していた。
……今ノマちゃんの体内には、二つの魔力が流れている。一つはノマちゃんの魔力。もう一つは魔石の魔力。
あの"魔死事件"で魔石の魔力を流し込まれたノマちゃんは、他の被害者同様血を吐いて倒れ……でも、生死の境を彷徨った。
他の人は即死だったのに、だ。そしてノマちゃんは見事生還した。
その結果、二つの魔力が混ざり合った状態になっている。本来なら、体内に異物を取り込んだ時点で身体は耐えられない。
だけどノマちゃんの魔力と混ざり合い、おまけに魔力の許容量も大幅にアップして。現在まで、問題なく生活してきたのだ。
「これはすさまじいね」
「あ、ナタリアちゃん」
気づけば、後ろにナタリアちゃんが立っていた。
「どうしたの? クラスは?」
「はは、いや……どうしても、彼女の姿を近くで見てみたくなってね」
ノマちゃんの姿を、ただ眺めるのではなく……もっと近くで見たい。だから、最前列までやって来たのだ。
その気持ちは、私にだってわかる。
それにしても、嫉妬しちゃうくらいにすごい魔力だ。
「行きますわよ!」
「!」
言うのと同時、ノマちゃんは魔力弾を放つ。けれどそれは、ただの魔力弾ではない。
せいぜいが片手ほどの大きさ……だけどノマちゃんが放ったのは、両手でも抱えきれないほどの大きさだ。
魔法なのだからもちろん、魔力を込めればそれだけ威力も大きさも上昇する。
でも今のは、たいして力を込めた風でもなかった。
「よっ……」
それをとっさに、タメリア先輩は魔力防壁で防ぐ。さすが先輩、その魔力は上々だ。
三年生ともなれば、やっぱりすごいもんな。魔力は鍛えれば鍛えるだけ強くなるし、許容量も大きくなる。
だから、最上級生の先輩の魔力が大きいのは当然だ。
なんだけど……
「えりゃりゃりゃ!」
ノマちゃんは、魔力弾を連続して放つ。魔法の中でも一番お手軽なのが魔力弾だ、それができても不思議ではないけど。
今の彼女の場合、威力も大きさも段違いだ。なのでそれを連続して撃たれると……
「ぬっ、おぉおお……」
さすがの先輩でも、防壁を維持するのに精一杯。ガンドガァンと重々しい音が轟き、なんとか踏ん張っている状態だ。
ここで、他の手でも打たれようものなら……
「隙だらけ、ですわ」
「!」
ノマちゃんの声は、タメリア先輩の後ろから聞こえた。でも、おかしい。ノマちゃんは未だ魔力弾を放っているのだから。
なのに、別の場所から声が聞こえる。
その理由は、一つだ。
「分身魔法……!」
「ですわ」
そう、分身魔法で自分の姿を増やして、片方を魔力弾撃ちに。その隙にもう片方はタメリア先輩の背後に回ったのだ。
また、ノマちゃんの動きが見えなかった。もう一人が先輩の背後に回っているなんて。
いや、それ以前に……
「あれで、半分の威力か……」
ナタリアちゃんが呟いた通り、今のノマちゃんは半分の力しか出せない。それが分身魔法のデメリットだ。
人数が二人なら本来の力の二分の一にまで威力は下がる。今のノマちゃんは少なくとも、全快の半分の力だ。
なのに、タメリア先輩を防戦一方に追い込むほどの魔力!
「……彼女の魔力はすでに【成績上位者】を抜いているかもしれないね。それに、あの動きに機転の早さ……感心するよ」
一年生の【成績上位者】である私、ナタリアちゃん、そしてヨル。それは魔力や知識量で選ばれたわけだけど……
今のノマちゃんは、それに匹敵……いや超えるほどの力だ。
……私の中で、気持ちが昂っていくのを感じる。
「えいやぁ!」
「ぐふっ!?」
その間にも、ノマちゃんの回し蹴りが先輩の脇腹に突き刺さる。魔力防壁を展開し、防戦一方の今他に気を回す余裕はなかったはずだ。
そんながら空きのところに、あんな鋭い蹴り……ありゃあ痛いぞ。
しかも、その痛みで気が乱れ、魔力防壁が消える。すると、今まで防いでいた魔力弾の嵐がタメリア先輩を襲う。
「くっ……そぉ!」
それでも、先輩はやられてばかりではない。自ら風の魔法を使って、身体を上空へ飛ばす。
おかげで魔力弾から逃れることに成功。空中では、たいした動きは取れないけど……
先輩にとって、空中で体勢を整えることなど造作もない。
「……っ、命の源よ、清らかなる水よ、天恵より与えられし大いなる水よ……」
「! 魔力詠唱!」
空中で体勢を変えつつ、その狙いをノマちゃんに定める。痛みがありながらも、冷静に物事を判断している。
空中では動きが取りにくい……けど、空中なら妨害される心配も少ない。
対するノマちゃんは、それをじっと見て……
「わたくしは、まだ魔術は使えませんわ。それでも……」
手を上げ、その先をタメリア先輩へと向けた。ノマちゃんのきれいな目が、細められる。
「其れは全てを呑み込みし千波となり、母なる海へと景色を変えろ!
大海水魔!!!」
……タメリア先輩の周囲の魔力が暴れ、それが魔術として昇華される。
強大な水の魔術は、ノマちゃんへ向かってまるで極太の光線のように放たれた。
魔術に対抗するには魔術……これが基本だ。でも、ノマちゃんは魔術を使えない。
このままじゃ……
「……見えましたわ」
ボソリと、ノマちゃんはつぶやき……練り上げていた魔力を、放つ。威力も大きさも、迫る魔術と比べるまでもない。
魔法としての威力はあっても、魔術に対しては当たれば消滅してしまうような、そんな小さな威力。魔力光線は、強大な濁流へとぶつかり……
……その魔術を貫いて、タメリア先輩の肩をも貫いた。
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