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第十五章 最高の魔導士編
1147話 なにかお礼をしたい
しおりを挟むここで、師匠と十年間を一緒に過ごしていた。十年分の思い出が、ここにある。
記憶喪失である私にとって、人生の全てと言ってもいい時間を過ごしているんだ。思い出深い。
もし、魔導学園の存在を知らなかったら……師匠が私に、教えてくれなかったら。
もしかしたら、ここでずっと……
「ここで、エランさんが育ったんですね……なんだか、感動的です!」
目をキラキラさせたルリーちゃんが、家の中をキョロキョロと見回す。さらに忙しなく足を動かし、あっちに行ったりこっちに来たり。
うろうろと動き回っているのだ。
私にとっては微笑ましい姿だけど、アスィーにとってはそうでもないらしい。
「なんなんだ、あの女は」
「あはは……まあ、私のこと大好きってことで」
ルリーちゃんが私のことを大好きだって言うのは、もはや自惚れではないと思う。
そんなルリーちゃんにとって、私が育った家はすごい所なんだろう。
大多数の人は、ここはグレイシア・フィールドが住んでいた家ってことで注目するだろうけど。ルリーちゃんは私が住んでいたところに注目しているわけだ。
「でも、ホントにあの頃のまま。アスィーはこの家、使わなかったの?」
「使ってもいいとは言われていた。けれど、俺がこの家でやったことは形を崩さない程度に掃除したくらいだ」
……アスィーがここを掃除してくれていたおかげで、ほとんどがあの頃のままなんだな。
人が使わなければそれほど埃とかは溜まらないだろう……とはいえ、それでもまったく汚れないなんてありえない。
窓を開けて空気の入れ替えなんかもしないと、家は傷む。モンスターたちに家を襲われないため、見張ってもくれていたのだろう。
彼が、私たちの思い出を守ってくれた。
「ありがとうね、アスィー」
「……別に、先生の頼みだから従っただけだ」
私から顔を背けたアスィー。だけど……その耳は、少し赤いように見える。
エルフの耳は尖っているから、人よりも見やすい。だから、赤くなっていればすぐにわかる。
表情の変わらない、クールな人だけど……照れている、のだろうか。
「ふふ、かわいい」
「なっ……」
振り向くアスィー。あ、今の口に出ちゃってた?
振り向いたアスィーの顔は、赤くなっていた。エルフは肌が白いから、赤くなったり青くなったらよくわかる。
これは……すごい照れてるってことかな。かわいい……あ、また思っちゃった。
男の子だし、あんまりかわいいって言われるのは嫌だろうしね。
「ごめん、今のはつい。もう言わないから」
「……ふんっ」
そのままアスィーは、そっぽを向いて離れていってしまう。ありゃりゃ、拗ねちゃったかな。
外に出てしまったアスィーだけど……どっか行っちゃったわけではない。窓の外にちゃんといる。
……というか、精霊さんと戯れている。アスィーも精霊さんが見えるのか。
まあ、エルフなら精霊さんと相性もいいだろうしね。もしかしたら、二人で協力して私たちの家を守ってくれていたのかもしれない。
「なにかお礼をしなきゃな」
二人には改めて、お礼をしたい。
とはいえ……精霊さんとエルフが欲しいものかぁ。なんだろ、全然思いつかない。
師匠は物欲とかなかったし……精霊にも、そういうものはないもんなぁ。
「エランさんっ、これ小さいエランさんですよね!」
「ん?」
興奮した様子のルリーちゃんが、私を呼ぶ。
私がそちらに向かうと、鼻息を荒くしたルリーちゃんが棚の上に立てかけてある写真立てを指差した。
そこには、明らかに今の私より小さな私が、歯を見せ笑いながらピースをしていた。
「そうだね。うわー、私ちっさい」
「かわわー!」
今の私が同年代の中では小柄な方だとはいえ、さすがに子供の頃よりは成長している。
写真に写っているのは、その子供の私だ。
黒髪の、元気な女の子。自分で自分の幼い頃の姿を見ると言うのは、なんだかとても恥ずかしいなぁ。しかも、それを友達に見られているなんて。
「うわぁ、かわいいです。お持ち帰りしたい!」
写真に手を伸ばすけど、触れるのは恐れ多い……と言わんばかり。
なんだか危ないことを言っているような気もするけど、まあいっか。
フィルちゃんも楽しんでくれている。決して広い家ではないけど、二人にとってはまるで宝箱の中にいるようだろう。
「アスィー」
私は二人はそのままにして、外に出た。
そこにいるアスィーに声をかける。すると、彼は振り向いた。
さすがに、まだ顔が赤いってことはないみたいだ。
「改めて、ありがとうね。私たちの家を守ってくれて」
「何度も聞いた、しつこいぞ」
「しつこいくらいお礼を言いたいの」
まあ、森で会ってからずっと言っていることだし、さすがに聞き飽きたってことかな。
それでも、私にとって言い過ぎたってことはない。この感謝は、どれだけ伝えても足りないものだ。
「……アスィーってさ。魔導学園の文化祭に来てたんだね」
私は、例の写真を見せる。私と師匠ガ写った写真を。
それを見て、アスィーは小さくうなずいた。
「エルフだし、そのまま来たら騒ぎになっちゃう……だから、姿を隠して来たんだよね。でも、そんな危険なまねをしてまでどうして?」
エルフのような目立つ存在がいたら、絶対に騒ぎになる。だから、ルリーちゃんのように姿を隠していて。
そうまでして、学園に来たかったのはなんでなのか。
アスィーは、ちらっと私を見て……
「さあな」
と、ぶっきらぼうに答えたのだった。
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