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第十五章 最高の魔導士編
1175話 これはにおいますねぇ
しおりを挟む「いらっしゃ……おやエランちゃんじゃないかい」
「どうもー」
お昼ご飯をどこにしようかと考えていた私たちは、結局……一番馴染みのあるお店に行くことにした。
そこは、宿屋の『ペチュニア』。私とルリーちゃんが学園入学までの間お世話になった場所で、なによりクレアちゃんの実家でもある。
店内にお客さんはぼちぼち。そんな中、クレアちゃんのお母さん、肝っ玉母さんことタリアさんが元気な姿を見せてくれた。
「ルリーちゃんも一緒かい。それに……」
「ラッヘです」
「フィルだよ!」
四人席に案内され、私たちは座る。
渡されたメニューを見つつ、私は店内を見た。たまに来るけど、やっぱり落ち着く感じだなぁ。
それに、タリアさんは相変わらずお客さんに慕われているようだ。
「ここはクレアちゃんの実家なんだよ」
「へぇ……なら、クレアちゃんも居るの?」
「あの子はまだ寝てるよ。もう昼だってのに、だらしないったら」
私たちの会話を聞いていたタリアさんが、呆れたように話す。まだクレアちゃんは寝ているのか。
久しぶりの実家で、落ち着いたのだろうな。
「せっかくだし、起こしてこようか?」
「いや、お構いなく」
それから私たちはそれぞれ料理を注文する。
腹ごしらえをしたら、また王都を回ってフィルちゃんの手がかりを捜そうか。
「それにしても、不思議だよね。こんなに大きな国なのに、フィルちゃんの手がかり一つないなんてさ」
と、ラッヘは不思議そうに言った。まあそこ気になっちゃうよね。
当のフィルちゃんはなんにも気にしていないっぽいけど。
ごくごくと、お水をおいしそうに飲んでいる。
「不思議なことがいっぱいだよ、フィルちゃんは」
「?」
「お待たせしました」
そこへ、注文した品を持った若い男性店員がやってくる。
まずはフィルちゃん、そしてルリーちゃんだ。
全部の料理が同時に来るわけではないので、私たちのことは気にせずに先に食べてもらう。
「……あんな男の人、いたっけ」
「制服着てるし、最近雇った方じゃないですか?」
……狼型の亜人。でもメメメリ先輩のようにがっしりしたタイプじゃなくて、やせ型と言うかすらっとしているというか。
てきぱき働いている。タリアさんもうんうんうなずいている。
人間も亜人も、そして獣人だって笑って同じ空間に居る。
だけど、その中にエルフといった種族はいない。学園には居るし、受け入れられてきているとはいえ……まだ難しいのかもしれない。
そのせいか、さっきからこっち……というかラッヘに視線をちょいちょい感じる。
この席にはエルフと、それに正体を隠しているけどダークエルフが座っているなんて、誰も思わないだろうな。
「お待たせしました」
「あ、どうも」
そんなことを考えているうちに、私とラッヘが注文していた料理も届いた。
届けてくれたのは、先ほどの狼亜人さん。
大きな体とは思えない丁寧な動きでテーブルに皿を置いていき……
「! お客さん、その髪と肌……エルフですか。珍しいですね」
そう、言葉通り物珍しそうに言った。
その言葉に、珍しさこそあっても他意はない。純粋な興味だ。
中には、未だにエルフだからってヤなことを言う人が居ないわけでもないからな。
「どうも……やっぱり、この国にはエルフはいないんですか」
「自分の知っている限りでは」
エルフは目立つ風貌だもんな。居たら、すぐ話題になるはずだ。
「聞いた話だと、魔導学園にはエルフの教師と転入生が……って、もしかして……」
「そう、その魔導学園の生徒です」
「あぁ、そうなんですか。ということは、お嬢さんの知り合いだったり?」
おぉ、まさか学園のことで話が広がるとは。
そういえば、私たちと同じくらいで学園の生徒以外の子って、あんま接点ないな。学園ってそんなもんなんだろうけど。
というか……お嬢さん?
「おじょーさん?」
同じことを疑問に思ったらしいフィルちゃんが、首を傾げた。
すると彼は「すみません」と一言置いて……
「クレアのことだよ」
彼の言葉につけたすように、タリアさんがやって来た。空になったコップに水を注いでいく。
なるほど、雇われ先の娘さんだからお嬢さん……か。
クレアちゃんが魔導学園に通っていることは知っているのか。ま、それだけ従業員同士の距離が近いのか。
改めて仲の良い職場だな……と思っていると……
「ふわぁ……」
気の抜けた声が聞こえた。
二階に続く階段から下りてくるのは、いつもはきれいに肩まで伸ばした桃色の髪……が所々跳ねているクレアちゃんの姿だった。
明らかに寝間着で、明らかに起きたばかりだ。
「あんた、やっと起きたのかい? 休みだからってまったく……」
「いいじゃない休みなんだから……って、あれエランちゃんたちの姿が見える……」
「おはようございます、お嬢さん」
「ん、おふぁようございまふガイロさ…………ガイロさん!?」
目を擦る、順にタリアさん、私たち……そして声をかけた狼亜人、ガイロさんへと顔を向ける。
しかし、突然フリーズしたように固まり……かと思えば目を見開いた。まるでその姿を認識した瞬間に、顔を真っ赤にしているようだ。
そして、「え、なんで」と慌てたように騒ぎつつ、ぼさぼさの髪を触る。
「なんでって、そりゃウチの従業員だし」
「きょ、今日来るようになってたなら言っといてよ、もーっ」
なにがなんだかわからずといった感じで、それでもクレアちゃんは逃げるように去って行った。
多分、顔とか洗いに行ったんだと思うんだけど。
……これはにおいますねぇ。
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