46 / 1,141
第一章 魔導学園入学編
46話 決闘の決着
しおりを挟む迫りくる炎の波……これはもう、斬撃というレベルじゃあないな。
それに、これじゃあ弾くこともできない。
身体強化で、全身を鎧で包んでいる以上、結界は関係なしにあれに呑み込まれても一定以上のダメージは受けないけど……
炎のダメージは受けなくても、熱は防ぐことはできない。
さっき火の斬撃を避けてて気づいたけど、どうやら熱さでのダメージは防げても、熱までは防げないらしい。
結界内では、ある程度以上のダメージは無効化される……けど、疲労は別だ。
疲労が溜まれば動けなくなり、動けなくなれば負け認定される。
火の場合は、熱さイコールダメージ、熱イコール疲労、ということだ。
ややこしいけど、まあ……
要は、あれに呑み込まれたら熱でやられて、ダウンしちゃう可能性が高いってこと。
外からの衝撃には強くても、熱とか例えば毒とか、空気感染的なものには弱いみたいだな、身体強化。
「だったら……」
波を避けるのも、やはり難しい。
ならば取る手は、一つだ。
私は、魔導の杖を構える。
向ける先は、もちろん炎の波。
魔力を、杖の先端に集中。
あの炎の波を、止めるために、イメージするのは……
「……凍れ」
私の言葉を合図に、杖の先端が光り……
そこから、炎の波へ向けて、淡い光が放たれる。
その光が、炎の波に触れた瞬間……
パキィイイイン……
耳に届く、瞬間的に激しい音……そして、周囲に漂う冷気。
それもそのはず。
激しい熱気を発していた炎の波は、その全てが、見事に凍っていたのだから。
「……な……」
それを見たダルマ男は、驚愕に声を漏らした。
自分の攻撃が凍らされた、あの激しい炎が見事に凍った、それほどの魔力の差……様々な、感情が渦巻いていることだろう。
氷に包まれた、炎だった波……
それは、まるで芸術品のよう。
だけど、それに見惚れている暇などあるはずもなく。
「隙あり、だよ!」
「ぁ……!」
私は、足への強化魔力をして、波を越えてダルマ男の眼前へ接近する。
確かに、あの炎を止められたことに驚いてるんだろうけど……戦いの最中、隙を見せちゃいけない。
加えて、凍った波が壁になって、私の動きを隠してくれていた。
けれど、それじゃあまだ決闘の決着はついていない。
勝敗をつけるには、相手に敗けを認めさせるか、戦闘不能にするか。
ダルマ男の性格なら、降参するのは期待できない。
なら、ちょっと気絶でもしてもらおう。
大丈夫、結界内なら、たいしたダメージにはならないし。
私は、全身に回していた魔力を、右拳へと一点集中させる。
さすがに防御体勢を取ろうとするダルマ男だが、気づいた時点で遅い。
「たぁあああ!」
「そこまで!」
振りかぶった右拳が、ダルマ男への顔面へと繰り出される……その瞬間、場内に響き渡る声。
決闘の勝敗結果となるもう一つ、それは先生が止めた場合だ。
つまり、この時点で決着がついた……と判断されたってことだ。
ちょっと不服だけど、仕方ない。
あとは、攻撃の手を止めるだけ。
先生の合図により、私の右拳はダルマ男の眼前で、ピタッと止まる……
……なんて、都合のいい止め方ができるはずもなく。
「ぁ」
「ぶふぉおおおおお!!」
止めようとした。止めようと努力をした私の右拳は、しかし止まることなく、そのまま振り抜いてしまう。
結果として、決闘の勝敗がついたにも関わらず、ダルマ男の顔をぶっ飛ばしてしまうことになった。
まるでボロクズのように、ダルマ男は吹っ飛んでいく。
ビターンバチーンドゴーン……床に壁に、衝突する。
すんごい音したなぁ。
うわ。痛そう。
「あー……ごめんね」
「な、なにしとるんじゃー!」
さすがに悪いと思った私は、謝る。けど、多分届いてないだろう。
その場に、先生の怒号が響いた。
結局、決闘の勝敗は私にはなったけど、先生から注意を受けた。
「私の合図があったのに、なぜダルマスを殴った?」
「いやぁ、あんなぎりぎりで言われても、反応出来ないって言うか……」
「だとしても、あんな全力で殴ることはないだろう」
「ダルマス様ー!」
完全に伸びているダルマ男は、取り巻きたちに介抱されている。
すごいや、あんな殴ったのに、ほとんど顔の形は変形していない。
もしも、結界の効果が反映されてなかったと思うと、ゾッとするけど。
「まったく……
この後教室に戻るつもりだったが、とりあえず誰かダルマスを保健室に連れて行ってやれ」
「あ、それなら私が……」
さすがに、私に責任がないとも言えないので、そっと手を上げる。
「任せられるか! どうせ見てないところでまたぶん殴るつもりだろ!」
「もうしないよ!」
「……ダメージこそ抑えられているが、結界内で気絶するまで持っていくとは。
それも、強化していたとはいえ素手で」
私だって、節度はわきまえている。
ダルマ男は気に入らないやつだけど、さすがに気絶している相手を、どうこうしようとは思わない。
原因は、まあ私にもあるわけだし。
「なら、フィールド、責任もって運んでやれ」
「でも先生、エランちゃんは女の子……」
「たった今、その女の子が同い年の男を気絶するまでぶっ飛ばしたんだ。
運ぶくらいたいしたことじゃないだろう」
……なんだろう、クラスメイトだけじゃなく、先生からも怪力女扱いされている気がする。
いや、仕方ない部分はあるんだけどさ。
ま、喧嘩両成敗ってわけじゃないけど……気絶させちゃった責任は、取らないとな。
「よっと。
じゃ、いってきまーす」
「……あぁ」
私は、ダルマ男を持ち上げ、肩に担ぐ形で歩き出す。
はぁ、ちょっとした決闘が、なんでこんなことに。
なんだか背中に、みんなの視線を感じる。
そりゃ、あんなぶっ飛ばしちゃったからなぁ。
「男の子一人、軽々持ち上げてる……」
「あれ、身体強化使ってるのか?」
「いや、多分素だ」
クラスメートたちの声が聞こえなくなるくらいまで離れた所で……私は気づいた。
保健室って、どこだろう。
その後、目的の保健室に行こうと、あっちこっち行っている間に、ダルマ男は目を覚ました。
「! てめ、なにして……離せ!」
「あ、ちょ、そんな暴れたら……」
「いてぇ!」
私の上で暴れるダルマ男は、案の定落ちて地面に激突した。頭から。
痛そう。
保健室に行こうと勧めるも、本人は断固拒否し、教室へと戻っていく。
仕方ないので、私も戻ることにした。
49
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる