45 / 1,141
第一章 魔導学園入学編
45話 基礎を大事に
しおりを挟む「てめぇ!」
「ほっ」
振り向きざまに、ダルマ男は横薙ぎに剣を払う。
けれど、そんな見え見えの刃が当たるわけもない。
難なくかわして、距離を取る。
「ちっ、てめぇも身体強化か。
張り合おうってか?」
「まあ、そういう気持ちもなくはないけど……
私、発見しちゃったんだよぇ」
「あぁ?」
先ほど、剣撃を避けている中で、気づいたことがある。
剣を振るう速力は、すさまじいものがあった。
その直前の、消えるほどの速さは目を見張るものがあった。
だけど、同時に疑問にも思ったのだ。
どうして、"二つを同時にやらないのだろう"と。
「キミの身体強化は、うん、すごかった。魔力の精度も相当高い。
身体強化の魔法は魔導の基礎……だけど、基礎ゆえにそれだけ見れば、その人の魔力の精度の高さはわかる」
「なんだ急に。
俺をおだてて、隙でも狙おうってのか?」
「そんなつもりはないよ。
今言ったけど、身体強化の魔法は魔導の基礎……
……基礎ゆえに、極めようとする人は、少ない」
「あぁ?」
そう……師匠も、言っていた。
身体強化の魔法は、魔導の基礎。魔導を扱う上で、まずは自分の体内に流れる魔力をコントロールできないと、お話にならない。
ただ、身体強化の魔法は魔導の基礎であると同時に、基礎だからこそその先へ進もうとする者は少ない。
自分の体内の魔力をコントロールできれば、その先は別の方向に行ってしまうからだ。
火の玉作ったり、氷の槍作ったりね。まあイメージ作りの時間だ。
自分の体内の魔力を極めるくらいなら、イメージの具現化することを鍛えた方が、時間が有意義だと感じる人が多いからだ。
「てめぇ、さっきからなにが言いてぇ……」
「一つ聞くんだけど、なんでさっき、あの爆発的な脚力と、剣を振るう腕力とを組み合わせなかったの?
それされたら、結構ヤバかったと思うんだけど」
「っ……」
私が感じた疑問、どうして"二つを同時にやらないのだろう"。
私が剣撃を避けられたのは、その瞬間はダルマ男の脚力は、直前の爆発的なものではなくなっていたからだ。
もし腕だけでなく、足もあの速度を維持し続けられたら、私は逃げられなかったかもしれない。
そして、その二つを組み合わせれば私を追い詰められると、わからないほどこの男はバカじゃない。
「キミは、身体強化の魔法を、足に、そして次に腕にかけた。
腕にかけたから、その流れで手……握力も強化されたんだろうね。
だけど、二つ同時にはかけなかった……いや、かけられなかった」
「……」
身体強化の魔法はシンプルだけど、使い方によっては強力だ。
女の子の手でだって、岩を砕くことだってできる。
基礎である身体強化……それは、極めれば全身を強化することができる。
それは、全身に鎧を着るようなもの。
まあ、速度も上がるから一概にそうとは言えないけどね。
だけど、極めなければ……身体強化は、"体の一部しか強化できない"。
なぜ極めようとしないのかは、先ほど挙げたのも一つの例だけど、一部だけ強化するだけで満足してしまうからだ。
いい例が、今のダルマ男。
まずは足を、そして足から腕へと強化シフト。
その流れは完璧で、魔力をうまくコントロールすれば部分強化だけでも充分なのだ。
現に、魔力の消費を抑えるために、身体強化を極めても部分強化を好んで使う人もいる。
師匠とか。
「キミも、身体強化を極めてるけどわざと……って思ったけど。
私を本気で仕留めようとしてるのに、そうしないってことは、部分強化しかできないんだ」
「っ、さっきからペラペラと!
ならてめぇは、全身を強化できるってのか!」
「やだなぁ、今やってるじゃん」
私が、先ほど振り下ろされた刃を避けられたのは、身体強化の魔法を使ったからだ。
ついでに、ダルマ男が使えない全身強化をして、優越感に浸りたかったのもある。
「魔力の精度を上げれば、その剣を逆に折っちゃうくらいに硬く出来るけど……
やってみようか?」
「……はっ、はは。
そうか……全身強化か」
「そう」
「ふ……この剣を、折るだと?
なら、やってみろ!」
剣を握る手に、力が入る……
次の瞬間、ダルマ男の持っている剣から感じる、魔力の気配。
まさか……剣に、身体強化の魔法をかけたのか? しかも、なんか燃えてるように見える。そんなんあり?
……いや、それができるから魔導剣士、なのか。
身体強化の魔法だけは、魔導の杖がなくても、魔法を使うことが出来る。
ただ、あの男は杖を持っていないし、どうやって剣以外の魔法を使うのか。それとも剣だけで叩くつもりなのか。
疑問だったけど……あの剣が、魔導の杖の代わり。魔力を制御、剣へと纏わせられるってことか。
だから、強化に加えて火まで纏っている。あれは、火をイメージしている。
これで、剣の威力は増した……けど。
一部にしか身体強化できない以上、本人のスペックはもう上がらないはず。
「ここなら、剣のリーチの外だし……
届かない、よね?」
「あぁ、普通なら、な!」
ダルマ男は、両手で剣を構え、横薙ぎに振るう。
私たちの距離は離れているし、それは意味のない斬撃……そう、思ったけど。
振るった剣の斬撃……それも、火を纏った斬撃が、飛んできたのだ。
「斬撃が、飛んだ!?」
あれ、ただ火を纏っただけじゃなく、火を斬撃として飛ばす意味もあったのか!
これで、剣を使っての接近戦、というリーチの弱点はカバーしてきた。
武器に、魔導を纏わせて使う……そんな方法もあるのか。
つくづく、面白いな、魔導って!
「でも、そんな単調な攻撃じゃ、当たらないよ!」
火とはいえ、形ある斬撃な分、避けやすい。
こっちは全身を身体強化しているんだ、繰り出されるそれらを避けられるし、多少当たっても痛くもない。
とはいえ、こう避けてばかりじゃ決着のつけようがないな。
……よぅし。
「ん、なんだいきなり足止めて……」
私は斬撃を避けるのをやめ、迫りくる火の斬撃を睨みつける。
避けるのを諦めた……のはそうだ。
でも、諦めて火に呑まれる、というのも別だ。
ただ、方法を変えただけ。
「うりゃああ!」
私は右腕を、斬撃に向けて振るい……
バキンッ、と斬撃を弾き飛ばした。
「……は?」
「火を纏ってても、斬撃だから弾けるって思ったけど、正解だったね」
強化したこの腕なら、斬撃を弾くことも可能。
火を纏っていても、斬撃という形がある以上、弾けて当然の話だ。
まあ、ぶっつけ本番だけどね。
「いや、普通斬撃弾くってことは……くそっ、めちゃくちゃな……!
なら、こいつでどうだ!」
剣を振り上げる、ダルマ男の魔力が練り上げられていく。
魔力は火のように揺らめき、その場でごうごうと燃え上がり……
振るわれた巨大な炎は、まるで大きな波のように、私に襲いかかってきた。
40
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる