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第一章 魔導学園入学編
44話 エランvsイザリ
しおりを挟む授業の一環として、ダルマ男と決闘をすることになってしまった私。
訓練場に姿を見せたダルマ男は、左側の腰に剣を差している。
それを見て、クレアちゃんは言った。
「魔導剣士……」
私も、師匠から聞いたことのあるような、その単語を。
だけど、よく思い出せないや。
多分、私剣とか使わないから、流して聞いていたんだろうな。
「さ、さすがダルマス家の長男……
まさか、魔導剣士だなんて」
「知っているのかいクレアちゃん」
「え、えぇ。
魔導剣士って言うのは、文字通り魔導を扱う、剣士のこと」
多分これも、常識的なことなんだろうな。
まあいいや、教えてクレアちゃん。
「魔導を扱うのは、それだけでも結構な集中力がいるわ」
「そうだね」
集中力……私も、今でこそ慣れたけど、魔導を扱う際には結構集中力を必要とする。
集中力がなければ具体的なイメージは生み出せず、イメージが生み出せなければ魔導を扱えないからだ。
それに慣れるには、かなりの訓練が必要とされている。
「そして、剣士。
私は剣士じゃないからよくわからないけど、剣を扱うのにもかなりの集中力を必要とするみたい」
「あー、なんか思い出してきたかも。
師匠もそんなこと言ってたな」
扱いの難しい魔導と、扱いの難しい剣技……それを、同時に使う。
だから、魔導剣士ってことか。
「でも、そんな難しい状態で、決闘に挑むってことは……」
「ハッ、話は終わったか?」
私に絶対負けたくないダルマ男……それが、この絶対負けられない場面で、剣を持ち出してきた。
つまり、ただ魔導と剣技を同時に使うだけじゃない。
使いこなす自信がある、と、そういうことだろう。
「わざわざ待っててくれたんだ」
「最低限の知識もないと、かわいそうだからな。
だが、話が終わったなら失せろ。決闘の邪魔だ」
「は、はぃ!
じゃあエランちゃん、頑張って!」
ダルマ男に睨まれ、クレアちゃんはそそくさと観客席に去ってしまう。
あの野郎、クレアちゃんまで怖がらせやがったな。
私たちは、互いに距離を取り、指定の位置につく。
その中心には、先生が立っている。
「魔導剣士、か」
初めての同級生と決闘、それに剣を使うという相手。
まったく、初めて尽くしだ。
師匠は剣は使ってなかったし、目の前にいるのは未知の相手だ。
それに、ぶっちゃけ聞いただけじゃ、魔導剣士ってのがどう強いのかわからない。
まあ、魔導をある程度使えるようになるのが数年。剣をある程度使えるようになるのが数年と考えたら。
その二つを組み合わせて、使いこなすとなれば単純に、片方を使いこなす倍の時間が掛かる。
「ほぉ、ダルマスは剣か。
フィールドは、武器は使用しないのか」
「はい!
……念のため聞きますけど、魔導の杖って武器扱いなんですか?」
「そいつは魔導士に必須のものだ。
武器扱いにはならんよ」
このために。ルールには武器が一つとあったのか。
ということは、魔導を組み合わせられる武器って、他にもあるのかな。
私は杖を抜き構え、ダルマ男は剣を抜き構える。
お互いの準備が完了したのを、先生は見届ける。
「それでは、これよりフィールドとダルマスの決闘を始める。
死ぬことはないから、まあせいぜい存分にやれ」
物騒なことを言うなぁ……
ダルマ男の構えた剣は、銀色に輝く、鋭い剣だ。
右手に持って、腰を落とし、構えている。
……油断、はしていない。
私のことをバカにしてはいるけど、だからって油断を見せてはくれないか。
「始め!」
パンッ、と先生が手を叩き、決闘開始の合図が開始される。
その直後、すぐに景色は一変する。
確かに距離を取り、離れた所に居たダルマ男。
大股を開いても、十歩はないと埋められないだろう距離。
それだけ離れていたのに、合図直後、ダルマ男の姿は目の前にあった。
「!」
これは、消えた……
……いや、違う。
消えたかと思えるほどの速度で、移動したんだ。
「はぁ!」
「よっ」
そのまま、構えた剣を突き出すように、ダルマ男は剣技を繰り出す。
鋭い切っ先が、私の腹部を狙って……それを、私は横に飛ぶことで、回避する。
「へぇ、よく避けたな」
「あっぶな……!
躊躇なく女の子のお腹狙うとか、どんな神経してるのっ」
「安心しろ、結界内じゃ腹ァ斬られても死なねぇよ!」
「そういう問題じゃ……
わっ、とっ」
少しの言い合い、直後に再び剣技は繰り出される。
避けた私に向かって軌道修正し、今度は剣を振るう。
右に、左に、上に、下に。
四方八方から振るわれる剣を、なんとか避けていく。
速い……!
これ、ダルマ男の技量ってだけじゃなくて……
「身体、強化……!」
「そうさ、避けるのが精一杯みたいだな!」
今ダルマ男は、自分に身体強化の魔法をかけている。
魔導の基礎は、身体強化から始まる……先ほど、先生が授業で話していたものだ。
こんにゃろう、つまんねぇ顔をしていた私への、当てつけか?
「どんだけ魔力が大きかろうと、それを精密に操れるかは、別問題だ!」
……悔しいが、その通りだ。
むしろ、魔力が大きければその分、魔力のコントロールは難しくなる。
魔力のコントロールが難しければ、魔量をコントロールしようとそっちに意識が持っていかれて、他が疎かになる。
魔力が大きいとコントロールは難しい……
だからこそ、実技試験の時にみんな驚いていて……
……って、こいつもしかして、私の実技試験の結果知らないのか。
「よく避けやがる!
だが、それに気を取られて、満足に魔力も使えないか!?」
ただ……こいつの魔力の扱い方がうまいのも、また事実だ。
先ほど私の視界から消えるほどの速度で移動したのは、自身の足のみに身体強化をして、爆発的に脚力を上げたから。
今自在に剣を振るっているのは、腕や手のみを身体強化して、剣を握る握力や剣を振るう腕力を爆発的に上げているから。
それぞれ、体の一部……今、自分になにが必要で、どの部位を強化すればうまく立ち回れるか。
それを、この男はよくわかっている。
「っ」
「そろそろ、しめぇだ!」
右頬に刃がかする。身体強化している相手に、素の状態じゃここまでが限界だ。
……なんだかんだ、この男を侮っていたのは、私かもしれない。
ルリーちゃんをいじめていたり、いちいち癇に障る言い方ばかりだから、変な見方をしていたけど……
魔力の扱いに関しては、自信があるだけある、か。
ただ……
「これでぇええ!」
「……」
後ろに下がり剣技を避けていた私の足がもつれ、バランスを崩す。
その瞬間を見逃すことはなく、ダルマ男は大きく剣を振り上げる。
勝機を見逃さない判断力も、ある。
でもこれじゃあ、ダメだ。
「らぁ!
…………なに?」
ダルマ男は、剣を振り下ろす。その先にいた私は、本来なら頭から剣に斬られ、真っ二つだ。
まあ、結界内ならそんなひどいことにはならないだろうけど。
だけど、ダルマ男は驚いたはずだ……
剣を振り下ろしたその先に、私の姿がなかったのだから。
「どこ見てるの?」
「!」
瞬間、ダルマ男は背後を振り向く。
そこに私は、いた。
ダルマ男の背後に、一瞬で移動して、剣撃を回避した。
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