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第二章 青春謳歌編
72話 色々なことを考える
しおりを挟むエルフが……正しくはダークエルフが、過去になにをしたのか。それは、わかった。
あの本以外にも、別の本を開いて確認してみたけど……みんな、同じようなことが書いてあった。
複数の本に同じことが書かれているのだから……これは、真実に近しい事実なのだろう。
「ふぅ……」
こんなにも長く、真剣に本を読み漁ったのは、いつぶりだろう。
師匠の家には、魔導に関する本はあったけど……何回も読みすぎて、内容覚えちゃったから、最近は読んでいなかったな。
少し、目が疲れたよ。
ちょっと休憩……
「あの、フィールドさん?」
「わひゃ」
うーん、と伸びをしていたところに、後ろから声をかけられて驚く。
いきなりのことに、変な声出ちゃった……!
振り向くと、そこにはレニア先輩の姿。
「先輩、どうしました?」
「いや、集中して本を読んでるところ悪いんだけど……
そろそろ、図書室を閉める時間なんだよね」
「……なんですって」
言われて、窓の外を見る。
青かった空はオレンジ色になり、夕方になっていた。
放課後からずっと、図書室を閉める時間まで本を読んでいたのか。
周りを見ると、他には誰もいない。
私だけが、ここにぽつんと残されていた。
「すみません、つい集中しすぎて……」
「謝ることはないよ、それだけ熱中してくれたなら、僕としても嬉しいし。
もし、まだ読みたりないようなら、本を貸し出すこともできるけど」
どうやら、この図書室にある本は、貸し出しができるらしい。
書庫室にあるものも、原本は無理だがコピーならば、持って帰ることもできるみたいだ。
そっか、図書室でゆっくり本を読む時間なんて、お昼の休憩か放課後くらい。そんな時間でも、満足に本を読むことは難しい。
だから、貸し出して持って帰り、ゆっくり読む人は多いんだとか。
レニア先輩の提案に、私は……
「いや……知りたいことは、知れましたし。気になることがあったら、また来ますよ。
それに、持ち帰ってもゆっくり読める時間はなさそうですし」
「? そう」
寮の自分の部屋に持ち帰って、じっくり読む……なんてことは、多分できそうにない。
だって同じ部屋に住んでいるのは、ノマちゃんなのだ。
あの子はとても賑やかな子……口を開けばなにかしらの話題をどんどんぶつけてくる。
本をのんびり読む暇なんて、ないだろう。
それに、エルフに関する本なんてどうしたんだ、と聞かれても、反応に困るしね。
ともかく、今日の収穫としては充分だろう。
エルフとダークエルフ、彼らが過去になにをして人々に嫌われることになったか……それを、知ることができた。
ただ、知ることができたからって、私になにかできることがあるだろうか。
ルリーちゃんは、この学園で魔導を学び、立派な魔導師になって、人々にエルフの認識を変えてもらうことが目的だと言っていた。
現に、エルフだけど凄腕魔導士の師匠は、嫌われるどころか尊敬さえされている。
……そんな師匠がいても、エルフ自体への風当たりはよくない。
みんなの意識を変えようと思ったら、それこそ師匠以上の、魔導士に……
「ありがとうございました。また来ます」
「僕はいつでもいるわけじゃないけど、いつでもどうぞ」
本を返して、私は図書室を後にする。
エルフについて……わかったことは、多い。だけど、まだまだわからないことも多いわけで。
特に、つい今日のことだ。気がかりが、できたのは。
「あの魔獣はなんだったのかねぇ」
寮へ帰るために道を歩きながら、私は考えていた。
朝、魔石採集の実習中、エルフを襲ってきた魔獣のことを。
あいつは、エルフを……ルリーちゃんを狙ってきた。
エルフが人々に嫌われてるってのは、まあ理解できたけど……なんで、魔獣にも狙われるんだろう。
無差別じゃなくて、エルフ固定で狙いだもんなぁ。
魔獣には、魔物に比べて知識があるとはいえ……しょせんは獣のそれだ。
例えば、人々みたいに過去の恨みを現在まで保つ、なんてことはできないだろう。
そもそも、魔獣はモンスターが変化して成るものだしなぁ。
「魔獣の意思って線を除いたとしたら……誰かが、魔獣をけしかけたとか?
いやぁ、ないない」
考えられるのは、何者かが魔獣を放ち、エルフ……ルリーちゃんを狙うように仕向けた。
だけど、それを考えるのは無理がある。
まず、魔獣を飼いならすなんてことができるはずもない。力で押さえつけたとしても、言うことを聞かせるなんてまず不可能だ。
モンスターなら、しつければ人の言うことを聞かせることもできる。でも、元がモンスターでも魔獣にそんなことさせるのは、無理。
それに、学園の森に放つなんて芸当が、できるとは思えない。
まあ、それを言ったら魔獣が森に出現した理由が、そもそもわからないんだけど。
「おっと、ごめんなさーい」
危ない危ない、考え事に集中しすぎて、人にぶつかるところだったよ。
やっぱり、この件は一旦置いておこう。
偶然……で片付けるにはできすぎているけど、現状手がかりがなさすぎる。
校舎から出て、寮へと向かう。
遅くまで図書室にいたから、外は暗くなり始め、生徒もまばらだ。
こうして、一人で学園内を歩く……なんだか、不思議な気持ちだ。
まだ入学して二日目だけど。
「今日は……ゆっくり寝たいなぁ」
寮の自分の部屋に帰ったら、多分昨日みたいにノマちゃんが迎えてくれる。
ノマちゃんと話すのは楽しいけど……昨日みたいに、寝不足になるくらいまで好きになった人の話を聞かされるのは勘弁だなぁ。
そんな、色々なことを考えながら……私の足は、帰るべきところへと、帰っていった。
「ただいまぁ~」
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