85 / 1,198
第二章 青春謳歌編
83話 魂の叫び
しおりを挟む「あーもう!
なんなのあいつ!」
結局棄権してしまった筋肉男。
意味の分からない言葉を並べた挙げ句、意味の分からない理由で棄権するなんて……
本当になんなんだあいつ!
「……お気持ちはお察ししますが、わたくしとしてはあの筋肉の方とお話をしている片手間にこちらの攻撃を全て捌いていたフィールドさんこそ、なんなのあなたって感じですけど」
「えぇ?」
なぜか、ノマちゃんに不服そうな表情を向けられてしまった。
……まあ、もういいや。あいつのことは忘れよう。
そう、あんなやつは初めからいなかった。それでいいじゃないか。
私たちは、改めて、試合に望むことに……
「フィールド様」
「おわっふぉおおお!?」
決意を新たにしようとしたところに、突然後ろから声が。
その、いきなりのことに私はひどく驚き、間抜けな声を出してしまった。
同時に、飛び退き距離を取りつつ、背後にいた人物を見る。
そこにいたのは……
「か、カゲ、くん?」
「お久しぶりでございます」
ぴんと立ち、丁寧な姿勢でお辞儀をしてくるのは、カゲ・シノビノくんだった。
ノマちゃんの、お世話係という男の子だ。
カゲくんの家、シノビノ家は、代々ノマちゃんの家エーテン家に仕えているらしく、その影響でお世話係の役についているらしい。
というのも、私がカゲくんと初めて会ったときに、その事情を聞かされて……
って、今はそんなことはどうでもいい!
「ノマちゃんと、一緒のクラスだったんだ」
「はい。
この上ない幸福にございます」
いちいち言葉遣いが大袈裟なんだよな、この子……
この場にいて、且つ私のクラスにいないって時点で、彼がノマちゃんのクラスと一緒だということがわかる。
つまり、この試合においては敵同士のはずだ。
にも関わらず、私の背後を取っておきながら、攻撃することはなかった。
……背後を取られたのに、気配を感じなかった。
「舐められてる、ってことかな」
相手の背後を取ったのに、攻撃するどころか声をかけ、自分の存在を明かす……
舐められているといっても、不思議じゃない。
私たちの部屋に音もなく侵入したり、ただ者じゃないとは思っていたけど……まさか、ここまでとは。
ワクワクと、同時に舐められたという悔しさとが、同時に湧き上がってきて……
「フィールド様、お尋ねしたいことがあります」
「……なに?」
冷静な様子で、私に尋ねたいことがあるなんて、言ってきて。もしかして……
『思ったより、たいしたことないんですねぇ』
なんて、とんでもないことを言われるんじゃないかと覚悟をして……
「先ほどの、筋肉のお方……
あの方の、お名前を教えてもらいたい」
「……ん?」
考えていたこととは、全然違うことを言われた。
……えぇと?
「筋肉男の、名前?」
「はい」
「……なんで?」
なんで、ここで筋肉男の話が出てくる。
カゲくんは、なにがしたいんだ? 私の背後を取ってまで、なにがしたかったんだ?
私の問いに、カゲくんは……
「なぜ、と……それは、その……
素敵な、筋肉をお持ちの、素敵な方だなと、思い……少し、気になるだけで……」
なぜか、頬を赤く染めながら、照れくさそーに口を開いた。
なぜか、少しもじもじしている。
え、なに……私、なにを見ているの? これはなんなの?
ふと、頭の中で思い出す。
『カゲの恋愛対象は、異性ではないのですから』
『ノマお嬢様はもちろん、フィールド様にも手を出すなんてことはありえませんので、ご安心を』
「あぁああああぁあ!?」
「!?」
これかぁああああ!?
確かに初めて会ったとき、こんなこと言ってたよ! カゲくんは、女の子じゃなくて男の子に興味があるんだよ!
するってぇと、あれか!? この、話の流れは……
なぜか筋肉男の話題、頬を赤らめるカゲくん、少し照れてるっぽい、恋愛対象……
バラバラたったピースが、嫌なことに一つになっていく。
「か、カゲ、くん……」
「まったく、カゲ。そんな私情で、わたくしとフィールドさんの戦いに割り込んできたんですの?」
「申し訳ありません、ノマお嬢様。
しかし、湧き上がる己の気持ちを、抑えることなどできず……」
「……」
周囲がドンパチやっている中で、私はなにをしているんだろう。
私は、背後を取られた。気配に気づけなかった。いくら周囲でが騒がしいからと言って、だからこそ気を配っていたはずなのに。背後を取られて、けれど、攻撃はされなくて。
その理由が……よりによって、筋肉男の名前を、知りたいから……なんて……
「うっ、私……どうしたらいいんだよぉ!?」
「名前を、教えていただければ」
もー!
友達のお世話係が筋肉男に興味を持つし、その本人は早々に棄権するし!
なんなんだよこれー!
私の魂の叫びがこだました。
――――――
「はぁ!」
一人の少年が、剣を振るっていた。彼の名は、イザリ・ダルマス……以前エランと決闘をして、完膚なきまでに負けてしまった。
それ以来、彼は徹底的に、自分を見つめ直した。あれからの短い時間で、どれだけ成長できたのか……この試合は、それを試せる絶好の機会だ。
先ほどは、クラスメイトのブラドワール・アレクシャンが棄権するという想定外の事態が起こったが……
あんなのは、初めからいなかったものと考えよう。
自分は、将来ダルマス家の名を背負って立つ男。この剣は、その証……家宝だ。
この試合で戦果を上げてこそ、自分の大きな自信になる。
「お前、ダルマス家の長男だな?」
「!」
固まっていたクラスメイトは相手クラスの策略でバラバラになり、さらに飛び交う魔法の影響で戦況は混乱を極めていた。
そんな中で、イザリもまた、戦いに身を投じていて。
目の前にいる、相手クラスの男は、不敵な笑みを浮かべている。
獲物を前に、舌なめずりをするハンターのようで。
「へへ、聞いたぜ。お前、決闘をして負けたらしいな」
「……」
「ダルマス家の長男といえば、魔導剣士としての資質があるって話に聞いてたが……
どうやら、噂にゃ尾ひれがつくものらしい。いやいや、別にしょうがないとは思うぜ? 相手はあのグレイシア・フィールドの弟子だってんだからな。
けどまぁ……しょせんは聞いたこともない女に負けるあたり、底が知れらぁな。そんな弱っちぃてめえを、ここで俺様が、完膚なきまでに……っ!?」
「話が長い」
……次の瞬間には、男は倒れていた。
イザリは剣を振るい、刀身についた血を払う。結界の中で一定以上のダメージは無効化されるとはいえ、血は出るのだ。
男の話を最後まで聞くことはなく、イザリは勝負を決めていた。その剣の速さたるや、身体強化の魔法を使っていないのに、以前エランと決闘した際に身体強化して見せた動きと、同等の速度を有していた。
「確かに、俺はエラン・フィールドに負けた……
だからといって、俺がお前よりも弱い理由には、ならないだろう」
結界外に弾き出される男を背に、イザリ・ダルマスは再び混乱の中へと飛び込んだ。
14
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる