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第三章 王族決闘編
114話 お互いに全力を尽くして……そして……
しおりを挟む……どういうことだ?
ゴルドーラ・ラニ・ベルザは困惑に顔をしかめた。目の前で起こった出来事に、理解が追い付かないからだ。
決闘相手であるエラン・フィールドは、もはやグロッキー状態。いかにグレイシア・フィールドの弟子とはいえ、入学早々に上級生との決闘など、疲労が出ない方がおかしい。先ほど推測した通り、彼女は対人戦の経験が圧倒的に足りないのだから。
その魔力の量、使い方については、さすがと言わざるを得ない。だからこそ、最後にはせめてもの敬意として、サラマンドラではなく魔術を持って決着をつけようと思ったのだ。
……だというのに。
エラン・フィールドからは、戦意は消えていない。だが、それでいい。それでこそだ。屈さぬ心、実に好ましい……この決闘が終われば、賭けとしてではなく、改めて正式な手続きで自分のものにしたいと思うほどだ。
そんな彼女が起こした行動……それは、ゴルドーラに戸惑いを与えた。
(分身魔法……?)
これまで、魔導具や分身魔法と、予想もしなかったトリッキーな方法で、窮地をかわしてきたエラン・フィールド。だからこそ、彼女の行動にはなにか意味があると考える。
この行為にも、なにか意味があるはずなのだ……
そう思わせる、という線もなくはないが、この状況下でそんな意味のないことは、やらないだろう。
だが……
(たった二人……なにを考えている?)
このまま魔術を放てば二人もろとも、吹き飛ばせるだろう……それがわからないほど、バカではない。分身を増やしても、もろともに吹き飛ばしてしまえば関係ないのだ。
いや、そもそもだ……なぜ、二人なのだ。
分身を増やして、こちらをかく乱するという狙いならわかる。現に、先ほどゴーレムと対峙した時には、実に十もの数のエラン・フィールドが出現した。
が……今いるのは、たった二人だ。分身魔法の強みは、多対一の状況を覆せるのと、やはりかく乱にあるだろう。それも、たった二人ではそのどちらも強みを生かせない。
それとも、実は分身は二人で、本体は別の場所に隠れている?
……それはない。対峙している相手の魔力の波長を間違うほど、ゴルドーラは間抜けでもない。
エラン・フィールドは、間違いなく目の前の二人だけだ。
このまま、魔術をぶっ放していいものか。なにか、狙いがあるのか……いや、考えれば考えるほど沼にハマるだけだ。
今更何をしようと、やることは変わらない。たとえなんらかの方法で魔術をかわしたとして、背後にはサラマンドラも控えている。隙はない。
わずか数秒のうちに、魔術を放つことを決め、最後の詠唱を唱えようと口を開いた、その瞬間だった……
「!」
動きが、あった……わずかに、それに意識を持っていかれる。
分身し、じっと己を睨みつけてきていたエラン・フィールド。その両者が、動いた。お互い、右と左に……両側に、弾けるように飛んで移動してみせたのだ。
もちろん、ただ動いただけで驚きはない。二人一緒に動かずに左右に別れたのも、こちらを翻弄するためだろう……それならそれで、やりようはある。
……驚いたのは、その後だ。
「今は眠りし創生の炎よ、万物を無に還す穢れなき炎となりて……」
「命の源よ、清らかなる水よ、天恵より与えられし大いなる水よ、其れは全てを呑み込みし……」
「なっ……!?」
ここにきて、驚愕が口をついて出る。
しかしそれも、仕方のないことだろう。
左右へと別れたエラン・フィールドが、それぞれ魔術の詠唱を……それも、別々の詠唱を始めたのだから。
(魔術を……二重に詠唱……!?)
――――――――――
「今は眠りし創生の炎よ、万物を無に還す穢れなき炎となりて……」
「命の源よ、清らかなる水よ、天恵より与えられし大いなる水よ、其れは全てを呑み込みし……」
分身魔法で二人となった私は、それぞれ行動を開始する。片方は右側へ、片方は左側へ。
左右へ移動し、まずは相手の注意を分散。せっかく数を増やしたんだから、それを生かさないと。
そして、ここからが……ぶっつけ本番、一発勝負の魔術詠唱。
分身魔法で数を増やせば、増やした分だけ一人の力は減少する。今の私が魔法を使えば、減少した魔力では本来の二分の一の威力しか出せない。
……魔法ならば。
ただし、魔術は別だ。自分の魔力を使う魔法とは違って、魔術は大気中の魔力を使うからだ。
これなら、私自身の力が減少してようと関係ない。分身の数だけ魔術は使えるし、自分の魔力じゃないので魔術の威力が落ちることもない。
……それを考えて、実行するのとでは、また別の話だけど。
ただ魔術を放つだけでも、それなりに精神力を使う。それを私は、分身魔法で思考などを二分した上で、二重に魔術を詠唱している。
「ゴギャアアアアア!」
「!」
分身した私が、それぞれ詠唱を始めたことにあっけにとられていたゴルドーラだけど、どうやらその時間も終わり。それに応えるように、サラマンドラが吠える。
ゴルドーラの取った方法は、実にシンプル……ゴルドーラとサラマンドラとで、分身した私をそれぞれが対処する。
こっちは二人、相手も二人……いや、一人と一匹。ま、妥当な判断だね。
ゴルドーラも、私も、もう魔術を唱え終わる。そしてサラマンドラには、予備動作ほとんどなしの強力な炎がある。私だけじゃない、相手も準備は完了している。
……これにすべてを、ぶつけてやる!
「……舞い焦がせ!
狂炎太陽黒!!!」
「ジェアアアアアアアアア!!!」
「全てを焼き尽くし、喰らい尽くせ!
焔龍豪炎!!!」
「千波となり、母なる海へと景色を変えろ!
大海水魔!!!」
……ゴルドーラが放った魔術が。私が放った魔術が。サラマンドラが放った炎が。私が放った魔術が。
ほぼ同時に撃たれ……衝突した。鞭のように自在に放たれる炎と、巨大な生物の形を模した炎が。強大なエネルギーが込められた炎と、圧倒的水量の大波が。
互いに衝突し、そこから生まれた衝撃……それに吹き飛ばされないだけで、踏ん張るだけで精一杯だ。けれど、私はその場に踏みとどまる。
打ち勝とうが、打ち負けようが……これが、最後だから。
やがて、互いの魔術は混ざり合い……さらなる衝撃を持って、まるで会場全体を包み込むような、大きな揺れとなる。
「うぉあああああああああああ!!!」
「おぉおおおおおおおおおおお!!!」
力の限りの声を上げ、私もゴルドーラも、全力を尽くし…………
ついに、決着のときは、訪れる。
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